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今でも、私はあなたの夢を見る。
あなたにはもう何年も会っていないけれど、今でも夢を見る。
ただ、夢の中のあなたの隣にはいつも私の知らない人が寄り添っている。
だってもう、実際、いい人を見つけているはず。
あなたは素敵な人だったもの。
何気ないことをしていても、時折あなたを思い出すこともある。
あなたを思い出すと心がじんわりと温かくなって、そして心は涙を流す。
今でも、あなたが好き。
きっと今だから言えるのだと思う。
Smile a hearty smile.
私があなたと始めて出会ったのは大学4年の夏。
就職活動も終わってほっとして、残り少ない学生生活をどう過ごそうか、なんて考えていた頃。
あなたは当時私が付き合っていた彼の女友達の彼氏だった。
私の彼とあなたの彼女はもうけっこう長い知り合いで、お互いの恋人を紹介しあう形で私とあなたは初めて顔を合わせた。
第一印象は「とても大きい人」だった。
私の彼も決して小さくはなかったが比較にならなかった。
あなたの彼女は「この人は拳法を嗜んでいるの。すごく逞しいのよ」と言った。
第二印象は「とても楽しそうに笑う人」。
私はあんな風に笑う人、見た事がなかった。
言葉で説明するのはとても難しいのだけれど、「眩しい」のだ、その笑顔が。
黒い瞳もやさしく笑っている。
私は何となく、あなたの彼女がうらやましかった。
別に、自分の彼氏に不満があったわけじゃなかった。
でも、そのやさしさにいつも包まれていそうな彼女はとても幸せそうに私の瞳に映ったのだ。
どうしてだかは、今でも分からない。
それから私たちは4人で遊ぶことが多くなった。
デートや食事、どこかに旅行に行ったりなんかも。
私の彼とあなたの彼女はとても仲がいいのでわりとふたりで話していることが多かった。
そんなとき、私とあなたもよくふたりで話した。
あなたは体育会育ちで少し言葉遣いが乱暴で荒っぽい人だったけれど、
私にとても気を遣ってくれて、すごく楽しい人だった。
いつも笑顔だった。
私はいつもあなたの笑顔を息を止めて見ていた。
眩しくて、何故か苦しかった。
私には恋人がいて、あなたは他人の、恋人だというのに。
あなたと出会って5ヶ月くらい、そう、ちょうどクリスマスの時分、
私の彼とあなたの彼女の関係が、私とあなたにバレた。
もうだいぶ前からの関係だったらしい。
私もあなたもそれに気がつかなかった。
4人で行動することが多くなったのも、蓋を開ければそれが理由だった。
そんな時、私とあなたは街でばったり会った。
「まいったな」
「そうね、まいったわね」
こんな時でもあなたは笑った。
でも、少し辛そうで、やはりあなたは彼女のことが好きだったのだな、と思った。
私はというと彼氏の浮気について、不思議なことに何とも思わなかった、少しも辛くなかった。
どちらかというと、あなたが彼女を好きなのだ、という事実の方が何倍も何十倍も辛かった。
私とあなたはその後ふたりでお茶を飲んで、当たり前のようにホテルで身体を重ねた。
どちらからともなく、お互いの身体を求め合った。
同じ傷を舐めあいたかったのか、それともただ単にセックスをしたかっただけなのか。
私は、純粋にあなたに抱かれたかったのだ、と今なら言える。
ずっとこうしたかったのだ。
初めて、あなたに会って、その笑顔を見たあの日から。
ずっとずっと、あなただけを見てきたのだ。
ときめいて、私の瞳はあなただけを追いかけて。
私の何もかもがこの夏に変えられていたのだ。
あなたに抱かれたいと願っていた私が、彼氏の浮気を悲しむはずもない。
私と、私の彼は同罪。彼を責めるわけがない。
「オレとおまえって何か似てるな」
私とひとつにつながっているときに、あなたは言った。
私は今でも、私とあなたが似ているなんてこれっぽっちも思わない。
でも、そのときは、あなたがとても身近に感じられてすごくすごく嬉しかった。
それ以来、私はあなたに会っていない。
もともと、浮気をしていたふたりを介して一緒にいた人だったから、
私はあなたのことを何も知らなかったことに後から気づいた。
どこに住んでいるのかも、携帯の番号すらも。
もう二度と会うことも叶わず、大学を卒業し、社会人になった。
こんなに時は早く流れていくものだったとは。
でも、私の心はあのときのまま、あのころのまま止まっている。
私の想いはあなたの元に留まったままだ。
忘れない。
忘れられない。
私はあなたにもう一度会えたら訊きたいことがあった。
「少しは私のこと、好きだった?」
「好きだった。初めて紹介されたあの日から。
でもおまえは彼氏と幸せそうだったから何も言えなかった。オレにも彼女がいたし」
あの頃と少しも変わらない、髪を長くしたあなたが言う。
この都会であなたと再び出会うことができた奇跡。
私のあなたを想い続けた日々は、今日のこの一瞬に全て集束されたかのように私はあなたを見つけた。
私が駆け出すのと同時に、あなたも私に向かって走り出した。
「あなたが大きくてよかった。だって人混みの中でも見つけることができたもの」
「おまえが銀色の髪でよかった。遠くからでも目立ってた」
あなたの眩しい笑顔。
あなたの大きな手の平が私の手を包む。
「あの日、何の約束もしねぇでおまえと別れたこと、ものすごく後悔してたんだ。
おまえの連絡先、あいつらに訊くわけにもいかなかったしよ」
あなたは言う。
そして私は思った。
あなたの言った通り、私とあなたは似ているのかもしれない。
ようやく、私とあなたはスタートラインに立てた。
ようやく、私は心から笑える。
「さあ、行くか」
私は、私の手を引くあなたの大きな手を見ながら
これからの私とあなたの道行きが、恙なく、長い長いものになりますように
と心から祈った。
End