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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






続・しっぽのきもち





空からピンク色のヒラヒラしたものが落ちてきます。
ヒラヒラヒラヒラ、次から次へと切れ間なく。
それがとっても青い空にキレイで楽しそうで、美味しそうで、マサルはぴょんぴょんと跳ね回りながらピンク色のそれを捕まえようと躍起になりました。ヒラヒラは小さなマサルの手に触れてくれることはなく、ヒラリヒラリと逃げ回ります。
「すばしっこいなァ!えい!やあ!」
そんなマサルをリーゼは縁側からにこにこして見つめます。
パパは膝の上にリーゼを乗っけて、その傍らにはママもいて、一緒になって元気にピンクのヒラヒラを相手に狩りをするマサルを笑顔で見守っています。
『いい天気だなァ』
『そうねぇ、長閑ねぇ』
パパのお仕事がお休みの土曜日の昼下がり、パパとママはほっこりと濃い日本茶を啜りながら桜餅を食べています。マサルもリーゼもいい匂いのするピンク色のお菓子のご相伴に預かりたいな、と意思表示をしたのですが
『こんなの食べたら虫歯になるからダメ』
ともらえませんでした。
だからかもしれません。マサルが躍起になってピンクのヒラヒラを追いかけるのは。


「あのピンク色のお花は何ていうお花デスカ?」
リーゼの言葉が通じたのかどうかは分かりませんが、パパが答えてくれました。
『リーゼ、あれは桃って花なんだ。もうじき桃の節句だ。そいつァ女の子のお祭りなんだぞ?おまえは女の“子”だけどな、こっちのはどうかなァ』
『ナルミ、こっちってどっち?』
『いや、こっちの話』
パパとママはとっても仲がいいのです。
『ああ、桜餅を食うと春が来た、って感じがするよなァ、しろがね』
『ナルミ、話をはぐらかさないで』
『まあまあ。たくさんあるんだ桜餅。おまえもどうだ、もうひとつ』
ほら。仲がいいのでお話に花が咲いています。リーゼはふたりの仲良しの邪魔をしたらいけないのでパパの膝から、ぽん、と庭に下りてマサルの近くに行きました。


「マサルさん。このヒラヒラ、『もも』って名前なんですって」
「ふうん、とう!そうなんだ、待て!」
マサルは格闘に夢中でヒラヒラの名前なんて二の次三の次の様子です。
と、その時。
ぱし!
やっとマサルのニクキュウの間に一片の桃の花びらが挟まりました。
「やった!」
マサルはそれの匂いをクンクンと嗅いで、ぱく、と食べてみました。
もぐもぐ。ぺ。
「匂いはいいけど口に入れると青臭いや。食べ物じゃないんだね、こんなに美味しそうなのに」
「ひとつ勉強になりマシタね?」
うふふ、と笑うリーゼにえへへ、と笑顔を返すマサル。の後頭部に
「ばっかじゃねぇの?子どもみてぇ」
と言う乱暴な言葉と一緒にちいちゃな小石が降ってきました。小石はこちん、とマサルのツムジに当たります。
「へへっ、当たってやんの。どんくせっ」
マサルがむむむ、と声の方を振り返ると彼の永遠のライバルがそこにいました。
お隣の阿紫花さんちで飼われている平馬です。
「何すんだよ、危ないなァ」
マサルは頭をさすりさすり、平馬を睨みつけました。





(その頃。
『お、マサルのケンカ友達が来てるぞ?見てみろって、しろがね』
とにかく、話をはぐらかそうとするパパにママはどうやら折れたようです。
ママはほっぺたを膨らませて新しい桜餅に手を伸ばしました。)





「別にー。何にもしてねぇよ?オレがたまたま塀の上を歩いたら、たまたま塀の上にあった石コロが落ちたんだよ」
平馬はニヤリと笑いました。どう考えても嘘です。マサルのところに飛んできた小石は見事な放物線を描いてました。
「だったら石はもっと」
「コンニチハ、へーまさん」
リーゼがにっこりと平馬に挨拶しました。
するとどうでしょう。さっきまでマサルに憎まれ口を叩いていた平馬が真っ赤な顔になって、とん、と庭に飛び降りて、リーゼからちょっと離れたとこに寄って来て、小さな声で「こんちは」と言いました。
そうです。平馬はリーゼのことが好きなのです。
だから何時の間にか大好きなリーゼの家に住むようになったマサルのことが気に入らないのです。尤も、平馬自身はそれを認めず本人曰く、「気に入らないのはそれが理由じゃない、基本的に馬が合わないんだ!」だそうですが。
「へーまさん、『もも』の花がきれいデショウ?ここで一緒に見まセンカ?」
「ああ…」
平馬はリーゼから見えないところでグ、と拳を握りました。





(その頃。
『ほらほら、マサルにライバル出現だぜ?リーゼはどっちを選ぶんだろ、甘酸っぱいよなァ』
ママのほっぺたはまだまん丸く膨れたままです。
『人の悪口を言ったり、話をはぐらかしたりしない方』
『おまえなァ……いい加減機嫌直してくれよ』
パパとママの仲良しな会話はまだ続いてました。)





「ウチの庭の『もも』だったらへーまんちからでも見えるじゃないか。帰って見たら?」
マサルはどうしてか分かりませんがリーゼが平馬にやさしくするのが好きではありません。
「オレは『リーゼ』に誘われたんだ。おまえに指図は受けねー」
平馬もマサルもリーゼにアプローチをする度胸はまだありませんが、オス同士では面と向かって引く気はサラサラありません。絶対にケンカでは負けたくない相手なのです(更にリーゼの目前でもありますし弱いところなんて見せられません。)二匹でムムム、と火花を散らしていると
「その坊ちゃんが噂に聞くへーまの新しいオトモダチかい?」
とまたしても頭上から声が降ってきました。
皆して声の方を向くと、如何にも海千山千の雰囲気を漂わせるスリムな猫が長い尻尾をユラユラさせて可愛い三角関係を見下ろしています。
「アニキ!」
平馬の表情がパ!と明るくなりました。
阿紫花家で飼われている5匹の猫の中では一番の年嵩の英良です。
英良はスタ、と庭に下り立つと3匹にチラ、と流し目をくれた後、スタスタと仲良し会話を継続中のパパとママの間に入りました。


『おわ、何だ、英良じゃねぇか。おまえを見かけんの、何だかひっさしぶりだなァ。何か用か?』
英良はフンフンと桜餅の入った小箱に顔を近づけて匂いを嗅ぎました。
「『あけぼの』の期間限定桜餅じゃねぇですかい。アタシもちょびっとでいいですからご相伴に預かりてぇですねぇ」
『あら、英良、猫が食べたら虫歯になっちゃうわよ?』
ママが慌てて箱に蓋をして背中に隠します。
「別嬪さんはいけずですねぇ。ま、言いてぇことは分かりますがね、ネコが食べたら歯が痛くなるってぇんでしょ。でもねぇ兄さん、その食べかけのでいいですから一口、くだせぇよ。ネコだって美味いモンは分かるんですぜ?」
パパも英良が自分の食べかけの桜餅を狙っていることが分かりました。だからそれを口に咥えて
『ダメらって、ほひがってもやれんもんはやれん』
そう言ってモグモグと始めました。
英良がじっと細い瞳で見つめます。
『ほ…ほんな目れ見てもダメらって…』
英良はパパの胸に手をかけしなやかに身体を伸ばすと、まるでキスをするかのようにして直接パパの唇から桜餅を齧りとって行きました。
濡れ縁に下りてはくはくと美味しく頂くと、
『馳走になりやした』
と呆然とするパパの指をペロリと舐めて、満足げに尻尾をフリフリ、可愛い三角関係のところへと帰っていきました。


「平馬から話には聞いてやしたけど実際に会うのは初めてですねぇ。アタシは英良っていいやす。よろしくお見知りおきを」
英良は細い瞳を更に更に細くしてマサルのことを見て笑いました。
「初めまして、マサルです」
「アニキは滅多にウチに帰って来ないからなぁ。『ただいま』は何ヶ月ぶりだい?」
「家でまんまを食うのは2ヶ月ぶりかねぇ、あっちこっちで食べさせてくれる家があるから困るこたァねぇんでね。行く先々で遊ばないかって誘われるから、これまたなかなか帰れなくて……でも、ま、夜中には度々帰って来てるんですぜ?アタシと遊びたがっている猫はここいら界隈にもたくさんいるんで」
雄猫も雌猫もどっちもね。
英良は薄い唇をペロリと舐めました。





(その頃。
『英良ってさ、時たま、尻尾がふたつに分かれてんじゃねぇかって思うときがあんだよな。さっきの人の口から食いモン盗ってく仕草なんてすげー色っぽいしよ。下手な女よりもナンボかキスが巧いんじゃねぇか?』
パパはキシシと笑いました。
『下手な女って誰?』
ママの目が尖りました。
『おまえじゃねぇよ、もお!さっきっから言葉尻を捕まえるの止めろったら』
『なら、私じゃないなら誰?ナルミは私と一緒になる前には誰とも付き合ったことがないって言ってたでしょ?私がファーストキスの相手だって』
『え?あ、いや、ほら、それは…』
パパはしどろもどろになりました。


『私と知り合ってから誰かとした、ってこと?』
『ちょお、待て!違うぞ?おまえが考えてんのとは違うぞ?ほら、酒の席とか、不意打ちとか!』
パパは誤魔化す、とか、嘘をつく、とか、しらを切る、とかいうジャンルが苦手なのです。
『や、やっぱり誰かとキスしたことあるのね?酷いじゃない!もう知らない!』
『待てってば!断じて浮気と違うからな!そこんとこ……おい、人の話を聞けってば!』
パパとママの仲良し話は佳境に入ったようです。これ以上の仲良しな姿を見せるのは恥ずかしいのかふたりとも家の奥に引っ込んでしまいました。)





「それでふたりしてリーゼちゃんの取り合い、てことですかい」
リーゼは英良の言葉に恥らって、ぽ、とほっぺたを赤くしました。
「と、取り合いだなんて」
「なぁ。ただのケンカだよ、アニキ」
そんなリーゼの様子に二匹はワタワタと言い繕おうとします。
「からかわないでよね、英良さん!」
そんなに否定しなくテモいいノニ。
リーゼの頬に空気がいっぱい溜まりました。
英良は3匹の様子を見てニヤニヤと笑っています。そして空からヒラヒラ降る花びらをちょいと眺めて
「そうですねぇ…。桃の花もきれいだし、しばらく家で落ち着くとしやしょうか」
と呟きました。
「え?ホントに、アニキ!」
兄の英良に憧れている平馬は嬉しそうな声を上げました。


「そろそろネコも恋の季節。この可愛い三角関係の行方に興味が出てきやしてね」
「え…?」
「そんな別に…」
「恋だなんて……ねぇ?」
若い猫たちは『恋の季節』という単語に揃ってモジモジと顔を下げました。
「楽しそうでいいじゃねぇですかい。アタシは楽しいことが大好きでさ」
「そんなアニキ…。見世物じゃねぇんだから」
「お嬢ちゃんもいいねぇ。両手に花だ」
「ソ、ソンナ…」
リーゼの頬がどこまでも赤くなります。
「ふたりとも、頑張りなせぇよ」


英良は平馬の肩を尻尾で叩き、その後ろを回ってマサルの隣にやってきました。くるり、とマサルの肩に腕を回します。
「アタシは楽しいことが大好きな性質でね、楽しければ楽しいほどいいんでさ。三角関係は楽しい、なら四角関係はもっと楽しいと思いやせんか?」
その言葉にマサルと平馬は青くなりました。色恋沙汰のスペシャリストの英良がリーゼ争奪戦に参戦してきたらどう足掻いたって太刀打ちできなさそうです。仮にリーゼが拒んでもいつの間にか彼女が妊娠してそうなところが非常に怖いのです。
「よ、よしてくれよ、アニキ!」
「そうだよ、英良さん、そんな…」
ムキになって否定していた先とは一転、自分を巡って焦るマサルの姿が見られてリーゼはものすごく嬉しくなりました。平馬もマサルと自分をかけて争う姿勢を見せてくれています。そして英良も『四角関係』に参入だなんて。リーゼの心はすでに決まっていましたがメスとしての自尊心は計り知れないくらいに満たされました。
「そんな皆さん、仲良く…ネ」
宥める声にも余裕があります。


「止めたって聞きやせんぜ?アタシは決めました。四角関係を楽しもう、ってね」
「そんなァ…」
平馬が絶望的な声を出しました。
「お嬢ちゃん?」
英良がリーゼを見つめました。リーゼの胸がドキリとします。
英良はとてもモテるのです。
この間もお散歩中に商店街の刃物屋さんとこのヴィルマとピアノ屋さんのジョージがすれ違い様に火花を散らしている現場を目撃しました。ヴィルマは英良と似たタイプで同じようにあちこちにオスメス含めた愛人猫がいますし、ジョージは「別に英良とは本気ではない」というスタンスを(本心はどうあれ)とっているので見苦しいことには発展しませんでしたがどちらもプライドが高いのでお互いの存在は気になるようでした。
リーゼはそんな英良にこれから言い寄られることになるのかと思うとちょっとドキドキしました。


ところが。
「お譲ちゃん、アタシと坊ちゃんの取り合いっこをしやしょう」
英良はとんでもないことを言いました。
「「「え゛?」」」
3匹は思わず聞き返します。当のマサルより誰よりリーゼの声が一番大きい声でした。先程までの余裕はどこへやら、ワナワナと顔面蒼白になって震えています。
「坊ちゃんはなかなかにいい瞳と面構えをしてやす。一目でアタシは惚れちまいました」
「え?ええ?だって英良さんはオス、でしょ?」
「惚れたはれたに性別なんて関係ねぇでしょう」
英良は顔をツッと近づけるとペロっとマサルの唇を一舐めしました。英良の舌は、マサルがさっきパパやママにおねだりしてももらえなくて、それでも諦め切れなくて桃の花びらを食べてしまったくらいに魅力的だった桜餅の味と香がしました。マサルの舌が自分の唇を舐めました。


「あ…甘いね…」
「美味いモンですよ、桜餅ってのは」
マサルと英良は目を合わすとニコリと笑い合いました。
それを見たリーゼの全身から周りを威圧する何かがゴッと噴出し、その手がブルブルと激しく震え出すのを目撃し、平馬はビクリとしました。
マサルはキスをされたのです。しかもオスに(しかも結構トシマ)。
なのに醸し出す雰囲気は和やかなものでマサルはちっとも嫌がっていないようなのです。
リーゼの尻尾が鞭のように撓りました。



「Step back!マサルさんから離れて!」



マサルも平馬も初めて聞くリーゼの怒声に尻尾が脚の間に入ってしまいました。瞳が爛々と怪しく燃えています。
「男同士なんて絶対にダメデス!マサルさんに変なコトしないでくだサイ!」
リーゼは全身の毛を逆立てて怒っています。尻尾がピシッと地面を打ちました。
「お嬢ちゃんもいい瞳を持ってやすねぇ」
英良は一瞬、肝を抜かれたような表情になりましたがすぐにいつものヘラヘラしたものに戻して、それでもリーゼの言う通りにマサルから離れました。
「あなたはアチコチに付き合っている人がいるの、知ってマス!刃物屋サンちのヴィルマさんと、ピアノ屋さんのジョージさん、この間あなたを巡って反目しているの、散歩の途中で見ましたヨ?」
「ありゃりゃ、それはそれは…」
英良はイタズラっ子のように舌をぺろっと出しました。
「それでもマサルさんにちょっかいを出すのデスカ!」
「アタシは博愛主義者なんですよ」


英良はここらが引き時、と判断してヒラリと塀の上に飛び乗りました。
「あ、待ってくれよ、アニキ!」
平馬もそれに続きます。
英良の鼻先に花びらが舞い落ちてきます。英良は素早く手先だけを動かして花びらを一度で捕まえてみせました。鋭い爪の先に花びらが引っ掛かっています。
「うわ、すごいや英良さん!」
「坊ちゃんは動きに無駄がありすぎるんですよ」
英良はマサルを見、リーゼに目を移すと
「ま、取り合いっこ、お互いに頑張りましょ」
と尻尾をひゅん、と振りました。
「マダそんなコトを!」
リーゼの怒り心頭な視線をヘラリと軽く受け流して、英良は平馬を連れて自宅へと帰って行きました。





ヒラヒラヒラヒラと絶え間ない桃色の花吹雪。
間もなく迎える猫たちの恋の季節を前に降って湧いた青天の霹靂。
さあ、リーゼちゃんはどうするのでしょう?
そして、その恋の行方は?



End
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