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なくて七癖
「うまいなー、これ。オレンジの香りとこの甘さ控えめなのがさ、絶妙っつーか」
来る途中でしろがねが買ってきたケーキを口に運びながら、甘党の鳴海はいたくご機嫌。
「そうか、よかったな」
鳴海が笑うとしろがねも嬉しい。しろがねが嬉しそうだと鳴海は喜んでもっと笑顔になり
「コレ食べ終わったら出掛けようか。今日はどこに行こっか?」
と、にこにこと語る。しろがねは温かい紅茶を飲みながら、くすりと微笑んだ。微笑んで、しろがねは無邪気に自分を外へと連れ出す算段をしている鳴海に隠れてほんの少し眉を顰めた。答えを探すフリをして窓の外を見遣り、鳴海から顔を背ける。
今はまだ朝でお日様は昇っている最中で、空は晴れて真っ青に澄み渡っている。
あなたと表に出れば清清しい空気を吸い込んで、ただ歩くのだって楽しいだろう。
それは分かっている。
それでも。
私は、あなたに抱かれたい、という気持ちを止められない。
つい一昨日、あなたに思う様抱かれたばかりなのに。
あなたにはそんな素振りが欠片も見られない。
私が変なのだろうか?
しろがねは紅茶のカップを下ろし、乱れ始める呼吸を鳴海に気づかれないようにするために無意識に指を噛んだ。
そのケーキを食べるようにその口で私も食べて欲しい。
そのトッピングを摘まむ様に私もその指で摘まんで欲しい。
そのクリームを舐め溶かすように、私のこともその舌で私を 。
「…おまえさぁ…もしかして今、やらしいこと考えてる?」
鳴海の突然の言葉にしろがねの顔はぼふうっと火を噴いた。
「あ、やっぱり?自分の指噛むの、Hしてるときのおまえのクセだもんな。気づかなかった?」
「な…な?」
「声が出せないときとか、触れて欲しいところに触れてもらえないときとか、もどかしいのを我慢するときによくしてんぜ?」
鳴海はカラカラと笑っている。しろがねの真っ赤な顔とか、その癖の内容とか、特に何の問題もなく普通のことだと言うかのように(もしかしたら実際にそう思っているのかもしれない)、鳴海は変わらずケーキを口に運んでいる。
「もしかして、オレに抱かれたい?」
「そ…れは…」
図星なしろがねは赤い顔で俯くばかりで。その通り、なのだけど。
素直じゃないけれどとても素直なしろがねに鳴海は明るく笑い、最後の一口をぱくりと口の中に放り込むと、「ごちそうさま」と手を合わせた。
「そんでこっちはこれから『いただきます』だな」
鳴海はしろがねの腰をつかんで引き寄せる。出来たソファ上のスペースにしろがねをやさしくゆっくりと倒していく。
「え?で、でもまだ朝で…お天気がよくって…」
「そんなん関係ねぇだろ?」
せっかちにTシャツを脱ぎ捨てた鳴海がしろがねを潰さないように覆いかぶさった。
「それにオレだって同じこと考えてた。おまえがいいならオレは我慢する気はねぇよ。オレは毎日24時間、いつだっておまえのことを抱きたいんだから」
「ナルミ」
「今日は何回指を噛むかな?」
「…バカ」
鳴海の軽口も、しろがねの甘い悪口もキスに消える。
鳴海のキスは、さっき食べたムース・オ・オランジュの味がした。
End