忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。







KOJINTEKINA  KOTO



 

 

 

 

「今日の鳴海先生っていつもと違うよね」

「スーツ着てるからじゃない?」

「いつものジャージじゃないからだ」

「何かヘンに気合が入ってない?」

 

 

 

クラスメイトたちが囁きあっている中、勝は心の中で

『今日の個人面談にしろがねが来るからだよ』

と、自分しか知らない正解を呟いた。

何しろ、鳴海先生はここ数日うるさいのだ。

「勝、おまえの家は誰が来る?来るのはしろがねさんか?」

休み時間ごとに大きな身体をそわそわさせながら訊いてくる。

そうでなくとも一日一回は必ず、しろがねのことを訊いてくる。

「お姉さんは元気にしているか?変わったことはないか?」って。

勝だけが知っている、鳴海先生の秘密。

そして勝は鳴海先生が知る由もない、しろがねの秘密も知っている。

 

 

 

しろがねは両親を亡くした勝の後見人で、年の離れた姉のような存在で、

勝はしろがねをとても慕っていた。

鳴海先生は勝のクラスの担任で独身で、とても身体が大きくて強くって、

勝に笑顔が大事なんだってことを教えてくれた、勝の大好きな先生だ。

そして、今学年になって転校してきた勝の挨拶に訪れたしろがねに

一目惚れしてしまったのだ。

「しろがねのこと、好きなの?」

と勝が訊いたら、真っ赤な顔をして

「内緒だぞ」

だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

15時45分まで後2分。

申し訳ないと思いながらも、直前の面談は早めに切り上げてしまった。

前回会ったのは・・・・・授業参観のときだったな。

どうしても彼女に目が行ってしまって、舞い上がってしまって、

授業で何を話したのかあんまり覚えていない。

鳴海は逸る気持ちを抑えつつ、幾度となく目を時計にやる。後1分。

何かおかしいところはないよな?

(今日だけスーツ、というのが一番おかしいのだけど)

急に来られなくなって代理の人が来たらどうしよう?

チラチラと教室の扉の曇りガラスにも目を配る。

後10秒……4,3,2,1……。

曇りガラスに人影が映る。ガラリ。

鳴海は椅子からパッと立ち上がった。

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「さ、さささ、どうぞ!」

他のお母さんたちにわざわざ椅子を引いて勧めるなんてコトはまずありえない。

くすんだラベンダーグレイのスーツを着て、スカートは膝上丈で、

久し振りに会うしろがねはやはりキレイで、しかも今日はこんなに至近距離だ。

鳴海はしろがねの前の席につくと『平常心』と唱えながら、

いささか上ずる声でしろがねとの面談を始めた。

持ち時間は15分――――!

 

 

 

 

 

「…てことで、他に何かありますか?」

「いえ、ありがとうございました」

楽しい時間はあっという間に終わってしまう。

持ち時間をフルに使って、しかも5分のおまけもつけたのに。

次はいつ会える?げ、間に夏休みがあるじゃねぇか!えーと、えーと…。

「あの」

「はい、何でしょう?」

しろがねの言葉に鳴海は顔を輝かせて食いつく。

「いつも……勝のこと、ありがとうございます。

勝、毎日学校に行くのが楽しいって。

前の学校ではいじめられていましたから」

「いーえ、自分は何もしてないですよ」

鳴海は笑った。

「……それでは……」

しろがねが席を立とうとする刹那、

鳴海は合わせた銀色の瞳に微かな揺らぎを見たような気がした。

今がきっと、オレのターニングポイント!

「あ、あのっ!!」

力いっぱいの鳴海の声にしろがねは少し吃驚した。

「は、はい?」

「あー、勝君の面談とはまったく関係なくて……個人的なことで……

大変、恐縮なんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

自分と付き合ってもらえませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「お坊ちゃま、待っていてくださったんですか?」

校門の前に立つ勝に、しろがねは優しく微笑んだ。

「しろがね、何だか嬉しそうだね」

「今日は……会えましたから」

しろがねは頬を少しピンク色に染めて恥らう表情を見せた。

「しろがねは鳴海先生、好きなんだものね」

「お、お坊ちゃま…」

鳴海先生の知らない、しろがねの秘密。

それはしろがねも鳴海先生に一目惚れしてたってこと。

しろがねも、毎日勝が帰ってくると必ず訊いてくる。

「先生にお変わりありませんか?」って。

勝が話す鳴海先生の話を瞳をキラキラさせて、本当に楽しげに耳を傾ける。

 

 

 

 

「それでどうだった?」

「とても、いいことがありました」

そう言うしろがねの顔はすごく晴れやかで、嬉しそうで、幸せそうで

勝も何だかとっても嬉しくなって、家までふたりは手をつないで歩いた。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

「今日の鳴海先生もどこか違うよね?」

「スーツ着てないのに」

「いつものジャージなのに」

「何かヘンににやけてるよね?」

 

 

 

クラスメイトが囁きあう中、勝は心の中で

『それはね、鳴海先生にきれいな恋人ができたからだよ』

と、自分しか知らない正解を呟いて、にっこりと笑った。

 

 

 

 

End

カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]