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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






Baby Baby
~妊娠発覚編~





鳴海はトイレのドアの前でじっと待っていた。
まるで買い物中の飼い主を店の前で辛抱強く待つ大きな犬のように。
ここのところ、しろがねの体調が優れないことは鳴海も知っていた。
倦怠感と吐き気を訴えるしろがねが
「胃にくる風邪でもひいたのかしら…?」
と横になることが妙に増えたから。
しろがねは滅多に風邪を引くことなんてない。鳴海も心配になる。
薬を飲むほどではない、けれど長引く症状。


でも、それに
「そういえば、先月生理がこなかった…かも」
というしろがねの一言が加わったことで鳴海の世界が変わった。
そして今、鳴海はトイレからしろがねが出てくるのをいまかいまかと待っている。
検査結果が出るのに数分を要することは取り説を読んで分かっているけれど、その数分が待ち遠しい。
待ちきれない。
「よお?まだ?まだか?」
何べん声をかけても中からの返事がないから鳴海は思った。
ああ、きっと今回はぬか喜びだったんだな、と。


鳴海はこどもが好きだ。
他人のこどもですらこんなにも可愛いのだ、自分のこどもだったらどんなにか可愛いだろう?
この世で一番愛するしろがねとの間に誕生した赤ん坊、その子を抱く自分、考えただけで感動できる自分がいる。
親バカはいいが、バカ親にだけはならないように心がけよう、もうそんなことまで考えをめぐらしている自分がいる。
しろがねと結婚し、一緒に暮らすようになって3ヶ月。
避妊を考えなくてよくなった鳴海はほぼ毎日、しろがねに愛ある種付けを行っている。


切れ間なく、しろがねの体内にはオレの精子が活動してるはずなんだけどなぁ・・・・。
ん?あれじゃまだ仕込みが足んねぇってことか?
うし、今夜から心機一転仕切り直そう。
いや、今からだっていい。
今からやろう。


鳴海がしろがねを待つ目的がさりげなく変わり、別の意味でそわそわしだした頃。
トイレのドアが開き、中から銀色の頭が出てきた。
愛妻を気遣い、鳴海は努めていつも通りの声を出す。
「しろがね、まだ先は長いんだからよ。楽しみが先に延びた、ってだけだから。子作りに精を出しゃあいいわけで♪ で、早速…」
「見て」
しろがねの差し出したスティック状の検査薬。
「…お?」
「陽性反応。私、赤ちゃんできたみたい」
しろがねがはにかんだ笑みを浮かべた。
鳴海の頭の中にゆっくり浸透していくしろがねの言葉。
鳴海は検査薬をひったくり、顔を近づけてその印をじっと見つめる。
「あ、や、やだ、そんなことしな…っ、それ汚れて…」
その小窓にはくっきりはっきりと赤い『+』のマーク。


「でっ、でかした!」
鳴海の顔は一気に明るくなった。
思わず力一杯抱き締めて、赤ん坊を潰したらいかん、とか言いながら腕の力を緩めた。
「しろがね」
「何?」
「よかったなぁ…」
「うん」
しろがねは涙目になっている。
しろがねも、鳴海の赤ちゃんが欲しくて仕方がなかったから。
「これから色々と大変でしょうーが、赤ちゃんを育ててやってください」
「はい」
「オレも精一杯協力しますから」
「はい、期待してます」
ふたりは柔らかく抱き合って、柔らかく微笑み合う。
鳴海はそっとしろがねの髪を撫で、その下腹部に大きくて温かい手の平を当てた。
「元気に生まれて来いよ。待ってるからな」
鳴海は芽生えたばかりの小さな命にやさしく声をかけて、大事なこの命が無事に生まれ出てきますように、と祈った。







postscript  
鳴海とエレに赤ちゃんができたらいいなぁ、という鳴エレファンなら一度は考えたことがあるだろうお話。ですから、パパママをやらせてみました。ふたりの間にできた赤ちゃんが男の子か女の子か、エレ似か鳴海似かは皆さんの想像におまかせします。鳴海はきっとデレデレでしょうね。これが娘なら尚のことデレデレ。おそらく子育てに協力的な夫だと思われます、何しろ奥さんにぞっこんですから。

本当は原作のふたりの間に赤ちゃんができることがベストです。あんなに子どもが大好きな鳴海ですし、エレだって亡き両親に思いを馳せることもできるでしょう。でも彼らは『しろがね』ですから。子どもが親よりも先に老い死んでしまうのも悲劇なら、柔らかい石を持つ高濃度のアクアウィタエで満たされたエレの体内で育つ赤ん坊が『しろがね』化しないとも限らず、そうした場合、子どもには伴侶がおらず、独りで永劫の時を歩いていく定めを負わせるのも悲劇。何だか可哀想ですよ。だからふたりは子どもを作らない道を選んでいくような気がしています。あのバカップルぶりがよけいに悲壮感を漂わせてくれる…。だからせめて妄想の中で、ね。

基本的にはどのSSの鳴海としろがねもこういった道を歩いていくつもりで書いてますから、これは全てのSSバカップルの未来と考えてくださって結構です。鳴海としろがねにはこういったほのぼの路線で普通の人生を歩んでもらいたいのです。


※追記
後日、藤田先生のツイッターにて「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」なんて後付け設定が飛び出したために、このSSを書いた当時の感慨がなくなってしまいました(涙)。
まあ、原作終了後の鳴海としろがねが普通に生きていけるに越したことはないのですけども、何か蟠りが残り、かえってすっきりしなくなってしまったのでした…。
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