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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






Key.






オレはしろがねと喧嘩をした。
オレたちが喧嘩することは日常茶飯事だから、
オレはもうどうして喧嘩したのか、喧嘩の原因を覚えていない。
たぶん、おおよそどうでもいい、些細なことだったんだと思う。
オレのすることとか、口の利き方とか、そんなことにしろがねが何か言ってきて、
売り言葉と買い言葉が重なって、最後にお決まりの
「ホント、おまえって可愛くねぇ」っていうオレのセリフが出て、おしまい。
いつも通りの喧嘩。いわゆる常套パターン。
それが、どうしてか分からねぇが、こじれた。
もう一ヶ月、あいつと口を利いていない。
日曜日、特に用がなければいつも顔を出していたサーカスにも行ってない。
オレんちには勝しか遊びに来ない。
ロクに顔も見てない。



ホントにたいした理由もない喧嘩だったはず。
だって覚えてねぇんだから。
しろがねも頑なだし、オレも頑固者だから、どちらも折れない。
平行線がどこまでも続く。
別にオレはこんなことしてたいわけじゃねぇ。
こんな毎日はつまんねぇし、退屈だし、どうしたって溜め息が出ちまう。
好きな女と喧嘩してたって、毎日がおもしろいわけがねぇ。



だからもう、オレの方から謝ろうと思った。
どうせ元をただせばたいしたことないことから始まった喧嘩なんだ。
「すまん」の一言を伝えるのだってたいしたことはねぇだろ。
そんなことを考えながらバイト帰りの夜道を急いだ。
駅を降りたら大雨で、ビニール傘を買ったけど、オレには小さ過ぎ。
差しているのに身体の半分は濡れちまうんだから。







家が近くなったのでオレはポケットから鍵を引っ張り出した。
家に顔を向けて、思わず歩く速度がゆっくりになる。
玄関の扉に寄りかかるようにして、しろがねが立っていた。
玄関の庇の下にいても風にあおられた雨粒や、
強い雨粒の地面からの跳ね返りでしろがねの身体もずいぶんと濡れていた。
オレの手の中でチャリチャリと鍵が鳴る。
「こんな雨の中、何してんだよ?」
「留守だったから、少し待っていれば帰ってくるだろうと思って。
待っているうちに雨脚が強くなってしまってここから出られなくなった」
「携帯に連絡すればよかったじゃねぇか」
「携帯、忘れた」
「……オレに何か用だったのか?」
しろがねはちょっと自分の濡れた爪先を見て、オレと目を合わせた。



「謝りに来た。あなたと喧嘩しているのが辛いから。もうよそう」
目力がしろがねにしてはとても弱弱しくて。
「オレも謝ろうって考えてた」
「……そうか、よかった……」
しろがねは淡く微笑んだ。オレも笑った。
「身体、冷えてんじゃねぇか?…上がってくか?」
「いいや、今日は帰る。
もう長いことここにいるので、お坊ちゃまたちが心配していると思うから」
「じゃあ、これやるから、持ってけ」
オレはビニール傘を手渡した。
「それから…」
オレはキーホルダーから玄関の鍵を取り外すとそれをしろがねに差し出した。
「今日みたいに外で待たれてもなんだから…オレんちの鍵やるから、勝手に中に入ってろ」







オレの家の鍵をしろがねに渡す、という行為。
それはオレのしろがねに対する支配欲、独占欲の微かな充足。
オレの家の鍵を受け取るという、しろがねの行為。
それはオレに真綿で身体を縛られるような従属。
そんなに大袈裟なことじゃねぇのかもしれねぇが、
オレの心はそう期待する。
これからのオレたちには些細な一歩が必要。







しろがねは鍵を受け取った。
その手は氷のように冷たかった。
だからオレはしろがねを抱き締めた。
その身体も氷のように冷たかった。
しろがねの手から傘が落ちる。
その手はオレの背中に回された。
「バカが。こんなに冷たくなりやがって。どんだけ雨に降られてたんだよ」
「…あなたは濡れていても、温かいな。カトウ…」
「もう…オレの女になれ、しろがね」
しろがねがオレの胸元で小さく頷いた。







しろがねの唇も冷えていた。
だから、オレはそれを自分の唇で温めた。




End
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