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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。





みんな愛のせいね





It Must Be Love (1)





油照りの八月。


高校二年生の加藤鳴海は夏休みの真っ只中。
体を動かしてそこそこ精根を使い果たさないと、まともに夜も眠れない体力馬鹿の鳴海は毎日のように学校の部活に顔を出し拳法漬け、部活が上がれば夜遅くまでバイト漬けという非常に充実した生活を送っていた。


ただ、今現在はお盆期間中、部活はお休み。
しかも、同居している祖父が三泊の旅行に出かける間の店番を頼まれてしまった。
鳴海の自宅は曽祖父の代から続く、古さしか取り柄のない古書店。尤も、鳴海の父は中国を拠点に貿易会社を経営して古書店を継いでないし、鳴海だって継ぐ気はない。今は祖父が道楽で店を開けているだけ。
そういったわけで鳴海は今日も店番を務めていた。11時に店を開け、17時に店を閉める。狭く薄暗い店内、天井までの本棚にぎっしりと詰まった古書と、古い紙独特の匂いと、昭和に置き去りにされた雰囲気に四六時中囲まれていると、浦島太郎になった気分になってくる。おまけにこの三日間、健気に店番を務めてはみたが、一人だって客が来ないのだから余計だ。
鳴海は小さな頃からこの店を知っているけれど、そもそも客なんて滅多に見たことがなかったことに今更ながらに気付く。店を訪れるのは祖父の碁仲間や昔馴染みばかり、それも孫の店番を冷やかして帰っていくだけ。


「くっそお…断りゃ良かった…。こんな店、客なんざ来ねぇんだから…」
古書店の店番さえなければ朝昼晩とフルでバイトに勤しめたのに。お盆なんて書き入れ時なのに。じいさんの店を四日番しても、いつものバイトの一日分にもなりゃしない。
「何で引き受けちまったんだろ、オレ…」
はあ、と溜息をつきつき、ぼんやりと本棚を眺めた。黄ばんだ背表紙に書かれたタイトルを眺めてみても鳴海の興味を引くものはひとつもない。


ウンウンと年代物のエアコンが唸りを上げる。古書店のバイトの利点は、涼しさ、だ。ていうかそれしかない。話し相手もいないから退屈だし。
「カノジョがいればなー、店番に付き合ってもらうんだけどなー」
カウンターに突っ伏してひとりごちる。
ま、現実問題、ヒマに付き合わせるカノジョがいないんだけどね。
根本的に、彼女、なんてものがいたら、絶対に店番なんて引き受けてないし、部活やバイトの比重もはるかに小さくなってることは確実だ。
もっとずっと、夏、ってものを満喫している。
「カノジョがなー、いればなー、今頃はオレだって旅行に行ってたかもしれねぇのになー」
鳴海はヒマに飽かせて「現実逃避」と言う名の絵に描いた甘美な餅を味わい続けた。


その時、店先でカタカタと引き戸の開く音がした。
「け…また、ジジババどもの冷やかしか…『あらナルミちゃん、今日もいるの、デートする相手いないのー?』とか大きなお世話だってんだよ…」
鳴海は体を起こし、手元の雑誌を取り上げてパラパラとページを捲った。鳴海なりのレジスタンス、のつもり。そんな鳴海の元に軽い足音が近づいてくる。
「あのう…」
女の声がした。鳴海はページに目を据えたまま応対する。
「生憎、じいさんは旅行中。明日には帰って来るから、用があるなら明日以降…」
「おじいさんは、お留守なのか」
女の声、だけど初めて聞く声。ていうかめちゃくちゃ声が若い。いつもの祖父の知り合いの冷やかしじゃない。
鳴海は目を上げて、目を剥いた。





カウンターの向こうにいるのは紛れもない美少女だった。





大きな銀色の瞳。同じく銀色の髪は背中の真ん中までの長いストレート。肌は抜けるように白くて、鳴海のちょうど目線の高さにあるバストははち切れんばかりに実ってる。オフホワイトのノースリーブのワンピースに、白のレースのボレロ、とても涼し気だ。
文句無しで、鳴海が今まで見た中で一番の美少女だった。どんな女優も、アイドルも、彼女には遠く及ばない。
年齢は鳴海と同学年くらいだろうか。
「じ、じいさんに用事?」
いや。こんな美少女があのじいさんの知り合い、なんてコトあるか?こんなコがご近所さんだったら、鳴海の耳にも目にも入らないワケがない。
ていうか……この特徴的な銀色…、心当たりがあるような…。


「おじいさんに用事、と言うか…。あなたはここのバイトか?」
「まあ…じいさんが旅行に行ってる間限定、だけど」
「そう……なら、あなたは知っているだろうか。今も、住んでいるか分からないけれど…少なくとも十年くらい前にはこの家に住んでいた、カトウナルミ、という人を」
「は?」
美少女に突然名指しをされて、鳴海の声は裏返った。ちょっと…心臓がドキドキする。
「…カトウ、ナルミは…オレだけど…?」
「え?」


でっかい銀目がまじまじと鳴海を見た。すっと細い手がカウンター越しに伸び、鳴海の大胸筋に躊躇いなく触れ、さすさすとその感触を真顔で確かめる。顔が近い、つうか、胸の谷間が目に毒!だけど当然の如く視線誘導される。美少女は、鳴海の視線の行方よりも、鳴海のカラダに興味があるらしく全く気にしない。その点ではイーブンだなー、と思いつつも、美少女の大胆な行動に、鳴海の方が真っ赤に茹だり、全身から汗が噴き出した。女子に胸を撫でられたのなんか初めてだ。
「な、なっ…なにしてんだっ」
「私の知っているナルミは…こんな筋肉もなければ、こんな強面でもなかったが」
「こ、コワモテで悪かったな…」
気にしてることをずいぶんとハッキリ言ってくれる。美少女は鳴海の心中など御構い無しに
「立って、くれるか」
と言った。鳴海は言われるままに立ち上がると、カウンターを回り、美少女の前に立った。鳴海より20センチ以上下にある目線。女にしては背の高い方だけど。
しばし、見つめ合ってるんだか、睨み合ってるんだか。


「ずいぶん…背が伸びて、逞しくなったんだな…」
銀色の瞳が柔らかく、細くなる。
「ひさしぶりだな、ナルミ。私を覚えているか」
「…オレの貧相時代を知ってる銀目銀髪の女って、ひとりしか知らねーよ」
鳴海はニッと歯を見せて笑ってみせた。
「懐かしーな、エレオノール。十年ぶりかあ?」
美少女エレオノールは鳴海の言葉を受けて、更に瞳を細くして小首を傾げた。





加藤鳴海、16歳の夏。
この夏は、部活とバイト以外でも生活が充実する予感     



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