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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






恋するニワトリ。





ある日、僕が学校から帰ってきたらサーカスにニワトリがいた。
小さな赤いトサカがかわいい小柄なメンドリ。
ノリさんとヒロさんが「拾ってきた」のだと言う。
「そのままだと猫にやられちゃうかもしれないだろ」
「そうしたらかわいそうだもんな」
もしかしたら「拾ってきた」のではなく「盗ってきた」のではないか、 と僕は思った。
そう思わずにはいられないふたりの人相だった。
「エサ食べろよー」
「卵いっぱい産めよー」
そうニワトリに話しかけるふたりの背中を見つめ、
「貧乏って怖いよね」
と僕は思った。
僕だって、貧乏は身に沁みている。
人間たちの思惑通りになるものか、
とニワトリは考えたのかもしれない。
ニワトリはちっとも卵を産まなかった。



「絞めるぞ、コラ」
「食っちまうぞ、オラ」
ノリさんとヒロさんの顔が凶悪になりかけてニワトリの身に大きな危険が迫りつつあった次の日曜日の朝、ナルミ兄ちゃんがやってきた。
「おう、ニワトリ飼うことにしたのかよ?かーわいいなあ」
どれどれ、とニワトリを笑顔でのぞき込むナルミ兄ちゃん。
兄ちゃんは子供好きな上、動物好きだ。
その瞬間、彼女(?)の鶏生(人間における人生、みたいなもの)は劇的に変わったらしい。
ニワトリはとっとっと兄ちゃんに近づくと初めて卵を産んだ。
ツルツルして真っ白なタマゴ。
「おおっ、でかした、ニワトリ!」
「よくやった、ニワトリ!」
ノリさんとヒロさんは狂喜乱舞してまだ温かい卵を持ち去った。
そう、ニワトリはナルミ兄ちゃんに恋をしたのだ(おそらく)。
ニワトリは兄ちゃんの肩に留まった。
僕はそのふたり(?)を見て 某番組の一万円生活でニワトリと蜜月生活を送ったお笑い芸人を思い出した。



「カトウ、来ていたのか」
買い物から戻ったしろがねがやってきた。
そして当然、兄ちゃんの肩で幸せそうに丸くなっているニワトリに目がとまる。
「これ…どうしたのだ?」
「何だか懐かれちまってよー」
「兄ちゃんのことが好きみたい」
「ふうん…」
しろがねとニワトリの目が合う。
バチリっ、と飛び散る火花(とても古典的に)。
途端、ニワトリがしろがねに攻撃をしかけた。
「うわ、な、なんだ?」
ニワトリはしろがねに突進し、蹴りをいれ、しろがねの足をその鋭い小さな嘴で激しくつついた。
「たっ!痛いぞ!何をする!」
しろがねが自分とナルミ兄ちゃんとの間にある程度距離を作ると攻撃を止め、 また兄ちゃんの肩に戻った。
「な…何?」
しろがねは痛む脛をさすりさすり、涙目でニワトリを睨む。
ニワトリも負けじとしろがねを睨む。
ニワトリはしろがねを恋のライバルと認識したらしい。
恐るべきは(ニワトリだけど)女の勘。
「こらこら、しろがねにそんなことしたらダメだろー」
ナルミ兄ちゃんがたしなめる。
ニワトリは『ごめんなさい』って感じのしおらしい態度をとった。
「カトウ、そのニワトリを下ろせ!(でないと私が近づけないだろう?)」
「でもよー、こんなに懐かれると可愛いぞ、なぁ、ニワトリ?」
コケー、と返事をするニワトリ。
ナルミ兄ちゃんはニワトリの羽毛を優しく撫でる。
僕は、即座に兄ちゃんが間違いを犯したことを悟った。
しろがねの拳がワナワナと震えている。
「どおせ、私はニワトリよりも可愛げがないからな!」
しろがねはきびすを返し、その場を去った。
ニワトリは勝ち誇っている。
「あ、あれ?勝、しろがねは何を怒ってるんだ?」
「兄ちゃん、その鈍いのどうにかしなよ、いい加減……」
しろがねはその日、ナルミ兄ちゃんと一言も口をきかなかった。



ナルミ兄ちゃんがいなくても、しろがねが近くに来るとニワトリは威嚇したり攻撃したりする。
ノリさんとヒロさんは
「女嫌いなのかな?」
と言っていたが、 ニワトリはリーゼさんやヴィルマさん、リョーコには何にもしない。
目の仇にしているのはしろがねだけ。
やはり、ナルミ兄ちゃんをかけて争っているのだ。
そして、ニワトリは兄ちゃんの前でしか卵を産まない。
しろがねもまた、ニワトリを目の仇にしている。
だって、あれ以来、ちっともナルミ兄ちゃんの傍に寄れないのだ。
ニワトリは少しでもしろがねがテリトリーの中に入ろうものなら、すごく怒って追い掛け回す。
兄ちゃんも無邪気にそんなニワトリを可愛がったりするから更にしろがねの逆鱗に触れ、 ふたりはもうずっと口をきいていない。
しろがねが口をきいてくれない理由が分からないナルミ兄ちゃんもことの重大さには気づいているようで、 しろがねに話しかけたいのだけれど、どうしてかしろがねは逃げていく。
その肩にニワトリがいる限り。
僕はしろがねに
「だったらナルミ兄ちゃんの家に遊びに行こうよ。そこならニワトリがいないから」
と言うのだけれど、しろがねは「嫌です」と答えた。
兄ちゃんが『ニワトリよりも自分を選ぶ』ことがどうやら大切らしい。
しろがねもけっこう大人気ない。
相手はニワトリなのに。



ある日、
「何でしろがねは怒ってんのかな?」
と困って途方に暮れたナルミ兄ちゃんは僕に助けを求めてきた。
「兄ちゃんはしろがねのこと好きなの?」
すると兄ちゃんは顔を真っ赤にして頭をガリガリと掻きながら何やらごにょごにょ言っていたけれど、 しばらくして
「うん…好きだな」
と返事をした。
「しろがねは兄ちゃんがニワトリばかり可愛がるから、ヤキモチ焼いてるんだよ。 だってしろがねも兄ちゃんのこと好きだから」
と結局、僕が教えてあげた。
本当は自分で気づいて欲しかったから言いたくなかったんだけど。
そしたら、兄ちゃんの顔はパッと明るくなって
「なんだ、そうだったのか!」
そしてあっさりニワトリを肩から下ろした。
ニワトリは兄ちゃんの肩に戻りたがったけれど、
「悪ぃな。オレはおまえよりしろがねが好きなんだよ」
兄ちゃんにはっきり言われて、ニワトリは失恋した。
もとより、報われることのない恋だったんだけどね。
「おおおい、しろがねぇー!」
兄ちゃんはしろがねに向かって駆け出した。
ニワトリのくっついていない兄ちゃんなら、しろがねもあっさり仲直りに応じることだろう。
がっくりと項垂れるニワトリの背中を優しく撫でながら
「仕方がないよね。元気出してね」
と僕はなぐさめた。



失恋したのはニワトリだけじゃなかった。
ノリさんとヒロさんとナオタさんもだ。
以来時々、ニワトリじゃなくてしろがねをくっつけているナルミ兄ちゃんを見かけるようになったからだ。
あんなに怒っていたしろがねはすっかり柔らかくなって、もっときれいになって、 肩じゃなくて、兄ちゃんの胸にくっついている。
僕としてはナルミ兄ちゃんとしろがねが幸せならいいんだけれど。
ニワトリはしろがねを攻撃しなくなった。
だけど、困ったことに今度はリーゼさんが標的になってしまった。
リーゼさんが今度はちっとも僕に近寄れない。
ニワトリは僕の前で卵を産むようになった。
失恋をなぐさめた僕のことを好きになったらしい。
人騒がせな恋するニワトリ。
まぁ、僕はナルミ兄ちゃんみたいに鈍くないから自分でなんとかできるけどね。



End
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