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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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おとぎ話をモチーフとした創作です。




Fairy  Tale.




 sleeping  beauty.




(後)


エレオノールは馬に跨りました。
「今日は無理を言ってすまなかった。ありがとう」
「別にどってことねーよ」
エレオノールが柔らかい表情を向けたので、更に心臓は駆け足になりました。
「オレさ、おまえにいつも睨まれてるよーな気がしてたから、おまえに嫌われてんのかと思ってたよ」
ナルミはガリガリと頭を掻きました。オレって何言ってんだろ?と思いながら。
「そんなことはない!あなたのことを嫌うだなんて…」
そのとき、目の前を横切ったカエルに驚いた馬が後ろ足で立ち上がりました。手綱を持つ手が緩かったエレオノールが鞍から転げ落ちました。
「危ねぇ!」
ナルミがエレオノールの身体を抱きとめました。
そしてナルミはあんまりにもエレオノールの身体が華奢なのでびっくりしました。これまでナルミが抱いたどの女の人よりも身体の線が繊細なのです。腰はきゅっとくびれているし、尻は丸く男のものとは思えません。柔らかくて軽くて羽根を抱いているようです。胸がないだけで、ナルミの知っているどんな女たちよりもはるかに色っぽい身体つきなのです。
「あ、ありがとう…」
頬を染めて、瞳を潤ませて、自分を見上げるエレオノールの吐く息がとても甘くて、ナルミは頭がクラクラしました。
『いったいオレはどうしちまったんだ?!』
馬に乗って城へと帰っていくエレオノールの後ろ姿を見送りながら、
ナルミはとうとう自分のことが理解できなくなってしまいました。


それ以来、エレオノールはナルミと親しげに接するようになりました。
エレオノールはナルミといると胸が弾みます。こんなことは初めてでした。どんな女の人と踊っても心がときめいたことがないのに、ナルミの傍にいるだけで、胸がとくとく鳴るのです。どうしてだかエレオノールは分かりません。この特別な気持ちが何なのか、少しも分からないのです。どうして男の人が気になるのか不思議でした。自分は男だというのに。


ナルミもまた、日に日に悩むようになりました。
馬から落ちたエレオノールを抱きとめたあの日の夜、ナルミは生まれて初めて男を肴に自慰をしてしまいました。そのときのショックたるや、言葉に表すことができません。口が裂けたって誰にも言えません。こんなことではいけない、と女を抱こうとしましたが、まったく勃たないのです。そのときのショックたるや、もう何にも言う気が起こりません。誰と寝ても同じでした。
もう、オレは終わった、と思いました。
だけど、エレオノールのことを考えると勃つのです。
ナルミは女を抱けなくなっていました。でも、毎晩エレオノールのことを考えるので、身体はすっきりとして何もたまってはいません。


そして今、マサルとの稽古の後、話しかけてきたエレオノールとふたりで中庭のベンチに腰掛け談笑している最中、エレオノールのことをぼんやりと見つめて
『やっぱ、可愛いかも』
なんて考えていたら意図せずして股間が硬くなってしまいました。
それをエレオノールに見つかってしまいました。
「ナルミ……それは一体どうしたのですか?」
ナルミは慌てて身体を屈めて隠します。
「いや、なに、これは……ちょーっと疲れちまったもんだから、つい、大きくなっちまって……」
ごにょごにょと誤魔化そうとするナルミの隣でエレオノールの頭の上に大きなクエスチョンマークが浮かびました。
「?大きくなる…?何がですか?」
「何がって……ピ―――(規制中)がだよ。おまえもついてんだろ?」
エレオノールの頭の上のクエスチョンマークはふたつになりました。
「??私??」
「王族ってのは純粋培養で勃起したこともねぇのかよ?男だったらいくらなんでも分かるだろ?」
クエスチョンマークみっつめ。
「???勃起?」
男の身体には股間に大きくなるものがついている?男でも私にはないけれど?
「それがない人は…」
「そりゃあ、女だろ?その代わり、女には大きな胸があるがな」
「男には?」
「ねぇよ。王族ってのは自分以外のハダカとか見ね…うわ、何すんだ!」
エレオノールはナルミの脚の間に跪くと、ナルミのシャツを首まで捲り上げました。まじまじとナルミの胸を見つめ、大胸筋を手の平で触りました。
ナルミはもう頭から湯気が出て、思考は停止しました。
そしてエレオノールはおそるおそるナルミの股間のモノも撫でてみました。とても硬く熱いモノ。
ナルミの思考は一気に活動を開始し、身体はびくんと跳ねました。
「あ、すまない。触ると痛いものだったのか?」
「どっちかっつーと気持ちいい……でなくて、なんなんだよ、おまえは?」
おまえもそっちのケがあるのか?オレの身体に興味あるワケ?
エレオノールはナルミの質問には答えず何かを真剣に懸命に考えた後、はたっと何事かに思い当たった顔をしました。
「おい…どうした?」
鳴海がその肩に手をかけようとすると、エレオノールは真っ赤な顔を両手で隠して、ダッシュで城の中へと消えました。ナルミはひとり残されて
「やべー……男に欲情する男だって……嫌われちまったか?」
と顔色を蒼くしました。


エレオノールは自室に戻るとベッドに腰掛け、強く胸を押さえました。
服の下、晒を巻いたその下には大きな大きな乳房があります。
エレオノールの股間にはナルミのように大きくなりそうなものはありません。
それは女の身体なのだとナルミは言いました。
「ということは……私は女……だったのだ……」
どういう理由があるのかは知らないけれど、女の自分が男として育てられていたことだけは分かりました。
「私は、女…」
エレオノールは大きく息を吸い込みました。そして鏡台に近づくと自分の顔を見つめました。
女ならば、私がナルミの傍にいたいと考えたのも頷ける。どうして彼がこんなにも気になるのかも。
「私は……彼が……ナルミのことが好きだったのだ……女として……」



呪い発動。



エレオノールは鏡に妖しく緑色に光る何かが映ったのに気がつきました。
振り向くとそこにはひとりでに回る糸車が浮かんでいます。
王が国中の糸車を処分させたのでエレオノールは初めて見るそれに興味をそそられました。
「これはいったい何?」
吸い寄せられるように糸車に歩み寄ったエレオノールは、触れようと差し出した指に錘を刺し、
そのままばたりと倒れ込み動かなくなってしまいました。


翌日、ナルミは重たい足取りで城に向かいました。
エレオノールに嫌われたかもしれない、ということが思いのほかナルミにダメージを与えていました。
なんで、男に好かれたの嫌われたのでこんなに悩まなくちゃなんねぇんだよ……。
ナルミが足を踏み入れると城内はまるでお通夜のようでした。いつもと違う空気に首をひねりながらマサルとのいつもの待ち合わせ場所に行くとやはりエレオノールの姿はありませんでした。
ナルミは胃がずんと重たくなり、がっくりと肩を落としました。


なんだオレ、やっぱあいつが好きなのか?
王族の、それも男を好きになってどうすんだよ?まったくもって救われねぇ。
「よう、マサル…」
なんだかマサルは元気がありません。
「今日は……エレオノールは来てねぇ……みてぇだな?」
どうかしたのか?とさりげなく訊き出そうとしたところ、マサルの目からぶわっと涙が噴き出しました。
「お、おい、どうした?まさかエレオノールに何かあったのか?」
「ねぇ、お兄ちゃん、エレオノール兄様のこと、好き?」
おおう、なんてことを訊くんだよ?オレがあいつを好きだっての、マサルにもバレるほど見え見えだったのか?
ドギマギしながらナルミが「好き…だけど」と答えると、マサルはナルミの手を引っ張って走り出しました。
「ど、どこに行くんだよ?」
「お父様とお母様のところ!」
王様とお后様のとこ?!王族に邪まな気持ちを抱いた(しかも同性愛)咎で首を刎ねるつもりじゃねぇだろな?


「エレオノールとキスをしてはくれまいか?」
ナルミの心配をよそに、王とお后から言われたのは非常に突飛なことでした。
「は…あ?オレ、男ですよ?」
「分かっておる。分かった上で言っておるのだ」
「今すぐ、愛情をこめたキスをしてあげてちょうだい」
お后様は「不憫な子、でも思ったよりマシな男でよかった」と言いながら泣いています。ナルミはワケが分かりません。
「マサルが言うにはそなたはエレオノールのことが好きなのであろう?」
「そ、それは…」
好きだけど。ホモであると認めるような発言を玉座の前でしていいものか、何だかオレってはめられてるの?とか、考えがまとまらなくてはっきりした答えが出てきません。
「愛のこもったキスをしてくれたのならエレオノールとそなたの結婚を認めよう」
「男色家の夫なんて……不憫すぎる……」
アンジェリーナはさらに泣いています。
「言うな、アンジェリーナ。フェイスレスにやるよりは、死んでしまうよりは、永遠に眠り続けるよりはずっといいだろう?」
「あの……話が見えないんスけど」
「ああ、すまん」
ショージは掻い摘んでナルミに事と次第を説明した。
「じゃあ、男から愛のキスを受けないとずっと眠ったままだと…」
「そうだ、やってくれるか?」
「分かりました」
ナルミはエレオノールの部屋まで家来に案内されました。背後にはアンジェリーナの嗚咽が響き、ナルミは歓迎されているのかされていないのか、とても複雑な気分になりました。


エレオノールの部屋に通されて、ナルミはエレオノールとふたりきりにされました。
エレオノールは昨日ナルミと別れたときに着ていた服のままでベッドに横たわっていました。
胸の上で手を組んで安らかな顔で眠っています。ナルミはそのすぐ傍に近寄りました。
閉じた瞼を縁取る長い睫毛。柔らかそうな赤い唇。肌理細やかな象牙色の肌。
ホントに女みてぇ。
「はあ……オレの人生、どこで狂っちまったのかなあ……」
まさか男を嫁にもらうなんて。この期に及んで、男はやっぱ困るよなあ、と考えている自分がいます。
「おまえがホントの女だったらなあ……なんの問題もねぇのによ」
おまえの両親からもお墨付きをもらったし。
ナルミはエレオノールの頬にそっと触れてみました。滑らかで柔らかい肌です。
白い首筋を見ているだけでもナルミの身体の奥底がゾクゾクしてきました。
「でも、しゃーねーなっ!好きなんだから」
ナルミは覚悟を決めて、唇を近づけました。
「男でも……精一杯可愛がってやるから」
ナルミはエレオノールの髪をやさしく撫ぜるとゆっくりと唇を重ねました。





その夜、ナルミは城の中の豪華な一室にいました。
ピカピカに身体を磨かれたナルミは、その薄暗い部屋のベッドの上で胡坐をかいていました。
くちづけで目を覚ましたエレオノールは歓喜に咽ぶ王やお后に連れ出され、ナルミはその後一度も会っていません。ものすごいご馳走を食べて、こんな(やる気に満ちたような)部屋に通されて、もうずいぶん経ちます。
ようするに、これから初夜を迎えろってことなのか?王様たちも気が早い……。
ナルミは気持ちの整理がまだついていませんでした。


そもそも、エレオノールの方はどうなんだ?
眠っている間にオレとの結婚を決められてて、しかも相手は男だぞ?
しかもどう考えてもあいつが受だろ?イヤだってダダをこねてここに来ねぇんじゃねぇのか?
まあ、それも分からないでもないけど。
ナルミが悶々と考えていると、扉をノックする音が聞こえました。ナルミの心臓が飛び上がります。どんな顔をしていいのか分からず、ナルミは扉に背を向けました。ベッドが軋み、エレオノールがその上に乗ったことが分かりました。微かな布ズレの音がしてエレオノールがナルミのすぐ後ろに座りました。
「ナルミ…」
「おう……あのよ……おまえはオレでいいのか?」
「はい」
その答えを受けてナルミは振り返りました。エレオノールは白いガウンを羽織ってきちんと正座をしています。
そうか、受の覚悟をしたのか。
「オレは(男とやるのは初めてだから)……おまえを満足させられるか分かんねぇケド……」
そう言ってナルミはエレオノールのガウンを肩から落としました。
そして目を剥きました。


そこにあったのは白くて大きくて柔らかそうなふたつの乳房。
「お、おまっ!女じゃねぇか?!」
「も、もしかして……!女はお嫌いですか?」
エレオノールはとても心配そうに眉を顰めてナルミを見上げています。
「男装をしている私の呪いを解いたということは、ナルミは男色家なのですか?だとすると、女の私では…受け容れてもらえませんか…?でも、それでも、私は…あなたが好きです…」
ナルミはエレオノールを抱きすくめるとそのまま後ろに押し倒しました。
よかった!オレは正常だった!ホモじゃなかったんだ!!
「女の方がいいに決まってるじゃねぇか!」
ナルミはエレオノールの唇に吸いつくと激しく舌を絡めました。そしてその豊かな乳房を手の平の中で堪能します。
「でもエレオノール……おまえが男でもオレは抱くつもりでいたよ……」
「ナルミ…」
エレオノールは嬉しそうに笑って、ナルミに本当の“女”にしてもらいました。






ナルミはしばらくして城下町に引っ越してきました。今はそこで王族御用達の拳法道場を開き、町の人たちや子供たち、国の兵士にまで拳法を教えています。
ナルミがホモでないことが証明され、ショージもアンジェリーナも胸を撫で下ろしました。
アンジェリーナはもう自分の娘のことを「不憫」だとは言いません。
「マッチョが好きなんて変わった趣味をしているわ。そこは私に似なかったのね」と思うだけです。
エレオノールはもう男物の服は着ません。
憧れの女らしい服を着て、ナルミと一緒に暮らしています。
『本当にエレオノールが女でよかった』と神に感謝するナルミに毎晩可愛がられて彼女自身、めっきり女らしくなりました。
そしてふたりは末永く幸せな人生を送ったとのことです。



End
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