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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。





秋日和




今日は朝からこれ以上ない上天気で、こんな陽気だと出歩きたくなる。ここしばらく秋の長雨に腐していたせいもあるかもしれない。バイトも休みで特に出掛ける用もない鳴海は、今の内とばかりに午前中は溜まりに溜まった家事に精を出していたから、お昼を食べがてら、のんびりと散歩にでも行こうかな、なんて考えていたのだけれど
「すまない、邪魔する」
と、しろがねがふらりとやって来たために足止めになった。
チャイムを鳴らすでもなく、勝手に玄関から上がって突然現れるしろがねには鳴海も慣れっこだ。と言うか、気まぐれ猫のようなしろがねのために、在宅時には昼夜問わず玄関の鍵は開けっ放しにしている。鍵を締めると玄関の戸が開くまでチャイムを連打してくれる女なのでいっそ戸締りしないことにした。防犯的には問題もあろうが、不届き者に侵入されたとて特に盗まれて困るモノがあるでもなし、気の毒なのはゴツい拳法使いと鉢合わせた強盗の方だろう。


しろがね来訪時、鳴海はリビングのソファーに腰掛けて長らく放置していた郵便物の整理をしていた。
「おう、いらっしゃい」
とりあえず挨拶を投げる。すると、しろがねは真っ直ぐに鳴海のところにやって来て、その膝元にすとんと座り込んだ。コテ、と腿に銀色の頭が寄り掛かり、脱力した体重が預けられる。鳴海はチラと視線だけを向けた。表情が見るからに『ゴキゲン』でもなさそうだったので、しろがねの好きにさせてやることにした。
いつも強気で、生意気ばっかり言って、目尻も眉尻も上げているしろがねだけれど、たまにこうやって鳴海にくっつきに一人でやって来ることがある。彼女が言うには、鳴海は「温かい」のだそうだ。何だかんだ言いながらも、しろがねがこうして甘えて弱い姿を見せられるのは鳴海しかいない。最近では、鳴海もそれに薄々気付いていて、自分に対する態度や言動は甘えの裏返しではないかと思ったりもする。だからこんな時には、気が済むまで湯たんぽ代わりになってやる。


何かを起因として心が沈み込んでしまった時は、誰かの存在を感じていたいものだ。縋る温もりを確固として掴んでいたい。心の中が嵐逆巻いているのに、外はまるで光が降り注ぐような天気、というのは何かに逆撫でされているようで、むしろ気分がササクレ立つ。
そういう時に、独りでいたくなくて。
でもだからといって仲間に囲まれて賑やかにしているのも苦しくて。
そんな気持ちは分からないではない。


「天気がいいぞ?」
酷く寂しそうな瞳でしろがねが言う。
鳴海はいらない郵便物を破く作業を続けながら「そうだな」と短く答えた。ふたつよっつに裂かれた紙片はボソボソと屑かごに落ちた。
「あなたは出掛けたりしないのか?」
「そのつもりだったが、おまえが来たもんでな」
「…すまない、悪いことをしたな」
「気にすんな」
「……」
しろがねは黙り込んだ。
鳴海も黙って選別済みのハガキに目を遣り、文字越しにもう一度、チラ、と視線を落とす。鳴海の左膝に銀髪の短い毛先が艶やかなカーブを描き、脚に沿うように、しなやかな肢体が預けられている。
言っちゃなんだが相当無防備だ。


「襲うぞ?」
と、鳴海が言うとようやく、ふ、という彼女特有の静かな笑い声が聞こえた。
「構わない…でもどうせ、いつもの冗談、なんだろう?」
「…まあな」
とだけ答えておく。
「あなたはいつもそんな冗談を言うが…本当に襲ってくることはないからな」
「ま…宣言して襲うヤツはいねぇわな」
「そうだろう…」
小さな声は沈黙に沁み込んだ。
「私……変か……?」
「変か?と訊かれりゃァ…変、だろうな…」
しろがねの爪が絨毯を掻いたのか、微かな布擦れの音がした。
「けどよ…そんな日もあるさ。騒がしいくれぇの仲間に囲まれてんのに、絶対的な孤独を感じちまう。おまえだけじゃねぇよ…」
「あなたも感じること、ある?」
「まぁ、な」


己の身体を蝕む死に至る不治の病を思う時はいつも、すぐ隣に孤独を感じる。勝やしろがねと出会ってからは、自分一人で病気を捩じ伏せるアタマも薄れたけれど、それでもやはり、死ぬ時は独りだ。そして鳴海は、こんな頑健なナリをしてはいるが、誰よりも死に一番近いところに居る。
「そんな時、あなたはどうするの?」
「…特に何も…。立ち止まって、腹ん中の嵐が通り過ぎるのを待つしかねぇよ」
「……」
「いいじゃねぇか。おまえには…オレが一緒に立ち止まってる」
それにおまえは元々変わったヤツだろうが、と鳴海が笑うと
「ふふ…。そうだな。ありがとう…」
しろがねも淡く、笑ったようだった。


意味もなく、鳴海の単純作業は二巡目に入った。カサコソと紙の擦れる音だけが響く。不意に、足先にしろがねの細い指が触れた。冷んやりとした感触、鳴海の爪の輪郭や指の股を指先で辿っていく。
「やめとけよ。あんまりキレイなモンじゃねーよ」
朝にシャワーを浴びたけど、裸足で歩き回っているわけで。でも、しろがねがお構い無しにいじり倒すので、鳴海はすぐに諦めた。しろがねの指はくるぶしやアキレス腱を確かめて、ジーンズの生地越しにふくらはぎを摩っている。しろがねはそれからも飽きずに、鳴海の身体に触れ続けた。
何が面白ぇんだか、と思ってると、突然、脇腹がヒヤリとして、鳴海は思わず「ひゃッ!」と情けない声を上げ、びくりと仰け反った。トップスと肌との隙間にしろがねが手の平を差し入れている。
「こ…ここはカトウの弱点か…」
くっく、と楽しそうに笑いを噛み殺している女がいた。
「あのなァ…」
不満いっぱいに睨みつけても、しろがねは動じない。でも、しろがねが笑うだけの元気が戻ったのなら、まぁいいか、と思う。


まるで、仔猫みたいだ。
遊んでほしくて、ちょっかいを出して。
遊んでほしいのかと思えば、素気無い顔をして。
だから放っておくと、また、ちょっかいを出して。


「オレに遊んでほしいのか?」
と問うと、猫みたいな大きな銀色の瞳は、少し困ったようにくるりと表情を変えた。
「…遊ぶ、って言葉は…ちょっとそぐわないかもしれない…」
「じゃあ…慰めてほしい、ならどうだ?」
しろがねは答えず、頷くこともせず、ただ、瞳を細めた。
「…どうやって慰めてほしい?おまえが元気出るってなら、気が済むまで付き合ってやるぜ?」
鳴海は封筒をローテーブルに放り投げた。
しろがねは身体を起こして鳴海に向き合うと、す、と白い手を持ち上げて、鳴海の胸に置いた。しろがねの手の下で、いつもより速い鼓動が刻まれる。


「心臓が動いている」
「そりゃ、生きてるからな」
「あなたの心臓の音、聴いてもいい?」
しょうがねぇな、と口にしながらそれ程しょうがねぇとも思わず、鳴海は座面から下りてしろがねの隣に尻を付けると
「ほれ」
と、細い体を抱き込んで、耳を自分の胸に押し付けてやった。ついでに頭を撫でてやる。
「こんなんで慰めになるなら、幾らでもしてやるよ」
どうと言うコトもねぇや、と言うとしろがねは、泣きたそうな、不思議そうな瞳で鳴海を見上げた。
「結構おまえ、甘ったれなんだな。知ってたけどよ」
そう言う鳴海の唇に、しろがねは指先をとまらせた。


とろり、と合わさる視線が粘度を増した。鳴海はしろがねと心待ち鼻先を近づけて、話を続ける。
「どうした?」
「あなたの息がかかるな」
「離れるか?」
「ううん、このままがいい」
「ま、生きてるからな…つうか、こんだけ近いとな。おまえの息だって、オレにかかってる」
しろがねの指を唇に載せたまま、話す。
「おまえは…今度はココに…くっつきてぇの…?」
冗談紛いにほんの少し唇を落とすと、残りの距離はしろがねが詰めた。初めて触れた唇は柔らかくて、花のような甘い香りと味がした。
猫が擦り寄るように、そして猫のような薄い爪が鳴海の胸元を掻く。鳴海も唇を深く落とす、深く、深く、舌先で抉るように。
しろがねが望むままに。求めるままに。
応えてやる。


お互いの呼吸も、秘めていた想いも、舌で絡め取り、呑み込む。
しろがねの手の平が鳴海の身体を滑る。頬から、喉、胸、腹へと。鳴海の肌の上を跳ねていく。そして、硬く張り出した肉の枝に辿り着く。
「いいのか…?」
こんな慰め方で、の意で訊いた問いに、しろがねは
「あなたが…嫌じゃないなら…」
と答えた。鳴海は
「嫌でこんなにゃならんだろうが」
と笑って、しろがねを膝の上に抱き上げた。





合わさる胸越しに鼓動の交換がなされ、互いの昂奮が伝わり、欲情が突き上げられる。寂しく喘いでいたしろがねの虚ろに己を全て埋めると、接面を滑らせる夥しい熱い蜜に、ふたりの孤独は溶けていった。
「今後は、おまえが一人で来るたびにこうやって慰めちまいそうだ」
と鳴海が言うと、しろがねは、今日の秋空のように晴れやかに
「少しも構わない」
と答えた。





Autumn’s the mellow time.



End
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