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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。
リーゼ×勝です。



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

戦場にかける愛

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「駄目ダ、才賀曹長!敬礼はこうやるのだと何度言ったラ分かるのダ!」
「!…はっはい!」
 
 
 
 
 
曹長にまでなった才賀を、わざと大勢の兵の前で名指しに指導する、恒例の朝礼風景。
整然と隊列を組む兵士たちが無言でどよめく。
「またか」、と。
 
 
鬼中尉と名高いリーゼ中尉ではあるが名指しでしかもこんな大勢の前で叱り飛ばす相手はこの才賀曹長に限られている。
他の兵士にこのようなことは決してしない。
才賀曹長は特に「叱って伸ばす」タイプでもないのに。
 
 
「才賀曹長、私が直々に指導をすル。後で私の部屋に来なサイ」
朝礼の最後、才賀曹長はそう言い渡された。
「はっ!」
「命を受けたラ復唱すル、そんな基本も忘れタカ!」
「はいっ!才賀曹長は後ほどリーゼ中尉の元に赴き、指導を受けるでありますっ!」
「ヨシ!解散!」
 
 
リーゼ中尉は踵を返し、硬い靴音を響かせながらその場を去っていく。
上司の姿が見えなくなると場の張り詰めた空気は解れ、才賀曹長に向けて仲間が口々に同情の声を寄せた。
才賀曹長は急いでリーゼ中尉の自室へと向かう。
「可哀相な才賀。屹度、物凄く扱かれるに違いない」
「ああ、何しろ相手は獅子すらも組み伏せると言われるリーゼ中尉だからな」
「最近、あいつ、リーゼ中尉に目をつけられているな」
「先日もリーゼ中尉の直々の指導の後に呆然としていた」
「余程、厳しい目にあったのだろう」
「無事に帰ってこられるといいのだが…」
仲間たちは気の毒そうに才賀曹長の背中を見送った。
 
 
 
 
 
「リーゼ中尉、失礼します!才賀曹長、来室いたしました!」
「グズグズしなイ!ドアを早く閉めなサイ!」
「はいっ!」
才賀曹長は言われた通りに扉を閉めた。
リーゼ中尉の目尻は思いっきり上がっている。
 
 
先日ふたりきりのとき、リーゼ中尉はとても儚い表情を才賀曹長に見せた。
颯爽と軍服に身を包み、鬼中尉と名を馳せている彼女の、ひとりの乙女としての素顔を垣間見たのだ。
しかし、その甘酸っぱい記憶蘇る要素を、今のリーゼ中尉のどこにも見つけることはできない。
もしかしたらまた会えるかと…ちょっと期待していた才賀曹長ではあったが、何のために心に枷をはめたのだ?と思い直す。
彼女は自分の上司。
彼女と自分の間には、決して越えてはならない確固たる一線がある。
 
 
「ここに来なサイ!」
「はい!リーゼ中尉!」
「この部屋に来たら『中尉』をつけルなと何度言えば分かルのダ?」
強気な態度でも発言内容がまた意味深なもので、思い直した先から才賀曹長はグラっと来る。
「は、はいっ!あの…リーゼ、さん…」
『中尉』が取れるとどうしても『さん』がくっついてしまうらしい。
リーゼ中尉は呆れたような溜め息をついた。
「…ここに座レ」
部屋の中央で直立する才賀曹長に向かい応接用のソファに座るよう命じた。
「はっ!失礼します!」
才賀曹長はキビキビと着席する。
リーゼ中尉はその真ん前に毅然と立つ。
 
 
「才賀曹長。おまえは根本的に声が小サイし動作にも切れが足りナイ。腹筋に力がしっかり入っていナイのダ!」
「はいっ!」
「声が小サイっ!」
 
「はいっ!」
 
才賀曹長の大声が室内の空気をビリビリと振るわせる。
リーゼ中尉の居室の前を行き来する他の兵士たちが思わず居竦むくらいに。
「よしっ!ではっ!
 
才賀曹長!目を瞑っテ、歯を食い縛レ!」
 
「はいっ!リーゼさ・・・」
 
「その名を呼ブときは大声で呼んデはなラヌ!」

 
「は?」
「『中尉』を取るときには…できるダケ、甘く、囁くようニ、がモットーダ!」
「は、はい。リーゼ、さん…」
「よしっ!もう一度言ウ!
 
才賀曹長!目を瞑っテ、歯を食い縛レ!」
 
「はいっ!」

 
室内から漏れ聞こえるリーゼ中尉の叱責に辺りの者も思わず歯を食い縛る。
 
 
チュ。
 
 
才賀曹長の唇にえも言われぬ柔らかいものが触れた。
これはおそらくリーゼ中尉のアレだと思われるが目を閉じるように命じられた才賀曹長には目を開けて確かめることはできない。
できるのは不動の姿勢でその感触を甘受することのみ!
確かにこの指導なら全身の筋肉が硬直し、弥が上にも腹筋に力が入る。
突然、リーゼ中尉が顔を上げた。
「才賀曹長!目を開けヨ!」
「はいっ!」
才賀曹長が目を開けるとリーゼ中尉の顔色はかなり赤味を増しているように見えた。
「ゴ、ゴホン…才賀曹長、先の命を撤回すル!歯は食い縛らナイようニ!」
「はっ!」
「歯は…微妙に隙間を開けルようニ」
「は?」
 
「才賀曹長!目を瞑っテ、歯を食い縛ルな!」
 
「は、はい!

 
リーゼ、さん…」
「よしっ!」
 
 
リーゼ中尉の居室前には息を殺して中の様子を窺う兵士達が鈴なりとなった。
シバくのに歯を食い縛るなとは何と言う鬼っぷりだろう。顎が外れてしまうではないか、歯で口の中が切れてしまうではないか。
とリーゼ中尉の言葉を耳にした兵士たちは心の中で才賀曹長の無事を祈る。
 
 
チュ。
 
 
才賀曹長の唇にえも言われぬ柔らかいものが再び触れた。
 
……。
 
……。
 

 
「!!!」
 
そして才賀曹長の歯列を割って入りこんできたものは―――!
 
 
 
 
 
才賀曹長がリーゼ中尉の居室から出てきたとき、その扉の周りには心配そうな表情の兵士たちがズラリと並んでいた。
兵士たちの前にようやく姿を現した才賀曹長は真っ赤な顔で手を口元を押さえフラフラとよろけながら閉めた扉に背を預けた。
「大丈夫か、才賀…うッ」
顔面を押さえる才賀曹長の指の間からパタタッと鮮血が毀れた。
「おい、本当に大丈夫かッ?救護班はいないか!?急いで才賀を救護室へ―――!」
「いや…大丈夫だ」
「しかしッ」
「ありがとう。でも大丈夫だから」
才賀曹長はフガフガとどこか鼻を摘まれたような声で仲間の気遣いに感謝をすると廊下の壁に肩を擦るようにして自室へと帰っていった。
 
 
「才賀…」
「歩くのがやっとじゃないか…あんなになるまで殴られたんだな…」
「あんなに鼻血が…鼻骨でも折れたのではないだろうか…」
「あいつ一体、どんな失態をしたんだろう」
「リーゼ中尉は確かに厳しいが、不公平な人物ではないぞ…?」
兵士たちの間に不可思議な謎が残った。
そして、決して自分はリーゼ中尉に叱責されるような失態を犯すまい、と各々の心に誓ったのであった。
 
 
 
 
 
「才賀曹長……彼がこの件について能動に移れルようになルには…まだまだ指導が必要ダナ…」
リーゼ中尉は窓から見える真っ青な空に向かい決意を新たにする。
そして、才賀曹長の意気地のなさに
「バカ」
と一言呟いた。
 
 
 
 
Fin.
 
 
 
 
**********
こちらは某サイト様のコンテンツを元にギフトSSとして書いたものです。そのサイト様の閉鎖を受けまして、少し手を加えてウチのサイトに再録することにしました。
職権乱用の非常に積極的なリーゼ中尉と、せっかく想いを封印しているのに問答無用で振り回されている才賀曹長の受難(?)。私はリーゼ中尉と才賀曹長の関係がとても好きでついつい2本もSSを書いて送り付けたわけです(汗)。続、に至っては鳴しろを登場させている始末…。出典をご存じな方、オリジナルがもう読めない実情、イメージ崩しも甚だしいこの2本ですが、別物と考えて頂けるとありがたいです。
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