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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。
勝とリーゼ、小さな恋のメロディー系。









Mistletoe Kiss.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒いね」

「寒いデスネ」

すっかりと日も落ちて暗くなったサーカスまでの帰り道を並んで歩く。

勝とリーゼはコートの中で身体を丸め込むようにして縮こめて急に冷え込んできた空気にふたりして顔を顰めていた。ぴうぴうと吹きすさぶ北風が白い息を吐いた先から散らしてしまう。勝はポケットに両手、マフラーに鼻の上までを突っ込んでブルルっと身体を震わせて、リーゼは手袋をはめてもちっとも温まらない指先にはあはあと息を吹きかけて気休めの暖をとっている。

厚い雲が夜空を覆い隠して、星もひとつも見えなくて、もしかしたら今夜は雪になるかもしれない。

 

 

今日はクリスマスイヴで、近所の公民館で子供会主催のクリスマスの会があったのでそれに参加しての帰り道。本来ならクリスマス会に参加するはずの仲町サーカス子ども仲間・涼子は終業式の日に法安と実家に帰ってしまった。

子ども会、だから中学生のリーゼは別に参加しなくてもいいのだが(はっきり言って面倒なイベントだし、何より律儀にイヴ当日にやらなくてもいい)、勝が行くものなら何でも一緒に行きたい彼女だった。まして「リーゼさん、一緒に行かない?お菓子がもらえるんだって!」なんて笑顔で勝に誘われた日には、「ハイ、喜んで!」とパタパタと尻尾を振ってついて行ってしまう。

 

 

「ごめんね、リーゼさん。こんなに寒くなるって分かってたら誘わなかったんだけど」

「いいんデス。楽しかったデスから」

冷たい風にいつもよりもずっと頬も鼻の頭も赤くしてリーゼはにこやかに答えた。

勝と楽しく過ごせる時間(それもふたりっきりの!)が手に入るのなら、これしきの寒さなど苦でもない。

「そう?良かったァ」

ニコニコと笑う勝を独り占めできる喜びで心の中だけは暖かい。

 

 

いつも見慣れた住宅街も今の季節はあちこちでクリスマスのイルミネーションが輝いて、帰路に着く者達の目を楽しませてくれる。

「ああ、そうか。クリスマスの飾りつけも今日で見納めなんだね」

「明日からは一気にお正月ムードになりマスものネ」

ピカピカと賑やかな、色々な色の電飾。光の洪水。

クリスマスツリー、サンタ、トナカイ、スノーマン。

星に雪の結晶に『Merry X'mas』の文字。

「見てるだけで楽しくなるよね」

「ホントですネ」

一軒一軒のイルミネーションに、派手、とか、センスがいい、とか、イマイチ、とか面白可笑しく品評しながら歩いているとそのうちに教会の前に出た。中ではクリスマスミサの真っ最中のようでゴスペルが漏れ聞こえてくる。教会もきれいにクリスマスの飾り付けがされていて、いつも登下校でその前を通過する見慣れた教会とは別物のように見えた。至る所にキャンドルが置かれ火が灯されていて何とも幻想的で、ここまでに見てきた電飾の華やかさとは一線を隔した荘厳な雰囲気がここにはある。

 

 

「わあ、キレイ」

瞳の中もキャンドルの灯りでキラキラにしたリーゼが何ともあどけなくて、まるで自分と同い年の女の子みたいに見えて、勝はくすす、と笑う。

「何デスカ?」

「ううん。ちょこっと見て行こうか?」

「いいデスネ」

キャンドルの小道を通って教会の建物につくと、その入り口には大きな大きなクリスマスツリーが置かれていた。オーナメントはすべてジンジャークッキーで作られていて勝とリーゼは目を輝かせる。

「絶対にヒロさんたちが見たらイタズラして食べるよね」

「そうデスネ。それにしてもすごいデスネ。ベルに…ソックス…雪のカタチ…ジンジャーマン…」

「ヒイラギに…ほら、サンタのカタチのクッキーもあるよ」

壁には手作りの様々なリースが飾られていて見ているだけでも何だか幸せになってくる。

パッチワークで作られたもの、ドライフラワーで作られたもの、毛糸で作られたもの、それらはどれもこれもクリスマスを祝う気持ちで溢れていた。

そして一際大きな、教会の扉に飾られたリースはヤドリギのリースだった。

背の低いふたりの上に掲げられたヤドリギ。

リーゼはちょっと赤くなる。あまりにも有名なヤドリキのエピソードが咄嗟に思い浮かんだから。だけれども勝は日本人だし、まだ小学生だし、まず知らないだろうな、とリーゼは思った。

 

 

そしたらどうしまショウ?

私がほっぺにキスするのが一番いいのデスカ?

勝サンが『どうしてキスするの?』って顔をしたら教えてあげればいいのデスものネ。

欧米では『ヤドリギの下に立ったふたりはキスをしなければならない』って決まりがあるんダッテ。『しなければならない』ワケじゃないケレド。

 

 

ヤドリギの下でキスをする、それは好きなコとキスをするためのとても素晴らしい口実。

「ま…勝サン…」

リーゼはすうっと大きな深呼吸をした。そして覚悟を決めて、飛び出しそうになる心臓をコートの上から押さえながら腰を屈めて甚くさりげなく、勝の頬に唇を近づけた。

と、勝がくるりと横を向いたので頬という目測が急遽唇に変更されてしまい、リーゼはすんでのところで身体の動きを止めぶつかるのを回避した。勝はものすごく間近に迫るリーゼに目をぱちくりとさせている。

『私のバカ!どうして止めたノ?!せっかくのチャンスだったノニ!』

肉迫しながら真っ赤な顔で自分の意気地のなさを悔やむリーゼ。

引くに引けず、勝に顔を近づけたままどうしていいのか分からずに固まってしまっている。

勝はそんなリーゼに向かって口笛を吹くようにほんの少しだけ、唇を尖らせてみた。

 

 

ちゅ。

 

 

小鳥がエサを啄ばむように一瞬、唇同士が軽やかに触れた。

教会からは小さなふたりの可愛いキスを祝福するかのようなやさしいゴスペル。

「ま、ま、ま、勝サン……!」

「ヤドリギの下でキスをするのがリーゼさんの国の方じゃ習慣なんでしょ?来年はいい年になるよね」

えへへー、と笑いながら勝は、いまだ真っ赤な顔で口をパクパクさせているリーゼに手を差し出した。

やっぱり男の子からキスはしてあげなくちゃ。

「さ、急いで帰ろ。晩ごはんに遅れちゃう」

「ハ、ハイっ!」

勝の手に手を重ねながら、『今夜は何て暑いんデショウ?』とリーゼは考えていた。

勝も「何だか急に寒くなくなったよね。気温が上がったのかな?」なんて言っている。

 

 

そんなふたりの上に空から白い贈り物。

茹で上がった頭と顔が、サーカスに着くまでに冷めますように。

 

 

 

 

End

 

 

 

 

I wish your merry X'mas

and a happy new year!

 

Kuu

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