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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






朝、というよりははるかに昼に近い時間。
鳴海は大きなあくびをぶちかましながら玄関先まで新聞を取りにやってきた。
真夏の太陽は寝坊助に容赦なくギラギラと照り付けて、一日が始まったばかりの気持ちを憂鬱にさせてくれる。玄関を一歩出ただけで、違う星にやってきたかの ような重力を感じる。ただでさえ質量の大きな鳴海の身体にさらにかかる加重。
「きょーもあちーなぁ…表に出たくねぇ……げ」
鳴海はここ10日ほど早朝から深夜、深夜から早朝と、体力にまかせてガテン系のバイトに精を出していた。家には寝に帰るだけだったから郵便受けのことなんか全く頭になかった。
今日は久し振りの休日で。
「やー…10日もほったらかしだと…すげぇなあ…」
郵便受けに入りきらなかった新聞は門の内側に山積みにされ、その他郵便物はポストに突き刺さった新聞の隙間に器用に差しこまれている。それらを鷲掴みにすると、鳴海は涼しい家の中へと急いで避難した。



そこはかとなく湿気ている新聞はとっとと処分して、ハガキやら封書やらを手にエアコンの効いているリビングへと足を向ける。ソファの肘掛けに寄りかかって郵便物を選別する。ほとんどはDMだ。いらないものはチラと目を通して足元のくず入れにぼそぼそと捨てていく。後は…携帯会社からの封書とか、公共料金の領収書とかばっかりだ。



そのうちの一枚のハガキに鳴海の目が止まる。
「お、勝からじゃねぇか」
鳴海は目の前にまるで勝がいるかのようににっこりと笑うと、青い海が美しい、その絵葉書を眺めた。
「えーなになに…?『暑中お見舞い申し上げます。兄ちゃん元気にしてますか…僕たちは今…」
文面は現在、勝たちがいる島のこと。
みんな元気なこと。
サーカスの興行が順調なこと。
魚がおいしいこと、等等。
限られた紙面の中でたくさんの情報を鳴海に伝えるためからか、通信欄には勝の手で細かな字がびっしりと書き込まれている。
そう、勝たち仲町サーカスの面々は今、依頼を受けて離島巡りの興行に出ているのだ。
「『空いている時間はみんなで海に行って泳いでいます。ノリさんたちは水着のしろがねにすぐちょっかいを出すのでいつもしろがねに怒られています。とても面白いです』……それは面白かねぇぞ、勝」
面白くないって誰が。
オレが、だ。



10日も会わないなんてこと、サーカスが興行に出れば珍しいことでもなんでもないのに。
だけど、何だか、退屈だった。
鳴海がここ数日バイト三昧だったのはそのせいだ。
「ちっくしょ、オレも行きたかったなー…」
楽しそうな勝のハガキの文面についつい口がとがってしまう。
あいつもきっと海を満喫しているんだろうな。
オレのことなんかこれっぽっちも頭になくってさ。
「け。ちっとも見たかねぇよ、しろがねの水着姿なんか。いつも似たような格好で歩き回ってるじゃねぇか」
ちっとも羨ましくなんかねぇ。
呪文のように呟きながら、鳴海は残りの郵便物に目を通した。
ちぇ、DMばっかじゃねぇか。



手の中に残った最後の一枚は、青い海と青い空と、白い入道雲の絵葉書。
裏返した途端、鳴海の眉間に皺が寄った。



「なんじゃこりゃ?よく郵便屋さん、こんなの配達できたな…」
まともに判別できるのは7ケタの郵便番号と番地、数字の部分だけだ。
「カ、ロ、ト、ウ、十、1、L、三……おう、オレのカタカナで書いた名前(横書き)か。壮絶だな、コレ」
なんで「加」だけ漢字なんだよ。
その下には通信欄にはみ出すくらいに大きく書かれた「才賀ツロガネ」。
宛名より差出人の名前の方が大きい。
ツッコミどころが満載だ。
そしてその下に、とても小さく控えめな字で。



鳴海は真後ろに、どさり、と倒れソファに寝転がった。ソファが鳴海の身体の重みを急に勢いよく受けてギシギシと嫌な軋みを立てたがそんなのおかまいなしだ。
鳴海は口元がにやつくのをどうにも止められない。




『マイタイ』




「マイタイって……」
マ、じゃなくて、ア、だろうが。
ツッコミをいれながらも鳴海の顔はとても嬉しそうで。
「手紙だとずいぶん素直じゃねぇか…?」
緩んだ顔がなかなか元に戻らない。
鳴海は大きな手の平で口元を押さえた。



「そうだ!帰ってきたら泳ぎに誘おう」
帰ってくる頃には土用波も強くなっているし、クラゲも出るだろうし、海じゃなくてプールだな。
水着のしろがねとふたりっきりじゃ照れるから、勝やリーゼも誘おう。
何でもいいんだ。
しろがねと一緒なら。
「早く帰ってこい。オレも…会いたいから」
しろがねからの暑中お見舞いのハガキを高々と掲げながら、鳴海はいつまでもその文面を見つめていた。





鳴海は、以前しろがねが
「入道雲ってどこかあなたに似てるな」
と言ったのを思い出した。



End
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