Sugar town.

鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。

Sugar  town.




「お、けっこう降ってるぞ？」



鳴海としろがねが店から出てくると、街はうっすらと白く衣装換えをしていた。
「今日はけっこう冷えてたもんな。しろがね、滑んなよ。気をつけろ？」
鳴海は傍らのしろがねに気をかける。
明日のクリスマスイブに勝に渡すプレゼントを選びに来た帰り、サラサラした粉雪が黒い夜空から舞い落ちる。



クリスマスイルミネーションが輝く夜の街は、寄り添う恋人たちを一層幸せな気持ちにさせるようだ。
降りしきる雪が更に彼らを近づける。
すれ違う女の人たちは恋人と手を繋いだり、腕を組んだり、肩を抱かれたり、とても温かそうで、しろがねはちょっと羨ましい。
隣を大股で歩く大男はしろがねに触れてくる気配が微塵もない。
しろがねと肩を並べる側の手は無造作にジャケットのポケットの中。反対の手には勝へのプレゼント。
「勝、気に入ってくれるといいなあ」
鳴海はプレゼントを受け取ったときの勝の顔を想像して、嬉しそうに笑っている。


別に私はカトウの恋人でもなんでもないからな。


そうは思いながらも、もちろん勝のことも大事だけど、自分のことも少しは考えて欲しい、と願わずにはいられない。
しろがねはポケットの中に隠れる鳴海の手をチラッと横目で見た。


クリスマスだから。


少しくらい、私もプレゼントをもらっても罰は当たらないのじゃないか？
何となくそんな考えが頭に浮かんで、しろがねは自分の手を鳴海のポケットに滑り込ませてみた。




「冷てっ！」
突然、侵入してきた冷たい物体に鳴海は悲鳴を上げる。しろがねはあえてそっぽを向いて何でもないフリをする。
「何かと思った。おまえの手、冷え切ってるじゃねぇか」
鳴海はすれ違う人たちの視線を気にしながらも（何しろこの二人は目立つのだ）、その悴んだしろがねの手を大きな手の平で包むように握り締めた。
しろがねは嬉しくてくすぐったくて、鳴海に見えないように少し下を向いて、くすりと微笑んだ。
「手袋したら？」
「動きづらいからあまり好きじゃない。それに、こっちの方がずっと温かい」
しろがねがそう言って、握る手に力を込めるので、鳴海は
「そ…そっか…？」
と照れたように鼻の頭をちょこちょこと掻くと、彼もまた繋ぐ手に熱を込めた。
「ま…こーゆーのはちょっと恥ずかしいからアレなんだけど…クリスマスも近いから今日は特別、な」
「そうだな。今日は特別」
しろがねは鳴海の肩に頭を寄せた。




ふたりは黙って歩く。
しんしんと無音の音を響かせながら、暗闇に白い螺旋を描く六花の舞踏。
粉砂糖を一面に降りかけたような街にキラキラと電飾がさざめくように光っている。
ふたりは黙って歩く。
ポケットの中では鳴海の指がしろがねの手を愛撫する。




「ちっとは温まったか？」
「…いいや、まだだ」
この手を放したくない。ずっとあなたに触れていたい。
今日の私は少し変だろうか？
「こんな手で良ければ、いくらでも貸して温めてやるよ」
「今日は特別だからな」
「……」




クリスマスだから。
特別だから。
こんなことを言っても、あなたは空耳だと思って欲しい。




「私の身体も冷えている。温めてくれるか？」




「本気で言ってんのか？」
鳴海の声はいくらか上擦っている。
「冗談だ」
しろがねは言う。
「そ、そうだよな。冗談…だよな」
ふたりはまた黙って歩く。




大きな交差点のシグナルが赤だったのでふたりは立ち止まった。傘を差していないふたりの髪や肩を、雪が白く化粧する。
「こんなんじゃ、身体も冷えるよな」
「そうだな」
「帰りにオレんち寄ってくか？」
しろがねはゆっくりと鳴海の顔を振り仰いだ。鳴海はしろがねの手をきゅっと自分の身体に引き寄せる。
「おまえの身体が冷えているなら……オレが温めてやるぞ？」



手は手で。
カラダはカラダで。



「冗談だろう？」
「いや、意外と本気だ」
鳴海は真っ直ぐ前を見据えたままだけど。
下唇を突き出すそのクセが鳴海の心の中を現している気がして。
「そんで…おまえはどうする？寄ってくか？」
しろがねは首を小さく縦に振った。
「よし、だったら急いで帰ろう」




シグナルが青に変わると同時に、鳴海はしろがねの手を引いてペーブメントを駆け抜けた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　



End