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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。







 

それは
 
 
 
 
まるで
 
 
 
 
降る様な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空から降ってくるもの、と云えば

雨。

雪。

光。

花びら。

こんなところがしろがねの連想できる順当なものだ。

 

 

 

 

 

やさしい雨。

柔らかな雪。

暖かな光。

香しい花びら。

 

 

 

 

 

この身も溶けてしまいそうに濡れる雨。

愛する人との距離を近づけてくれる雪。

罪深いこの身体も浄化する眩い光。

噎せ返るほどに甘く香る花びら。

 

 

 

 

 

こんな連想ができるのは偏に今のしろがねが幸せだからだ。

少し前のしろがねだったら

雨、無慈悲に身体を冷やし惨めにさせるもの。

雪、生きとし生けるものを凍らせる死の世界。

光、触れたくともこの手に出来ぬもの。

花びら、無情に散る運命。

と云ったネガティブな連想に尽きただろう。

 

 

 

 

 

ただひたすら

このまま時間が止まってくれたらと、

このまま死んでしまってもいいと、

このまま化石になってしまいたいと、

そう思える温かな幸せはこれまで泣くことも知らなかった女に

嗚呼、泣きたいくらいの幸せとはこういうことを云うのか

と素直に涙を流すことを教えた。

 

 

 

 

 

何て恐ろしいくらいの依存。

 

 

 

 

 

一度甘い味を知ってしまうと無味無臭なものなど食べたくなくなる。

微温湯に浸かってしまうと風邪を引くのが怖くて寒い外には出られない。

しろがねにとっての甘い味や微温湯は鳴海のことだ。

こんなゴツい男の何処に甘さなんかを連想するものがあるのかと人は思うだろうが

しろがねにとっては甘さ以外の何物でもない。

確かに身体を重ねている最中に日向の匂いのしそうな濃い色の肌を舐めると

塩辛さを覚えるし、そんな時間は大抵硬く尖っている肉を口に含み続けると

舌の上に零れる鳴海の想いは苦い。

甘さ以外も彼から感じることはできるけれど、しろがねには大抵甘く感じられるのだ。

覗く自分を映す眼差しに、抱き止める腕に込められる力に、その強い全身から

放たれる気に、厚く男らしい唇が与えてくれる全てに甘さが潜む。

鳴海の居ないしろがねの世界は屹度、時間が凍るに違いない。

しろがねは、鳴海が自分の傍から居なくなったら、死ぬと決めている。

実際に、死ぬ、と鳴海に言葉にして伝えてもいる。

そんな時、鳴海は笑って

「いいぞ」

と云う。

「そんな日は絶対ぇ来ねぇから死んでいいぞ」

と云う。

そうしてしろがねの身体をそっと包み込むようにして抱き締める。

壊れ物を、この世で一番儚いものを、彼の知り得る限り最も美しいものを。

「オレがおまえから離れるわけねぇだろが」

しろがねは、鳴海の返事が最初から分かっている。

「オレは絶対に離れねぇ。だからおまえも決してオレから離れてくれるな」

分かっているから、安心して困らせることができる。

「さあな、先のことは分からない」

「おまえはズルい女だな。オレには離れたら死ぬって脅すクセに」

何時の間に、こんなに我が儘な女になったのだろう?

「オレも死ぬぞ?おまえの居ない世界なんていらない」

この男が居るから、彼女は安心して我が儘な女になれる。

 

 

 

 

 

鳴海に背中を温められて同じ景色を見る。

独りで立って生きることが当たり前だったしろがねがその背中を預ける、

体重を預けて緊張を解く。心を、開く。

鳴海の太く逞しい腕はしろがねの細い身体には些か長い。

けれど彼は余すところ無く、自然に彼女の身体に腕を巻きつけてくる。

しろがねは以前、大きな石を根全体で抱き込むようにして成長した欅を

何かで見た覚えがあった。

本当に樹霊が棲んでいそうな、そして生命力に溢れた古木だった。

しろがねはいつも鳴海にこうして抱き締められると、その神木に抱かれた

石になったような気になる。

神の力を宿した腕にこうして抱かれていれば、何時か私もその力を宿せるか?

孫悟空を孕んだ花果山の仙石のように。

しろがねにとって鳴海の存在は絶対で、口ではどんなに強いことを言ったとしても

独りの男に恋焦がれる唯の女に過ぎない。

鳴海の腕で作られた円の世界。

しろがねはその狭い世界さえあればそれでいい。

 

 

 

 

 

甘い甘い蜜を、男から与えられて。

 

 

 

 

 

どんな運命ももうしろがねに触れられない。

その太く逞しい神の腕が彼女を運命からすらも守っている。

ましてや孤独など。

 

 

 

 

 

「キスして欲しい」

しろがねが強請ると鳴海は笑みでしろがねを揺する。

「甘ったれ」

しろがねは鳴海に何と言われてもいい。それが別れの言葉でないのなら。

それに甘ったれなのは事実だ。

「甘いのがいい。甘いのが好きだ」

「了解」

鳴海はしろがねの顎に大きな手を添えて、その唇を上に向かせると厚い唇で覆う。

鳴海のそれはまるで空から降る様に愛する女の唇を捕らえる。

しろがねに甘く触れ、甘く包み、甘く融かし、甘く濡らす。

甘く、蹂躙する。

 

 

 

 

 

空から降ってくるもの、と云えば

雨。

雪。

光。

花びら

 

 

 

 

やさしい雨。

柔らかな雪。

暖かな光。

香しい花びら。

 

 

 

 

 

この身も溶けてしまいそうに濡れる雨。

愛する人との距離を近づけてくれる雪。

罪深いこの身体も浄化する眩い光。

噎せ返るほどに甘く香る花びら。

 

 

 

 

 
空から降ってくるもの、をもうひとつ。
くちづけ。
狂おしいくちづけ。
熱っぽさで私を更に愚かな女にするくちづけ。

 

 

 

 

 

その圧倒的な身長差のせいで鳴海のキスはいつも空から降って来る様に

しろがねは思う。

こうして後ろから腕の檻に閉じ込められているときも

向かい合って二枚貝のように全身を吸い付け合っているときも

鳴海のキスは空から降って来る。

唇に、額に、頬に、鼻先に。

しろがねはその感覚がとても好きだ。

しろがねが思いつく空から降るものはどれも綺麗なイマージュ。

恩恵。

慈愛。

鳴海のキスも屹度、慈愛あふるる神からの恩恵。

その決して抗えない(抗う気は初めからないけれど)、

鳴海の舌の動きがもっと先にある筈の快楽を連想させる頃には

しろがねの身体自体が鳴海にとっての甘い蜜になる。

 

 

 

 

 

あなたのキスが好き。

あなたのキスが好き。

あなたのキスはまるで天から降って来る様で。

そうだな。だってあなたは私の太陽だもの。

私は大地。

私はあなたの灼熱の光の槍が私の中に突き入れられるのを待っている。

私もあなたを融けた熱いマグマで包んであげる。

 

 

 

 

 

「時々、お互いに想う気持ちに温度差があるんじゃないか、

そんな風に不安になるときがある。こうしていても」

鳴海は甘い蜜の味と大地の奥底に眠るマグマの熱さを存分に堪能した後に

自分の腕の間で銀色の瞳を潤ませ自分を見上げている女にポツリと零す。

愛され過ぎて怖いと云う事だろうか、しろがねがそう考えていると

「おまえはオレがおまえを想う程にはオレを想ってくれてねぇんじゃねぇか、

オレばっかがおまえを想う気持ちを膨らませ過ぎてるんじゃねぇか…って

苦しくて堪らなくなる」

と鳴海はしろがねを抱く腕を狭めた。

「どうして……」

自分が言葉足らずなのは分かっている。

してあげるよりしてもらうばかりなのも分かっている。

気持ちを伝えるのは苦手だ。

天邪鬼で我が儘で意地悪で、本心とは逆のことを言って鳴海を困らせるのが

好きだったりするから性質が悪い。

本当は、このよく笑う大男みたいに素直な分かりやすい愛情を表現することが

つい最近まで自分を人形だと思い込んでいた女には何より難しいのだ。

だからって何もそんなに寂しそうな瞳をすることはないだろう?

私の心を誰よりも分かってくれるのがあなたではなかったのか?

「言葉なんてものは最初から不十分なものだろう?」

ちげぇねぇ。

鳴海はそう呟いてやっぱりどこか寂しそうに笑った。

 

 

 

 

 

どれだけ私があなたを愛しているのか
どれだけあなたの居なくなる世界を恐れているのか
どうしたら伝わるのだろう。
 
 
 
 
 
私もあなたに
降る様なキスをあげられたらいいのに。

 

 

 

 

 

ふと、思い付く。

「起きてくれ」

しろがねの突然の申し出に鳴海は怪訝そうな顔になったが

言われるまま布団の上に身体を起こした。しろがねもそれに続き身を起こす。

そして鳴海の腿に乗り上げて、いつも鳴海が自分を見下ろす位置から

鳴海を見つめた。鳴海がじっと自分を見上げている。

逆の視点。何だかこそばゆい。

どちらかと言うと強面の、とても男らしい顔をしているのに

綺羅綺羅と輝く黒い瞳だけがどこか幼さも湛えていて、

本当にこの人は私を愛してくれているのだな

必要としてくれているのだな

感じ取れる彼の気持ちが幼児の甘い体臭のようにしろがねに纏わりついてくる。

私もこんな瞳で見上げているのだろうか?

まるで何かを崇めるような瞳で。

屹度、こんな瞳で見上げているのに違いない。

ならば不確かな言葉になんか頼らなくとも私の心は手に取るように分かるだろうに。

しろがねはそっと鳴海の髪を手で梳くと鳴海がいつも自分にくれるようにキスをした。

鳴海の顔を真上に向けて唇に頬に額に、やさしく柔らかく唇で触れていく。

幾つも幾つも、キスを雨、雪、光、花びらの様に降らせていく。

 

 

 

 

 

言葉なんて、あなたへの想いを表現するには足りないのだから。

そうでなくとも私にはその想いに見合う言葉を今すぐ探す事など困難なのだから。

せめて、私がどれだけ幸せなのか、あなたの傍にいて心が安寧なのか、

分かって欲しい。

 

 

 

 

 

鳴海の温かな大きな手の平が彼女の腰を包んだのでしろがねはフッと顔を

上げてみた。

鳴海は嬉しそうに笑っていてその瞳の中には寂しさの欠片もなかった。

「ああ、いいな。キスの、降る様な感じは」

鳴海の言葉を受けて、しろがねはもうひとつ、額にキスをあげる。

「そうだろう?あなたのはいつもそうだ。

だから私は幸せなのだ。不安など打ち消されてしまう。

私もあなたに、あなたが私にくれるような幸せをあげられたらって思ったのだ」

分かってもらえたのだろうか?

しろがねは真面目な、真剣な瞳で訴える。

こんな間近でこんなに猫の目で凝視されてこんなに必死になられると、

何だか弱音を吐いた自分が子どもっぽくて鳴海は可笑しくなる。

鳴海の笑いが密接した肌を通してしろがねに伝わった。

しろがねの目力も頬も緩む。

「そっか。なら、たまにはオレにもくれるか?おまえから幸せを」

「お安い御用だ」

「さんきゅ」

「だからもう、不安になどならないでくれ」

しろがねの降る様なキスを鳴海は唇で受けた。

しろがねの背中をシーツに押し当てると、降る様なキスのお返しをする。

太陽の槍と大地のマグマが再び交わる予感がした。

 

 

 

 

 

空から降ってくるもの、と云えば

雨。

雪。

光。

花びら。

 

 

 

 

 

それから、

あなたのくちづけ。

 

 

 

 

End.

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