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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続・高気圧GIRLS。

 

 

銀色の星の下、

亭々たる樹の元で。

 

 

(後)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、なかなか寝付けないまま朝も早くから目が覚めてしまったリーゼは、赤い目をこすりこすり仕方がないので起きることにした。

時計を見ると5時半前。

しろがねはまだ戻っていなかった。

いつもしろがねが寝ているはずのソファが蛻の殻なのを見ていると、妙なリアリティを感じる。

 

 

 

大きな欠伸をしながらタオルと洗面用具を持って水場に向かうと、リーゼはそこでしろがねとばったり出くわした。早朝だというのに、しろがねは洗濯に精を出していた。

「おはようございます」

しろがねは特に変わったこともない様子でリーゼに朝の挨拶をする。

「オハヨウゴザイマス…」

しろがねの顔を見た途端、鳴海と昨晩何をしていたのか、なんて爽やかな朝にはそぐわない質問が頭に浮かんでしまって逆にリーゼの方がぼんっと顔面に血が上る。リーゼは慌てて蛇口に飛びつくとバシャバシャと顔に冷水を当てた。

「今日はずい分早いですね」

「え?ええはい、ちょっと何だか目が覚めてシマッテ…」

リーゼは鏡をのぞいて顔色が元に戻っているのを確認すると、何度か深呼吸をして

「私も手伝いマス」

と、しろがねのお向かいにしゃがみ込み、タライの中の洗濯物に手を伸ばした。

 

 

 

しろがねは気分よく歌を口ずさみながら、手際よく洗濯物を洗い上げていく。

口元には淡く笑みが浮かんでいる。

『しろがねサン、機嫌がすごくよさそうデス…』

それもそのはず、しろがねは鳴海に一晩中、可愛がってもらったのだから。

心も身体も、足の爪の先から髪の毛の一筋に至るまで満たされきっている状態なのだ。

しろがねの銀色の髪がまだ半乾きなのが、ついさっきまでの情痕なのだけれど、まだリーゼにはそれが分からない。ヴィルマなら即座に気がつくところだけれど、朝に弱い彼女が起きだしてくる頃にはすっかり乾いてしまうだろう。まあ、それでもシャンプーの匂いがいつもと違うわね、とかそんなところからいつもバレて、からかわれてはいるのだけれど。

 

 

 

身体と身体で愛し合うこと。

それについて、具体的には分からない。

けれど、昨夜、鳴海と過ごしたことがしろがねに内側から輝くような美しさを与えていることはリーゼにも容易に分かる。ただでさえ、しろがね、という女性はきれいなのに、しっとりと濡れたような艶やかさが彼女から滲み出している。無意識のうちに満ち足りた幸せが静かに伝わってくる。

『私も…マサルさんと居るコトでこんな風にキレイになれる日が来るのカナ…』

ぼうっと見とれていたら、しろがねがやさしく

「どうかしましたか?」

と声をかけてきたので

「な、何でもありまセン!」

と妙に張り切って、リーゼは洗濯物をゴシゴシ、ゴシゴシと洗いまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、夕飯の後片付けをしていると、しろがねが

「ああ、すっかり忘れてました」

と、ぽん、と両手を合わせた。

「リーゼさん、お願いがあるんです」

しろがねは皿洗いの手を止めて、タオルで手を拭きながらにっこりと微笑んだ。

「何でショウ?」

リーゼも布巾で皿を拭う手を休める。

「駅向こうの手芸用品店に注文していたものが入荷したと連絡があったのを忘れていました。それを取りにいってもらえますか?そのお店、明日はお休みですし、できたら今日中に…。閉店時間は20時なので急げば間に合います。ここの残りの片付けは私がやりますから」

「いいデスヨ」

リーゼは皿をテーブルの上に置くとエプロンを外した。

しろがねは続いて勝にも声をかける。

「お坊ちゃま。リーゼさんについていってあげてください。夜道は女の子一人だと危ないですから」

「うん、分かった」

しろがねは唇に人差し指を当てると、ふたりにウィンクをした。

その口元が、「ごゆっくり」と形を作る。

リーゼと勝のためにしろがねがわざわざ用事を作ってくれたのだ。

「くれぐれも気をつけてくださいね」

「うん」

「それでは行って参りマス」

「いってらっしゃいませ」

しろがねは手を振る。

リーゼは勝と瞳を合わせるとにっこり、と微笑んでふたり並んでお使いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふたりはお使いをさっさと済ませると、近くの公園の中にある大きな大きなシンボルツリーの足元のベンチに腰掛けておしゃべりを楽しんだ。しろがねが鳴海とキスを交わしていたのはこの公園の端にある樹だったが、今ふたりがいる樹は公園のど真ん中にあり、亭々と夜空に聳え立っている。

8月の夜空に銀色の星が散らばって、今夜の月は猫の目よりも細いから、彼らは存分に光っている。

「夏の夜空って探しやすい有名な星座や星が多いよね。蠍座に射手座、鷲座に琴座に白鳥座…」

勝と手を繋ぎながら、そういえば、あそこらへんの木の下でしろがねは鳴海とキスをしてたっけ、なんて考えているリーゼは少し気が漫ろだ。

勝はそれに気付かずに、星の海について語る。

 

 

 

「あの一番明るいのがベガ。七夕の織女。天の川を挟んでアルタイル…牽牛だね。それからベガの上の方にある青白い星がデネブ。この三つを結んだのが夏の大三角」

勝は次々と星空を指で差す。

「詳しいんデスネ」

「うん、星って好きなんだ。一度宇宙って行ってみたいよね」

勝の瞳の中にも星がキラキラしている。

リーゼは何だかうらやましい。

「あかいめだまのさそり ひろげた鷲のつばさ あをいめだまのこいぬ ひかりのへびのどくろ 

オリオンは高くうたひ つゆとしもとをおとす……」

宮沢賢治の『星めぐりの歌』の一節を呟いて、勝の視線が星空を泳ぐ。

リーゼは少年らしい少年の勝を微笑ましく見つめる。

「ほら、リーゼ。西の方にある、あの赤い星がアンタレス、蠍の心臓」

「男の人って、いいデスネ。夢がいっぱいで、今にも空に駆け上がってしまいソウ」

「子供っぽいってことなんだろうね」

「そういうんじゃなくテ…」

リーゼは上手く表現できず、少し黙り込んだ。

 

 

 

男の子は男の人になっても子供の心を忘れない。

鳴海を見ていてリーゼがよく思うことなのだが、あんなにも大きくて逞しい頼れる大人の男なのに、どこかあどけなくて危なっかしくて心が大きく広がっていて、そんなところがしろがねの母性本能をくすぐっているのではないのか、と。

子供と対等に話せ、遊べる純粋さを持っている。

それでいて同時に包容力をもって、しろがねの心も身体も包み込んでいるのだ。

そして勝はそんな鳴海に憧れを持っている。

いつか鳴海のようになりたいと言い、時に鳴海にとても似ているな、とリーゼも思うことがある。

だからきっと、近い将来鳴海のような男になるのだろう。

 

 

 

逆に、女の子は『女』になっていく、夢見がちではいられない、とても現実的で打算的な生き物に。

男の子のようにいつまでも心に翼を生やしてはいられない。

翼を生やしたままの少年は、大地に足をつけたまま動けない少女とどのように接してくれるのだろう?

一番目、少女を置いて遠くに飛んでいってしまう。

二番目、飛べない少女の傍らに、少年も飛ばずに居てくれる。

三番目、大きな力強い翼で、少女も連れて飛んで行く。

鳴海は明らかに三番だ。

己を人形と信じるしろがねを閉じこもった殻から強引に引っ張り出し、外界へと連れ出した。

今はこうしてサーカスにいるしろがねの傍にいるけれど、いずれ自分の飛び立つ世界へしろがねも連れて行くのだろう。

大きな翼でどこへ向かっても、必ず鳴海はしろがねと共に居る。

 

 

 

ならば、勝はどれだろう?

勝の翼はまだ小さな翼。ようやく羽の生え揃った、若い翼。巣立ちを夢見る向こう見ずな翼。

これからのことはまだ分からない。

 

 

 

握り合う、リーゼの手にきゅっと力がこもった。

私をオイテ、飛んでいかナイデ。

そんなことを考えたから。

「リーゼ?」

「マサルさん…」

見つめ合う。

ふたりの唇が寄る。

そっと触れ合う。

星と星が寄り添うように。

鈴生りの銀色の星星を実につけたような大きな樹の下で、小さな恋人たちはやさしいキスをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度さ、ナルミ兄ちゃんとしろがねと4人でプール行こうよ。夏休みももう終わっちゃうし」

「そうデスネ」

公園からの帰り道、荷物は勝が全部持ってあげる。

だって男の子だもん。

「またさ、あの水着、着てくれる?あれ、すごく似合ってた」

「ホントに?マサルさんにそう言ってもらえるとすごく嬉シイ!」

リーゼがにっこりと笑ってくれると勝の心の中は何とも言えず、温かくなる。

「しろがねは…またあの際どいの着るのかな?」

「ナルミさん、またヤキモチ妬いちゃいマスネ」

「面白いからまた見たい気もするけどね、兄ちゃんのヤキモチ」

 

 

 

さっきの公園でのキスはやっぱりライトキスだった。

でも、リーゼはそれでいいと思う。

私たちは私たちのペースで歩いていけばいい。

だから……あんまり早く大人にならないでネ、マサルさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふたりはなるべくゆっくりと歩く。

このふたりきりの時間が終わってしまうのが惜しくて堪らなくて。

サーカスに着くギリギリまでリーゼとマサルはぎゅっと、手を繋いでいた。

 

 

 

End

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