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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。







足跡

 

 

 

 

 

 

 

青い空には綿あめみたいな雲がぽこぽこと浮かんで。

暖かな海風は少し強いけれど、髪を撫でられると気持ちがよくて。

春の海は穏やかで、まだ海水は冷たいけれど思わす裸足にならずにはいられない。

鳴海と勝は手を繋ぎ、波打ち際を歩く。

とても賑やかに。

振り上げた足先で飛沫を跳ね上げかけ合いをしたり、波をかぶるギリギリまで海の中に突っ込んだり。

ゲラゲラと腹の底から楽しげな笑い声を上げて、子犬のようにじゃれ合った。

 

 

 

その結果。

デカイ男とチビこい少年は思い切りはしゃいで、膝までまくったジーンズも甲斐なく腿の付け根までぐっしょりと濡らしてしまった。

勝にいたってはTシャツのかなり上の方まで色が変わっている。

鳴海は笑顔の裏で自分の背後の人物の動向を気にしていた。

しろがねが、そんなふたりのずっと後ろをずっと黙って歩いている。

 

 

 

ちぇ。きっと怒ってんだろうなァ。

『調子に乗ってお坊ちゃまの服をそんなに濡らして!』

とか

『あなたは大人だという自覚がまるでない!』

とかさァ。

 

 

 

実際、その通りなのだが。

鳴海が調子に乗って勝の服をワザと濡らしてみたりとか、ずっと年上なのに小学生の勝と同等に遊んでたりとか、しろがねに指摘されても何にも言えない。

鳴海にしてみたら、この状況ではしゃいでないヤツの気の方が知れない。

3人で、レンタカーを借りて、一面の菜の花畑を見に来て、美味しい海の幸に舌鼓を打って、波打ち際で足をパシャパシャさせて。

楽しくなるのは必然で。

多少、ハメだって外したくなる。

 

 

 

それでもアイツは怒るんだろうなァ。

アイツの頭の中はいつだってお坊ちゃまのお世話のことでいっぱいだもん。

ま、オレだって自分で『お手本』になるような人間じゃねーってことくれー分かってるけどよ。

 

 

 

鳴海はチラリ、と肩越しにしろがねを見た。

三角目のしろがねと視線が合うことを覚悟して。

しろがねを見て、鳴海の目は細くなった。

しろがねは三角目をしてなかった。

それどころか鳴海や勝のことを見てもいなかった。

スカートの裾を軽く持ち上げて、白くて鳴海にとっては太陽よりも眩しい脚を惜しげなく出している。

海風が銀色の髪をなびかせて普段見えない耳なんかが覗くと、鳴海の心が騒ぎ出す。

柔らかな表情で、自分の足元に視線を落として、彼女なりに海を楽しんでいる。

 

 

 

すげぇキレー、なんだよな。

だけど、あいつはオレのこと、怒ってばっかなんだよな。

そりゃ、オレも悪いんだろうが。

 

 

 

鳴海はしろがねが自分のことを少しでも好きでいてくれればいいと思う。

睨んでばかりのしろがねは一体、自分をどう思ってくれているのか、不安になることもある。

今だって    しろがねが何を考えているか、頭の片隅ではちょこっと不安で。

鳴海はふと、しろがねが変わった歩き方をしていることに気付いた。

妙に歩きづらそうな大股で歩いている。

時折、不規則に右に行ったり左に行ったり、跳ねるように踊るようにして波打ち際を進んでいる。

 

 

 

何だアイツ?

何でそんな変な歩き方してんだ?

真っ直ぐに歩きゃあいいのによ。

 

 

 

しろがねは足元の何かを目印に歩いているようだった。

しろがねの足元にあるのは大小ふたつの足跡で……。




鳴海は、顔を前に向けて嬉しそうに緩んだ顔を勝に見られないように空を仰いだ。

しろがねがどうしてそんな歩き方をしているのかが分かったから。

大股なのは背の高い男の歩幅に合わせているせい。

左右前後に行ったり来たりしているのは、目印がちゃんと真っ直ぐについてないせい。




しろがねは鳴海の足跡を踏んで歩く。

自分のものより二周り以上大きな足跡をそっと踏む。

足元をくすぐる波が鳴海の通り道を消してしまいそうなると、慌てて速度を速めて鳴海の足と自分の足を繋ぐ。

そんなとき、しろがねはとても綺麗な微笑を浮かべる。

そんな他愛のないことが鳴海にはくすぐったくて仕方なかった。




もう一度、今度は大きく振り返ると、しろがねはイタズラが見つかった子供みたいにちょっとバツの悪そうな、恥ずかしそうな顔をして

「な、何だ?」

と強気な瞳で睨んできた。

「いや、なーんも?」

鳴海はニヤリと笑って、勝とのじゃれ合いに戻る。

しろがねはまた鳴海の足跡に自分の足をはめる作業に戻る。

 

 

 

ふたりの距離は変わらないけれど、心の距離が格段に近くなった気がして。

鳴海は今度はふたりっきりで海に来よう、と考えた。

そのときにはきっと、ふたり並んで手と手を繋げるはずだから。

 

 

 

End

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