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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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(8)


文字通り、遠回りの回想を経て再び、手作りマフラーを挟んで座る、エレオノールと鳴海。
エレオノールは鳴海にプレゼントをするために一生懸命マフラーを編んでいるわけだけど、鳴海はきっと迷惑するだろうな、と思っていて、鳴海はそのマフラーが自分の為に編まれているなんて夢にも思わない。
他の男の為のモノだと思い込んで、それが一体誰なのか、そしてその手にエレオノールの贈り物が届かぬようブロックしようと画策中。


プレゼントの相手が身内ではない。
とすると、鳴海の脳裏に浮かぶ対抗馬はリシャールしか浮かばない。
他にもいるのかも知れないが、エレオノールの話題にも上らない男なんか問題にならないし、彼女が意図的に本命を黙っているのだとしたらもうお手上げだ。
誰の手に渡るもんだが分からないがこうなったら、彼女に、それを他人に渡す気をなくさせる作戦に打って出ることにした。
「ま、まァ、そんなメタメタなマフラー、相手がもらってくれるかどうか。だって見るからに呪いのアイテムじゃねぇの」
エレオノールの頬がピクッと引き攣った。
鳴海はとにかく必死だった。
この、頭の周りを飛び回る、耳障りな、鬱陶しい蜂の羽音をどうにかしようと躍起になって。
エレオノールのマフラーをサゲる方向に進むことは諸刃の剣で、同時に、自分自身の株も下げることを、鳴海は失念していた。
エレオノールには、鳴海が自分の手作りに、面白がって茶々を入れている、そうとしか思えない。


「それ、巻いたら首絞め殺されそうだし。情念、こもりまくっててよ?おっかねぇよな」
その点、オレなんか首太いし?そんな簡単に死ぬヤワじゃねェし?
エレオノールの念がこもっててもどうってことないし?
どんなにメタメタでも、エレオノールの手作りならカッコを気にせず巻いてやれるのはオレくらいなモンで。
そこのところを猛烈にアピールしなければなるまい。
「だ、だからさ、そんなのが表に出たらさ、おまえの評判を下げちまうじゃん?」
エレオノールは黙って俯いた。
俯く陰で、エレオノールの唇が震えていることを、鳴海は気付かない。
「外に出すモンじゃねぇよ。な?その代わり、そのマフラーはオレが…」


ばしり!
と大きな音とともに、編み棒が床にぶつけられた。
勢いで毛糸玉が、部屋の隅まで音もなく転がって行った。
畳み掛けるように喋っていた男は、ハッと口を噤む。
自分が何かを仕出かしたことだけは、瞬時に理解した。
「ナルミなんかもう知らない!ナルミのバカッ!」
ナルミは青褪めて、オロオロと、エレオノールにかける言葉を探した。


ああ、いや、確かにおまえの言う通り、オレは馬鹿なんだ。
自覚してる、馬鹿だってことは。
考え無しで喋くっておまえに怒られるのはいつもで、基本、出たとこ勝負でよ。
そんな馬鹿だから「構わない」なんて返事するし、上手なフォローも入れられなくて、今もおまえに嫌われたままで。


だから、
だから今も、
馬鹿な上に考える時間もないオレは、
おまえが何で大泣きしてるのかが分からねぇし、
大粒の涙をこぼしているおまえに、かける言葉が見つからねぇんだ。


昔は。
泣いているエレオノールを簡単に泣き止ませることが出来たのに。
今は。
泣かせることが出来ても、泣き止ませることが出来ない。


「エレオ…、っておい!」
泣きっ面のエレオノールは鳴海の服の首根っこを掴むと、引っ立て、窓に向かってその背中を押した。
「帰って!そしてもう二度と、窓から勝手に入ってこないで!」
「ちょ、待って!オレの話を…!」
「もう何も聞きたくない!帰って!」
エレオノールは鳴海を叩き出すと、鍵を閉め、カーテンできっちりと覆った。
控え目に、コンコン、と窓をノックする音がする。
けれど、エレオノールは無視をして、床の上のマフラーの脇に膝をついた。


コンコン…、と鳴海が窓を叩き続けている。
「こんなもの…ッ!」
エレオノールは編み棒を引き抜いて、力任せに毛糸を引こうとして。
でも、その手はすぐに、力無く膝に落ちた。
頬を伝う涙が、次々とマフラーに降り、吸い込まれていく。
「解けない…」
どんなに下手くそでも、これはエレオノールの、鳴海への想いそのもので。
酷いことを言われても、鳴海のことは大好きで。
ぐす…ぐす…ッ、と鼻を鳴らす。
いつの間にか、窓を叩く音は止まっていた。


「ナルミ…」
心を痛くする大好きなヒトの名前を呼ぶ。すると間髪入れずに
「呼んだか、エレオノール?」
ガチャリ、と開いた部屋の扉から鳴海の顔が覗いた。
エレオノールは思わず顔を上げて、涙と鼻水で汚れたグズグズの真っ赤な顔を鳴海に晒す。
年頃の女子としては、好きなヒトには絶対に見せたくない顔。
「な…何…?」
「いや、おまえが二度と窓から入るなって言うから、ちゃんと玄関から…。おまえ、顔、拭いた方がいいぞ?ハナもヨダレも垂れて汚ェ」
とか何とか。
エレオノールの中で、何かが切れた。あるるかんが立ち上がる。


「二度と!私の部屋に入ってこないで!もう、ウチにも上がらないでよ!ナルミのバカ!大ッ嫌い!」
何か拭くモノはないかと、パーカーのポケットを探って油断しているナルミを、あるるかんの体当たりで再度叩き出し、背中で閉めた扉越しに喉が枯れるまで「バカ」と「大嫌い」を繰り返し怒鳴った。
しばらくして、取り付く島のないエレオノールの耳に途方に暮れた溜め息と、階段を下りて行く鳴海の足音。
そして、アンジェリーナに謝っている声が遠くに聞こえて、家の中は静かになった。
「もう、嫌ッ!」
エレオノールはベッドに身を投げる。
部屋の真ん中で、マフラーの上に寝っ転がったあるるかんは当惑した目を天井に向けていた。



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