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藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、
またはスピンアウト気味のSSです。
三ッ星
世界中の恵まれない子どもたちにサーカスを見せて回っているしろがねも、日本に戻れば時に仲町サーカスのシルカシェンとなる。
帰国した際に仲町サーカスが興行していると飛び入り参加が常なのだ。
仲町サーカスはしろがねにとっては実家のようなものだから。
毎回ではないけれど、出来る限り仲町サーカスの手伝いをしたいと思っているしろがねは時間の許す限り己のサーカス芸を披露する。
シルカシェンであるしろがねが大きな舞台で芸をすることに喜びを感じていると知っている鳴海は明るく笑って「行って来い」としろがねを送り出す。
仲町サーカスは鳴海としろがねが帰ってくる度に少しずつ大きく、少しずつ有名なサーカスに成長している。そして、しろがねが出演する日の客の入りは他と比較にならないのだそうだ。滅多に出演しないしろがねなのに、彼女には根強いファンが沢山いるのだった。
「今日、終わったら先日のミシュ●ンで三ッ星をもらったレストランでディナーでもどう?予約が3ヶ月待ちの店だけど僕は顔が利くんだよ」
「俺の友人の本場で修業してきたシェフが麻布に店を出したんだ。結構旨い店でさ、今夜一緒に行かないか?」
「君のために予約を入れているんだ。フランスで三ッ星をもらっている店が銀座に出店したって最近評判の店なんだけど。いい酒も置いてある。気に入ると思うよ」
しろがねは楽屋にまで押しかけてくる、よく言えば積極的な、悪く言えば図々しい、アッパークラスの熱烈なファンのお誘いをのらりくらりとかわす。氷の女時代だったらもう少しきっぱりとけんもほろろに断っているはずのしろがねも最近ではすっかり丸くなってしまったせいで断る台詞も切れ味が悪い。仲町サーカスの上得意を不機嫌にしてはならない、という頭も働いている。
閉幕した後も帰るのに一苦労。
たくさんの花束、たくさんのプレゼントの洪水がしろがねを襲う。
どうして皆、こんなに物を私にくれたがるのか。
どうして皆、私にモノを食べさせたがるのか。
出待ちのファンを巻いて巻いて、しろがねは鳴海の待つ家に辿り着く。
玄関のドアを開けると大男がしろがねを出迎えてくれる。
大きな身体に申し訳程度なエプロンが不釣合いでしろがねは可愛い、と思う。
スリッパから踵が大きくはみ出しているのも可愛い、と思う。
こんなにゴツくて強面が可愛くみえるのだから、しろがねは目玉がまるごとチャームの魔法にかかっている。
「お帰り」
鳴海の笑顔がしろがねの疲れを吹き飛ばす。
「ただいま」
「腹減ってるだろ?飯作ってあるからさ。オレもまだなんだ、一緒に食おう」
鳴海はおたまでとんとんと肩を叩きながら、しろがねを食卓に誘う。おたまが子どものオモチャくらいに見える。しろがねはそれもまた可愛い、と思う。
しろがねをダイニングテーブルに座らせて鳴海が心尽くしをいっぱいに並べる。
今夜のメニューはホイコーローとエビチリとかき玉汁。
「ザーサイもあるぞー」
と、中華フェア。
「美味しい」
と舌鼓を打つしろがねに鳴海もご満悦だ。
「今日はどうだった?何か変わったことなかったか?」
「いつも通りよ」
いつも美味しい料理を用意して鳴海は待っていてくれる。
鳴海との食卓はいつもいつも暖かい。
どんな高級なレストランでも敵わない、私の三ッ星。
美味しさもさることながら、食事っていうのは
誰と食べるか
が大事なのだから。
あなたとだったらただの塩結びだってご馳走。
しろがねはにっこりと笑って鳴海の手料理をきれいに平らげた。
End