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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。







目が覚めて横を見るとしろがねがいた。

いつも通りオレの左腕を枕にして、オレの胸元に丸まっこくなってまるでネコみてぇに。

くうくうと、安らかな寝息を立てて、幸せな眠りをこれでもかと貪っている。

オレはしろがねを抱き寄せて、その額にくちづける。

サラサラした前髪が唇にひゃっこい。

何もかもがいつも通り。

でもあれ?

なんか可笑しかねぇか?

おまえって今、興行に出てるんだよな?

それもすごい遠くに。

おかげでオレはおまえにもう一ヶ月以上も会ってなくて、サバクのように干からびて

その地下深くにはとんでもない量のマグマを溜めている。

おまえが帰ってくる日まではまだあと、20日と18時間35分29秒あるはずだぞ?

オレはその日が待ち遠しくて毎日毎日、指が複雑骨折するくらいに折りまくって数えているから

そこんとこ詳しいぜ?

しろがねはそんなオレの様子に気がついたのか、寝ぼけ眼をこすりこすりこう言った。

「だってここは、夢の中だもの」

 

 

 

 

 

 

 

A Dream of My Lover,The Bad Circus and Pajama Trees.

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、やっぱ夢か」

だって、この部屋おかしいもんな。

仲町サーカスのトラックの中にオレの部屋がある。

でっかい荷物だらけのトラックと、オレの散らかし放題の6畳間が完全に混ざってる。

しろがねはまたトロンとした瞳を閉じた。

そうか、夢か。

 

 

 

でも、でかした!

オレの夢に出てくるなんてえらいぞ?

夢の中のしろがねでも、しろがねはしろがねだ。

せっかくだから美味しくいただこう。

何しろオレは42日と9時間8分57秒前におまえを食って以来ずうっと腹ペコなんだから。

『食い溜め』、ってのができりゃ、苦労はしねぇんだが。

おう、眠たかったら寝ててもいいからな?

オレはご丁寧にもお揃いの、自分の真っ白いパジャマの前を肌蹴ると

フンフンと鼻歌交じりに今度はしろがねの胸元のボタンに手をかけた。

ひとつ、ふたつ…ボタンが外れるたびに白い胸の谷間が広がってゆく。

ああ、もう待ちきれねー!

前戯なしで、いきなり入れちまおうかな?

 

 

 

そんな考えがオレの脳裏を過ったとき、机の引き出しがガタガタと鳴った。

引き出しの隙間からすうっと大きなポスターが飛び出して

それはびらり、と勝手に壁に張り付いた。

そこには『真夜中のサーカス』の派手な文字と、団長と思しき

ヒゲをピンと立たせて人を小馬鹿にしたように長く舌を出しているサングラスをかけた初老の男、

そいつを取り囲む異様な風体のたくさんの自動人形が描かれている。

あんなポスター、引き出しに入れてあったっけ?

まあいっか。

オレの当座のすべきことは、この目の前の美味しそうなご馳走を平らげること♪

 

 

 

そう思い、ポスターからしろがねへと視線を移そうとして、ぎょっと目はポスターに戻された。

男の腕がポスターから突き出している。

『エレオノールゥゥゥ―――迎えにきたよォォォ―――おいでェェェ―――』

エレオノールはしろがねの本名だ。

なんだこいつ?!

男の腕は蠢いて、しろがねを捕まえようとしている。

しろがねを狙っている!

「んなことさせっか!おい、しろがね起きろ!起きろってば!」

でも、しろがねは起きようとしない。

相変わらず、くうくうと寝息を立てて枕を抱き締めている。

「ほら!逃げねぇと!目を覚ませ!」

「だって……まだあなたの匂いの布団に巻かれていたいのだもの……」

しろがねはオレの布団にグルグル巻きになっている。

「ち!仕方ねー!」

オレは簀巻き状態のしろがねを肩に担ぐと、裸足のまんま表に飛び出した。

 

 

 

真っ白な、布団の上を跳ねているような感触の道がただひたすら真っ直ぐに伸びている。

そして、左右が丸く見えるほどの途方もない地平線が両腕を広げているオレの夢の世界。

枕の縁石、毛布の石畳、羽毛の草、羊毛の芝生、パジャマの生る樹の並木道。

逃げるオレたちの後ろから百鬼夜行がついてくる。

魑魅魍魎のような奴らの奏でる音楽が何ともコミカルでファンシーで、ちっとも似合わなくて不気味だ。

「起きろってのに!脳ミソが溶けるぞ?」

ちくわから頭を出したような簀巻きのしろがねを担いでオレは全力で走る。

でないと、後ろを追いかけてくる悪いサーカスのパレードに追いつかれっちまう!

僕のエレオノールゥ、と呼ぶ声が軽快で賑やかな音楽に乗って聞こえてくる。

 

 

 

バカタレ!

ふざけんな!

こいつはオレのしろがねなんだよ!

誰にもやるもんか!

オレは走る走る走る……。

 

 

 

こいつのためなら、あの地平線の向こうまで、この道の尽きるところまでだって行ってやる!!

だって、こいつはオレの大事な……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大事な女、なんだから……!」

オレは自分の大きな寝言で目が覚めた。

ぱか、と瞼を持ち上げると見慣れた天井。

「そうだった、夢だったんだ……」

トラックと混じっていない散らかった6畳間。

昨日、布団に入ったときと同じ風景。

違うのは、そこにしろがねがいること。

ベッドの傍らで、オレを銀色のでっかい瞳でじっと覗き込んでいた。

オレはがばっと跳ね起きる。

 

 

 

「あ、あれ?これもまだ夢か?なんでおまえがここにいる?」

「今日はサーカスが休みで、次の興行の手続きをこちらでする必要があって…その役を買ってきた」

あなたに会いたかったから夜行バスでやってきたの。だからこんなに早くに着いてしまって…。

しろがねの頬が赤く染まる。

それでもオレがぼうっとしたままでいると、しろがねの顔が曇った。

「嬉しく、ない?」

「違う違う」

寝ぼけ眼をこするのは今度はオレの番。

「夢か現か、一瞬わかんなくなっただけだ」

 

 

 

オレはしろがねの身体をベッドに押し倒し、その胸元のボタンを外す。

夢とは違ってパジャマではないけれど。

「な?何、もう?」

「しょーがねーだろ?オレは夢の中でおまえを抱き損ねたんだ。その続きを今すぐいただく」

何のことだかさっぱり分からない、という顔をしているしろがねも、時を置かずオレに応える。

だって、おまえだって、こうしたくて朝一で来たんだろ?

それを証拠に、今じゃおまえの顔ったらさっきの曇天模様は消えて

いやらしいくらいに晴れ輝いた空から雨を降らす狐の嫁入り…にしちゃ、土砂降り。

しろがねは脱いだ服でオレの部屋をさらに散らかして、

オレは夢で言ってたみたいにいきなり入れたりはしなかったけど、

割とすぐしろがねを味わって、味わって、味わった。

「オレたちって、布団の中が…好きだよな…」

まあ、オレが一番好きなのは、『しろがねの中』なんだけど。

 

 

 

「さっき寝言で言っていた、『大事な女』って誰のこと?」

ひとしきりオレに可愛がられて満たされきった顔のしろがねが、答えの分かりきった質問をする。

だからオレはわざと違う女の名前を言って、わざと拗ねた顔をさせて、「嘘だよ―」ってその拗ねた背中を抱き締めて、

白い首筋に12回くらいキスをする頃にはしろがねは甘い声で「莫迦…」とか言って、オレの指を身体の奥で濡らしている。

 

 

 

「また起きたら続きをしよう」

激しい運動を続けざまにしたオレとしろがねは小休止。

しばし、仮眠をとることにした。

オレのサバクはオアシスとなり、活火山は休火山に落ち着いた。

 

 

 

ふたりで人肌に温めた布団の中が最高。

オレもしろがねも、心地よい睡魔に身を委ねる。

そして腕の中におまえがいれば、オレはもう何も言うことはないんだ。

今度は悪いサーカスの出てこない、おまえとゆっくりできる夢を見るとしよう。

 

 

 

 

End

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