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ニッカボッカとおにぎり
「お疲れ様」
そう声を掛けられて鳴海が泥と汗で汚れた顔を上げると、そこにとても涼しげな女を見つけた。
「やはり、あなたにはこのバイトがよく似合うな」
「おう、まかせとけ」
鳴海はしろがねの言葉に元気に答え、滴る汗を首にかけたタオルで拭った。
黄色に緑十字と“安全”の文字の入ったヘルメット。
ニッカボッカに特大の安全靴。
得意気に肩に担いだツルハシ。鳴海が担ぐとオモチャに見える。
「よくオレがここでバイトしているって知ってたな」
「いや、今の今まで知らなかった。私はたまたま通りかかっただけだ」
「そっか」
「だが、あなたは遠目でも何をしてても見つけられるな」
「身体がデカイからな」
鳴海は楽ししそうに、工事現場の喧騒に負けないくらいの大きな声で笑う。
しろがねが鳴海を見つけられた理由は、鳴海が大きいから、だけではないけれど。
「はい」
しろがねが買い物袋を幾つも差し出したので鳴海は怪訝そうに目を丸くした。
「何コレ?」
「差し入れ。ほんの気持ちだけど。何人で働いているのか知らないがこれだけあれば皆にいきわたると思う」
しろがねは鳴海にペットボトルとおにぎりがたくさん入ったレジ袋を、黄色と黒のだんだら模様越しに手渡した。しろがねにそんな気遣いをしてもらったことが鳴海にはくすぐったいくらいに何とも嬉しい。
「さんきゅ。これ、差し入れっス!」
鳴海の声に「すいませーん」やら「悪いね、おじょうちゃん」やらの声があちこちから飛ぶ。
「それじゃ、バイト、頑張って」
「悪ィな」
鳴海は白い軍手をはめた大きな手の平でバイバイをした。
「兄ちゃん、スミに置けねぇなぁ」
「あのすんげぇ美人が彼女なんスか?」
「わざわざ差し入れさせて見せつけるたぁ憎いねぇ」
しろがねからの差し入れで予定外の小休止をしながら、鳴海は仕事仲間にひやかされた。
しろがねはオレの彼女じゃねぇんだが。
それでも彼女、と見られるのは何だか気分がすごくいい。
だから、しろがね本人が近くにいたら絶対に言えないけれど、実は言ってみたかったセリフを調子に乗って言ってみる。
「いやあ、アイツったらオレにベタボレで」
なんて、実に罪のない(鳴海は知らないけれど実際にその通りの)冗談を言って、鳴海は屈託なく笑った。
End