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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。





しかし僕は、君の友達として、僕の理解し、愛しうる方向へ君に進んでもらひたかった。また君にさうしてもらふやうに努力してゐたことを告白してもいい。  さういふ自分の態度を、僕はいまはげしく反省してゐる。(中略)僕の古き友よ、そうしてまた、僕の新しき友よ。
(小説家・堀辰雄より友人の小説家・神西清への書簡より)





古き友よ、そして、新しき友よ





ギイ。
おまえのコトは最初からイケ好かねえヤロウだと思ってた。
キザでシニカルで、基本、上から見て来やがる。
ワインと女をこよなく愛すと自称するおまえは、酒も飲めなければ女も口説けねえオレをいつも鼻で笑ったし、会話が洗練されてねーとか機知が効いてねーとかすぐにコキ下ろすし、ガサツだゴリラだチョンマゲだ低脳だイノシシだと好き勝手悪し様に言ってくれた。
そー言うおまえは重度の、救いようのないマザコンのクセによ。



それから、女を口説く時しか滑らかじゃねえ舌は、必要最低限以下のことしか言わなかったな。
感情の起伏が乏しい小癪なツラの下で何を考えているのかサッパリ分からんかった。
初め、それは『しろがね』特有の性質なのかと思ってた。ルシールも似たような皮肉屋でオレはダブルで苦労させられてたし。
オレが何べん、左腕を失った事故の経緯を聞いたって、欠けた記憶の中身を聞いたって、オレを助けた本当の理由を聞いたって、おまえはまともに答えちゃくれなかった。あんまりにも徹底しているその態度に、いつの頃からか何となく、おまえの秘密主義は度を過ぎてる気がしてた。コイツにはルシールにも黙ってる何かがあるんじゃないか、ってよ。
オレの勘は割と動物的な部分があると自負しちゃいるが持ち主は如何せんオレだし、おまえは一枚も二枚も上手で結局は巧みに話を逸らされて、煙に巻かれてお終いだった。
若作りしちゃいるが、中身はヨワイ重ねたジジイだからな、おまえ。20年も生きてねぇ若造が舌戦で勝てるワケもねえ。そうでなくてもオレは口喧嘩は苦手だ。おまえのが頭がいいのも認める。
そんなわけで、その秘密が何かを知る前に、おまえは生死不明になってしまったわけだが。



今オレは、ソレがエレオノールに関わることだったと理解する。
ギイがエレオノールの出産に立ち会った話はフウから聞いてた。そんな男がエレオノールの擁護を始めた時、すぐに察したよ。おまえの立ち位置は最初から、オレがおまえに助けられる前からずっとエレオノール側だったんだ、と。
おまえは、ゾナハ病棟の地下深くに寝転がる子供達の前で『フランシーヌ人形の生まれ変わり』を擁護した。冷淡で鉄面皮で、何を考えてるのか分からないヤツだけど、自動人形の破壊を第一に考える点ではオレと同じ、同じ『しろがね』だと思ってた。
おまえはオレの、『しろがね』の先輩じゃねえか。
世界にたったこれだけになっちまった『しろがね』の生き残りじゃねえか。
なのに、どうして、『人形の生まれ変わり』の女を擁護する?



オレは、おまえなら分かってくれると思ってた。
オレだって半ば分かっていたんだ。
フランシーヌ人形が溶けたアクア・ウィタエを飲んだエレオノールが、紛れも無いエレオノール自身であり、例え、カラダの中にフランシーヌ人形が溶けているのだとしても、エレオノールには罪はないこと。
けれど原罪が彼女の中にある以上、彼女を消さねば、その原罪は消えない。
彼女が消えねば、戦いで落命した『しろがね』達の魂も、ここにいる病に苦しむ子供達の肉体も、誰も浮かばれない。



本当は、あの時おまえに、エレオノールを諸悪の根源だと言い切れなくなりつつあった、オレの心を叱咤して欲しかった。
「フランシーヌ人形のふざけた生まれ変わりは、オレが必ずぶっ壊してやる」、子供達の前で誓うオレの言葉を肯定して欲しかった。
オレのやろうとしているコトは正しいコトだと背中を押して欲しかった。
なのに、おまえが吐いたのは「人間・エレオノールには罪はない」。
エレオノールは何も悪くない。
その言葉に、オレはキレ、怒りは止まらなくなった。



そんなのは!そんなコトは分かっていたんだ!
だけど、悪かろうが悪くなかろうが、フランシーヌ人形に落とし前をつけさせねえでどうする?
オレ達『しろがね』が、ゾナハ病の子供達の、物言えぬ苦しみと悲しみを代弁しねえでどうする?
フランシーヌ人形に落とし前をつけさせるコトは、罪のないエレオノールの肉体を壊すコトだって嫌ってほど分かってる!
分かっていながら目を瞑ってんだ!
それでもやらなくちゃなんねえからだ!
どうしてそれを、分かってくれない?
おまえがエレオノールを擁護するなら、もうオレが、ひとりでその役目を果たすしかねえじゃねえか!



だからオレは今日まで、懸命にエレオノールを憎悪し続けて来た。
とうに憎んでないのに憎んでいるフリ。
どれだけオレが絶望しているか、分かるかギイ?
ついに記憶を全部取り戻したオレが、何に絶望しているか、分かるかギイよ?
エレオノールに悪意がなくとも、フェイスレスが彼女を狙ってゾナハ病を世界中に撒いた責任を取らせるために
「オレはあの女を殺す!」
その一念を縁にして。それがオレの、最後の『しろがね』としての責任だから。
ヴィルマが「フラれた男のヤケに女がいちいち責任とってちゃ身がもたない」と言った時、オレの器の小ささを指摘されたみてえで胸が痛かった。
分かってんだよ、そんなコト!



ギイ、おまえの本音を初めて見たよ。
おまえに決闘を挑まれて、痛感した。
オレがこれまで見て来た、オレの知っているおまえは、オレが作り上げたおまえであって、オレが今、刃を交えているおまえが、本当のおまえだったんだな。
冷笑的で厭世的で、世の中の何もかも興味がないような顔の下に、こんなにも熱い信念と、固い決意を押し隠していやがったんだな。
おまえの行動動機の何もかもがエレオノールのため、長い人生をすべてエレオノールのためだけに注ぎ込んで、とっくの昔に『しろがね』じゃなくなっていやがったんだな。
オレなんかよりもずっと『しろがね』じゃなかったなんてな。



「バカヤロウ、ギイ!あの女は、おまえがそこまでして守ってやるような、女なのかよォ!!」
「ああ…そんな、女さ」
そう言うと思ったぜ、おまえは。
「僕にとってはいかなる時、いかなるものにも優先する    
じゃあオレは?オレが今、しているコトは、何なんだ?
「大切な妹のような存在だ」
相棒の、友人の、大切な妹を、自分にとってもかけがえのない女を殺そうとしているオレは?
そして、半ば身体を石と化し、瀕死ながら妹を守ろうとしているおまえの前に、オレはどんな顔で立てばいい?



「ナルミ!おまえ自身は男として、エレオノールをどう思っているのだ?」



何てコトを訊きやがる。
そんなん、答えるワケ、ねえだろが。
ギイの目は真摯だ。目を逸らすことは負けを認めることだから、その鋭い眼光を受けて立つ。
でも。
頭の中で考える。
エレオノールを殺すと言う、オレの義務や責任を取っ払えたら。
オレが『しろがね』ではなく、ただのオレとして、エレオノールの前に存在することが許されるのだとしたら。
オレの中に残るモノ、それは     



「ふ……君は…分かりやすい奴だな……」
ギイに、やれやれ、と言った風にいなされた。
オレはちゃんと黙ってたってのに、何が分かったってんだ?いい加減なコト言いやがってよ。
かてて加えて「粗暴なチョンマゲバカ」とまで言われた。決闘を吹っかけてきたのはおまえで、オレはそれを受けただけだろうが。それに服が破れたのはお互い様で、むしろ左腕半壊してるオレを見れば粗暴なのはおまえだろう。
でも、それ以上におまえのカラダは深刻だった。石化の進行を留めているのは、エレオノールの行く末を憂う気持ちに違いない。
「安心しろ、そこに行くまでオレはエレオノールに何もしねえ。この勝負はそこからだ……」
いや、いいよ、もう、オレの負けでもさ。だから。
「それまで…死ぬなよ……」



おまえの行動のすべてがエレオノールのためなのだとしたら。
あの日の死にかけたオレを助けたのも、オレを、オレの意思を確認もしやがらねえで勝手に『しろがね』にしたのも、エレオノールのためだったんだろう?



ずっと何でオレなんだって思ってた。
でもやっと答えに辿り着いた。
おまえが挑んだ決闘と、エレオノールの「あなたのしろがね」で。腑に落ちた。
おまえら師弟揃って、どうかしてるぜ。



とんでもねえ博打をしやがったもんだな、おまえも。
冷静で思慮深い男の行動じゃねえぞ、それ。
オレに使ったのは、最後のアクア・ウィタエだったんだろうに。そいつを使ったら、もう『しろがね』は生まれないってのによ。
大馬鹿だぜ、ギイ。
おまえが最後の『しろがね』として選んだ男がこの世で一番、おまえの大事な妹を、幸せにしてやれねえ男なんだぞ?



世が世なら、おまえの望んだ形で、
オレは、エレオノールの隣に立っていただろうにな。



「必ずだぞ!ギイ、そん時にゃ絶対オレがぶん殴ってやる!!」
「本当に君は無粋だなァ、ナルミ…」
もう元通りのギイだ。キザでシニカルで、オレがどこか親しみを覚えたおまえだ。
オレの知っているおまえも、オレの知らなかった本当のおまえも、おまえはおまえなんだろ、ギイ。
「前にも教えただろう、こんな時にはエスプリを効かせてこう言うんだ」
おまえは最初からイケ好かねえヤツだったけど、オレの、最高の相棒なんだ。



「Bon Voyage」



言えるかよ、そんなコト。
オレにゃあエスプリなんざ皆無だからな。
それに「行ってらっしゃい」もねえだろう?
オレ達はルートが違うだけで目的地は一緒なんだ。



ギイ、ゾナハ病も自動人形も消えた世界で会おう。
そこで改めて、エレオノールを賭けた決闘をしよう。
それまではおまえとの約束を守る。
だから、必ず、また会おうぜ。



次に会う時にゃ、オレ達は新しい友人として旅立てるからな。
きっと。



End
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