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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪2000マイル飛び越えて 僕に囁くのさ

 “Come With Me”

 連れて行っておくれ 今すぐに

 高気圧ガール...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高気圧GIRLS。 

 

Liese ver.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海水浴場に流れるのは少年の勝にはどっかで聞いた覚えはあるし、誰が歌っているのかもわかるけれど

何てタイトルで何時頃の歌かは分からない、サマーソング。

 

 

 

「やってられっか!」

「こんなロケーションで失恋でくよくよなんてしてられっか!」

「こんな時はヤケナンパだ!」

つい数分前に失恋が決定したノリ・ヒロ・ナオタはやおらガバリと立ち上がり、三々五々に散っていった。

強がってはいても、三人とも背中が泣いている。

 

 

 

「若いわねぇ…」

「せっかくの海なのに可哀想だね」

ヴィルマはニヤリと赤い唇をめくれ上がらせると、ビーチパラソルの下の、彼らが準備したチェアに座り長い脚を投げ出し

「マサルゥ、悪いけど日焼け止め塗ってくれない?」

そう言って勝に向かって小さなボトルを投げた。

「ぼ、僕が?」

「他に誰がいんのよ?ムラなく丁寧にやってよ」

勝は仕方なく(?)手の平に白いクリームをのばすとヴィルマの背中に恐々と塗り始めた。

「もっとしっかり力を入れてよ。何その手つき」

「だって…」

中学生の目から見ても、ヴィルマはフェロモン全開で本当に食べられてしまいそうで…!

ちょっと、いやかなりドキドキする。

 

 

 

「そ、そういえば、言いそびれてたけどリーゼさんはどうしたの?一緒じゃなかったの?」

「女子更衣室が混んでてね。リーゼはアタシたちに先を譲ったりしたから……ま、遅いのはそれだけじゃないでしょうけど」

「何が?」

「なあに?そんなにリーゼのことが気になるの?ボーイ?」

振り返り様、ヴィルマの長い真っ赤な爪が勝の頬をなぞり、勝はビクリとした。

「夏よ?海よ?心の箍も緩む恋の季節よ?カラダの箍だって緩ませるためにアバンチュールよ?」

「一体何のことだよ?!」

「黒髪の猛獣使いだって、ひとりの女だからねぇ……男見せなさいよ」

「訳わかんないってば!は、はいっ!背中は塗り終わったよ!」

勝はヴィルマに日焼け止めを投げて返した。

「いやあねぇ、何赤くなってんの」

「からかわないでよね!」

「お待たせシマシタ!」

リーゼの到着。

勝はヴィルマから解放される喜びを感じ、ぐるりとリーゼに向き直った。

「良かった!リーゼさんが来てくれて…」

そして、リーゼの姿を一目見て、勝の口がぽかんと開いた。

「そ、そうデスカ?」

勝が純粋に自分の登場を喜んでくれたと素直に解釈したリーゼは、本当に嬉しそうに恥ずかしげな笑顔を浮かべる。

 

 

 

白い砂浜にくっきりとしたビタミンカラーのビキニ。

縦のマルチストライプのホルターネックブラと単色のボクサーパンツ型のショーツはいつもどちらかというと大人しめな女の子らしい格好の多いリーゼにしては、珍しく快活で大胆なイメージ。

しなやかな南風に長い黒髪を舞い上がらせて、勝の前に立っている。

「ごめんナサイ。更衣室がとても混んでテ遅くなりマシタ」

遅くなったのはそれだけではない。

髪の毛をひとつにまとめようか、垂らしたままにしようか、それとも結い上げようか。どれが一番、勝がいいと思ってくれるか。それを鏡の前でずっと悩んでいたのだ。結局、どう手を入れても満足できなくて、そのまま風に遊ばせることにしたわけで。

勝が口を開けたまま固まっているので、ヴィルマはその背中をつま先で突っついた。

「…はっ!リーゼさん、すごく似合うよ、その水着」

「ホ、ホントに?」

可愛い!

口元に両手を当ててにっこりと微笑むリーゼがいつもよりずっと可愛く見える。

「ヨカッタ!ヴィルマサンの見立てのおかげデス!自分で選ブとあまり代わり映えがしなくっテ」

「アンタはいつも大人しいカッコが多いからそれくらいが丁度いいのよ」

細いウェスト、腹の小さな窪み、ヒップハングの浅い股上。

リーゼの身体の上を勝の視線がちょこまかと動き回る。

 

 

 

いつも左右にしろがねとヴィルマという巨乳ふたりに挟まれているから、あまり意識したことはなかったし、それに記憶力のいい勝に植え付けられたリーゼの『胸』のイメージは出会ったばかりの頃の銭湯でチラッと(いや、割とじっと)見たとき(しろがねの『悪漢め!骨まで砕くぞ!!事件』参照)のもので止まってしまっていたから、今日、こうして改めて見て脳内データが如何に古かったかを思い知った。

『リーゼさんて、けっこう着痩せするタイプなんだな……そうだよね、もう高校生だものね……』

ずっと貧乳、というわけではなかったようだ。

柔らかそうな胸の谷間に目を釘付けにして鼻の下を伸ばしていると、背後からヴィルマの失笑が聞こえた。

勝は再びハッと我に返り、ゴホンと咳払いをする。

(その咳払いの仕方が、まだしろがねと付き合いだす前の鳴海が彼女に見とれていたのを誤魔化す時によくしたものにそっくりだ、とヴィルマは思った。)

 

 

 

「リーゼさん!海に入りに行こう!」

「はい。皆サンはもう海に入っテイルのデスカ?」

「リーゼさんが来るまでにあったことを話してあげるよ。面白かったんだ…!」

ふたりは大きな浮き輪を抱えて波打ち際へと駆けていく。

そんな若いふたりを見送って、ヴィルマはゆったりとビーチチェアに寄り掛かった。

「まったく……どいつもこいつも世話の焼ける……」

ヴィルマは少し満足そうな笑みを浮かべると、瞼を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が来ル間にそんなコトがあったんデスカ?」

大きな浮き輪に身体を通したふたりはプカプカと波間に漂って、鳴海の爆弾宣言について語っていた。

「まあ…自分の彼女があんな水着で大勢の目に曝されたら、流石のナルミ兄ちゃんも我慢の限界だったんだろうねぇ」

勝はそのときの鳴海のヤキモチ全開の表情を思い出して、苦笑した。

「しろがねサン、とても一生懸命に水着を選んでまシタヨ?その……女の私カラ見てもかなり大胆だとは思いマシタケド…」

尤も、ヴィルマがしろがねに選んできた水着はどれもこれも奇抜で際どいものばかりだったから、その中では最もマトモといえばマトモだったのだが。あれでも。

そう言うリーゼだって例外ではない。

勝に似合うと言ってもらいたくて水着売り場で二時間も粘ったのだから。試着した水着は30着は下るまい。

最後の方はヴィルマの方が根負けして、いい加減にしなさいよ、と言ったくらいだ。

 

 

 

勝はチラッとリーゼを盗み見た。

海に入るには邪魔な長い髪をクルクルとまとめて無造作にクリップで留めているので、白い項がすっきりと見える。

遠くを見つめる大きくてまあるい瞳も、何だか憂いでて、妙に大人っぽくて。

勝はさっきじっくりと見たリーゼの水着姿を鮮明に思い出し、何時の間にやらぼーっと、空想の世界へと旅立った。

太陽がやたらめったら眩しくて。

 

 

 

「私ネ…」

「なっ、何?リーゼさんっ!」

リーゼの声にちょっとHな空想に耽っていた青少年は慌てて現実世界に戻ってきた。

「私ネ、しろがねサンがとってもうらやまシイんデス」

「しろがねが?どうして?」

勝はまだドギマギしている。

今日の僕はどうしてか、ものすごくリーゼさんを意識している。

「しろがねサン、ナルミサンと付き合うようになってとてもキレイになりマシタ。勿論、もともとすごくキレイな人でシタヨ?

でも、それが内側からもっともっとキレイになっテ……愛する人に愛サレルのって、あんなにも女の人をきれいにするんデスネ」

うっとりと語るリーゼの顔も恋する乙女のもの。

勝は思わず見惚れてしまった。

「そうだね……僕もそう思う」

 

 

 

初めて出会った頃のしろがねは本当にお人形さんのようだった。それが鳴海と知り合って、関わるようになって、もっと深く関わるようになって、好きになって、愛するようになって、自然と愛し合うようになって、次第に柔らかく丸く、キレイになった。

リーゼの瞳にはしろがねの変化しか映らないようだけれど、勝は男だったから鳴海の変化にも注目していた。

しろがねと付き合うようになった鳴海は、これまで以上に逞しくて、男らしくて、急に大人っぽくなったと思う。年中、しろがねのことでやれケンカしただの、何考えてんのか分かんねーだの、勝に愚痴っていたのがぴったりと無くなって、勝が「しろがねとどうなの?」と尋ねれば、鳴海は本当にやさしい笑顔で、「ああ、上手くやってるよ」と答えるのだ。

勝は男として鳴海がすごくうらやましい。

大好きになった人に、大好きになってもらえること。

一番大切に想う人に、一番大切に想ってもらえるようになること。

簡単なようでとても難しいことだ。

 

 

 

「私もしろがねサンのようになりたいんデス。好きな人に好きになってもらえるように……努力しマス」

リーゼは大きな瞳に星を浮かべて、ニコ、と勝に微笑みかけた。その笑顔に勝の心臓はドキッと、大きな大きな音を立てた。

「うん…僕もナルミ兄ちゃんをうらやましく思うから…兄ちゃんに憧れているから、兄ちゃんみたいになれるように頑張るよ」

勝もリーゼににこう、と笑いかける。

 

 

 

よく、鳴海が勝に言うこと。

「しろがねの瞳を見ていると吸い込まれそうになるんだよな。心も身体も何もかも。溺れそうになる、その感覚が好きだな」

勝をひとりの男として認めているのか、鳴海は最近、勝にしろがねに対する恋情を素直に吐露したりする。

鳴海は明らかにしろがねに溺れている。

そして、僕もまた溺れ始めているのかもしれないね。

だって、彼女の黒くて大きな瞳を見つめているとこのまま海の中に落ちて沈んでいってしまいそうな気になるんだ。

不思議な瞳。魔眼の持ち主。僕のことも魅了する。

そういえば、人魚ってのも魔眼の持ち主だったっけ?

今、リーゼさんの下半身は魚の尻尾なのかも。

 

 

 

海の中で、ふたりの手がぶつかった。

勝は躊躇なく、その細くて華奢な手を握り、指を絡める。

「マサルサン…」

リーゼは赤いほっぺたになって、恥ずかしくて俯いた。

リーゼもきゅっと勝の手を握り返す。

「今度さ、ふたりでどこか遊びに行こうよ。動物園でも、遊園地でも。リーゼさ…リ、リーゼはどこに行きたい?」

「そ、そうデスネ……お弁当を持って、ドラムに会いに行きましょうカ?」

「いいね」

「オニギリの具、何がイイデスカ?おかずも何が…」

 

 

 

水滴を弾く少女の滑らかな肌の上に、少年の影が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪限りない夏の匂い 両手に抱えて

 “Come With Me”

 離さないよ君を もう二度と

 高気圧ガール...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁ」

勝とリーゼが戻ってきても、そこにはヴィルマしかいなかった。

鳴海としろがねはふたりの時間を未だ満喫中。

哀れなフラレ男三人はまだナンパから戻らないということは、なかなかヒットできないでいるのだろう。

ヴィルマは……見ず知らずの男ふたりを傅かせていた。

ひとりに腰を揉ませ、ひとりをパシリに使っている。

「誰?その人たち」

「いいでしょ?便利よ、拾ったの」

女王の風格でヴィルマは男たちを足蹴にする。

「は、ハァ…そうデスカ…」

「リーゼ、男ってのはこういう風に使うものよん。もっと、気持ちを込めて揉みなさいな、刺すわよ?」

「はいっ、すみません、ヴィルマ様」

叱られた男は何だか嬉しそうだ。

「ヴィルマさん……リーゼ…さんに変なこと教えないでよう…」

 

 

 

あの後、波間で告白したことも、虹のかかりそうな波飛沫の中でファーストキスを済ませたこともしばらくは皆に内緒。

せっかく見つけた宝物なのに、皆に茶化されたら勿体無いから。

 

 

 

「海の家に行きまショウカ?」

「そうだね」

 

 

 

さっきよりもずっと歩く距離を縮めたふたりの姿に、ヴィルマはにんまりと笑う。

「うまくまとまりそうね……小さい恋人たちも」

ヴィルマは呟いて、傍らの男の捧げ持つ、トロピカルカクテルのストローを真っ赤な唇で咥えた。

 

 

End

 

 

 


 

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