Baby Baby ～ジジババ編～

舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。

Baby Baby
～ジジババ編～





「じいちゃんが来たぞ～～～ばあっ！」
玄関で正二が大きな声をかけた。
リビングで遊んでいた赤ん坊は即座に反応し、声の元を探した。
廊下の向こうで笑っている、大好きな人物を発見！
赤ん坊は喜色満面、黄色い奇声を発しながら猛スピードで長い廊下をハイハイで進んでいく。
ダカダカダカダカと騒々しい足音手音をさせて、「四足でよくそんなに速く移動できるな」と大人は笑ってしまうくらいの勢いで赤ん坊はお目当ての相手の元に這っていく。
「おーし、速い速い！えらいぞ～ご褒美にじぃじが抱っこしてやる！」
大好きなじぃじに抱っこしてもらえて大喜びの赤ん坊。
そしてそれ以上に大喜びの、厳しい武道を嗜んでいる男の顔とは思えない、孫の愛らしさにデロデロにとけている祖父・正二。


「お義父さん、お義母さん、いらっしゃい」
赤ん坊の後から鳴海としろがねがリビングからやってくる。
「鳴海さん、せっかくのお休みなのにお邪魔してごめんなさいね」
「いえいえ、どうぞ構い倒してやってください」
「おおお～ご機嫌でちゅね～お腹がいっぱいでちゅか～そうでちゅか～」
正二は孫との甘い世界に浸りきっている。
「あなた……まったくしょうがないわね」
アンジェリーナはどうしようもなく苦笑する。
「お利口さんにじぃじはおみやげを持ってきまちたからね～。鳴海くん、おみやげを玄関前においておいたから」
「？玄関の外、ですか？」
「さあ、じぃじと何して遊ぼうかぁ？」
正二の耳にはもう、孫の声しか届かない。
鳴海としろがねは「仕方がないか」と視線を合わせ、正二からのおみやげを取りに行った。


「お父さん、これって何？」
しろがねがリビングに飛び込んで父に訊ねる。
「ママはこれが何かも分からないんだね～？困ったママだね～？」
「一目で分かるわよ、それくらい！」
しろがねが指差す先には鳴海が三輪車がプリントされた大きな箱を肩に担いでいる。
「ほらごらん？お土産、三輪車だよ～」
「三輪車、って……まだ１０ヶ月よ？」
「いいんだよ、いずれ買うだろ？」
「それはそうだけど何年後の話？気が早すぎじゃない？」
「私もそう言ったのだけれど、聞かなくて」
そういうアンジェリーナもあまり気にしてない様子。
アンジェリーナとても孫には甘いのだ。
「乗れなくても身近に置いてあれば刺激になるだろ？な～」
何も考えてない当の本人はあまりの狂喜乱舞によだれを撒き散らしながら正二の膝でびょんびょん跳ねている。


「ほら、こんなに喜んでるぞ」
「それって絶対に三輪車は関係ないと思うわ」
しろがねは自分の両親のジジババっぷりに溜息をつく。
「もう……『おみやげ』で家が狭くなる一方」
「まぁ、いいじゃねぇか。愛されるってのはいいことだ」
鳴海はしろがねの頭をくりくりと撫でる。
しろがねは「そうね」と鳴海の手に手を重ねた。
鳴海は義理の両親が自分の子どもに気を取られているのを確認すると、素早く愛妻にキスをする。
夫婦仲も変わらずに円満。


正二とアンジェリーナと、鳴海としろがねとの間に生まれた新しい命が戯れる。
「いい風景ね」
「そうだな」
「お父さんとお母さんがあんな風に笑うの、何だか懐かしいわ」
「これが親への最大の孝行なのかもな……オレ、おまえの両親がこうやって嬉しそうにしてくれるの、気分いいんだ。オレも嬉しい」
「ナルミ…」
「いい子に育つよ、オレらの子は」
「はい」
尽きぬ笑顔、尽きぬ愛情、尽きぬ幸福に育まれて。
家族誰もが笑顔なこと。
平凡だけど、これが一番の幸せ。


「パパには似ないようにしないとな～」
「…ま、な。確かにオレよりおまえに似た方が間違いねーよ…」
「ご、ごめんなさい…」



postscript
原作の流れでは鳴海としろがねが自分たちの子どもを抱く姿以上に、正二とアンジェが孫を抱く姿を見ることが叶わない（だって故人だもん）。だからジジババなふたりを書いてみた。娘の成長を見届けることも、自分たちの手で育てることも許されなかったふたり。もしも正二とアンジェがあのままエレを育てていたら見られたであろう親バカっぷり（特に正二）をそのまま孫にシフト。せめて創作の中くらいでは、娘夫婦は仲良しで、順当に孫が生まれて可愛くて、悩みはまるでないかと思いきや長男が独身貴族をきどってて困る、くらいの人並みの幸せに浸ってほしい。責任のない溺愛をしていいのはジジババの特権ですから。