『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。
Baby Baby
~出産編~
深夜の病院というものははっきり言って気持ちのいいものではない。
必要最低限の灯りしか点いてないし、しんと静まり返っていて不気味だし。
けれど、今の鳴海にはそんなことはどうでもいい。
出産予定日よりも4週間も早くに起こってしまったしろがねの陣痛に鳴海は気が気じゃない。
鳴海は薄暗い廊下のベンチに一人腰掛け、そわそわと赤ん坊の誕生を不安交じりに待っていた。
何度も何度も何度も何度も、時計に目をやってもやっても、針はじりとも動いていない。
分娩室に入ってもうどれくらいになるんだろう?
いやいや、それよりも鳴海がしろがねを病院に文字の如く担ぎ込んでからどれくらい経つんだろう?
陣痛室で付き添っていたとき、しろがねは周期的にやってくる陣痛にとても苦しそうな顔をしていた
今も分娩台の上で痛みに耐えているんだろうか?
陣痛は男だったら気絶するくらい痛い、と聞いたことがある。
産後のヒダチが悪くて母親が死んでしまった、という話もあるし、何しろ今夜無事に生まれても早産だ。
鳴海はどちらかというと楽観主義、ポジティブシンキング、いつも前向きがモットーなのに。
もしもこのまま、しろがねも赤ん坊もオレの手の中からすり抜けてしまったらどうしよう?
さっきから最悪の結果ばかりが頭を過って仕方がない。
どうしても、鳴海は自分の弟が死産だと知らされたあの日のことを思い出してしまう。
すすり泣く母。
「赤ん坊のことは、運がなかったとあきらめよう」、そう言って母を慰める父。
「母体も危なかった」、「もう子どもができない」、そう囁く大人たち。
そしてそれをただ遠くから見ているしか出来なかった無力な自分。
そうだ。今も、オレは無力だ。
しろがねの助けにも、赤ん坊の助けにもなれねぇ。
ただ、ここで、ふたりの無事を祈るだけ。
息を止め、全身の筋肉を強張らせて鳴海は長い長い時間を耐えて耐えて、耐え続けた。
廊下の薄暗さが更に暗く昏く、自分を取り囲み押し潰してしまいそうに感じる。
何かがあって、子どもがダメで、しろがねまでいなくなってしまったらどうしよう?
家族が増える喜びから一転、ひとりぼっちになってしまったらどうしよう?
あの時の幼い自分が遠くから今の自分を見つめている気がしてならない。
だから耐え続けて耐え続けて、扉の向こうから赤ん坊の泣き声が聞こえてきたときにはもう、力が抜けてしまって、顔をくしゃくしゃにして泣いてしまった鳴海がいた。
「命って…すげえよなぁ…」
鳴海は泣きながら、ククク、と笑った。
「初めまして。パパよ」
そう言われて看護師さんに渡された、生まれたてホヤホヤでまだ髪の濡れている赤ん坊はようやく2,000gの低体重児ですぐに保育器に入れられてしまったけれど、とりあえず元気で目がぱっちりと大きくて母親似で親の欲目抜きで可愛いと思う。
感無量だ。
何も言うことはない。
母子ともに健康で。
鳴海は自分の両手を眺めた。
さっき抱いた赤ん坊は鳴海の大きな両手の皿にすっぽりと収まってしまうくらいに小さかった。
これが、オレの、子ども。
「お疲れ様」
大仕事を終えた愛妻に声をかける。
「ありがとう…」
「こちらこそ、本当にありがと。ゆっくり休め」
鳴海はそっとしろがねの手を握ってやって、草臥れきった彼女が深い眠りについてもずっと傍についていてあげた。
新しく生れ落ちた、今度は間違うことなくこの世に誕生できた命をずっと慈しもうと鳴海は心に刻む。
「オレが、パパ、って呼ばれるのか……くすぐってぇなぁ。な、しろがね」
鳴海は返事のないしろがねのもつれた前髪を指で梳いてやった。
大事なしろがね。
可愛い子ども。
オレは何があっても愛しい家族を守ってみせる。
しろがねと、赤ん坊と一緒に、笑顔の絶えない家族になる。
そう思うと鳴海の心の中にフツフツと力がとめどなく湧いてくるのだった。
postscript
妊娠が分かったときと出産に際しての鳴海の様子、ですね。鳴海だったら立会い出産をしそうなので、廊下で時間と戦うのとどちらの描写にしようかと悩んだのですが、結局廊下に閉め出すことにしました。鳴海は幼い頃に弟が死産、という経験持ちですからね、しろがねが普通じゃない状況で出産っていったら頭が真っ白になるでしょうね。でもホント、鳴海っていいパパになりそう。子煩悩で奥さん想いで、育児にも積極的で奥さんの手助けをしてくれそう。いいなあ。ああ、勝手に膨らむ理想像。
本当は次の話が最初にあって、その前段階の話も書いて欲しいというリクをもらって書いたのが妊娠発覚編と出産編です。
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