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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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It Must Be Love (3)





膝の上でスポーツタオルを畳む。
丁寧に畳み終えると、タオル地をやさしく撫でる。洗いざらしのゴワゴワな感触、でもそれが男家庭の武骨さを表していて好感が持てると思う。
ああ畳み方がこれでは甘いかもしれない。
せっかく畳んだスポーツタオルを大きく広げる。白地に濃い紫色の文字で、去年の西暦と拳法の大会名が書かれている。こんな参加賞のタオルを普段使いしているのも、彼らしくていい。
もう一度、タオルの角と角をきっちり合わせ、真剣な表情で畳み直す。


「ハニー、帰らないの?」
エレオノールの机の上に、大きなヒップが乗った。
「ヴィルマ」
手を止めて見上げると、赤毛で青目の大柄アメリカ美人がウィンクを返して来た。
ヴィルマは、今日からクラスメイトになったエレオノールがとても気に入ったらしく、何やかやと声を掛けてくる。高校生ながら女豹の貫禄を漂わせ、纏わりつかれると少し暑くて鬱陶しいけれど、あまり人付き合いに積極的でないエレオノールからしたら彼女のお陰で学校生活には困らなさそうだ、とも思う。
「ちょっと、人を待ってて」
「ふうん」
皆が教室を出て行く中、ひとり自分の席に座ったまま、真面目な顔でタオルを広げては畳み続けるエレオノールに、ヴィルマの口角が可笑しそうに持ち上がる。


「ねーえ?」
「何だ?」
「待ち人ってさあ、その、『スポーツタオルの君』?」
「……」
「それ、ホームルーム中もずーっと膝掛けにして撫でてたもんねえ、アンタ」
余計なことをよく見ているな、とほんの少し眉根が寄る。
「ヴィルマ、帰らないのか」
「一緒に帰らない?って誘いに来たんだけどさ。ついでに見てみたいと思って、あんたにそんな顔をさせる男。興味あるじゃない?」
「そんな顔、とは」
「そんな顔、は、そんな顔よ」
鼻の頭に指を指され、エレオノールはヴィルマを睨んだ。するとそこへ
「エレオノール、待たせたな」
と待ち人が現れた。


ヴィルマとの会話をそっちのけに、エレオノールは声のした方に、ぱ、と顔を向けた。が、また、ほんの少し眉根が寄る。鳴海はひとりではなく、5人ばかりの筋肉団子状態だった。ヴィルマも好奇心丸出しの目をそちらに向ける。
身長の高低はあるもののどいつもこいつも筋肉ダルマでヴィルマの食指は動きそうもない。どれも同じマッチョに見える中、一際デカイ筋肉の塊がエレオノールに近づいて、エレオノールもそれを受けて「ナルミ」と立ち上がったから「ああコイツか」と値踏みする。
「悪ィ、ウチの担任、話が長くてさ。帰りがいっつも長引くんだ」
ヴィルマとしてはエレオノールの男の趣味がちょっと理解できないけれど、単純で素直で脳筋そうな男ではある。「楽しいオモチャにできそう」と結論付けた。


「はい。ありがとう」
きちん、と畳まれたスポーツタオルを両手で差し出され
「お、おう」
と鳴海も大きな両手で受け取った。鳴海と目が合うと、エレオノールの瞳が細くなった。鳴海の耳が心持ち赤くなる。
自校の女子の制服はどこにでもあるような地味なデザインなのに、エレオノールが着るとハイブランドに見える不思議。他の女子みたくスカート丈を短くしているわけでなし、制服を改造してるわけでなし、ポロシャツも靴下も指定品を生真面目に身につけているのに野暮ったさがどこにもない。
このままだと延々とエレオノールを観察してしまいそうなので、スポーツタオルをバッグにしまうことで色々ごまかす。きちん、と四角く畳まれているタオルを崩さないように、きちん、とバッグの中に収めた。


エレオノールは鳴海と話したいことはあったけれど、こうもギャラリーに囲まれていてはそうもいかない。古書店の店番に付き合っていた時、高校では拳法部に入って毎日練習なんだと鳴海は言っていた。だから、今日もこれから部活に出るので部員仲間と連れ立っているのだろう。
それに加えてヴィルマもいる。
鳴海とふたりで話す時間を持つことは、どうやら難しいことらしい。エレオノールは諦めて机に掛けていたスクールバッグを手に取ると
「ヴィルマ、帰ろう。じゃナルミ、また明日」
とさよならの挨拶をした。すると
「あ、あのさ、エレオノール」
との鳴海の言葉を遮って、仲間その一が
「エレオノールちゃん、時間ある?」
と声を掛けた。


「良かったらさ、オレらの部活の見学しに来ない?」
などと言う。突然の話に泡を食ったのは鳴海で
「おい」
と何やら口にしかけたが今度は
「いーじゃない。ねえ、私も行ってもいい?」
のヴィルマの言葉に遮られた。ヴィルマという同学年の女豹のことは見知ってはいたけれど、交流を持つのは初めての鳴海だった。
エレオノールはメリハリのあるスタイルの持ち主で、高校生男子にとても刺激的女子だが、ヴィルマはそれに何重にも輪をかけたグラマラス・ボディの持ち主だ。もはや制服を着ていること自体が犯罪レベル、与える刺激も一撃死レベルだ。第一印象からして、鳴海の苦手なタイプだった。関わったところでオモチャにされる未来しか見えない。
「もちろんスよ、ヴィルマ姐さん、喜んで!」
美人なら何でも大好きな仲間連中は、ヴィルマの申し出に大喜びだ。こいつらは女豹にオモチャにされることすらも喜びなんだろう、と思う。
鳴海が見守る中、エレオノールは「分かった」と首を前に倒した。「よっしゃ!」と仲間達の歓声が上がる。


「そんじゃーエレオノールちゃん、道場に案内するから…」
と鳴海を差し置いて、その他部員がエレオノールをエスコートする。出遅れた鳴海は、ち、と無意識の舌打ちをして渋々その後ろをついて行く。そしてヴィルマはそんな鳴海の横に並んだ。
「あんたさぁ、あのコに気があるんでしょ?」
「な、何だよ、藪から棒に」
見るからに、ぎくっ、とした鳴海はあからさまにヴィルマから一歩離れた。
「ふふん、誤魔化したってダメよう」
ヴィルマはお構い無しに一歩詰める。
「け。そんなんじゃねーや」
「そーう?あたしにはあんたの顔に、おもしろくねえ、って書いてあるの読めるけどね」
「え…マジで…?」
と鳴海は手の平で顔を擦った。ナルミ、とやらはバカなんじゃないかくらいに素直な男らしい。ヴィルマが、ケラ、と笑ったので鳴海の人相が悪くなった。


「ちょっとあんたたち」
ヴィルマはエレオノールの周りに群がる部員ふたりの腕に腕を絡めて豊満な胸を押し付けた。むにゅ、という幸せな感触にふやけた顔のふたりの足は止まり、残りのふたりも、何事か羨ましいじゃねえか、といった顔で足を止めた。即座に鳴海の尻に蹴りを入れ、エレオノールの隣に歩を進ませる。
「ってぇ!」
「どうした、ナルミ」
「い、いや、何でもねー」
いきなり思いっきり蹴られてジクジク痛む尻を撫でながら、ようやくゲットできたポジションに内心胸を撫で下ろす。並んで歩きながら気づいたのはすれ違う生徒が皆、エレオノールに目を向けること、エレオノールはホントにキレイなんだな、ということ。
学校の中ではどんな話題が丁度いいのか咄嗟に思い当たらなくて、とりあえず、当たり障りない話題でお茶を濁す。


「帰るトコだったんだろ?悪かったな」
「いや。でも、部外者がいるのは練習の邪魔じゃないのか?」
「邪魔なんてことはねぇが…つうかおまえのが迷惑じゃねえのか?」
「迷惑じゃない」
「そっか。おまえがいいってなら、まあ…」
「髪。そのままにしてくれたんだな」
「あ、これな。オレも結構気に入ってさ」
照れ隠しにピンク色のゴムを撫でた。


「なーにを色気のない話してんのよ?せっかくふたりにしてあげたのに」
会話が聞こえる程度に距離を置いて鳴海とエレオノールの後ろを行くヴィルマがダメ出しをする。
「何してんスか、ヴィルマ姐さん…」
「何って、あのふたりを見守ってるに決まってんでしょ」
ヴィルマは器用に四人のマッチョをホールドし、廊下を横隊で歩く。
「こーいうのは遠巻きに生暖かく見守るのが楽しいのよ。ほら、見てごらん、ゴリラみたいなナリしてエレオノールに骨抜きなのが丸分かりな表情。あーいうのを隠し撮りでもして後で本人に見せてやるといいのよ」
ヴィルマはニヤリと笑った。
「あんた達、あのふたりがニアミスしたら気を遣いなさい。あんた達がどんなに頑張ってもエレオノールは高嶺の花なんだから」
「彼女が高嶺の花なのは分かるけど、何でオレ達はダメでナルミはいい…」
「シノゴノ五月蝿い。あたしのナイフの的になりたいわけ?」
「いっ、いいええ…」
近接格闘術を嗜むマッチョ達を女子高生ならざる殺気を孕んだ威厳で黙らせ、前を行く銀髪少女の横顔を、ヴィルマは微笑ましく見守った。



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