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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笹の葉さらさら

軒端に揺れる

お星様きらきら

金銀砂子

 

 

 

五色の短冊

私が書いた

お星様きらきら

空から見てる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天の河瀬に船浮けて

 



(前)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな歌が聞かれるようになった頃のある日曜日の朝。

 

 

 

鳴海がいつもの通り仲町サーカスに顔を出すと、いつもと違ってすぐに目に付くはずの銀色が見当たらない。

何だ、留守かよ、と内心ガッカリの鳴海だったがそれを表に出さないように、いたって普通に勝に朝の挨拶をする。

「よう、おはよ、勝」

「おはよう、鳴海兄ちゃん!」

挨拶を返す勝は涼子とリーゼと、七夕の飾りを笹にくっつける作業をしていた。

 

 

 

「おお、立派な笹じゃねぇか。どうしたんだ、コレ?」

鳴海の問いに子どもたちが矢継ぎ早に答える。

「さっきね、商店街の会長サンが来てね、おみやげだってくれたの」

「だから、せっかくだから飾りを作ってるんだ」

「私、タナバタって初めてダカラ楽しくっテ」

「へえ…」

色とりどりの折り紙で飾り付けられた笹は、なかなか見栄えがいい。

 

 

 

「それにしても、会長が何でまた?駅前の商店街の、だろ?」

この鳴海の問いにも子どもたちがかしましく答える。

「団長に用事だったみたい。しろがねに商店街の七夕のイベントに参加してもらいたかったみたいだよ」

「しろがねサンに、そのイベントで織姫の役をお願いしたいっテ」

「しろがねさんが織姫役を引き受けてくれれば、商店街にたくさん人が呼べるし、ひいては売り上げにつながるからって」

織?姫?しろがねがコスプレするってこと?

「はあ?それであいつ、まさか引き受けたんじゃねぇだろな?」

「引き受けマシタヨ?」

「マ、マジで?」

「しろがねさんが受けてくれたら、米とウーロン茶のペットボトル半年分、それから商店街で使える一万円分の商品券と…後なんだっけ?」

「パン屋サンの5%オフ券50枚と、銭湯の割引チケット10冊。他にも細かいのモロモロデス」

「そういうのをくれるって。だから団長が引き受けたんだ」

「何だかセコいな……ってことは何だ?しろがねは売られたのか……」

「うちのサーカス貧乏だからね。しろがねも二つ返事で『分かりました』って言ってたよ」

「それで今、しろがねサンは打ち合わせに行ってるんデス」

特に問題は無し、みたいな顔で語る3人。何てシビアな子どもたちだろう。

そうか。

それでいなかったのか。

 

 

 

相変わらずしろがねがいなくてガッカリな鳴海だったけれど、すぐに帰ってくると子どもたちが言うのでそれまで一緒になって七夕飾りを作ることに専念することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が織姫の格好で商店街に出るのはオープニングと最終日のセレモニーの二回だけだそうです」

帰ってきたしろがねは、まず子どもたちに説明を始めた。

こんなに大人しくおまえを待ってたのに、オレはおまけかよ、と鳴海はふてくされる。

 

 

 

商店街で一週間にわたって行われる『七夕セール』。

その集客力UPを狙って開催される七夕イベント。

昨今の商店街は客引きに躍起だ。

福引。七夕飾りのデコレーション。他に他所の商店街と差別化できる案は何かないだろうか?

商店街の皆は考えた。どうしたらお客さんに来てもらえるだろう?

そうだ!きれいな『織姫』に目玉になってもらうのはどうだろう?

美女。それもとんでもない美女に。

この近くに常駐しているサーカスのどえらいべっぴんさんがぴったりだ!

そして彼女の首を縦に振らせる方法は、えらく簡単ときたもんだ。

それに付随して考えられた企画。

セール期間中は買い物金額ごとに福引券が配られる。

ある程度たまったら福引ができる、のはどこでも同じ。

企画というのは、『希望者』は『一般の福引と違う福引』をひくことができる、ということ。

その福引きの、たくさんのハズレの中に、当たりはただ一つ。

当たりの賞品、それは。

 

 

 

「織姫の祝福のキス、だあ?!」

思わず叫んだのは鳴海。

「ああ、そうだ」

しれっと返事をするしろがねに鳴海は口がパクパク動くだけで声が出ない。

酸欠の鯉のようだな、

しろがねは思った。

 

 

 

「何なんだよ、その如何にも男の集客を狙ったようなイベントは!」

鳴海の声がようやく出た。

「実際そうらしいぞ?女性客は普段から買い物をするから、男性客にも買い物をしてもらいたいのだろう。

それにしても、私なんかが織姫でそんなものに参加する人がいるとは思えないのだが」

だから、このイベントはきっと失敗するのだろう、しろがねは本気でそう考えている。

止めた方が商店街のためだろう、と言いたかった。

けれど団長の命なら仕方がない。

それに町内会長が提示してきた『お礼』が魅力的なのはしろがねにも理解が出来る。

仲町サーカスは貧乏なのだ。

だが、鳴海はしろがねの意見には賛成しかねる。

何言ってんだ!

この企画は大ヒットするに決まってるじゃねぇか!

 

 

 

「しろがねさんの織姫、きれいなんだろうなぁ」

「考えただけデ素敵…」

リーゼと涼子が羨ましそうにうっとりとして言う。やはり女の子だ。

「しろがね、頑張ってね。僕、楽しみにしてるから!」

勝がしろがねにニコニコと笑いかける。

「お人形役はあまり好きではありませんが、普段お世話になっている商店街のお力になれるのであれば頑張ります」

しろがねは納得しているらしいが、鳴海は納得できない。

 

 

 

祝福のキスって、どこのどいつにするんだよ!

「オレだって…してもらったことねーぞ…」

ブチブチと小声で文句を言う鳴海に

「ね、兄ちゃんも楽しみだね!」

と勝が声をかける。

「べっつに、オレは…『日常的じゃないカッコ』してるしろがねなんて見飽きてるしなぁ」

しろがねや子どもたちの手前、手放しで『すげー見たい!』と本心を暴露するのも何だかこっぱずかしい。

だからワザとその逆を言う。

ほんの少し、しろがねの眉が曇った。(けど、鳴海はそれに気付かず。)

 

 

 

「ナルミさんも福引券集めるの?」

「んなわけねぇって!」

涼子の質問には不必要なくらいオーバーアクションで否定する。

更に、しろがねの眉が曇る。(やはり、鳴海は気付かず。)

「でも、ノリさんとヒロさんとナオタさんは、何が何でも福引券を集めまくるって豪語してたよ?」

「取り合いの大ゲンカになりそうで怖いデス…」

「オレをそんじょそこらの盛のついた男どもと一緒にすんなよなぁ」

そんなことを言いながら、セール期間中は絶対に商店街以外では買い物をするのは止めよう。

端数がでないように、きちんと計算しながら効率的に買い物をして福引券をゲットしよう。

何かこの機に買っておくべき大型の買い物ってなかったっけ…?

鳴海は非常に真面目に考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何日か後の夕飯時、鳴海が件の商店街の中を歩いていると前から歩いてくるサーカス子ども組にバッタリ出くわした。

 

 

 

「おう、こんな時間にどこ行くんだよ?」

日が長い、とはいってももう19時を過ぎている。

「今ね、しろがねが織姫の衣装合わせしてるんだよ」

「この時間にだったら見に来てもいいって言われてるの」

「仮縫いなんデスっテ」

「仮縫い?ずいぶん本格的だな」

鳴海が想像していたのはお遊戯会で子どもが着るようなちゃちい衣装だった。

出来合いのものを当日直前にパッと着る、みたいな。

 

 

 

「なんかね、会長さんとこのお孫さんって人が服飾学校に通ってるんだって。で、課題がてら作ってくれるんだってさ」

「ふうん」

「ねえ、兄ちゃんも一緒に見に行こうよ」

「うーん、オレは」

見に行きたい、が、ノリノリで見に行くのも子どもたちの手前、何だかカッコ悪い。

ちょっと考えたふりをして、

「まあ、ちびっ子だけで夜遅くに歩き回ってるのも何だしなぁ……しょーがねぇ、付き合ってやるか」

と言い訳をした。

でも、子どもたちの後を行く鳴海の内心はホクホクしていた。

 

 

 

しろがねが仮縫いをしてもらっている部屋に到着すると、彼女は衝立の向こうに立って着付けを受けていた。

首から上だけが見える。

「どう?しろがね?」

「今、途中です。…カトウも一緒?」

「おう、そこでばったり会ってよ。子どもらだけだと何かあったら心配だからよ…」

「…そうか」

本当は。

しろがねの晴れ姿が見られるから。

「ねえ、兄ちゃん、どんなかな?」

「むー、ぶっちゃけ、しろがねの『ステージ衣装』って見慣れちまってる感があっからなぁ……」

この期に及んで鳴海はまだ強がりを言う。

でも、そわそわと仕上がりを待つ。

気分的には新婦のウェディングドレス姿を心待ちにする新郎。

「はい、終わりましたよ。お待ちどう様」

着付けをしていた若い女の子が声をかける。きっとこの娘が服飾学校に通っている会長の孫なのだろう。

衝立の向こうからそろそろとしろがねが出てきた。

子どもたちはわあっと歓声を上げる。

鳴海は……鼻の下が伸びてしまった。

 

 

 

淡い色の極薄シフォンジョーゼットで仕立てられた衣装ははっきり言ってしまえば透け透けで水着を着ているのとあまり変わらない。肩も胸元も大きく肌蹴ているし、引き摺るほど長い丈なのに深いスリットが入っていて、しろがねが歩くたびに白く眩しい太腿が覗く。確かに中国テイストで七夕ちっくと言われればそうだが、とても斬新的で鳴海のイメージしている織姫の衣装とはかなり違っていた。

「当日はこの他にアクセサリーもつけますし、商店街のヘアーサロンの人がセットとメイクをしてくれることになってますから印象は違ってくると思いますよ?今日よりもずっともっときれいになるから楽しみにしててくださいね」

孫が言う。

え?ただでさえこんなに破壊的にきれいなのに?

まだ、手を加えるわけ?

鳴海は開いた口が塞がらない。

声にならない。

改めてしろがねに目を遣る。

これは…露出度が高すぎやしませんか?

いや、オレが見る分にはいいんだけれど、これを他の男の視線に晒すわけで。

そんでもって、福引の当たったどっかのバカにこいつはキスをするってか?

だから、オレだってキスしてもらったことがねぇっての!

 

 

 

しろがねはチラ、と鳴海に視線を走らせた。

鳴海の顔には『面白くない』と書いてあり、鼻の付け根に皺が寄せられ、下唇も突き出されている。

これ、私に似合わないのか?カトウは興味がないのか…?

しろがねは溜め息をついた。

「しろがね、カッコいいよ!」

「しろがねサン、素敵デス!」

「いいな~、私も着たいな~」

「ありがとうございます」

鳴海はまだ難しい、苦々しげな表情を変えない。一言の感想もない。

しろがねは唇を噛んだ。

勝たちがどんなに口々に褒めてくれても、鳴海の評価がしろがねにとっては一番だったから、

鳴海に好印象を持たれなかったことがしろがねの心を痛くした。

 

 

 

織姫役を引き受けたことを少し後悔していた。


 

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