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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。

 

 

 

No herb will cure love.

 

 

 

 

 

 

 

LEMONADE (前)


a flower in the ice pillar.

 

 

 

 

 

 

 

今、仲町サーカスはとある村へ興行に来ている。

首都圏とは名ばかりの青々とした山並みの広がる長閑で風光明媚なところだ。

その村で行われる大きな夏祭りに参加している。

今夜は花火大会がある関係で、サーカスは昼の部だけ、サーカスの面々も夜祭りを楽しむこととなった。村人の好意で用意された浴衣に袖を通すと祭り気分は弥が上にも盛り上がる。

 

 

 

 

 

しろがねが浴衣姿で表に出ると男性陣が歓声を上げた。

リーゼは勝に「浴衣がよく似合うね、素敵だよ」と褒めてもらってとても嬉しそうだ。何しろ着付けてもらっている間中、勝がどう評価してくれるか心配で心配でたまらなかったのだから。しろがねはそんなリーゼを微笑ましく、そしていくらか羨ましく思いながら、さりげなく自分の周囲に視線を走らせた。

しかし、その中に彼女の望む大きな姿を見つけることができなかった。

鳴海も勝に誘われたこともあり、サーカスの手伝いを買って出て、この村に来ている。

これから皆で神社の本殿に赴いて、そこで花火大会を楽しむことになっている、のに。

どうしてここにいないのだろう?

 

 

 

 

 

勝の言葉をいたく気にしていたリーゼを、こんな他愛のないことが気に掛かるのだな、と客観的に考えていた自分もまた同類だったらしいとしろがねは思った。

他人事だなんてとんでもない。自分の浴衣姿を見て欲しい、鳴海に褒めてもらいたい、そう願っている自分がいる。

でも鳴海の姿はどににも見えない。先に本殿へ行ったのだろうか?

仕方なく、サーカスのメンバーに促されるまま夜店の並ぶ参道へと足を進めた。

軒を連ねる様々な屋台をひとつひとつのぞいていく。

しろがねにとっては初めての経験だったので見るものすべてが珍しく皆で賑やかに練り歩くのはとても楽しかった。

楽しいけれど、カトウがいたらもっと楽しいだろう、と思わずにいられない。

 

 

 

 

 

「しろがね、ナルミがいなくてつまんないんでしょう?」

ヴィルマがにやにやしながら、しろがねの心の中を覗いたかのように図星を指す。

「そんなこと…」

「ごまかすことなんてないわよう。顔にちゃあんと書いてあるんだから」

しろがねは自分をからかってクスクス笑いをするヴィルマを赤い顔で睨みつけた。

「どうせどっかで子供たちと時間を忘れて遊び興じているんでしょ。根っからの子供好きよね。あんなにゴツイ男なのに子供に好かれる性質ってのがホント不思議」

それがカトウのいいところなのだ。

屈託のない彼の笑顔は人の心を虜にする。

しろがねは心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

山村の神社の本殿は長い長い階段の上にある。

たくさんの人々が、花火が打ち上げられるのをいまかいまかと待っていた。

どんなに大勢の人混みでも見つけられるはずの鳴海が視界に入ってこない。

ここにはまだ来ていないのだ。ではまだ下にいるのか?

しろがねは皆とはぐれたフリをして、今来た階段を人波に逆らって下りていった。

屋台の立ち並ぶ参道に出ると、来た道と反対方向へと行く当てもなくひとり歩き出した。カラカラと下駄が鳴る。

団扇を片手に、俯きがちに歩くしろがねを老若男女を問わず道行く人々が振り返った。珍しい銀色の髪と瞳も目を引く原因ではあるが、皆一様にその美しさに溜め息を漏らす。

何人かの男が勇気を振り絞ってしろがねに声をかけるが、彼女が軽く手で制するしぐさをするとすごすごと退散した。

 

 

 

 

 

 

道の向こうに朱い鳥居が見えてきた。その奥は階段のようで、そこで屋台は途切れている。

「あぁ……カトウはいったいどこにいるの…?」

何だかとても心細い。鳥居の袂まで行ったら引き返そう。

しろがねがそう思ったとき、若い男が3人、彼女を取り囲むようにして声をかけてきた。今まで通り、けんもほろろな態度をとっても数にモノをいわせて相手もなかなか引き下がらない。この村ではけっこう性質の悪い連中であろうことは身なりや態度からしても一目瞭然だ。

しつこいな。しろがねは思案した。

こんな連中はどうにでもなるのだが、まだサーカスの興行は明日以降もある。

下手に恨みを買ってサーカスに面倒がかかるのだけは困る。如何にも「お礼参り」をしそうな面構えだ。できるだけ穏便に済ますにはどうしたらいいのだろう?

 

 

 

 

 

 

3人のうちのひとりがしろがねの手首を掴み、どこやらへと彼女を連れて行こうとしたとき、誰かが「おい!」と叫んだ。

鳥居の向こうから浴衣を着込んだ背の高い男。鳴海だ。

鳴海はしろがねを大きな背中でかばうようにして両者の間に割って入ると、しろがねの手を掴む男の手を逆手に取った。非常に軽々と触れているだけに見えるのに、鳴海に掴み取られた男の腕には激痛が走る。

鳴海は内心、『(オレの)しろがねに気安く触りやがって!』と腸が煮えくり返っていたが(どうやら多少は大人になったらしく)、表面上は穏やかににこやかに応対する。

「オレの女になんか用か?用事があるならオレが訊くぜ?」

しろがねは「オレの女」と言われて胸が疼いた。

残りふたりが何事か吠えるので、鳴海は男の手首を握る手にほんの少し力を入れた。ミシっと嫌な音がして、気の毒な男は絶叫する。

「もう一度言うぞ。こいつに何か用ならオレが訊く」

にこやかな表情に反して鳴海の瞳は笑っていない。眼光鋭く、『容赦しねぇぞ』と冷ややかに威圧している。

男たちが一目散に逃げ出す姿に周りから野次が飛び、鳴海には拍手喝采が贈られた。

 

 

 

 

 

 

「カトウ」

「大丈夫か?何ともないか?」

「あなたこそ……あ、ありがとう」

おまえが何ともねぇんならそれでいい。

鳴海は笑ってしろがねの頭を撫でた。

 

 

 

 

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