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Here's your birthday gift!
Kiss
a flower in the ice pillar.
けたたましく家のチャイムが鳴る。鳴海はむくり、と起き上がった。
しぱしぱする目で枕もとの目覚まし時計を見遣るとまもなく日付変更線を越えそうな時刻だ。
くああっと大きな欠伸をする。
こうしている間にもチャイムは鳴りっぱなしだ。
来訪者はなかなか出てこない家の住人にイライラしているのか、今度は玄関の扉をどかどか叩き出した。これ以上、野放しにすると近所迷惑になっちまう。
「もお、こんな遅くに誰だよ?」
安眠を妨げる深夜の来訪者を、鳴海は思いっきり不快そうな気持ちの浮かんだ顔で出迎える。
扉を開けるとそこに立っていたのは銀髪の美人。しろがねだ。
しろがねの登場で鳴海の表情はいくぶん緩んだが、眠たくて不機嫌を完全に払拭するには至らない。眠たい目をこすりこすり、眉間に深い皺を寄せている。
しろがねはそんな鳴海の様子を見て、ちょっと可哀想なことをしたかな、と思ったが、彼女としても自分の用件を済ますには今じゃなくてはならないのだ。
「なんだよ、しろがね?どうかしたか?」
こんな時間にウロウロするなよ。おまえがいくら強いからって、あくまで女なんだから。
鳴海の忠告もごもっともだが、しろがねには時間がない。時計を見るとあと1分。
「あ、あの、カトウ。ちょっとしゃがんでくれないか?」
「あ?」
何を藪から棒に。訝しむ鳴海を「いいから」と急かす。
のろのろと従う鳴海に、しろがねは更に
「ちょっと目を閉じてくれないか?」
と注文する。
なんなんだよ、もう。
オレは早く布団に戻りたいんだよ、眠くて眠くて…。
仕方がないので、言われた通り瞼を閉じる。
すると突然、柔らかくて、ひんやりしたモノが鳴海の唇に触れた。
それは羽根のようにふうわりと触れると微かな余韻を残して離れて行った。
たった今、24時ジャスト。
どうにか間に合ったようだ。
「夕飯のとき、お坊ちゃまから今日があなたの誕生日だと聞いて、でもその後のミーティングがとても長引いてこんな時間になってしまった。こんな夜遅くにすまない」
「いや……それはもう、いいんだけど……」
呆然とする鳴海にしろがねは「お誕生日おめでとう」と言った。
「プレゼントを用意する間もなくて……以前、あなたは私にキスされたら嬉しいと言っていたからな。今、私があなたに渡せるものはこれくらいしかないのだ。だからこれで我慢してくれ」
すまない。
ゆっくり寝てくれ。
おやすみなさい。
突然やって来たしろがねは、帰るのも唐突で。
静かに玄関の扉の向こうに消えた。
ゆっくり寝ろ、と言われても。
「こんなんで眠れるはずがねぇじゃねぇか」
唇に残る感触に興奮して睡魔など、どこかに行ってしまった。
今度は。
「オレからイニシアティブをとらねぇとなー」
どうしたって緩んでしまう顔の筋肉を両手で押さえながら再び布団に戻ったが、
鳴海はその後なかなか寝付くことができなかった。
End