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手枕
フカフカの布団が、どさり、とベッドの上に放り投げられる。
「ふう。これで、最後、っと」
鳴海の部屋で布団を取り込み終えたしろがねは、うううん、と伸びをすると無造作に置いた布団にころり、と転がった。布団の上でも再度ぐぐっと伸びをする。太陽をいっぱいに吸い込んだ掛布団はぽかぽかとして何とも気持ちがいい。しろがねを包み込むようにして温めてくれる。しろがねはこれまた干したての毛布で身体を包むとあまりの気持ちよさに目を閉じた。
温かい。
それに、カトウの匂いがする。
だってこれはカトウの布団だから。
彼が染みついている。
文句を言いながらも勝と遊びに来るたびに、こうして甲斐甲斐しく鳴海の身の回りのことをしてしまうしろがねだった。
「ありがとな」、そう言う鳴海の笑顔が見たいから。しろがねは鳴海のことが好きだから。
しろがねは毛布を引き上げ、それに鼻までもぐりこむと身体を丸めて大きく深呼吸をした。
お日様の温かさ。鳴海の匂い。
こうしていると鳴海に抱き締められているような気がして、しろがねはとても幸せな心地がした。
カトウは私のことをどう思っているのだろうか?少しは好きでいてくれている…?
夢と現の境目で最後に考えたのはそんなこと。
・
・
しばらくして、なかなか戻ってこないしろがねの様子を見に鳴海がやってきた。
「しろがね?どうかしたのか?」
バタバタと二階の部屋をのぞいていく。そして見つけたのは自分のベッドの上で、自分の布団からのぞく銀色の髪。
なあにやってんだ?
鳴海は何故か赤くなる。
「おおい、しろが…」
照れ隠しも兼ねた大声で呼びかけて、止めた。気持ち良さげに眠る彼女を起こさないように。
鳴海はその傍らにそっと腰を下ろした。しろがねはぐっすりと眠っている。指先でそうっとしろがねの顔を覆い隠す毛布を除けて、彼女の寝顔がよく見えるようにする。
「うは…」
鳴海の頬が思いっきり緩んだ。
へぇ…こいつって、こんな可愛い顔で眠るんだ。
あどけない、いつもよりずっと幼い顔。
なんか、いい夢でも見てんのかな?
だって口の端が緩やかに持ち上がっている。
その緩やかなカーブがとても貴重な物に思えて、触ってみたい、という衝動に駆られた鳴海は指の先でしろがねの口元にそっと触ってみた。途端、しろがねの目が開いた。
あ、ヤバい、起こしちまった。
鳴海は急いで手を引っ込めようとした。これでは一見、無防備な寝込みを襲っている不埒者、に思われても仕方がない。そこまで行きつかなくとも寝顔を眺められている様はあまり気分のいいものではないだろう。
が、それよりも早く、しろがねは鳴海の手をやんわりと握った。逃げても誤魔化してもダメだ、証拠は握った、そんなことを言われるのかと思った。鳴海は叱られるのを覚悟する。
でも、当のしろがねは鳴海の大きな手の平に頬を載せると、再び、すうっと眠りに落ちた。
「お…おい」
鳴海は固まって動けない。愛しいしろがねの柔らかな頬と唇が、自分の手の平に触れる。ドキドキと鼓動激しい心臓が鳴海の顔面の血行をものすごくよくする。
何ともはや、体格差を物ともせず、この華奢な身体で大男を身動きできなくさせるってんだから大したモンだよ……。
「カトウ…」
「は?」
しろがねに呼ばれて視線を移す。でも、それは寝言。しろがねは安眠の旅に出たままだ。
「何だよおまえ…」
オレの夢見て、こんな顔してんのかよ?
鳴海の手の枕で眠るしろがねの顔には至福の微笑み。
「オレと一緒で…何がそんなに嬉しいんだか…」
ベッドにもたれかかる。鳴海もまた顔に嬉笑いを浮かべながら、ずっと、しろがねの寝顔を見つめていた。
End