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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。







命短し、恋せよ益荒男!改め、

命短し、


恋せよ

乙女!





(六)


学祭の全てのイベントは無事終了した。拳法部の焼き鳥屋も完売し、三本締めで締めくくった。
そして待つのは後片付け。
それが終わったら打ち上げだ。
鳴海は酒が飲めないので、あまり飲み会、というものには意味はないがあの楽しい雰囲気が好きなので食べる専門でいつも参加している。


鳴海は大量のゴミ袋を両手にゴミ捨て場に向かう途中、拳法部の屋台から程近い建物の影に
目立たないように立っているミスキャンパス(2連覇)を見つけた。
如何にも誰かを待っている顔で通りを窺っている。ゴミつきの鳴海とミスキャンパスのしろがねの目が合った。軽く握られた拳がしろがねの口元を隠す。
誰かと待ち合わせか?男とだったらイヤだな。
そんなことを考えつつ、とりあえず、鳴海はしろがねの前を大股で通り過ぎるとゴミを放り投げに行った。鳴海が行って戻ってきても、しろがねはそこに立っていた。何かを言いたげに、その視線が鳴海を追う。
オレに何か用でもあるんかな?
鳴海の歩みが遅くなる。
片付けがまだ山のように残っているけれど……まあ、あいつらにやらせればいいか。何しろ、あいつらにオレは貸しがあるんだ。


鳴海は足の先をしろがねに向け近づくと
「優勝おめでとう」
となるだけ普段通りの顔と声を心がけた。何しろ、先程、ミスコンで瞼に焼き付けた彼女のバイスバディが残像のように消えてくれないのだから。
「あ、ありが…とう…」
しろがねはぼふっと赤面すると、モジモジと下を向いた。
辺りはもうすっかり日も落ちて暗くなっているけれど、それでも分かるほどしろがねの顔は赤い
鳴海はしろがねの様子に戸惑って自分も一緒に少し赤くなって、仕方ないので頭をガリガリと掻いた。
今日のコイツって何だろな?


「……私は……見てくれだけだから……こういうので人に負けてしまったら、本当に何も残らないからよかった…」
いつもの鳴海のセリフを自分を蔑むように使う。鳴海は責められているようで、胸が苦しくなった。
「何だよ?モノ言いたげにこっちを見てると思ったら…。イヤミを言いたかったのか、おまえ?」
「ち、違う!そうじゃない!私が言いたかったのは…」
しろがねは赤面した顔をグッと上げて、鳴海を見上げると決意に満ちた表情で
「カトウ、あなたはリシャールのことが好きなのだろう?」
と唐突に言った。


「はああ?」


鳴海は絶句して、開いた口が塞がらない。
「いい、隠さなくても。あなたがその……男の人を愛する……人だって聞いて、ようやく納得できた。リシャールが私にあからさまな好意を見せるから、あなたは私のことが嫌いだったのだろう?だから、私とずっと口も利かなかったし、あんなにケンカばかりで。授業中もよく睨んだり、じっと見つめたりするあなたの視線を感じてはいたが……あれはリシャールを見つめていたのだな…」
それで、私のことを睨んでいた。何故ならあなたは私を恋敵だと思っているから。
「だけど、さっきも言った通り私はリシャールのことは何とも想っていない。私はあなたの恋路の邪魔はしない。だから、せめて、敵意を見せるのは辞めてもらえないか?」
鳴海が絶句している間に、しろがねは言いたいことを言い切った。





しろがねはさっき『カトウナルミに恋している』という事象を認めた段階から、非常に真面目に自分の気持ちと向かい合った。
ゼミに入室した当初からの自分の鳴海に対する行動を客観的に熟慮してみた。
ミスコンの間中、そのことばかりを考えていた。


有名人のしろがねに目が向かなかった鳴海と違い、しろがねは入学当初から加藤鳴海という男を知っていた。
何となく、意識していた。
キャンパスでその姿を見かけると目がいってしまう。
鳴海自身、自分が学内で目立った存在だという自覚はない。
が、実際はけっこう目立っていた。デカイし強い。
それだけでなく、彼はその人柄の良さから学年性別を問わず周囲から好かれていることを、本人だけが知らない。
以前から、実はしろがねは鳴海を見かけると何となくその一日が楽しかった。
それがどうしてなのか分からなかった。今ならば、その理由に心当たりもあるけれど。


偶然、その鳴海と同じゼミになった。
でも何故だか、鳴海と全く話ができない。
鳴海はしろがねに興味がないのか、全然寄ってこようともしない。視線すら合わない。しろがねは自分から話しかけに行くこともできない。初対面の人間に自分の方から近づいていったことなどいまだかつてない。
鳴海は開始早々、ゼミを欠席した。それも続けて。
ゼミが始まって一ヶ月経つのに、一向に鳴海との距離が縮まらない。
これでは赤の他人と何ら変わらない。
だから、とうとう、しろがねは清水の舞台から飛び降りることにしたのだ。意を決して、鳴海に話しかけた。だが、本人には意を決して、とかいう自覚はなかった。
こんな不真面目な人には一言言わねば。
鳴海に話しかけるのに、そんな言い訳をつけていた。


冷静な顔の下で相当テンパっていたしろがねは、今振り返ってもあのとき鳴海に何と言ったのか思い出せない。ただ、彼女の本当に伝えたかったことは、休まないでゼミに来て欲しい、ということと、休むなら連絡を入れて欲しい、ということ。特に連絡の件などは、「明日はゼミに行けないからよろしく」と鳴海から電話がかかってくるようになるかもしれない、と考えただけでその実、舞い上がっていた。
そう、ケンカをするつもりなんてこれっぽっちもなかった。ただ、仲良くなりたかっただけ。
でも、気がついたときには収拾のつかない大喧嘩になってしまっていた。
きっと、自分の言い方がまずかったのだとしろがねは今は思う。
元々、人と話すのは得意ではないから。話し方が高圧的、というのもよく人から言われることだ。
彼は第一印象で自分を嫌いになったのだと思う。自分は、自分のせいで嫌われてしまったのだ。


それからのしろがねと鳴海は公認の『犬猿の仲』になった。
自分とはケンカばかりの鳴海は他のゼミ生、とりわけ女子生徒とはいつも仲良く話している。
あの、とびきりの笑顔で、楽しそうに話している。
よく、男女も先輩同期も取り混ぜて、鳴海の家で飲み会をしている、と聞く。
しろがねは一度も行ったことがない。
鳴海も誘わないし、犬猿の仲であることは周知の事実なので他のゼミ生たちからもしろがねには声がかからない。
リシャールですら、鳴海の家での飲み会に何度か顔を出しているのだ。
しろがねの胸の内はキリキリと痛んだ。
その痛みを、鳴海のゼミにおける態度の悪さ、不真面目さからくるムカつきだとしろがねは考えた。
ケンカの度に鳴海が言う『かわいくねぇ』、『見てくれだけ』という言葉もしろがねの心を切り刻んだ。
それは自分の内側も外側も、鳴海に否定されていることに他ならない。
だから殊更、自分は鳴海のことが嫌いなのだと思い込んだ。
自分を嫌っている相手のことを好きだなんて、絶対にあってはならない!
カトウナルミに好感を持ったことなんて、一度だってない!
そうしてしろがねは、自分自身の本当の気持ちに厚い厚い目隠しをした。


だけれど目隠しはとれてしまった。
しろがねは鳴海に恋をしている自分をそこに見つけてしまった。
もう、知らないふりはできない。
後戻りはできない。
鳴海に嫌われているのだとしても。
だけど、どうしていいのか分からない。
恋なんて、したことがないから。


それなのに。
こんな想っているということにようやく気付いたのに。
加藤鳴海は同性愛者だという。
自分の想いは一方通行でしかあり得ないのだ。
鳴海がしろがねにケンカ腰の理由。
彼は、リシャールが好きだから、リシャールに好かれている自分が疎ましいのだ。要するに嫉妬。
(リシャールが男性に興味があるとは到底思えないけれど。きっと鳴海は失恋するのだろうな、としろがねは密かに思う。)
だから、彼は自分にこんなにも噛み付いていたんだと、しろがねは納得した。


それでも、彼女の想いは止まらない。
とりあえず、関係の修復を図ってみようと思った。
誤解を解くことから始めようと思った。
鳴海が同性愛者で女のしろがねを恋愛対象と見ることができないというのであれば、せめて仲のいい友達になりたいと思った。
あんなにも人柄がいいと評判の鳴海なのに自分にはその片鱗も見せない。
それくらい、自分は鳴海に嫌われているのだ。それもとんでもないくらいに。
でも、しろがねは鳴海と仲直りしたかった。
大好きな人と反目するのはもうたくさん!





「私も生意気だったことを謝るから…」
鳴海はがっくりと項垂れた。
しおらしい態度でなんちゅーことを言うんだ、こいつは!
言うに事欠いて、オレがリシャールなんぞに片想いをしているだとお!
しろがね、おまえの目にはオレがリシャールに抱かれたいと願ってるよーに見えんのかよ?!
(デマは『ホモでネコ』だから。)
脳裏にリシャールに抱かれて悶える自分の姿がチラと浮かんだ、否、不覚にも浮かべてしまった。
急に鳴海の全身に鳥肌が立った。
身体中が痒くなり、鳴海は首筋をバリバリ掻いた。
「お、おまえは想像力が豊かだなあ…」
「はい?」
どういう心境でしろがねが仲直りを言い出してきたのかは鳴海には分からない。
それは嬉しい。
が、このとんでもない誤解は即座に解かねばなるまい!


「ちっと、ついて来い!」
鳴海はずんずんと歩き出す。しろがねは訳も分からず、その後ろをそそとついていく。
「これ読んで、その意味をじっくり噛み締めやがれ!」
鳴海が立ち止まり、指を指したのは大きな掲示板。
言われた通り掲示板を見上げて、そこにでかでかと貼ってある謝罪文にしろがねの目は釘付けになり、そしてすぐに両手で真っ赤な顔を覆った。


『加藤鳴海は同性愛者ではありません。事実無根の我々のデマです。
彼の名誉のために我々はここに宣言し謝罪します』





ああ、なんてこと!
私はなんて莫迦なことをカトウに言ってしまったのだろう!
知らなかったこととはいえ!





「分かったか?オレはホモじゃないの!まったくとんでもねぇこと言いやがって…!」
よりにもよって、あのリシャールなんぞと!全くもって気色悪ィ!
鳴海はおえっと舌を出してみせる。
「おまえの目にはさあ、オレがリシャールに物欲しそうな態度を取っていたように映ってたワケ?勘弁してくれよ!オレ、一度だって男にケツ貸したいなんて考えたことねぇよ!うわ、痒ィ!また蕁麻疹出てきた」
鳴海はまた首元をバリバリと掻く。その腕には特大の粟粒が一面に立っている。
しろがねは穴があったら入りたかった。
こんな失態、しろがねの人生で初めてのことだった。
大好きな人をホモ呼ばわりしたのだ。それも思いっっきり力強く!
だから、この後どうしていいのか分からず、居ても立ってもいられなくなり、
パニックに陥ったしろがねはその場からダッシュで逃げた。
「おい、逃げんのかコラ!一言謝れっつーの!」


成績表はオールAの才媛、ミスキャンパス2連覇の絶世の美女は、運動神経も抜群によく、
その逃げ足は実に、速かった。



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