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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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おとぎ話をモチーフとした創作です。




. Fairy  Tale.
 



sleeping  beauty.




(前)


昔々、ある平和な美しい国を治めるショージ王とその后アンジェリーナの間に待望の赤ちゃんが生まれました。玉のように可愛らしいお姫様です。ふたりはその子にエレオノールと名前をつけました。


数日後、エレオノールの誕生を祝う宴が城で催されました。
この国に古くから存在すると伝えられる三人の妖精もやってきました。ルシール、マリー、タニアの三人です。黒衣をまとった三人の老女はまるで魔女のようですが、紛れもない妖精です。それを証拠に背中には透き通るような翅が生えています。
彼女たちは地面すれすれを微動だにせず、すすす、と滑るようにしてエレオノールの前に立ちました。
「どれ、赤ん坊に祝福をしてやるとしようかね」
三人は見かけにはとてもかけ離れた、非常に釣り合わない可愛らしい魔法のステッキ(ラインストーンの並んだ星が先についている。三人色違い。フェイクファー付)を取り出すと、それぞれエレオノールに祝福を与えました。


「私はこの子に美しさを与えましょう」とタニア。
「母親譲りの麗しさ。抜群のプロポーション。鈴のような妙なる声。男を惑わす美貌をこの子に」
「私は優しさを与えましょう」とマリー。
「父親譲りの聡明さ。そしてその知識を生かすことのできる優しさを。民に慕われるようなきれいな心をこの子に」
「私は…」
最後にルシールが祝福を与えかけたとき、一人の魔法使いが現れました。


王と王妃がもっとも会いたくない人物。横恋慕大魔王フェイスレスです。
「女の子が生まれたって聞いてきたんだけど」
フェイスレスはつかつかとエレオノールの前までやってくると、そのピンと張り出したヒゲをいじりながら彼女の顔を覗き込みました。
「可愛いねぇ。女の子が生まれたら僕のお嫁さんにするって先王との約束だから。アンジェリーナ、君のときは先王に『男の子だ』って言われてそれを素直に信じちゃってさ、すっかりだまされちゃったから今度はお嫁さんにもらうよ。エレオノールかあ、早く大きくなって僕とイイコトしようね」
王と王妃の全身に鳥肌が立ちました。
アンジェリーナはエレオノールをベッドから抱き上げるとぎゅっと抱き締めました。その前にショージが立ちはだかります。
「先王はそんな約束をしていないぞ。おまえが勝手にそう思い込んでいるだけだろう?それにエレオノールは男の子だ!女の子だなんておまえの聞き間違いだ!」
「だって女の子の名前じゃん」
「うらないで女の子の名前の方が健康に育つって言われたからだ!」
「ふうん」
フェイスレスはアンジェリーナが生まれたとき、先王に「男の子だ」と言われたのを鵜呑みにし、「男には興味がないや」とそのまま城にも寄り付きませんでしたが、数年前アンジェリーナ成婚の知らせを聞きようやく自分の失敗に気がついたのでした。
そして今、また騙されているような気がしてきました。


「じゃあ、いいや。その子に呪いをかけちゃおーっと」
フェイスレスはお気楽に言いました。
「もしも、その子が本当は女の子だったら、大きくなって男に恋をした瞬間、呪いは発動するよん。糸車の錘に刺されて死んじゃうからね。男の子なら発動しない呪いだから心配しないでいい。でも僕に嘘をついたんだったら、たくさんたくさんたくさん後悔するといいよ」
ワハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
高らかな笑い声を響かせてフェイスレスは消えました。


アンジェリーナはその場にくず折れました。腕の中のエレオノールは何も知らずスヤスヤと眠っています。
「ああ、エレオノール!なんて不憫な子でしょう!」
さて、どうしよう。王は途方に暮れてしまいました。
「男の子として育てるしかないさね」
とマリー。
「女の子と分かった途端、あの馬鹿はまた来るよ。エレオノールと結婚させてくれれば呪いを解いてやるとか言ってね」
とタニア。ルシールが言いました。
「アタシの祝福がまだ残っている。あの馬鹿はどうしようもなく馬鹿だが、魔力は本物、とんでもなく強いからね。完全に消し去ることは誰にもできないよ」
「それではエレオノールはどうなるのですか?」
「糸車の錘に刺されても死ぬことはない。眠るだけ。そして愛する男のキスで再び目覚める」
「……女であることを秘密にして男として育てられるのに、男の人から愛情を……どうやって?」
「まあ、男として育てば男に興味なんか持たないさ」
とマリー。
「一生独身でも死ぬよりはましだろ?」
とタニア。
「そうすれば呪いが発動することはないだろうよ」
とルシール。
ホホホホホホホホホホホ。
魔女たち、もとい、妖精たちは笑いさざめきながら去っていきました。


「あああ、なんて不憫なエレオノール!こんなに可愛いのに!」
エレオノールの過酷な運命が始まりました。





それから18年。エレオノールはすくすくと何事もなく大きくなり、それはそれは美しく育ちました。麗しい唇に紅を差すこともなく、その完璧な身体にドレスをまとうこともなく、自分は男なのだと疑わずに育ちました。
男物の服を颯爽と着こなす姿すらもあまりにも美しいので、本気で女性らしく着飾ればどんなにか美しかろうと、ショージもアンジェリーナも考えれば考えるほどエレオノールが不憫になるのでした。
王は国中の糸車を処分させました。
それどころか、エレオノールの目に男を極力触れさせないために、城内で働く者はほとんど女とし、やむをえず男を雇う際は絶対エレオノールの恋心を射止めないだろう造形が今ひとつな男たちを選びました。


年頃になり、エレオノールはあるひとつの悩みを母アンジェリーナに打ち明けました。
「母上、私は男のはずなのに、最近、女の子たちのドレスやアクセサリーに目がいってしまうのです。どうしてか、自分も着てみたい、と憧れてしまうのです。おかしいですよね、どうしたのでしょう?私は性同一性障害なのでしょうか?」
自分によく似た美しい目元を苦しそうに歪ませるエレオノールにアンジェリーナは涙が零れます。憧れて当然なのです。エレオノールは女の子なのですから。男として育てられても心の中に女が育っているのです。
「女の子たちを見ても胸がときめくことがありません。もちろん、男の人を見たってときめきません。私は人を愛することができない人間なのでしょうか?そう思うと哀しいのです」
エレオノールは言葉をつまらせます。
「誰かを愛してみたいのです。愛するって……どういう……感情をいうのでしょう?」
「不憫な子。母がついていますからね」
アンジェリーナはエレオノールをやさしく抱き締めてあげました。


ある日、エレオノールの弟マサル(エレオノールの出生から7年後に誕生。正真正銘の男の子。
やはりフェイスレスが来て同じ呪いをかけていった)がひ弱な身体を鍛えるため、拳法の師を招くことになりました。
近隣の町に住んでいるナルミという若い男です。ナルミは決して造形今ひとつな男ではありません。背は他の男より頭ひとつ以上高いし、古代美術の塑像に出てきそうな筋肉のとても逞しい男です。顔つきも切れ長の目をした、鼻筋の通った、男らしい精悍なタイプです。
が、如何せん、この時代は中性的な男がモテる時代。ナルミのようなマッチョは女性たちに歓迎されないのです。母、アンジェリーナの趣味でもありません(ショージはアンジェリーナのために涙ぐましい肉体改造を行ったそうです)。
そういった理由からおそらくエレオノールの目に止まることはないだろうと城内の立ち入りを許されました。


が、ところが。
「初めまして。ナルミっス」
マサルの稽古を見学しようとナルミの到着を弟と待っていたエレオノールは、そう挨拶するナルミの笑顔を見、目が合った瞬間、脳天に雷が落ちたような感覚を味わいました。

ストライク…!

エレオノールはバッと顔を両手で押さえると、ダッシュで逃げました。物陰に隠れ、エレオノールは自分の胸を押さえました。どうしてこんなに胸がドキドキするのか、どうしてこんなに息が苦しくなるのか、どうしてこんなに顔が熱くなるのか、考えても分からないことばかりでした。
遠巻きにナルミを見つめます。マサルに稽古をつけ、明るく笑うナルミを見ていると胸の中がじんわりと温かくなってきます。
生まれて初めて覚えたこの感覚の名前を、エレオノールは知りませんでした。


エレオノールは以来、マサルの稽古をかかさず見学するようになりました。
本当はエレオノールもナルミについて拳法を教わりたかったのですが、母アンジェリーナの
「あなたは逞しくなる必要はありません!(女の子なのにあの男みたいな体格になっては困ります!)」
という涙ながらの一言でエレオノールは断念したのです。
エレオノールのナルミを見る瞳は何だか真剣です。
「なあ、マサル(呼び捨て)。おまえの兄ちゃん、何か怒ってんのか?(タメグチ)」
「怒ってないと思うよ」
「いっつもさあ、睨まれてるよーな気がすんだよなあ」
ナルミは首を傾げました。


エレオノールはあるとき、思い切ってナルミの住む町を訪ねました。
エレオノールが城外に出ることを王も王妃もいい顔をしないので黙ってお忍びでひとりでやってきました。マントを目深に被り、道行く人に拳法道場への道を訊きます。
どうしてこんなことをしたのか、自分でもよく分かりません。ここにきて何をしたいのかも分かりません。どうしてもその衝動を止められなかったのです。
エレオノールは町の中を馬で移動し、ようやく一軒の拳法道場に辿り着きました。
ここにナルミがいる。でも、ここに来たところでどうしようというのでしょう。迷った末、やはり帰ろう、そう思い馬の首をめぐらしたとき
「おい」
とエレオノールは呼び止められました。
「もしかして、エレオノール王子さんか?」
それはナルミでした。隣に女の人を連れています。
「な、何故?」
私だと分かったのだ?
「そりゃー、ここいらでそんないい馬に乗って、そんな上等なもん着てりゃあなあ」
エレオノールがマントから顔を出すと、その美しい顔を見た女性たちが溜め息を漏らしました。あたり一面から黄色い声が飛びます。


ナルミはこのとき、初めてエレオノールの顔をまともに見ました。間近で。いつも遠くから睨んだような顔のエレオノールしか見たことがなかったので、エレオノールがこんなにきれいな顔をしているとは知りませんでした。
エレオノールのキラキラした銀色の瞳に見つめられて、ナルミは不覚にも見とれ、ドキドキしてしまいました。
おいおい、相手はどんなに美人でも男だぞ!
赤い顔で見とれていたことを誤魔化すように咳払いするナルミに、隣の女の人は
「ちょっと大丈夫?何、男に見とれて赤くなってんの?あんたそーゆー趣味だったの?」
と小突きます。
「ち、ちげーよ、ミンシア。オレをホモみてーにゆーな」
ふたりがとても仲がよさそうなのを見て、エレオノールの心はちくちく痛みました。
「それで、どうしたんだ、エレオノール(呼び捨て)」
「ちょ、ちょっと、視察に……あ、あのっナルミ……すまないが案内を頼む」
「案内が必要な町じゃねぇよ、小さくて」
と言いながらも、ナルミはエレオノールの馬の手綱を引いていました。


ナルミは簡単に町の中を案内して(本当に小さい町なのであっという間)、馬に水を飲ませるために町外れを流れる小川へとやってきました。川の冷たい水の流れに手を浸すエレオノールをナルミは横目で見ながら、
『男なのにホントにきれーな顔してんだな。首なんか片手で簡単にひねれそうなくらい細いじゃねぇか。
オレが今まで見た女よりもずっと細いぞ?色も抜けるように白いし…』
と思わずエレオノールに欲情を覚えそうな自分に身震いをしました。
『だから男だってのに!』
「どうかしたか?ナルミ?」
「い、いや、なんでもねぇ…」
エレオノールに見つめられるとナルミは胸の鼓動が早くなります。
ナルミはそんな自分に動揺が隠せませんでした。



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