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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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おとぎ話をモチーフとした創作です。

 

 

 

 

Fairy tale.

Cinderella.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸を希望で膨らまし、心を期待で躍らせるような軽快なファンファーレ。

リリカルな、乙女心をくすぐりまくるBGM。

可愛らしい色の妖精のコスチュームを身につけて軽やかに踊るダンサーたち。

メルヘンチックなフロートの上で王子とにこやかに手を振る絵本から抜け出てきたようなプリンセス。

彼女たちが踊ると、ふわりと裾の広がったドレスが優雅にひらめく。

プリンセスたちに向けて辺り一面から起こる、女の子たちの羨望の歓声――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の鳴海としろがねは千葉県にあるのに『Tokyo』を冠に頂いた名前の世界的に有名なテーマパークに遊びに来ていた。

サーカスの子ども組にせがまれて。

そして今、彼らはそろって地べたに座ってパレードを眺めている。

パレードのテーマは『夢見るプリンセス』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で女の子ってこーゆープリンセスが好きなんだろーなぁ…」

「そうだよね…僕たちには分かんないね…」

鳴海と勝は何となく付き合いで3月とはいえ、いまだ冷たい地べたに尻をつけながら、パレードの間は他のアトラクションを回ってこいつらと後でどこかで待ち合わせにすればよかった、ちょっと後悔していた。

中学生のリーゼも、普段は優等生然と振舞っている涼子も夢中で曲に合わせて王子と踊るプリンセスたちに見入っている。

「何だか臭くねぇか?」

「香水の匂いだよ。多分コレ(フロート)から出てるんじゃないの?」

パレードの通り道に振り撒かれる(おそらく)薔薇の香り。人一倍、犬並みに鼻のいい鳴海にはかなり堪えているようだ。

「ときめきのポーズ、言われてもなぁ…」

「優雅に投げキッス、言われてもねぇ…」

男の子には到底理解不能な世界。

ここで文句を言ったところで、かしましい文句が3倍以上になって返ってくるだけだということは、身に沁みて知っている。

だから何も言わない。

男のオレたちは勿論だけど、しろがねだってもう大人だし、こういうのはとっくに卒業してるしなあ。

そう言おうと隣のしろがねに顔を向けた鳴海と勝は、何だか見てはならないものを見てしまったような気がして慌てて目を逸らした。

 

 

 

「あれ……しろがねか?」

「うん、しろがね……だよ」

「本人、分かってねーよな、きっと」

「終わるまでそっとしておいた方がいいよね?」

鳴海と勝は思わずヒソヒソと声を潜めてしまう。もう一度、そーっと、しろがねを見遣った。

胸の前で両手を祈るように組んだしろがねは、頬を紅潮させて、ただでさえキラキラしている瞳を星だらけにしている。

でっかい目をこれでもかと見開いて、まさに食入るように、プリンセスのドレスに穴を開けそうな勢いで瞳を釘付けにしている。

はっきり言って、リーゼや涼子とは比較にならない集中度。

 

 

 

「…あいつ、こーゆーのに実は憧れてたんかな?」

「しろがねだって、一応女の子、だもんね」

「小さい頃から人形繰りしかしてこなかったんだもんなぁ…」

「反動が出てるとか?」

「意外と、幼いところがあるんだな……」

お姫様に憧れてあどけない顔を見せているしろがねを横目で見守りながら、鳴海はそんな彼女に

『ちょっと可愛いかも』

なんて感想を密かに寄せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パレードが通過し、人垣が端からバラバラと崩れていく。

次のアトラクションへと駆け出す子ども組の後ろをゆっくりとついて行きながら、鳴海はしろがねをまじまじと見た。

もういつものしろがねの顔に戻っている。

「何だ?私の顔に何かついているのか?」

「いや、何もついてねぇよ」

「ならば何だ?」

「……おまえって、さっきのプリンセスみたいのに興味あんの?」

鳴海の言葉が起爆剤になったかのように、しろがねの顔がぼふんと赤くなる。

「ど、ど、ど、どうして?」

らしくなく動揺している。

「パレード、夢中になって見てただろ?」

「……」

「おまえでも、ああいうのが好きなんかなーって思ってよ」

「お、可笑しいか?」

赤い顔を白い手で押さえて、上目遣いで鳴海の反応を窺っているしろがねもまた

『ちょっと可愛いかも』

なんて思って、鳴海の胸は図らずもドキドキしてしまい

「ちっとも可笑しくなんかねーよ。おまえだって女の子だもんな」

と、勝手に口が動いて返事をしていた。

 

 

 

何となく、気まずくなって、鳴海としろがねはしばらく黙って歩いた。しろがねの顔から赤みが消えるまで。

「…で?おまえは、どのプリンセスが好きなワケ?」

「……シンデレラ……」

シンデレラ。苦難を乗り越えて幸せをその手につかむ、サクセスストーリー。

しろがね、自分の境遇になぞらえてみたりしてんのかな?

鳴海は思わずそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親の顔も知らず、自分がどこの誰かも分からず、孤独のうちに言われるがまま人形繰りを習い、自らが人形と信じるまでにただひたすら自動人形を破壊し続けてきた哀しい過去と淋しい魂を持つ女、しろがね。

シンデレラの話で例えれば、閉ざされた世界から、勝を守るという使命を受けて今までと違う世界にやってきたしろがねはちょうど舞踏会に出かけている段階なのかもしれない。12時までに王子に出会えるならば、魔法が解けても王子が彼女を探し出し、再び閉ざされた世界から連れ出してくれるだろう。

『使命を終了する(魔法が解ける)』までにしろがねが誰かと相思相愛になれば、その相手の男は絶対に彼女を手放したくないと思うに決まっている。

なんてったって、しろがね、なのだ。

どんな困難な状況だって乗り越えて共にいたいと願うだろう。

出会えなければ、彼女は独り、淋しい世界に逆戻り。

鳴海と出会ってからはしろがねの外からも内からも、冷たい頑なさや、他人を拒絶する壁みたいなものは影を潜めたから鳴海自身あまり考えなくなっていたけれど、今日はどうしてか改めて、しろがねのこれまでや今現在の彼女の心に思い巡らしてしまう。

 

 

 

自分に出会うまでのしろがね。

自分と出会ってからのしろがね。

そして、今、隣を歩くしろがね。

 

 

 

今のしろがねは、以前ほど『淋しい女』な印象は受けない。

サーカスは賑やかだし、みんながしろがねのことを大事に思っているし、何より独りじゃない。

相変わらず偉そうで、生意気で、他の誰ともケンカなんかしないのに鳴海にはポンポン言いたい放題で言い争いになるのもしばしばだ。

オレのことを『気のおけないヤツ』と考えてくれんのは嬉しいけどよ、ちっとは男扱いしてくんねーかなぁ。

なんてことが最近の鳴海の悩みどころ。

 

 

 

鳴海はしろがねが好きだった。

だから、しろがねが自分をどう位置づけているのかが気になって仕方がない。

まあ、考えるまでもなく、お友達、なんだろーな。

それが鳴海の結論。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りがすっかり暗くなった時刻、テーマパークのシンボルである城の前でシンデレラの戴冠式のイベントが行われた。

3人分の抽選が当たり、子どもたちは座席に座り、目前でそのイベントを見ることが出来た。

(勝は席をしろがねに譲りたがったが、どうやらリーゼが勝と一緒に見たかったようなので折れた)

鳴海としろがねは少し離れたところからイベントを眺めた。ふたりとも視力が半端じゃなくいいのでなんら問題がない。

やはりしろがねは夢中になってプリンセスたちを見つめている。

鳴海はそんなしろがねの様子をじっと見つめていたが、花火が打ちあがったのでそちらへと視線を移した。

「なあ」

「何だ?」

「プリンセスに興味がある、ってことはおまえも『王子様』に憧れてたりすんの?」

「王子様…?」

プリンセスがピンチになると颯爽と現れて、悪者を倒し、幸福な世界へと導いてくれる存在。

必ずプリンセスと『末永く幸せに暮らしました』というハッピーエンドを迎えてくれる存在。

しろがねが黙っているので気になった鳴海がしろがねを見下ろすと、彼女は花火を見つめたまま、何やら考えているようだった。

銀色の瞳は色とりどりの花火が映る度に、まるでカレイドスコープのように煌めいた。

 

 

 

「…そうだな…私を助けてくれて…違う世界へと引っ張り出して…心を温かくしてくれる…『王子様』、か…」

表情を柔らかくして『王子様』を想い描くしろがねは、やっぱりきれいだ、と鳴海は思った。

「あ、あのよー……おまえもああいう『王子様』が好みか?」

「ああいう、とは?」

「ほら、ステージにいるような……線が細くて、女性的っつーか中性的っつーか……お上品な色男系の男……」

鳴海とは正反対、のタイプ。重なるところが何一つない。

「『王子様』っていうのはあんなイメージなのではないのか?きれいな顔でも、最後には悪者をやっつけるぞ」

「うん、それってずりーよな。いい男で腕っ節も強ぇなんてよ…ちぇ。『白馬の王子様』かあ。憎ったらしいなあ…」

「それがどうかしたのか?」

「いやー……別にー……」

王子様、なんて自分の柄じゃない。そんなことは百も承知。

しかもシンデレラのお相手の王子の名前は『プリンス・チャーミング』だ。

チャーミング。一体、鳴海にどうしろというのか。ない袖は振れない。

それにあの、マントはともかく、ちょうちん袖に白タイツ。鳴海が着たら……これは一体、どういう職業のヒトになるだろう?

でも、そういった男がしろがねのタイプなのだとしたら、しろがねにとって本当に鳴海はお呼びでないことになる。

なんってったって、真逆、なのだから。

 

 

 

あーあ。

と我知らず、溜め息をつく自分を見てしろがねがくすり、と笑ったことに鳴海は気がつかない。

 

 

 

「いいんじゃないか?」

「何が?」

「口が悪い、人並外れて大きくてマッチョな王子様、というのも有りじゃないのか?」

「……?」

「プリンセスがいいと認めれば、そんな型外れの王子様も」

「それってどーゆー…?」

鳴海がしろがねの言うことにピンとこないでいると

「私は、そういう王子様、嫌いじゃない」

と彼女ははっきりとそう言い切った。

鳴海がしろがねの言葉に目を丸くするが、しろがねは何事もないように知らん振りしている。

「嫌いじゃないって」

「嫌いじゃない。言葉通りだ」

「ってことは…」

「あなたが乗ったら白馬がつぶれてしまいそうだな」

しろがねは楽しそうに笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は今日、こうして花火をあなたと一緒にみることができて嬉しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀色の髪のお姫サマは趣味が悪くていらっしゃる」

鳴海の腕がしろがねの肩をやさしく抱いた。

「趣味が悪くてホッとしているのだろう?」

しろがねの腕が鳴海の腰にしなやかに回る。

「まあな。あんなプリンス然とした男が好みって言われたらオレにゃどーしよーもねぇからよー」

「あなたはあなただ。私はあなたがいい」

 

 

 

あなたはその力強い腕で私を眩しい光の中に引き上げてくれた。

あなたは笑うことを教えてくれた。

私を、「人形ではない」と、自分が人間なのだと気づかせてくれた。

何よりも、私はもう独りではないのだと、こうして傍にいてくれる。

しろがねは頭を鳴海の胸元に寄せた。

鳴海はしろがねの身体をより近く抱き寄せた。

初めて抱いたしろがねの肩は信じられないくらいに細かった。

この細い肩で孤独を生きて、得体の知れない自動人形と戦ってきたのかと思うと鳴海は切なくなった。

 

 

 

きっと、淋しかっただろうな。いくら、しろがねが強いと言っても。

こうやって誰かに寄りかかりたいと、心が弱くなった日もあったろう。

でも、辛いも苦しいも痛いも哀しいも淋しいも、全部ひとりで呑み込んで生きてきたんだ。

笑えなくなるのも、頷ける。

 

 

 

「なあ」

「何?」

「おまえの、勝を守るって使命が終わっても、オレ、一緒にいるからさ」

「……」

「もしまた、その後、おまえがここじゃないどこかで人形と戦うっていうのなら、ついていくから。一緒に戦ってやるよ」

「……」

「オレは腕っ節しか取り得がねぇからな。でも、それが取り得でよかったぜ」

「……」

「おまえの荷物、半分背負ってやるから。だから、笑っていろよ」

しろがねは黙っている。しろがねが黙っているから、鳴海も少し間を置いた。

ステージ上はクライマックスを迎えている。

 

 

 

ようやく、しろがねが口を開いた。

「……急に目が悪くなった。ぼやけてよく見えない。せっかくのクライマックスなのに……」

周りの人たちは、シンデレラが王様から冠を戴く姿に釘付けで、誰もふたりのことなんて気にも留めていないから、鳴海は身体を屈めてそっとしろがねと唇を重ねた。

しろがねの唇は濡れていて、しょっぱい味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ」

帰る道々、鳴海は小袋をしろがねの手の平に乗せた。

中にはテーマパークのシンボルである城の中のガラス細工店で買った小さな小さなガラスの靴。

「シンデレラには付き物だからな」

「ありがとう」

しろがねはにっこりと、笑う。自分の『王子様』に。

『王子様』は初めて見る『プリンセス』の笑顔があんまりにも晴れやかできれいだったので、思わず目を丸くして見とれてしまったけれど、すぐにそれに笑顔で応えて

「これからはずっとそーゆー顔してろよ」

そう言って、彼女の頭を引き寄せて、その髪をくしゃくしゃと撫でた。

 


 

End

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