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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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おとぎ話をモチーフとした創作です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お伽噺。

 

 

 

 

かぐや姫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海は月蝕の夢を見た。

天満月が真黒の闇に蝕まれていく。

鳴海にとって月は特定の、それも最愛の人の象徴であったから

その完璧な白い姿が闇に囚われ視界からその姿を消していく様は

彼にはとても耐え難い光景だった。

皓皓とした月明は次第に弱弱しいものになり

やがて鳴海を包むは漆黒の闇と成り果てた。

 

 

 

彼女ノ心ノ中ノ闇ニ、オマエハ気ヅイテイナイノダ。

 

 

 

誰かが囁く。

 

 

 

彼女ハソノ白イ顔ノ下ニ、大キナ悩ミヲ抱エテイルノダヨ。

 

 

 

静かな男の声に聞こえる。

 

 

 

彼女ハオマエヲ愛スルガ故ニ、深ク深ク悩ンデイル……。

 

 

 

冷笑的な響きを含みながらも、『彼女』を思い遣る心根の伝わるその声は

やがて途切れ、そのうちにその余韻も掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海は己の隣の空虚に気がついて、ふっと目を覚ました。

左腕にいつもかかる心地よい重みが今はない。

先程見た嫌な夢が現実になってしまったのかもしれない。

冷たい汗が全身に流れ、鳴海は視線を空っぽな左腕からそのまま恐る恐る窓際へと移す。

 

 

 

南側の窓から大きな望月が覗いていた。

そしてその窓際に椅子を寄せ、そこに気だるそうに腰掛けて月を見上げている女を見つけ、鳴海は安堵の息を漏らす。

 

 

 

「しろがね。どこかに行っちまったのかと思った」

鳴海に名前を呼ばれ我に返ったような顔をして、しろがねは彼に淡い微笑を向ける。

「私の行くところが他にどこにあるというのだ?」

あなたの他に。

 

 

 

背もたれに寄りかかりながらもしゃんと背筋を伸ばし、しろがねが身に纏うは鳴海のYシャツだけだ。

簡単に袖を通して軽く羽織っているだけのそれは肩口で大きく肌蹴け、服、というよりは羽衣に見える。

豊かな胸を隠すわけでもなく、そのために先程鳴海に思う存分愛撫を受けた乳首が赤く腫れぼったい顔を晒している。

胸元の真珠色の肌に鳴海が刻みつけた薔薇色の愛欲の印もまた鮮やかだ。

片足を座面に持ち上げているので、いまだ濡れそぼる銀色の叢も、その奥の蜜を湛えた肉色の泉も鳴海によく見える。

しろがねが無意識に、そして無造作に作り上げる女性美に鳴海は単純に感嘆せざるを得ない。

月色を一身に浴びて眩しいくらいの銀に輝くしろがねは、まるで月魄のようだと鳴海は思う。

 

 

 

「月。そんな風に月を眺めていると、おまえはまるでかぐや姫のようだな」

鳴海は身体を起こす。

密やかな夜気にも見事なくらいに律動する鳴海の筋肉の隆起にしろがねは溜め息をついた。

鳴海がしろがねを月の精だと思うのだとしたら、しろがねは鳴海を太陽神のように崇めている。

この人の中には金烏が棲んでいるに違いない。

だって、この人は触れただけで、私を芯から溶かしてしまうもの。

しろがねがたまらなく愛している、男。

しろがねは視線で鳴海に愛を投げて再び、月を見上げた。

「月、か」

「ああ」

鳴海もまた起き上がるとしろがねが座る椅子に程近い、ベッドの端に腰を下ろした。

鳴海はしろがねと愛を交わしたままの、一糸纏わぬ姿で月華を浴びる。

 

 

 

「あまり月を観るのは良くねぇって言うぜ?」

「お月見、っていう風習があるのに。月は狂気を誘うって俗信のせいだろうな」

しろがねは立ち上がると、鳴海の元へとやって来た。

しろがねは月に映え、月に磨かれる。

鳴海はこんな綺麗な女は見たことがないと心底思う。

そんな女と相思相愛であることは鳴海には奇跡だとしか思えない。

鳴海はしろがねを自分の脚の間に座らせると、包み込むように、否、月から彼女を包み隠すように長い腕で抱き締めた。

しろがねは心地良さそうに己の身体を鳴海の厚い胸に預けると、その温もりを分けてもらう。

 

 

 

 

「どこにも行くなよ、おまえは。ずっとオレのところに居ろ」

「ナルミ。どうしかしたのか?急に」

「かぐや姫みてえに、月に還るな」

「莫迦だな……」

「ああ、オレはおまえに狂ってる。否定しねぇよ、おまえが絡むととんでもなく莫迦になる」

鳴海の大きな手の平がしろがねの肌をしっとりと撫で上げる。

その温度が肌の上を移動する度に、しろがねは熱い息を吐く。

 

 

 

「そんなに切なそうに月を観るな…本当におまえが月に還っちまいそうで怖いんだ」

「ナルミ…」

「おまえ、オレにも言えないような悩みがあるのか?」

「どうして…そんなことを言う?」

「夢に見た」

「……そうか……」

しろがねは長い睫毛が縁取る瞼をゆっくりと下ろした。

 

 

 

鳴海の言う通り、しろがねには愛する男にも言えない秘密がある。

愛するが故に言えないのかもしれない。

でもいつかは打ち明けなければならないことは重ね重ね、分かっている。

分かってはいるが打ち明けたら鳴海が去って行ってしまうかもしれない、

そう思うと怖くてその運命の日をズルズルと引き伸ばしにしている。

これまで他の誰が自分から離れてしまっても、しろがねを苦しめることなんてなかった。

これからも、哀しいと思うことはあっても半身をもがれるほどに苦しむことはないだろう。

だけれど、鳴海は違う。

鳴海が居なくなってしまったら、しろがねの心は壊れてしまう。

だからどうしても、打ち明けることができない。

実際、まだ打ち明けなくてもいいのだろう。

自分と、愛する男の見かけが大きくかけ離れないうちは。

それには後、何年の猶予が残されているのだろう?

 

 

 

しばらく黙り込んだ後、しろがねは口を開いた。

「かぐや姫の月で犯した罪とは何だろうな」

自分の質問と関係のないことを話し出すしろがねに、鳴海は肯定の意を汲み取った。

だから

「そうだな。どうして地球に堕とされたんだろうな」

と、しろがねに話を合わせた。

しろがねが言いたくないことを無理に聞き出す気は鳴海にはさらさらない。

 

 

 

地球への流刑に値する、かぐや姫の犯した禁忌。

どんな咎を犯し、月の都を追放されたのか。

『竹取物語』の中にはその理由は書かれていないから想像の域を出ない。

「叶わぬ恋をしたから、という学者もいるな。月の都で不倫をしたからだと」

しろがねは鳴海の腕の中から月の顔を見る。

 

 

 

天へと伸びる桂の樹。

月の都の広寒宮。

玉兎の拵える不老不死の薬の香りが辺り一面に漂う。

銀色の眩い世界。

 

 

 

そこからかぐや姫は低層の地球へと堕とされた。

その身の犯した罪のために。

ならば私は前世に如何なる罪を犯したのだろう?

どんな罪故に、私はこんな数奇な運命の下に生を受けたのだろうか?

どうして孤独の星を背負わされ、あたかも人のように振舞う人形を壊す運命を科せられ、

自らも人形となり心を失い、笑うことを忘れ、ようやく出会えた愛する人と違う時間を歩まねばならない、そんな過酷な身に堕とされたのか?

 

 

 

「叶わぬ恋…」

「おまえは違うだろ?こうしてオレたちはお互いを必要としている」

鳴海はしろがねの耳にくちづける。

濡れた舌が外耳を這い回る。

吸われた耳朶がいやらしく鳴る。

しろがねの口元から甘い呼気が声とともに漏れた。

「かぐや姫は……刑期の間、求愛する男達から貞操を守ることが月に還るための条件だったのかもしれないな……」

「なら、おまえはもう無理だな。おまえは月には還れない。おまえはオレのところに居ることしか選択肢を残されてねぇんだよ」

鳴海はしろがねをベッドに横たえた。

「おまえは、いつまでも、オレの女だ」

「んっ…ん…」

舌と舌が蛇のように絡み合う。

お互いの唾液を啜り合う。

鳴海はしろがねの片脚を己の肩に担ぎ上げると、その奥の泉に太い指を根元まで挿し入れた。

乾く間もない泉は抵抗もなく鳴海の指を咥え込み、その愛撫を甘受する。

ぴちゃぴちゃと水のはぜる和音が響く。

 

 

 

「ナルミ…」

「ん?」

唇を離したことで水音はひとつになった。

「もしも……私が月の住人で……あなたと……時間の流れが違うのだとしたら……どうする?」

泉を穿つ音が遅くなる。

「あなたよりも……私の方が……年を取るのが遅い……そうしたら……どうする?」

「そんなことは小せぇことだ。おまえといるさ、オレは。でも…そうしたら、おまえは綺麗なまんまなのに、オレはじいさんになっちまうのか…おまえに見放されるのは嫌だなぁ…」

「私は!」

唐突にしろがねの両手が鳴海の頬を挟んだ。

しろがねの泣きそうなくらいに真剣な瞳に鳴海の手は止まる。

「あなたが私より先に老いてもあなたを見放すことなんて決してしない!あなたを愛しているもの!私にはあなたしかいないのだから…!」

娘と父親のようになっても、孫娘と祖父のように見えても。

「オレにもおまえしかいない」

鳴海はその頼りないくらいに細い身体を力強く抱き締めた。

 

 

 

「でも…ずっと年を取らないなんて、化け物だ…」

「いいよ、それでも。おまえはおまえだろ?」

「でも…」

「じゃあ、不老不死の薬でも探しに行って、オレも飲むか」

「ナルミ…」

「そうすれば、おまえとお揃いになるもんな」

「……」

「おまえと一緒なら、オレは終わることのない悠久の時を歩いてもいい」

その言葉にしろがねの目元が歪む。

「しろがね。オレはおまえが傍に居てくれさえすればいい。それ以外は何にも望んじゃいねぇ。おまえが居なくなること、オレが怖いのはそれだけだ。死ぬことよりもずっと、な」

「あなたが死んだら私も死ぬ。例え、どんなに命数が残っていたとしても、もう生きてはいけない」

独りでは!

 

 

 

しろがねを掻き抱く鳴海の腕に入る力が強すぎて、しろがねは苦しいくらいだった。

苦しくて苦しくて、息もつけないくらいに恋焦がれて。

「ありがとよ…」

「ナルミ……愛している……抱いて欲しい、何も、考えられなくなるくらいに」

あなたの他にはもう、何も考えたくはない。

私の通ってきた暗い過去も、私たちに待ち受ける未来も、私に纏わりつく残酷な運命も皆

どこかへ行ってしまえ!

あなたに断ち切ってもらいたい!

再び、水音は和音となる。

しろがねの声は次第に大きな、あられもない、甘い女の愉悦の声となってゆく。

 

 

 

「しろがね……おまえはオレのものだ」

しろがねの体内深くに己を沈めながら、鳴海は言う。

鳴海が身体を進めるたびに、しろがねは敏感な身体の、さらに敏感なところに何箇所も同時に刺激を受ける。

「だけどな、オレもまた、おまえのものなんだ。おまえが欲しけりゃ、命だってくれてやる」

それが別れの言葉でなければ、おまえの言うことには何だって応えてやる。

おまえは地に堕ちたかぐや姫のままでいろ。

月の都に還れなくなるほどに、オレの身体なしでは生きていけないくらいに愛してやるよ。

オレの居ない空気では呼吸ができなくなるくらいに、おまえの身体にオレを刻みつけてる。

 

 

 

しろがねの身体に汗が滲み、全身に力が入る。

昇天する時が近い。

月がふたりの閨房での秘め事を具に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くったりと力なく横たわるしろがねを鳴海はぎゅっと抱き寄せた。

しろがねはすでに安らかな寝息を立てている。

「おまえの悩みは大体察しがついた……気にすんな。おまえは、おまえだ」

鳴海は先程しろがねが月の住人に擬えた時の流れの話が、おそらく事実なのだろう、とすんなりと受け入れていた。

しろがねが何か重たくて哀しいものを背負っていることは鳴海も知っていたから。

特に驚きはしなかった。

本当に月の住人だと言われても、信じただろう。

しろがねの言葉を疑うことなど、鳴海にはあり得ない。

それが、自分との決別の言葉でない限り。

彼女の背後にどのような事実が隠されていようとも、鳴海の気持ちは揺るがない。

 

 

 

何故なら、おまえはオレが愛してやまない、唯一の女。

どんなことがあろうと、どんな秘密を抱えていようと、そんなことは関係ない。

オレがおまえを愛していること、愛していくことに変わりはない。

 

 

 

「オレは、おまえを絶対に放さない」

できたらその悩みをできるだけ早いうちに開放させて、しろがねの心を軽くしてやりたい。

「そうだな……おまえが次に目覚めたら、言ってやるか」

おまえはもう悩まなくていいんだ、と。

オレは何もかも分かっているから、と。

それでもおまえと一緒にいたいのだ、と。

鳴海はその大きな背中でしろがねを月から隠すようにして、さっきよりもずっとしっかりとしろがねを抱き締めた。

 

 

 

 

眠りの間に、しろがねが月へと還ってしまわないように。

 

 

 

 

終わり

 

 

 

  

 

postscript     説明しないと分かりづらいですね。もしも、しろがねが5年に1歳しか年をとらない設定で鳴海が軽井沢を生還していたら、です。そうであったら、しろがねの苦悩はまた違う意味で深かったのかな、と。ロッケンフィールド教授は普通の女の人と結婚してましたね。きっとこのふたりにも隠れた愛情秘話があるのでしょう。『しろがね』のダンナさんと生きていくにあたり、奥さんはどんな覚悟をしたのか、かなり深い愛情で繋がっていないと無理。それを思うと教授がどんな気持ちでボタンを押したのか、筆舌に尽くしがたいですね。どこかにも書きましたが、ウラ設定でこういった場合、そのうちにギイが生命の水を持って鳴海の前に現れます。そしてからくりサーカスではおなじみの yes/noチャートが出ます。『生命の水を飲む?飲まない?』みたいな。もちろん、鳴海は飲みますけれど。過程はどうであれ、絶対にふたりにはハッピーエンドの道が開けます。

時の流れの違う月の住人は『しろがね』みたいです。そんなところから出た話なのでした。

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