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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






Can you celebrate?

a sequel to the story of "inochi mijikashi koiseyo masurao!".

part 2-1. post-party party.






「……ミ……ナルミ……!」
自分を何やら呼ぶ声が、本っ当ーに遠ーくから聞こえてくる。
何でか眉間やらコメカミやらが酷く痛む。
できるなら放っておいてもらいたい。
「ナルミ……ナルミ……」
その声は鳴海の一番大事な女のものだということはとっくに分かっているけれど、頭も身体も言う事を聞いてくれない。変に身体に力をいれたら、もしくは、もうちょっと意識をはっきりさせたら胃が嫌な運動を始めてしまいそうで怖い。このまま泥のように眠らせて欲しい。
「ナルミ!ナルミったら!」
けれど相手も折れてくれない。血相を変えて怒鳴っているようだ。
とはいえ、こっちも背に腹は変えられない。


「……ぐむむ……もうちっと寝かしてくれ……」
「ナルミ!」
ごちっ!!!
と脳天に特大の拳骨が飛んだ。
「痛ぇ!」
「いい加減にしなさい!」
怒色に溢れたしろがねの怒鳴り声に鳴海はガバッと跳ね起きた。一気に酔いが醒める。
と、同時に一気に痛めつけられた胃が悲鳴を上げて、中身を上に押し上げ始めた。鳴海は喉に込み上げてくる不快な感触を必死に大きな手の平で押さえつけ脱兎の如く、ベッドから飛び降りると慌ててトイレに駆け込んだ。


間一髪。


はーっはーっ、と涙目で便器の中をグルグルと回る流水を眺めながら、何でこんなに苦しい思いをしているんだろ、オレ?という疑問がぼんやりと脳裏に浮かぶ。胃の中を空にしてフラフラとトイレから出てきた蒼白な顔色の鳴海は、怒りの形相も凄まじいしろがねの視線に串刺しにされた。
「……よう」
「よう、じゃないでしょう?さっさと支度なさい!」
「支度?」
要領を得ない鳴海の返答にしろがねのイライラレベルが上がる。
「二次会の支度。可哀想だからギリギリまで横にならせてあげたけれど、もうそろそろ支度しないと間に合わない」
イライライライラとハイヒールをとんとん踏み鳴らしているしろがねは艶やかな桜色のチャイナドレスを身に纏っている。
「きれいだな。よく似合ってる、それ」


二日酔いガンガンの、それでもってとうのしろがねからの非難轟々でも眼福に預かれて純粋に嬉しい鳴海は素直に褒める。しろがねは鳴海の言葉にぽっと頬を赤らめて「ありがとう」と思わず言いかけて、
「って違う!早く支度をして!シャワーをざっと浴びてきたらどう?」
と、つんけんとした態度で鳴海を追い立てた。
「おい。何を怒ってんだよ」
「何を、って。あなた、披露宴の後半、どんな醜態を晒したのか覚えていないの?」
「あ……そうか……」
披露宴。
それでオレはこんなに酔っ払っちまったんだっけ…。
あれ?オレはどうしてこんなになるまで飲まされたんだっけ?
「いいから!早く支度してったら!」
「わ、分かったって」
しろがねは鳴海の大きな身体をグイグイと押してシャワールームに押し込んでドアを閉めた。
中からシャワーの勢いよく流れ出る音を聞いて、険しい顔で息をつく。


「全く!仕方ない人なんだから!」
招待客の見送りを新婦だけでするなんて!
どこにお呼ばれしたってそんな結婚式なんてないだろう。
だけれど、鳴海がアルコールにとんでもなく弱いことは分かりきっていたし、お目出度い席で飲めないからと言って全く飲まないわけにもいかないだろうことも分かっていた。しかも鳴海の悪友連中の性質の悪さも知っていたから、もしかしての最悪のパターンはそれなりに覚悟はしていた。きっと式途中で酔っ払っちゃうかも、と。覚悟はしていたけれど想像で済むことと現実になることに大きな違いがあるわけで、しろがねはかなりがっかりはしていた。がっかりはしても、一応想定内ではあったので諦めもついた。


問題は。


「……私と付き合ってからもフーゾクの店に行ってたなんて…!」
実は彼女にとってはこっちの方がずっとずっと問題だった。
自分、という彼女がいながら(どんなサービスをするところなのか、女のしろがねにはよく分からないけれど)、鳴海が風俗店に頻繁に足を向けていた事実はものすごくしろがねを打ちのめしていた。
馴染みの店、いつも指名するコ、女のコ達からの逆指名。
あのスピーチの内容を考えただけで頭がクラクラする…!
鳴海が風俗に行っていたことによってしろがねに引き起こされた感情は、そんな如何わしい店に鳴海が行っていたことによる憤怒よりも、そんな店に鳴海が通わざるを得ない状況を自分が生み出していたのかもしれないという女としての自信喪失による不安や哀しみ、といったものの方が色濃くて、彼女は正直泣きたくて堪らなかった。


「鳴海は……鳴海にとって私は……物足りなかったのかな……つまらなかったのかな…」
抱いても面白い女ではなかったのか、満足をさせてあげられない女だったのか、だからその不足な部分を玄人の女のコで埋め合わせをしていたのか。そう考えると一概に鳴海を責めるのは間違いなのかもしれない、いえいえ、だからといって恋人(今は旦那)の風俗通いを肯定する女はどこにもいないはずだと、葛藤し、結果鳴海には怒りという形で発露してしまっている。
シャワー室から鳴海が出てくるのを待ちながらも頭の中が「ナルミに不満足感を与えていたのかも」ということと、「自分以外の女のコには満足していたのかも」ということ、「これからどうしたらいいのだろう」「ナルミに訊いてみた方がいいのかな」なんてことが綯い交ぜになって、しろがねは困惑していた。犬猿の仲を返上して初めて抱かれたあの日から数え切れないくらいに身体を重ねてきて、しろがね本人は鳴海に対して非常に満足していて不満なんて持ったことがなかったし、他の男性に抱かれたいなんて欠片も思ったことがなかったし、それ以前に鳴海以外に目が向いたことが一度もなかったから、鳴海も自分と同じだと思っていた。


でも違った。
彼は私ひとりでは満足できなかったのだ。
女としてのプライド、嫉妬、不安、怒り、哀しみ。
何で人生で一番、問答無用で幸福を甘受できる日なのにも関わらず、こんな気分を味あわなければならないのか、そしてそれはやはり鳴海のせいなのだから鳴海にその納得いかない気持ちをぶつけてもいいのだ、とイライラを募らせていた。


しばらくして、シャワー室から幾らかさっぱりした顔になった鳴海が出てきた。しろがねはどんな顔をすればいいのかが分からず、ぷい、と外方を向く。それに気がついた鳴海がものすごく情けない顔になる。
「なァ、しろがね。人生一度の晴れ舞台で酔っ払って見っともねぇとこを見せちまったのは謝るよ、この通り!だから機嫌直してくれよ、な?」
バスタオルで身体を拭く手を止めて頭を下げる鳴海の足元にチラと目を向けて、すぐにまた顔を背けた。
「頼むって」
「酔っ払ったことはもういい。怒ってはいない」
「だったら何を」
「風俗」
「ふ……ああ、あのな、あれはな、その……付き合いで、その…」
そうか、それもあったな、しろがねが怒っているのはそっちだったか、と鳴海は濡れた髪をガリガリと掻き上げるが、これ、といったいい言い訳が思い浮かばない。実際、風俗店でサービスを受けたのは事実。それが彼女(今は奥さん)にバレたときの上手い言い訳なんて世の中には存在しないだろう。


しろがねは膨れている。しろがねとしても自分の納得できる言い訳を鳴海が用意できるなどとサラサラも思ってはいなかったが、案の定上手く言い訳出来ない鳴海に更にイライラ度を上げる。
「お馴染みの店に逆指名してくれる可愛いお馴染みのコがいたんでしょ?だったらその子と結婚すればよかったじゃない」
彼氏を満足させてあげられない彼女なんかじゃなくって。
鳴海に皮肉を言いながら、かえって泣きそうになってしまってしろがねはグッと胸の中に膨らんでくる感情を必死で堪えた。
「しろがね…だから、別にオレ自身が行きたくて行ったわけじゃなくって…」
「いいわよ別に付き合いでも何でも。どんなことを言ったってあなたの下半身に節操がないことには変わりがないんだから」
「しろがね…」
ビシビシと容赦なく飛んでくるしろがねからの文句の槍に鳴海は返す言葉も無い。
「早く着替えてきて。二次会で皆が待ってる」
鳴海が時計を見るとギリギリどころか絶対に遅刻は決定な時刻だったので、これ以上のしろがねへの言い訳は後できっちりすることにして鳴海は荷物の置いてある部屋へとすごすごと引っ込んだ。


鳴海が部屋を移ったことを背中で感じるとしろがねは大きな溜め息をつき、両手で顔を押さえた。
ケンカをしたいわけじゃないのに!
ああもうイヤ!もう最悪!
せっかくのスィートルームもムード満点な雰囲気も、フカフカの大きくて豪華なベッドも今のしろがねには空寒々しいだけで、今夜は別々のベッドで休むことになるような予感がした。幸せにHができる気がしない。
その時、しろがねの携帯が鳴った。見ると父・正二からの着信。
「もしもし?」
『エレオノール。今日はお疲れ様だったな』
正二の声を聞いて、しろがねのイライラはかなり解消された。その反面、泣きたい気持ちが反比例して大きくなってしまう。
「お父さんこそ。お疲れ様。どうかしたの?」
『ああ、いや……鳴海くん、どうだい?』
鳴海、と言われてドキリとする。
「いまさっき目が覚めて二次会の支度をしているわ。どうして」
『いやなに。彼にとってはとんでもない内容だったからなぁ……おまえとケンカしているんじゃないか、って思ってね。』
正二は苦笑している。


『鳴海くんは破格に酒が弱いからね、でも彼なりに頑張った結果なんだから。まあ、そこのところはおまえが一番分かってあげてるだろうから父さんも心配してないんだがね、問題は彼の友達のスピーチだな』
図星。何ていいタイミングで電話をかけてきてくれるのだろう。改めて親のありがたさが身に沁みてきて涙が溢れそうになる。娘が黙ったままだけれど、正二はそれにかまわず話を続ける。
『おまえが怒る気持ちは分かる。でももう過ぎてしまったことだ。問題はこれからのことだろう?おまえと結婚したこの先、彼がそういうあー…遊び場に行ったのなら文句を山ほど浴びせてやれ。そしていつでもいい、帰って来い。おまえを泣かせるような不届き者は父さんが愛刀で真っ二つにしてやる。今度は絶対に負けん』
「お父さん…」
『だけどな、若いうちに馬鹿をやっとくもんだ。女遊びの免疫がなくて結婚する方がずっと怖いぞ?遊んだことのない奴が所帯持ってから味を占めたらもっと厄介なもんだ。それにな…おまえと付き合っているときにそういうところで遊んだ、と言っても彼はおまえのことがとても好きだぞ?父さんには分かる。安心なさい』


「お父さん…あり」
しろがねが父親の感謝を全部言い終わらないうちに電話の向こうの相手が代わったようだ。
『エレオノール?』
流暢なフランス語、ルシールだ。どうやら遠慮無しに婿の携帯を奪い取ったらしい。
「おばあさま」
『いいかい、エレオノール?夫が結婚前に遊んだことをとやかく文句を言うのはいい女のすることでないよ』
「…はい」
『夫の弱みを握れたと喜ぶんだ。物は考えようさね』
「はい」
『ケンカなんてくだらないよ。楽しく祝ってもらっておいで』
「はい、ありがとう、おばあさま。お父さんにもありがとうって伝えておいてね」
電話を切ったとき、しろがねのイライラはすっかりどこへやらへとなくなっていた。


「なァ、しろがね」
二次会用の白の道着(特注品。一応しろがねとお揃い)に着替えた鳴海がおずおずと謝りの言葉をかけようとする。
「もういいわ、怒ってないから」
予想外の言葉。
さっきと打って変わってしろがねの声がトゲトゲしていないので鳴海が拍子抜けしたような顔になる。
「今、父と祖母から電話があったの。あなたとケンカをしてはダメだって」
「あ……も、申し訳ない……」
この申し訳ない、はしろがねに、というよりはしろがねの身内(ギイを除く)に対する申し訳ない。
「だから、もういいの。私も、ケンカしたいわけではないし」
「あのな、しろがね」
「いいの、行きましょう。遅刻だわ」
「ごめんな。もう……絶対に行かねぇから」
鳴海がしろがねの肩を抱き寄せる。
鳴海が自分と付き合ってからも風俗に通ったことは水に流した。鳴海も二度と行かないと言うし、もう怒ってはいない。けれど、どういうつもりで鳴海が風俗に行ったのか、についてはそのままになっていて何にも解決していなくてナルミは私を抱くのに苦労しているのかな、という蟠りはしろがねの胸の中に残った。







温かい鳴海の手。
逞しい鳴海の身体。
いつも通りの鳴海なのに、その心だけが見えないような気がしたまま、しろがねは鳴海と二次会の会場にタクシーで向かった。



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