『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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『水底』
あかつき、
あさぼらけ、
あけぐれ、
あけぼの、
あかつきかた、
しののめ、
今は明け方のどこら辺に当たるのか。鳴海は薄く目を開けた。
すぐ近くに銀色の卵みたいなしろがねの頭が見える。
自分の胸元に擦り寄りよって仄かに笑っているかのしろがねの寝顔に鳴海の口元が緩む。
『ねこみてえ』
鳴海は声に出さずに呟いた。
気持ちよさげな彼女の眠りを妨げたくないから。
白んだ朝の明かりがカーテン越しにふたりの眠る部屋の中を満たしていく。
少しずつ、少しずつ。
隙間から射し込む光に室内を漂う埃がキラキラと反射しては流れていく。
鳴海はいつもそれを、川面に浮かぶ泡沫のようだな、とぼうんやりとした頭で考える。
自分たちは水底で寄り添う魚か川蟹か。
耳を澄ませば外の世界の様々な音が聞こえるのだろうが、今の鳴海にとっての聴覚はただ愛する女の安らかな寝息を聞くだけのものでいい。
五感は必要最低限、しろがねを感じられればそれでいい。
たゆたうような時間の中で。切り取られたような空間の中で。
お互いを感じていられたらそれで充分、何も、いらない。
昨夜遅くまで過ごした濃密な時間のせいか、鳴海の手足はまだ重い。目蓋も、重い…。
耳には愛しい寝息。閉じかけて細くなった世界に最後に見えるは水面を滑る、金色の泡……つぶつぶつぶつぶ……流れていく。
『なんだっけな……いっつもこーゆー水の底にいるような気分になるときに何かの話を思い出しそうになるんだけど……昔、国語の教科書で読んだってのは……覚えて…ん…だけど……なんだっ…け…な…… … 』
鳴海はまたも夢の淵へと沈んでいく。しろがねの肩を大きな手の平で包んで。
光の川面の水底に穏やかなふたりの寝息。
End
*****
にはかにパツと明るくなり、日光の黄金は夢のやうに水の中に降つて来ました。波から来る光の網が、底の白い磐の上で美しくゆらゆらのびたりちゞんだりしました。泡や小さなごみからはまつすぐな影の棒が、斜めに水の中に並んで立ちました。
(宮沢賢治 『やまなし』より)
*****
りるさんのこのイラストを見てすぐに『水底』のイメージが湧いたんですよね。だから透明感のあるSSが書きたいなぁって思ったのですが力量不足と語彙の貧困さが露呈してしまいました(涙)。
水底、っていうと↑の『やまなし』が好きで思い出すんですよ。モチーフにしてみました(汗)。宮沢先生の文章を並べるのは非常におこがましいのですがこんなイメージなんですよ。鳴海とエレが幸せに寝ている、そんなときの雰囲気ってね。夜だと↓。
そのつめたい水の底まで、ラムネの瓶の月光がいつぱいに透とほり天井では波が青じろい火を、燃したり消したりしてゐるやう、あたりはしんとして、たゞいかにも遠くからといふやうに、その波の音がひゞいて来るだけです。
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