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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。



 

 

 

 

 

 

コロッケとクロケット

 

 

 

 

 

 

 

「おまちどおさま」

新聞を広げながらダイニングテーブルについてしろがねとメインディッシュの到来を心待ちにしていた鳴海は、「待ってました」とばかりに新聞を適当に折りたたみ床に置くと、きちんと座り直した。

今日の夕飯はコロッケだとしろがねは言っていた。

コロッケは鳴海の大好物。

「いただきます」の挨拶もそこそこに箸を突っ刺そうとして手が止まる。



「あれ?今日はコロッケって言ってなかったっけ?」

「コロッケって聞こえた?ごめんなさい、クロケット」

コロッケはフランス語でクロケットと言う。訳せば同じでも日本の食べ物コロッケとフランスの食べ物クロケットではかなり上品度の違う食べ物になる。

鳴海が好きなのはコロッケ。黄金色した小判型で衣がサクサク、カラッと揚がったあいつなのだ。ひき肉は少なめでいいからジャガイモの潰し残しがゴロゴロとしているヤツで、それにたっぷりのソースをぶっかけて、それをキャベツの千切りと一緒に山盛りの白飯の友にするのが最高なのだ。

でも目の前の皿に載っているのは俵型のクロケット。大きさも小ぶりでかなり控えめなイメージ。

しろがねの料理が何でも美味しいということは分かりきっていることなので当然このクロケットだって味の保証はされている。だからちっとも構わないんだけれど、大好物故にかなり期待していたこともありちょっとガッカリ感は否めない。

腹の底が丸見えの、鳴海のしっくりきてない表情にしろがねが

「ごめんなさいね。私がちゃんとハッキリ言わなかったから」

と謝った。



「いや、しろがねが謝ることじゃねぇんだ。すまん」

食べ物のことでしゅんとした顔をするなんて我ながら子どもっぽかったなと反省し、しろがねお手製のクロケットをひとつ丸ごと口の中に放り込む。中からトロリとしたクリームソース、かと思いきや、中身は鳴海の大好きなジャガイモが詰まっていた。

「あれ?これってクロケット?想像してたのと違う…それにこの具…昨日オレが作りすぎて余ったミートローフ?それに緑色のは…スナップエンドウ?」

ジャガイモに混じって小さく刻まれた具材に鳴海は目を丸くする。

「そうよ?もともと残り物を美味しく頂く料理なのよ、クロケットって」

「へー」

鳴海はクロケットをもう1つ口の中に入れるとガフガフと白米を掻き入れた。

「ふげぇふまひほほえ、ひろはへ」

「口の中を空にしてから話しなさいよ」

「むぐ…モグモグ…すげぇ美味いよこれ、しろがね」

「ふふ。ありがとう」

しろがねは頬っぺたを思いっきり膨らましながら食べる鳴海が可笑しくて楽しそうに笑い、自分もまたクロケットを齧った。とても懐かしい味がする。

「これ、そう言えば久し振りに作ったわ」

「仲町でも作んなかったのか?こんなに美味ぇのに」

「だってあそこじゃ料理が残るなんてことないもの」

「そりゃそうだな」

食い意地の張ったやら成長期やらが山程いた貧乏サーカスで食べ物を残す罰当たりがいたとは思えない。失敗作だって空腹には適わずに腹に収められていたあの頃。

「あなたと一緒になってからも料理が残るなんてこと、まずないでしょ」

「うん、昨日はなぁ…遊びに来る予定だった平馬とリョーコが来れなくなっちまったから料理が余っちまってなぁ。流石に食いきれんかったな」

昨日は平馬と涼子が夕食をお呼ばれしに加藤家へ来る予定だった。が、平馬が突然の腹痛であえなくダウン。噂によると、涼子作の持ち寄り料理の味見をして当たった可能性があるとのこと。涼子が一体どんな殺人料理を作ったのかは未だ謎ではあるが、結果鳴海としろがねが用意した料理は大いに余ってしまったのだ。



「美味しいけれどもう、ミートローフの味は飽きたでしょ?だけど勿体無いものね。それで思い出したの、ルシール先生特製のクロケットの作り方」

「ルシール?」

「そうよ、このクロケットはキュベロンにいた頃、ルシール先生に教わったの」

「へぇ…そうか、これがルシールのクロケット…」

鳴海は箸に挟まれたクロケットにこれまでとは違った感慨深そうな目を向ける。

「どうかしたの?」

「いいや。前にルシールが特製のクロケットを食わせてくれる、って言ってくれたことがあったなって思ってよ」

「そうなの」

「うん」

鳴海は穏やかな顔のルシールを思い出す。あんな風にやさしく笑うルシールを見たのは最初で最後だった。



「おまえさぁ…やさしく微笑んだルシール、って見たことあるか?」

「やさしく…微笑んだ、ルシール先生…?」

しろがねは口元に軽く握った手を添えて時間をかけて記憶を手繰った後、「ないわね」と首を振った。

「微笑むも何も…ルシール先生の『感情』、てもの自体あんまり…」

「オレは見たことあるぜ?笑ったルシール」

「そう?」

「最期にな。その時に言ったんだ。特製クロケットをご馳走してくれるってよ」

しろがねは少し羨ましそうな顔をした。

「結局、ルシールには作ってもらえなかったけれど、ま、今こうしておまえが作ってくれたんだから結果は同じだよな」

「出来の悪い生徒の作ったクロケットと一緒にするなって怒ってるわよ、先生」

しろがねがクスクス笑いながら、クロケットに箸を伸ばした。

「いいさ。その時には本当のルシールの作ったクロケットを食わせてもらうから。永い時を添い遂げてオレたちふたりがルシールに追いついたら、きっとルシールはもてなしてくれるさ。ルシール特製クロケットでな」

鳴海はクロケットと白飯を一緒に口に詰め込む。

「きっとそうね。私ももう一度食べたいな…ルシール先生のクロケット。……ナルミ、もうちょっと落ち着いて食べたら?まだあるし、あなたの分を取ったりしないし」

「はっへ、すへーふまひんはもん」

「だから、口の中を空にしてから話しなさいよ」

 

 

鳴海としろがねの食卓に笑いは絶えない。

料理を作ったしろがねも、料理を食べる鳴海も、とてもとても幸せで。

ルシールはそんなふたりを天上の青から微笑ましく見守っているに違いない。

幸福なふたりの間には『ベルヌイユ家特製のクロケット』。

 

 

「おかわりする?」

「うん。スタミナつけねーとなぁ。今日も夜は長いから」

「莫迦」

 

 

 

End

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