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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最後の四人』の控え室

 

 

 

~magic mailのその後~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、もうやんなっちゃう!私の話を聞いてくださらない?ハーレクイン?」

かなり乱暴に控え室のドアが開いたので、真剣に競馬新聞を読み込んでいたハーレクインも思わず顔を上げる。髪を立て巻きロールにしたゴスロリ少女が膨れた険しい表情で、開けたのと同じくらい乱暴にドアを閉めた。

「ドアを足で閉めるのはやめれ。…ディアマンティーナのおれっちに聞いて欲しい話はどうせ造物主様(若金)の話っしょ?」

ディアマンティーナはコロンビーヌ(小)とフランスで人気ユニットを組んでいるアイドルだ。ジャ●ーズに所属しているアイドル・金と付き合っているのは出演者の大抵が暗黙の了解としているところ。

「そうよ?ね、酷いのよ?造物主様(若金)ったら最近…あら?控え室でも衣装をきっちり着込んでいるの?ハーレクインったら」

ディアマンティーナはハーレクインの座るテーブルの、その真向かいに腰掛けながら目を丸くした。

ハーレクインは月にレギュラー6本、ゴールデンに番組を持っている人気お笑いタレントだ。年齢も決して若いとはいえない彼はディアマンティーナの指摘の通り、白の全身タイツをピッシリと着込んでいる。普段から本業でこういったふざけた格好をしているので全く抵抗はないようだ。テーブルの上には競馬新聞が何紙か載っている。

「いや何ね、今日はおれっちとブリゲッラとカピタンの3人揃ったシーンの撮り直しがあるんすけどね、カピタンの奴がファンのコたちにサイン&写真の約束をしたとかでね、その約束を律儀に守っている間待たされてんの」

ハーレクインがクイクイと指を指したテーブルの端っこには、同じく衣装を頭まですっぽりと被ったブリゲッラが何やらブツブツと呟きながら格闘技雑誌を一心不乱に読んでいる。

「キャー、カピタンの衣装で一緒に撮ってー、って言われたから、って。ファンのコとの口約束なんて適当に誤魔化しときゃいいものを」

「カピタンはバカ正直ですものね」

「大法螺吹きの役柄とは大違い…」

ハーレクインは赤ペンをクルクルと回しながら再び競馬新聞に視線を戻そうとする。

「ちょっと待って、私の話を聞いてったら」

「ディアマンティーナ…何かあるたんびにおれっちに愚痴こぼしにくるのやめない?」

「いいから!だって話やすいんだもん。あのね、造物主様(若金)ったら」

と、ディアマンティーナが最近つれない彼氏の話をしようとした時、ガターン!、と騒々しく椅子がすっ倒れる音がした。びっくりして音の出所を見るとブリゲッラが奇声を上げて拳法の型らしきものをとり、目に見えない仮想敵と戦っている。

「な…何をしているの?」

ディアマンティーナは話が途中になったことも忘れて唖然とブリゲッラの奇行を眺めている。ハーレクインは「気にするな」と手を左右に振ってみせる。

「何てことないない。気にすることはないっす。ブリゲッラ、憧れのお方との夢の対戦がようやく本決まりでさ」

ブリゲッラも鳴海と同じく中国拳法をかじったことのある格闘家だという理由での配役なのだが、タイトル総なめで格闘家としての地位が確立している鳴海とは異なり、まだまだ駆け出しの彼は鳴海に愛にも似た憧れを持っているのだ(鳴海本人はそれを知らない)。本職でもブリゲッラはいまだ鳴海と対戦したことはなく(正直、実現は難しいと思われ)、『からくりサーカス』上で本格的な手合わせができるかもしれない、ただそれだけのために素顔を晒すことはない役でひたすら撮影スケジュールをこなしていたのだ。

「ブリゲッラは鳴海オタクだとは知っていたけれど。口を開けば鳴海さん鳴海さん…」

「それのシナリオをもらって盛り上がってたところに、その加藤鳴海本人とニアミスしてよ、『よろしく頼むわ』なんて笑顔で言われた日には」

「狂うわね」

「そういうこと。それ以来、突発的にああなるようになっちまったのさ」

舞い上がっちゃってさー、と呆れた声で競馬新聞のページをバサバサとめくるハーレクインに

「鳴海さんに失礼のないように自分を常に高めておかねばならんのだ!」

と、ブリゲッラは叫び、彼の戦いはまだ続く。

「ふうん…まぁ、私はああいった汗臭い世界は興味ありませんから。あんな筋肉ダルマの何がいいのか、私にはさっぱり理解できないわ」

「黙れ!鳴海さんを侮辱するな、この色ボケ娘!」

突然、ブリゲッラのヒステリックにも聞こえる怒号が飛ぶ。

「色ボ…何ですって?」

「鳴海さんは打撃系格闘技では文句なしに世界一なんだ!それどころか異種格闘技戦を行ったとしても鳴海さんはこの世に敵なしだとオレは信じている!学生時代から不敗神話を築き上げた全国覇者はこの3年間、K-1でもPRIDEでも負け知らず、それどころか必ずと言って相手を3RまでにKO勝ち、全米タイトルも…!」

「それとワタクシが色ボケ娘って何の関係がありますの?!」

「はいはい。分かったからふたりとも」

ハーレクインがヤレヤレと仲裁に入る。

「鳴海さんが出場する回には視聴率は格段に上がり、前回の大晦日に…!」

「ハイハイ。分かったってば。ブリゲッラが格闘技オタクってだけじゃなくて、加藤鳴海オタクだってこともな」

「ああそうだ。オレは胸を張って加藤鳴海オタクだと言える」

「胸なんか張らなくていいわよ、そんなことで」

長くてタップリした髪を掻き上げてディアマンティーナがフン、と鼻を鳴らした。やってられないわ、とコーヒーを注ぎに席を立つ。

 

 

 

 

 

「鳴海、って言えばさ。ほら、今度、ブリゲッラは撮影絡むだろ、アルレッキーノ?アルレッキーノが鳴海に色目使ったことがあるって…」

「勿論、知っている」

マスクの奥の、ブリゲッラの瞳がキラン、と光る。

「サハラ編の撮影時、通りすがりに尻を触るのは挨拶代わり、一度は正面からも ピー (規制中) を掴まれたこともあるし、鳴海さんがトイレに行くと84%の確率でアルレッキーノもトイレに出没したという」

ブリゲッラは事・鳴海になると饒舌になり早口になる。

「いやさ、そんなアルレッキーノもどうかとは思うが、そんな情報を知りってるおまえもどうかと思うぞ、おれっちは?」

「クックック…」

「クックック、じゃないっすよ」

「オレは不埒なアルレッキーノに天誅を与えたいと思う。鳴海さんはヤツの少女趣味に関し、ローエンシュタイン編で撮影が再び合流したこともあり理性的な話を持とうとしたのにアイツはっ!」

アルレッキーノと涼子のツーショットを見かける度に「食べられちゃったのかなぁ」と憶測をしていた鳴海ではあったが、何かの折にパンタ様がボロリと嘆いたのを聞きかじり、その憶測が一気に現実味を帯びてしまったため、「やっぱ小学生相手はよくないぞ?」と意見をしてみたのだ。

「アイツは酒の弱い鳴海さんにアルコール入りの飲み物を勧めてあわよくば味見をしようと」

「鳴海、食べられちゃったの?」

コーヒーを手に戻ってきたディアマンティーナが興味深深に訊ねた。

「いや、未遂に終わったらしい。アルレッキーノと懇意にしている少女の乱入で。『私はアルレッキーノが好きなの!だから放っておいて!』と言われてしまったという。問題のアルレッキーノが自分の登場前に鳴海さんに触手を伸ばしていたことも知らず…愚かな娘よ。それで鳴海さんはそれ以上の説得は諦めたらしい」

「結局、自由恋愛に他人は口出ししちゃダメなのよ」

「てゆーか、そういう話、どこにソースがあんの?」

ハーレクインが訝しそうに訊いてもブリゲッラは

「クックック…」

と不敵に笑うだけだった。

「おまえさん、鳴海に盗聴器とかしかけてない?」

「クックック…そんなわけでアルレッキーノを破壊する機会が与えられてオレとしては満足だ」

「…犯罪はよくないっすよ…」

はあ、とハーレクインは溜息をついた。

 

 

 

 

 

「…でね、最近、造物主様(若金)がまたしろがねに熱を上げているみたいなの。一緒にいても何となく分かるのよね。何だかおざなり、って言うか」

ブリゲッラがおそらく彼の家宝になるだろう、鳴海とのバトルが書かれたシナリオの世界への没入を始めたので、ディアマンティーナが当初の話題に流れを戻す。

「でも心配するだけ無闇にメンタルヘルスを悪くするだけじゃね?気を揉むだけ無駄っつか。造物主様(若金)ってしろがね嬢に相手にされたことなんて一度もないじゃないっすか。役の上でもプライベートでも。それに元々ディアマンティーナだって『本命がいる上で付き合うの』って言ってたっしょ。その上で自分に振り向かせてみせる!って」

「でもワタクシがどんなに頑張っても造物主様(若金)は振り向いてくださらない。コロンビーヌ(小)に言われたような『便利なハサミ』は嫌なのよ。役と違ってワタクシはれっきとした人間なのですから」

ハーレクインはディアマンティーナの愚痴を聞きながら「1-4、いや1-8」とか呟きながら新聞に赤ペンを入れていく。

「聞いてるの?」

「聞いてるって。だからおれっちは造物主様(若金)がしろがね嬢にお熱なことなんて今に始まったことじゃない、って言ってるんすよ」

「それはそうなんだけれど。ここのところそれに拍車が掛かってる気がするのよ、ワタクシは」

ディアマンティーナはイライラと髪の毛を弄ぶ。

「でも、そんなこと言われても造物主様(若金)が何をお考えなのか、なんておれっちは分かんないからなぁ」

「オレはその事情を知っているかもしれない」

イメトレに余念なさげにしていたブリゲッラが急に口を挟む。

「それって鳴海さんがしろがねさんと急接近していることと関係があるんじゃないか?」

案の定、鳴海ネタで。

「そうなの?そんな噂あるの?」

「あのふたりって仲悪いんじゃなかったっけ?」

ディアマンティーナは恋敵・しろがねの近況なので、ハーレクインは芸能スクープネタなのでパッと食いつく。

「いや噂にはなっていないが、ローエンシュタインの撮影辺りからふたりの雰囲気が明らかに違うぞ?表立ってそういった素振りはないようだが、オレが見たところ鳴海さんの演技にはこれまでにない余裕が感じられる」

「造物主様はその噂をどこかで知った、ってこと?」

「ま、鳴海オタクのおまえが言うのならそうなんじゃない?ニュースソースに自信があるんでしょ?」

「当然だ!」

ブリゲッラは鼻息も荒く胸を張る。

「ねぇ、それってしろがねも鳴海が好きってことになるのかしら?」

「オレはそう踏んでいる。大体が鳴海さんは男から見ても惚れる漢(と書いてオトコと読む)!共演女優を軒並み惚れさせることなど造作もないこと!鳴海さんの魅力も分からないような小娘如き(以下、長いのでハーレクインもディアマンティーナもスルー。)」

ディアマンティーナはハーレクインと頭を突き合わせヒソヒソと会話する。

「もしかして隠れて付き合ってるのかしら?」

「それが本当だったら繋がるんじゃねぇすか?ほら、ギイのダンナがシナリオ無視してオリンピアで襲い掛かったってヤツ。この間、鳴海が腕を負傷したとか、それで撮影が延びたとかなんとか」

ローエンシュタイン最後の夜、ギイと鳴海がエレオノール(しろがね)のことで『話し合う』シーンがあった。リハーサルではシナリオ通りにちゃんと『話し合った』ふたりだった。ところが本番になった途端、ギイがアドリブで、というよりもシナリオをまるで無視してオリンピアで鳴海に突撃し、意表を突かれた鳴海はかわすのがやっとで右腕に思いっきりオリンピアの一撃を食らったという一件があったのだった。

「役の上では両手足マリオネットの鳴海も実際は生身だもん。いくら鍛えてるっつってもいきなり木の塊をぶつけられちゃあ…それにオリンピアの刃物で衣装はビリビリになって、皮一枚で済んだらしいけど流血もしたって」

「ああ、それで結局、迫力のあるシーンが撮れたって監督が喜んで差し替えになった、っていうアレね」

「ギイのヤツもけしからん!格闘家の大事な身体に!オレとの格闘シーンを控える大事な鳴海さんの」

テーブルの上に飛び乗り演説を始めるブリゲッラをハーレクインは相変わらず「はいはい。分かった分かった」と受け流す。

「ギイのダンナ…実生活で妹を取られたから実力行使に出たんすかね…」

「ありえるわよね?ギイのシスコンはものすごく有名だもの」

「ディアマンティーナ的には鳴海に頑張ってもらった方がいいんじゃねぇんすか?しろがねが余所見をしないようにしといてもらった方が造物主様(若金)が取り付く島もなくなるわけで」

「もうすでに取り付く島がなくなってるんじゃないか?オレの見立てでは鳴海さんたちはクランクアップまでは秘密にするつもりなだけで、関係的には行き着くところまで行っている。もしくはそうなっても可笑しくないところまできている。だから造物主様(若金)は逆に余裕がなくなってる」

「そういうこと?それくらい、造物主様(若金)はしろがねに気があるってこと?きーっ!悔しいィ!」

ディアマンティーナは空になったコーヒーの紙コップをグシャリと握り潰した。

「いいじゃん、どうせ造物主様(若金)の片想いなんだから。それに終わりまで造物主様(若金)としろがね嬢は一緒の撮影は全くないんでしょ」

ハーレクインはヤレヤレ、と落ち着いて読めない競馬新聞をテーブルの上に放り投げた。

「そうね…仕事上での接点はないのだから、ワタクシが造物主様(若金)のスケジュールをキッチリ握っておけば何の問題もないのだわ…」

ディアマンティーナは口角の思いっきり上がった笑みを浮かべて、彼氏への締め付けを心に誓った。

 

 

 

 

 

「やあやあ、皆の者、待たせたな」

爽やかな笑顔でカピタンが控え室に戻ってきた。

カピタンは古式ゆかしき京の都にある、赤い門の大学と並び称される西の学びの最高峰を卒業した高学歴俳優だ。よく言えば品がよく、口悪く言えば坊ちゃん育ちが鼻につく。

「撮影会終わった?もう、おれっち待ちくたびれたっすよ」

、とハーレクインは思う。

「いや、ファンサービスは大事だからな」

「でも口約束だったんでしょ?誤魔化してしまえばいいのに」

ディアマンティーナの言葉にカピタンが噛み付いた。

「嘘はいけないぞ?男たるもの決してついてはならぬ。我が家系は遡れば毛利元就に辿り着く士族の家系。それも更に遡れば公家の大江広元に連なる鎌倉時代より続く由緒在る、歴史在る家系なのだ。名高い先祖の名に恥じぬよう、どのような約束も違えぬことが我が誇り、口約束も約束なのだ。先人曰く」

「ハイハイ。御講釈はそれくらいにしてそろそろ撮影に移りましょうよ」

ハーレクインはブリゲッラ同様、話出すと止まらないカピタンの口を遮った。

「うむ。そうだな」

カピタンは悠々と先頭を切って控え室を出て行く。

「カピタンって大法螺吹きの役とは違って実物はものすごくバカ正直なんだけれど、自分ちの歴史を語りたがる鬱陶しいことに関しては変わらないのよね」

ワタクシの趣味じゃないわ、とディアマンティーナは首を振る。

「嘘か本当かってだけでやってることは何にも変わらないってのが…愛すべきおバカっ子、ていうか」

「でも高学歴じゃない?ワタクシ達3人の学歴を寄せ集めても適わないわよ?」

「学がある、とおバカ、ってのは別物」

ハーレクインは次のGⅠ攻略がひとつもまとまらなかったことに溜息をついた。

「ディアマンティーナとブリゲッラのお守りを一人でするのはいささか辛いが、それにカピタンが加わるときっぱり辛いっすね」

「何か言った?ハーレクイン?」

「なーんにも。ほら、行くっすよ、ブリゲッラ」

ハーレクイン競馬新聞をまとめながら声をかけると、真剣にシナリオに目を通していたブリゲッラが「馬蹄拳を徹底的に練習しないと」とブツブツ呟きながら立ち上がった。

カピタンを追うように3人も控え室を出て行く。

 

 

 

 

 

「じゃあ、おれっちたちは行くわ。ディアマンティーナはどうする?」

「ワタクシは造物主様(若金)のところに行くわ。そろそろ彼のコンサートが終わる時間だから」

「ふうん。じゃあ、頑張ってしっかり首輪を繋いどけよ。もう愚痴聞かされるのは勘弁して欲しいっすから」

「やあやあ!我が剣に続け!我が愛刀はかの備前長船兼光にも…」

「ハイハイ」

「馬蹄拳で鳴海さんに一発入れるのか…鳴海さんへの無礼にならないように完璧に仕上げないと」

「そんな先の撮りのことより、今の撮りのことをちゃんと考えろって。ブリゲッラ、おまえのミスのせいで撮り直しだって分かってる?」

 

 

 

 

 

そして、最後の4人のまったりとした会話は控え室の向こうへと消えていった。

 

 

 

 

 

not to be continued.....

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