忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






光を求めて、樹はその梢を大空へと伸ばす。
水を得るために、植物は大地に根をはる。
新鮮な空気を入れるために、人は窓を開ける。





あなたが欲しくて、
私は恋をする。






「おまえの戦い方は見てて危なっかしいんだよ!ひとりじゃねぇんだ、もっとオレを頼れ!」
勝お坊ちゃまを狙う輩を撃退した何回目かの時、カトウが言った。
「そうは言っても、私の身体に沁みついてしまっているのだから仕方ないだろう?あなたの言うことは理解できるが、咄嗟のときにそんなこと考えてもいられない」
「だったら、これからはオレの言うことを身に沁み込ませろ」
オレを頼れよ、どんなときも。
カトウは繰り返し言う。



そんなことを言われても。
「私はこれまでずっと独りで生きて、戦ってきたのだから、頼り方など分からない」
私がそう言うと、カトウはにっこり笑って
「だったらこれから覚えていけばいいじゃねぇか。おまえはひとりじゃないって言ってるだろ?」
と、私に手を差し出した。
大きな手。温かい手。



この手を頼って、この手に縋って、この手に支えられて、
そうして歩くことに慣れてしまって、生きることに慣れてしまって、
ある時この手を失ったら、私はきっと、もうひとりでは前に進めなくなる。
あなたはそれが分かって言っているのか?
私は今まであなたが想像もつかないような孤独の中で生まれ育ち生きてきたのだから。
身体をとろかすような温かさに慣れてしまったら、心をも凍てつかせる冷たさにはもう戻れない。
今だったら、まだひとりでも平気。まだひとりでも生きていける。



「いつか振り払ってしまうような手だったら、いらない。
最初から手を差し伸べないでくれ」



手に入るものならば、私はあなたが欲しい。
何故なら、私はあなたに恋をしているから。
でも、私は恋なんて知らない。
したことがない。
初めからなければ、失う恐怖も知らずにすむ。



私は、臆病だ。
あなたに対しては。



「そうつっぱねんなよ。そんなんじゃ幸せが逃げてくぞ」
「私は幸せだったことなどない。余計なお世話だ」
カトウは仕方がねぇなぁ、と呆れ顔だ。
でも、手はまだ差し出したまま。
私もこんな可愛げのないことをカトウに言いたいわけではない。
口火を切ってしまったら、私の心を止める術はどこにもないから。



「またおまえに余計なお世話って言われるかもしれねぇが」
カトウは笑う。
「オレ、おまえを笑わせてやりてぇって思っちまったんだ」



オレといることが、幸せだと思えるように。
絶対に、繋いだ手は放さないから。心配すんな。
「……本当に、余計なお世話だ」
俯いたまま、私は差し出されたカトウの手に自分の手を重ねた。









卵を産むために、魚は己の生まれた川を溯る。
虫たちを呼ぶために、花は美しく咲き誇る。
あなたが欲しくて、私は恋をする。



End
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]