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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。

 

 

 

 

 

 

Dramatic? Drastic! (後)


a flower in the ice pillar.

 

 

 

 

 

 

いきなりしろがねがソファの間のローテーブルをひゅっと飛び越え、両手で鳴海の襟首を掴んだ。

膝を彼の胸に押し当て、力任せにあの鳴海の巨体を押し倒す。

予想だにしなかった攻撃を受けて受身を取り損ねた鳴海は、ソファの硬い肘置きにしこたま後頭部を打ち付けて目から火花を散らした。

足が虚空を蹴る。

しろがねは素早く鳴海の厚い胸板に馬乗りになると、襟を掴んだ手で鳴海の頚動脈を締め上げた。

血流も呼吸も止められて顔色の悪くなってきた鳴海に、しろがねはキスができそうなくらい肉薄して「どうだ?」と感想を訊ねる。

 

 

 

バカタレ!!!

 

 

 

ソファをばんばん叩いて「まいった」のアピールをするとようやくしろがねの手が緩んだ。息を吹き返し、必死の形相で激しく喘ぐ鳴海に

「こんなのでいいのか?カトウ、……あなたは落ちたか?」

としろがねは真面目に訊いてくる。

「違う意味で落とされるかと思った…!オレを殺す気か?!」

だいたい首を絞める意図がわからん!

鳴海から全く甘いムードが発散されていない現状に

そうか、やっぱりな…。

呟きながらしろがねは身体を起こす。

しろがねの顔を彼女の豊かな胸越しに見る珍しい角度と自分の胸の上に乗る柔らかくて丸いヒップの感触に鳴海はドキドキが止まらない。ミニスカートなら下着も覗けそうだが、あいにく今日のしろがねはジーンズだ。

「私がこんなことをしたくらいでどうなるものでもないな。そもそも、これのどこに効果があるのか分からない。カトウ、あなたは今落ちなかったのだろう?」

「おまえなぁ。格闘技じゃねぇんだから、押し倒すにもやり方ってものがあるだろが?これはどー見ても“愛を語らう姿勢”っつーよりもマウントポジションだろ?しかも首絞めてるし」

しろがねはすごすごと鳴海の身体から下りて、その傍らに腰掛けた。

その格好のままでも良かったのに、と鳴海も未練たらたら上体を起こす。

 

 

 

 

 

「ムードとか表情とか、もうちっと考えろよ」

「具体的にどうしたらいい?」

そうだなあ…。

真剣なしろがねにつられて鳴海も真面目に考える。

「まずはここんとこ」

しろがねの眉間を指でつつく。

「こんな必死の表情じゃな。もうちっとやっこくならねぇか?身体の力も抜いてよ」

はい、深呼吸。

つつかれた眉間に手の平を当てていたしろがねは、素直に鳴海のアドバイス通り深呼吸してリラックスを試みる。まだ緊張気味だがさっきよりずっとマシになったので、鳴海は満足そうに頷いた。

「いいんじゃねぇの?そんで……瞳に“好き”って気持ちを込めて……イヤ、睨むんじゃなくて、そうそう優しく優しく…」

しろがねに見つめられると(普段は睨まれているような目力を妙に感じるが今はまるでそれがない)、自分がしろがねの想われ人になっているような気がして、鳴海は何だか気分がいい。

 

 

 

「それから?」

「それから……相手を押し倒すときは力任せにするんじゃなくて……なんつーか、しな垂れかかるってか……寄り掛かった自分の重みで相手と一緒に倒れるような…」

しろがねが鳴海の言葉に従って、その通りに実践している。今度は、手は軽く添えるだけ、胸と胸を合わせてゆっくりと身体を預けてくるので鳴海はその流れに逆らわず、後ろに身体を倒した。

しろがねは息がかかるほどに近く鳴海に顔を近づけると

「それから?私はどうしたらいい?」

と訊ねた。

 

 

 

しろがねの、とてもいい匂いがする。

押し付けられた彼女の胸が途轍もなく気持ちいい。

「相手の顔に…手を添えて…」

「カトウ……あなたは私にキスをされたら、どう…思う?」

なんて質問だろう?鳴海はゴクリと生唾を飲み込む。

「ああ…そりゃ、嬉しいけど…」

自然と囁き声になる。

しろがねの右手が鳴海の頬に触れる。

ひんやりとした細い指がそうっと頬を包んだ。

しろがねの顔が徐々に近づいてきて、ふたりの鼻の頭がぴと、とくっついた。

 

 

 

 

 

 

 

まさか、しろがねは実験台のオレにマジでキスをするつもりなのだろうか?

鳴海の心臓は早鐘を打ちまくる。

もしかしたら、しろがねの好きなヤツってオレのことだろうか?

突然ひらめいたその考えに心が躍る。

そうだったらどんなにかいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして鳴海はようやく理解した。

自分がしろがねを好きなのだということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しろがねが瞳を閉じた。鳴海も瞼を下ろした。

唇の触れるときが待ち遠しい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかりしろがねに陥落した鳴海を包む甘い空気を打ち破ったのは、慌ただしく階段を駆け下りる足音と、しろがねの名前を呼ぶ勝の大声だった。

「どうなさいましたか?お坊ちゃま?!」

しろがねは素早く身を翻してソファを飛び降りると、勝の元に跳んで行った。身体の上の心地よい重みが消え、期待に胸膨らむ素晴らしい時間が終わりを告げたことを鳴海は悟った。

「今日の夕飯、僕、ヒロさんと当番だったんだ!すっかり忘れて寝過ごしちゃった!」

「それはいけませんね。急いで帰りましょう。ヒロさんにはしろがねからも謝りますから」

「鳴海兄ちゃん、ごめんね!また来るよ」

「お、おう、またな」

居間を覗き込む勝に鳴海は半身を起こして挨拶する。

しろがねも特に変わったことは何事もなかったかのようにペコリと頭を下げて戸口から姿を消した。

どたどた、ばたん。

玄関の閉まる音が聞こえ、呆然とした鳴海はどさっと、ソファに身体を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

「あと10秒……勝の来るのが遅かったら……」

しろがねとキスできたんだろうか?

しろがねも、そのつもりだったのか?

その割には、普通の顔で帰って行ったな…。

鳴海は目を閉じた。こうしているとしろがねの感触を思い出すことができる。

しろがねの姿態を瞼の裏に思い描いてみる。

どれひとつとってみても自分でも驚くほどしろがねが愛おしい。

ほんの数分前までは知らなかった自分の気持ち。

しろがねが他の誰かのモノになるかもしれない、という焦燥感が鳴海自身、意識してなかった気持ちの扉をこじ開けてしまった。

一度開いてしまったら、今までが鈍かった分、気持ちの成熟は早かった。

「あー……これからどうしよ……」

明日から、まともにあいつの顔を見られるか?

普段と変わらぬ態度を取れるか?

それにしても、しろがねの好きなヤツって誰なんだろう?

 

 

 

 

答えの出ない問いに、鳴海は今しばらく悩むことになる。

 

 

 

 

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