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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






Can you celebrate?

a sequel to the story of "inochi mijikashi koiseyo masurao!".

part 1. a wedding reception.








とある居酒屋。
深夜26時。
もう何次会なのかも忘れた。
ここまで来ると、今日の主役たちは既にいないし、残っているのは本当に酒が好きで酒の強い連中のみ。
やたらと体格のいい強面の男たちが数人、似合わない礼服に窮屈そうに身を包み、チビリチビリと酒を酌み交わす。


「いい披露宴だったなぁ…」
誰かがまた、今日の(もう昨日の)披露宴の話題を持ち出した。
彼らの大学時代の拳法部の同期、加藤鳴海の披露宴。
「いやあ、何が来て良かったって、しろがねさんの花嫁姿を見られたことだよあ」
「はぁ…久し振りに会ったけど、やっぱり美人だった…すげーきれーだった…白いウェディングドレス…」
「オレ、会場に早く着いちまったからさ、白無垢姿も拝んだぜ?超、絶、この世のものではなかった」
「マジで?」
「あいつにゃあ、勿体ねえ…」
「勿体無さすぎる…」
男たちは同期の友を祝福する、というよりもずっと、この妬み妬みの嘆き節が続いている。







加藤鳴海と才賀しろがね。大学のゼミの同期。
大学2年の晩秋から付き合い始めたふたりはこの度目出度く、結婚の儀を執り行うことに相成った。
鳴海としろがねの式は神前式で、古風にしめやかに行われた。


はっきり言って、鳴海は結婚式とか披露宴なんてものに興味が全く無かった。仲間内で妻帯者第一号、結婚披露宴開催第一人者になる鳴海は悪友たちのからかいのネタになることが目に見えていたから。けれど、しろがねとは出来るだけ早く所帯を持ちたいとそれはもう大学に在学中から密かに思っていたし、しろがねが人並に式を挙げたいというのならそれは男として叶えてやらねばなるまい、と考えてはいた。だからまあ、式や披露宴に関してはしろがねがやりたいようにやればいいし、何を選ぶにしてもしろがねの好きにすればいいと鳴海は殆ど事後承諾だった。
しろがねは衣装関係を皆、母親と選んだ。鳴海の仕事の都合がつかなかった、ということもあったけれど、彼女的に当日鳴海をアッと言わせたい、驚かせたい、という意図があったのだ。しろがねが式で何を着るのか、気にならないでもなかったけれど、「当日のお楽しみ」と言われれば鳴海はそんなもんか、と納得した。


それが、親族顔合わせの直前、ちょろちょろと何の気なしに新婦親族の控え室を覗いて鳴海は魂を抜かれてしまった。綿帽子に白無垢。ただでさえ白い肌に花嫁化粧を施して、はんなりと座るしろがねは実に美しかった。
銀色の髪で銀色の瞳で和装なんてどんなもんだ?と内心思っていた鳴海もぐうの音が出ない。
オレの嫁はきれいすぎる!
写真撮影の間だって、三々九度の間だって、紋付羽織袴の新郎・加藤鳴海は落ち着かなかった。くどい様だが、あんまりにも自分の花嫁がきれいすぎて。いや、しろがねがきれいなのは鳴海が一番良く知っているんだけれど、ここまできれいだとは想像もつかなかった。綿帽子の向こうから花嫁化粧をしたしろがねに、にこり、と微笑まれるとこれまでの付き合いの経過なんてすっかり頭から抜けて改めて惚れ直す自分がいる。


オレって、もしかしなくても三国一の果報者?
そう言えば、しろがねの和装って初めて見たかもしんない。


意外にも、浴衣で寛ぐような旅館にふたりで行ったことってなかったし(泊まるといえばHホテルばっかで)、浴衣で花火を見に行くってこともしたことがなかった。『ふたりで一緒に過ごす』ことが大事だと思っていたから、どこに特別出かけなくても満足だった。
しろがねの和装姿って、けっこうそそるかも……。
鳴海は畏まった席でそんなことばかりを考え続けていた。







「鳴海もさあ。ずい分早くに結婚を決めたもんだよな。文句なしに一番乗りじゃん、しかも卒業して一年経ってねぇし」
「あいつ、一浪組だから…24?しろがねさんは現役組だから23か」
「彼女、元旦生まれだからまだ22」
「おまえ、詳しいな」
「だって、オレ、マジでしろがねさんに惚れてたんだもんよ。鳴海と別れるのずっと待ってたのに……ぅぅ……」
しろがねにベタ惚れの泣き上戸が泣き出した。もうこれで5回目だ。皆はもう軽く無視する。
「24に22か。若いよな」
「でもよ、しろがねさんが彼女だったら、オレも社会人一年目で結婚決意するな」
「オレもだ」
「オレも」
「オレも」
「あんないい女、無造作にOLやらしてはおけんわな」
「オレらみたいな野郎どもの中に放置できないもんな」
「神々しかったよな…ウェディングドレス…」
「お色直しのドレスも可愛かったぜ?脚も拝めて」
男たちはうっとりと披露宴でのしろがねのウェディング姿を反芻する。







新郎新婦入場でふたりが会場に入ってきた途端、大きな歓声が巻き起こった。
それのほとんどは新婦・しろがねに向けて、だ。
(新郎・鳴海はオマケにしてはデカいが、オマケはオマケだ。)


オフホワイトの光沢のあるシルクサテンのウェディングドレス。銀糸で細かな刺繍の入ったレーシーなこのウェディングドレスはフランス人の母親の肝いりで本場フランスのオートクチュールだという話。エレガントでシックな装い。なのに、ビスチェタイプ、マーメイドラインのこのドレスは身体のラインを思いっきり強調していて胸元も背中も大きく開き、腕も剥き出し。(胸はお辞儀をする度に思いっきり零れそうだった。)露出が多く、黒のタキシード姿の鳴海は隣で気が気でなかったが、悪友たちは鳴海のことなど記憶にも無い。
(ちなみ鳴海の紋付袴とタキシードもオーダーメイド。レンタルに鳴海サイズで気に入るものがなかったため。)


お色直しのカラードレスは打って変わって、薔薇色のオフショルダーのミニスカドレス。スタイリッシュで可愛い感じ。太腿から大胆に美脚を晒すこのドレスも、鳴海は気が気でなかった。何しろシルクオーガンジーが透け透けで、これまた露出度が高かったのだから。とても似合う、とても綺麗、とても可愛い、初々しい新妻としては非常に鼻が高い。むしろ、鼻の下が伸びる。けれど、普段はわりと大人しめの服装が多いのに、何で人目に触れるウェディングドレスに限ってこんなに大胆なんだよ?
何もそんなにセクシーな花嫁でなくてもいいのではナイデスカ?


「ちょっと……肌、見せすぎと違うか?」
会場に入るタイミングをその外で計っている時に、心配性が思わず口に出た。
正直、こんな可愛い嫁は見せびらかしたい反面、人前に出さずにおきたいし、出すならそこらへんのテーブルクロスで簀巻きにして小脇に抱えて歩きたいくらいだ。特にあのバカ面を下げた悪友どもは終始、目隠しをして式に臨んでもらいたい。
鳴海の言葉がヤキモチから出ているとは知らないしろがねの顔が心配そうに曇る。


「これ、似合わない?」
「似合う」
「あなたは好みじゃない?」
「いいや、好き」
「ならいいじゃない?あなたのためのドレスなのだから」
そうにっこりと微笑まれると、骨抜きの鳴海は何にも言えない。
でも、あなたのためのドレスなら、オレとふたりっきりの時に着てくれた方が嬉しいのだが。
(それではウェディングドレスの意味無いけど。)
淡く頬を染めて鳴海の隣で花嫁姿になれたことを喜ぶしろがねは本っっっ当に可愛い!
このまま、このホテルにとった今晩泊まる予定のスウィートルームに直行したい気分だ。清楚で無垢なお姫様のようなしろがねが喘いでいる姿、というのもイイ!とか考えて、オレって今日はこんなことばっか想像してるな、と鳴海は自分で自分に呆れた。







「まあ、予想はしてたけど、騒がしい披露宴だったな」
「仕方ねぇよ。呼ばれたの、オレたちだし」
「あいつも体育会畑で育ったヤツだしな、覚悟はできてただろ?」
「可哀想なのはしろがねさんか」
「最後までしんみりしない披露宴だったよな」







お色直しでキャンドルサービス、の頃には、鳴海の悪友連中のテーブルは完全に出来上がっていた。タダ酒をいい事にガンガン飲みまくる。潰れまくる。吐きまくったヤツもいる。酒の弱い奴は途中退席、披露宴の最後まで参加できないという体たらく。彼らのテーブルのキャンドルは勿論、酒を掛けられ、料理のソースが塗られ、あまつさえ、料理自体が乗せられた。湿気たキャンドルの芯に火がつくはずも無く、結局式場のスタッフが新しいキャンドルに取り替える始末。式が無駄に延びる。
「おめーら、性質悪過ぎっぞ!」
「いよお、鳴海、おめでとー!」
「よっ!色男!幸せ者!」
鳴海が噛み付いても悪びれた様子など欠片も無い。


スピーチを頼んだ奴は緊張のあまり酒を飲みすぎてしまい、出番にはヘロヘロの酔いどれ足で、ちゃんと考えてきた内容も全てすっとび大学時代のとんでもない鳴海の暴露話を披露してくれた。
(例えば、大学生の鳴海がどれだけの頻度で仲間と風俗に行ったとかいかなかったとか。
しろがねという彼女ができてからも行ったとか行かなかったとか。いつも指名する娘がいたとかいなかったとか。むしろ、馴染みの店の女の子たちから逆指名を受けていたとかいなかったとか。)
会場は大受けだ。特に大学関係の奴等(拳法部&ゼミ)は腹を抱えて笑っている。
そりゃそうだ、他人は気楽だ。自分と無関係の奴の不幸なんて甘い蜜の味がするんだから。その時の高砂の上では無言のオーラがしろがねの全身から吹き上がっていようがいなかろうが知ったこっちゃない。怒りマークを多分に含んだオーラが鳴海の身体にぶち刺さる。とてもじゃないけど、しろがねを見られない。


鳴海は場の空気で殺されるかと思った。
やべぇ。血のハネムーンになるかもしれない……。
申し開きなどできない、だって酔っ払っている友人のスピーチの内容は紛れもない事実なのだ。事実無根であっても奴等は鳴海を困らせるためなら、口裏を合わせて平気で嘘をつくだろう。それに鳴海は器用な嘘をしろがねにつけるタイプでもない。
恐怖心を抑え、首をギギギ、としろがねに向ける。
しろがねは笑顔で憤怒していた。
鳴海には分かる。
笑顔で怒っているしろがねに愛想笑いを返しながら、あいつ、後でコロス!と素晴らしいスピーチをくれた友人を呪った。


そしてフリータイムになると悪友たちは雛壇に上り、酒の非常に弱い鳴海に
「結婚オメデトウ!」
「末永クオ幸セニナ!」
とイイ笑顔で次々と酒を注いでいく。
「オレが酒飲めねぇの知ってるだろが!」
抵抗を試みる鳴海に
「今日はめでたい日だ」
「男になれ」
「披露宴とはそういうものだ」
となんやかやと誤魔化してグイグイと飲まそうとする。
「飲まねーと、二次会でしろがねさんにもっと暴露話すんぞ?」
「例えば、泣きつかれて断りきれずに一度ミンシアとデートしたこととかな」
「別れ際にキスされた話とかな」
「う…それは困る…」
なかなか言う事を聞かない鳴海に、悪魔がヒソヒソと耳元で囁く。しろがねと付き合うようになってから、そんなに脛に痛い傷などないはずなのだがこれがまた全く無いわけでもなく今のしろがねとの現状をこれ以上悪化させたくはないので、鳴海はもう悪魔の言いなりになるしかなかった。


隣で旦那がオモチャになっている。
流石のしろがねもその妙な勢いに口も挟めない。
式中は食事を取れないしろがねを可哀想に思い、自分も付き合って何も口にしていない鳴海は空酒状態で。
旦那の顔色は見る見る間に変化していく。
ああ、もうこれは駄目かもしれない。
しろがねはかなり早い段階で諦めた。


最後、新郎新婦とその両親が一列に並んで挨拶する時には鳴海の酔いはピークに達し、辛うじて一人で歩いてはいたものの千鳥足で眠たそうに目を擦りながらフラフラと揺れながら立っていた。しろがねが両親への感謝の言葉を述べているときも、いつ鳴海が倒れるのかとしろがねも双方の両親もヒヤヒヤしてたし、列席者は鳴海の悪友たちに限らず、むしろ鳴海が派手に倒れないかとワクワクしていたのでかなり感動は薄れたように思われる。
最後の新郎の挨拶はもう、支離滅裂で業を煮やしたしろがねがマイクを奪い、挨拶を締めくくるという結末に。
(ふたりは、後からこの時のビデオを見て、あまりの恥ずかしさにそのビデオを封印したと言う。鳴海にいたっては披露宴後半の写真すらも封印した。)


列席者のお見送りはしろがねが一人で行った。
新郎はすっかり潰されて、ホテルのスタッフ三人がかりで部屋に運ばれて、ベッドの上に撃沈した。
全く先の思い遣られる…。
しろがねは人知れず、溜め息をついた。







「まあ、全体的に見たらいい披露宴だったよ」
「しろがねさんと思いっきり握手できたし!」
悪いことをしたなんてちっとも思っていない連中は、とてもイイ笑顔で、改めて
「鳴海の披露宴にカンパイ!」
をした。





postscript 『命短し、恋せよ益荒男!』の後日談、鳴海としろがねの結婚式とその後のパーティのどんちゃん騒ぎを、というリクエストでお送りしているお話でございます。ええと、まずは結婚披露宴編、ということで。この後はニ次会編、初夜編と続きます。本編はふたりの所属しているゼミ友達がメインでしたが、こちらの話は拳法部の仲間がメインです。ゼミの友達も披露宴にお呼ばれしてますが、体育会系の連中の性質の悪さに影が薄くなってます。私も大学時代サッカー部のマネをやっていましたから、体力勝負な連中のしょうもなさは身に沁みています。しかも卒業して一年も経っていないなら学生気分も抜けてなくて手に負えなかったでしょうね。それにしても鳴海、こんな披露宴でいいのか?披露宴編は単に初夜編のオマケとして「こんなんだったよー」、と簡単に説明するだけのつもりだったのに、気がついたら夫婦の間に波風が立ってしまいました。あれれ?おかしいな?それと、しろがねのウェディングドレスについて。原作での貴重なしろがねのドレスは200年前に若者だった男の作ったお笑い人形のチョイスなので仕方ないですけれど、せっかくスタイルのいい彼女にあのドレスはどうかな?と思ったものですから。パフスリーブ、リボンだらけ、膨らんだドレス…。まあ、皆さんは皆さんでしろがねにはこのデザインが似合う!というイメージもあるでしょう。私はどうせなら身体のラインビシバシ!のセクシーな花嫁姿にしたかったのでした。タイトルは他のSSにも書きましたが、ネイティブで「どんちゃん騒ぎをしようぜ!」、「二次会に行こうぜ!」の意味です。いずれにしても、また『ますらお』のふたりを書けるきっかけをいただきまして、心より感謝します!



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