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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






しっぽのきもち





リーゼは艶やかな毛並みの、可愛い猫の女のコです。
どちらかというとまだまだ仔猫です。
とっても大きくて背の高いパパと、銀色したきれいなママと一緒に暮らしています。
温かいパパとやさしいママはすごく可愛がってくれます。
リーゼは毎日、お腹いっぱい食べて、たくさん遊んで、大好きな昼寝をして幸せなのでした。


ある冷たい雨の夜、パパがお仕事から帰ってきたのでリーゼは「お帰りなさい」をしにママと一緒に玄関へと駆け出しました。
『お帰りなさい』
「お帰りなサイ、パパ!」
『ただいまぁ』と言うパパは、その腕に小さな男のコの猫を抱いていました。
ぐっしょりと濡れて、寒そうにブルブルと震えています。
リーゼはそのコと目が合いました。
不安そうな、怖くて怖くて仕方ない瞳をしていました。
『ナルミ、そのコどうしたの?』
『雨の中、捨てられてた。帰り道で見つけてよ』
パパの足元をクルクル回るリーゼの鼻には新しい血の匂いがしました。
どこかに新しい傷があります。


ママがふかふかのタオルをリビングのテーブルの上に敷きました。
その上にパパが男のコをそっと下ろします。
男のコは脅えて、丸く小さくなりました。
リーゼはひらり、とテーブルの上に載ると、パパとママに
「ここ、怪我してマス。ね、血が出てるデショ?」
と教えてあげました。
『あら、本当、怪我してる』
『救急箱、救急箱』
『リーゼ、偉いわね。教えてくれてありがとう』
ママが柔らかい手でリーゼの頭を撫でてくれました。
そしてママは怪我に触らないように新しいタオルで男のコの濡れた身体を丁寧に拭きます。
ママはやさしく拭いているのに男のコは身をぎゅっと硬くしています。


パパがドタドタと変な匂いのツンとする箱を持ってきました。
リーゼはその匂いが、白い服を着た怖いヒトを思い出させるので好きではありませんでしたが
その男のコの不安を取り除いてあげたくて、我慢して傍にいました。
「大丈夫ですヨ。私が傍にいますカラ」
男のコはじっと黙って、でもリーゼの言葉に小さくコクンと頷きました。
『消毒するからなぁ~、少し、沁みるけど我慢しろよ~、おまえは男なんだから』
パパがしゅっ、と何かを吹きかけました。
「!」
男のコは弱弱しくもがきましたが、抵抗する程の力もないようです。
傷が沁みなくなると、ぐったりと手足を投げ出しました。
「シッカリ!」
「うん…」
男のコの耳はパタリと伏せられて、しっぽもヒゲもだらんとして力がありません。
『ようし、これでいい。ちょっと安静にしていれば治るだろ』
パパは白い布みたいなもので男のコの怪我をグルグルにしました。


『お水、飲める?お腹空いてる?』
ママが水とキャットフードを持ってきてくれましたが、男のコはほんの少し、水を舐めただけでした。
『可哀想に…』
『動物ってのは身体の具合が悪いうちは何にも口にしないもんだ。治れば自然と腹が減って喰うようになる。明日の朝の様子見て、まだ駄目なようなら病院に連れてってやろう』
『そうね、そうしましょう』
ママはタオルごと男のコを抱き上げると、パパの用意した箱の中にそうっと寝かせました。
『ゆっくりお休みなさい』
『リーゼ、おまえの方がちょびっとお姉さんなんだから、やさしくしてやれよ』
そうやさしく声をかけるとパパは晩ご飯を食べるために、ママはパパの晩ご飯の支度のためにリビングを出て行きました。





リーゼがそろそろと近づくと男のコはまだブルブルと震えてます。
「お腹空いてまセンカ?」
男のコにおずおずと話しかけました。
「空いてる……けど、今は食べたくないや……」
男のコは元気のない声で答えます。
「どうしてこんな雨の降る日にお外に出たんデスカ?迷子になったノ?」
「……よく、分かんない……」
男のコは目を伏せました。
話が途切れてしまったのでリーゼはどうしよう、何て話かければいいのカナ?と考えて
「私、リーゼといいマス。あなたは何ていうお名前デスカ?」
「名前なんてないよ…前の家のニンゲンは僕のことを『ネコ』って呼んでた…」
「ネコって名前じゃないじゃないデスカ?」
それってリーゼたちの種族名です。
男のコはまだまだ震えています。


「もしかして寒いのデスカ?ママに言って何かかけるモノ、持ってきてもらいまショウカ?」
男のコは首を振りました。
「寒いんじゃないよ。ここは知らないところだから…」
知らないニンゲンの家だから。初めて嗅ぐ匂いだから。
「ねぇ、リーゼさん……リーゼさんはあのニンゲンたちが怖くないの?」
男のコは訊きました。
「パパとママがデスカ?ちっとも怖くないデスヨ?とてもやさしくて私は大好きデス」
そりゃあ、先の尖った鋭いものでリーゼをちくって痛くする、白い服を着た怖い人はいますけれど。
何だか男のコの心細くて淋しい気持ちがリーゼにも伝わってきます。
リーゼは男のコの寝る小さな箱の中に入ると、その隣に横たわりました。
「なっ、何?」
「この方が落ち着くでショウ?」
猫は狭いところが好きな生き物です。
「それに温かい、ネ?」
「うん…」
男のコはほっぺたを赤くして下を向きました。
安心したのか、男のコは急に眠たくなったようで、うつらうつらと船を漕ぎ出しました。


「うらやましいな、リーゼさん…。僕は…ニンゲンをやさしいって思ったことも…好きだって…思った、ことも…ない…」
男のコの声はだんだん小さくなって、やがてすうすう、と寝息に変わりました。
目頭に、小さな丸い涙が滲んでいました。
「もう、泣かないデネ。私が一緒にいてあげるカラ」
リーゼは男のコの涙を舐めてあげました。







「あら。ナルミ、見て」
「うん?」
鳴海がしろがねに呼ばれて見たものは、小さな箱の中で仲良さそうにくっついて眠る仔猫二匹。
「可愛いなぁ。毛糸玉が絡まってるみてぇ」
しろがねもくすり、と笑いました。
鳴海も笑いましたがすぐに真顔になりました。
「可哀想にな…前の飼い主にやられたんだろうな、この傷。故意につけられたもんだ」
「手足が傷だらけね…。新しいものから古いものまで、こんなにたくさん…」
「こめかみにも。……同じ人間のしたことだって思いたくねぇな……」
鳴海は温かい指先でぐっすりと眠るその猫を撫でてあげました。


「なぁ、しろがね」
「いいわよ」
「あ?」
「そのコを飼ってあげたいんでしょ?」
「うん…」
しろがねは鳴海の背中を抱き締めました。
「いいんじゃないかしら?リーゼも仲良しになれそうだし」
しろがねは新参猫の隣で眠る飼い猫を微笑ましそうに見つめます。
鳴海は自分の肩に置かれたしろがねの手を大きな手の平で包みました。
「大事にしてやろうな」
「名前はあなたがつけてあげて。あなたが見つけてあげたんだから」
「そうかぁ?じゃあ…おまえの名前はマサルだ。今日からおまえもウチのコだぞ?」


マサルは新しいパパとママに見守られながら、夢も見ないくらいにぐっすりと眠りました。
隣の温かくて柔らかいものが、とても心地いいなぁ、とても好きだなぁ、と感じながら。



End



postscript
タイトルは谷山浩子さんの歌からお借りしました。最初はほんわか可愛いものを、と思っていたのに、いつの間にか何だか時事問題チックなマサル猫の可哀想なお話になっていました。何にしてもマサルの手足には傷が付き物ですからね。勝とリーゼの恋愛ってどうしても甘酸っぱくって、人間同士だとただ手を繋ぐのにも大騒ぎしないといけないでしょ?猫同士だと、頬っぺた舐めたり、くっついて寝たりしてもいやらしくないのでどうかなぁって思ったんです。リーゼ猫は何となく日本猫のイメージで書いてみましたけど、どうでしょう?リーゼ猫とマサル猫、どんな種類の猫がピンときますかね?またも猫を飼ったこともないくせに猫の話を書いてしまいました。
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