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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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「目には見えないって分かってはいるけどこうやって目をこらせば動いているのが見えそうな気がするのよねぇ」
ミンシアは眼前に揺れるゴムの先を綺麗に整えられた爪の先で突いた。
使用済みコンドームの中に閉じ込められた鳴海の精液を指先で弄びながら、その白濁した液体の中に一体どれだけの精子がピチピチと泳いでいるのだろう、などという絵を楽しんでいたミンシアだったが、気づくと隣に寝転がる鳴海はさっきから自分の言葉に無反応だ。何だかそれがとてもつまらなかったので、ぼんやりと天井を見つめたまま考えに沈んでいる男の鼻先にコンドームをペタとひっつける嫌がらせをしてみた。肌に張り付く湿った感触に現実に戻ってきた鳴海は、『それ』が何か分かると顔を顰め、不快感をアピールしてみせた。



「やめろよな、もお。汚ぇなぁ」
鳴海は頭の下で枕にしていた太い腕を解くと、顔に乗るコンドームを摘み上げ、床に投げ捨てた。
「普段、人をガキっぽいだの何だの言って姐さん風を吹かせるくせになんだよ。ガキのイタズラみてぇなこと、すんなよなぁ」
「何よ。汚い、なんて失礼じゃないの」
ミンシアはうつ伏せになり、鳴海と目を合わせると抗議の声を上げた。それもそうだ。自分の愛液に塗れたものをくっつけられて汚い、と言われては文句のひとつも言いたくなる。
「だってそうじゃん。それに中に入ってんのはオレのザーメンだしよ」
鳴海は尖ったミンシアの視線などお構い無しに手の甲で鼻の頭をゴシゴシと擦ってみせた。ミンシアの憤慨は治まらない。
「私はそれを飲むのよ?それにミンハイだってクンニしてくれるじゃない、口をつけるでしょうに。聞き捨てならないわ」
「レアなのは気になんねぇよ。こっちも気分が高ぶってるしさ。だけどそりゃ時間経ってるだろ。気分の問題だよ」
鳴海はまた元通り頭の下で腕を組み、天井に顔を向け目を瞑った。どれだけ付き合いが長かろうが、幾度セックスをしようが、全く甘い空気を醸す気のない鳴海にミンシアは唇を突き出す。



鳴海にとってセックスは体力や精力を消耗させるスポーツのようなものらしい。自分同様、拳法で身体を鍛えているミンシアは鳴海の『スポーツ』の相手としては適役なのだ。多少激しくてもインターバルなしでもOK。だからミンシアに誘われれば「おし、じゃあやるか!」と気楽にセックスに応じる鳴海ではあるが、決してそこには愛情はない。
鳴海が自分と愛情で繋がってないことくらい、ミンシアにだって分かっている。
とはいえ、ミンシアにだって『女心』というものはある。繋がりの名前が『愛情』ではないにしても、彼女の胸の中には鳴海に対しての秘められた愛がある。だからこうして憤慨もするのだ。



「ミンハイってホント失礼よね!そんなんじゃしろがねさんにも怒られてるんじゃないの?」
しろがね、の名前を出したミンシアには深い意味はなかった。
けれど、しろがね、の名前が出た途端に鳴海はわたわたっと半身を起こした。
「何が?オレの何をしろがねが怒るって?」
話半分に聞いていた鳴海は何のことやらと聞き返す。
「しろがねさんのアソコを出入りした使用済みコンドームを顔に乗せられて私に言ったのと同じこと言うのかって話よ。汚い、なんて言ったらしろがねさんだって怒るでしょう?デリカシーのない男だ、って」
ミンシアの挑むような瞳にぽかん、としたような丸い瞳を向けた鳴海はしばし考えて
「いや、その話なら大丈夫」
と安心したように笑って手をナイナイと振った。



「ああ、驚いた。しろがねが何オレのこと怒ってんのかと思ったぜ」
鳴海は胸を撫で下ろす。
「どうして大丈夫なのよ」
「だって初めっからそんなこと言わねぇから。しろがねのは汚ぇなんて思わねぇからさ」
「何それ?」
ミンシアは激昂したような声を出した。が、鳴海は一向に意に介さない。
「何、って言われてもなぁ……他の女だったら姐さん同様に『汚ぇからそんなイタズラはよせ』って言うよ。けどしろがねは特別だからなぁ……ちっとも気にならん……」
「特別…」
ミンシアは耳を疑うような言葉を思わず復唱する。一方の鳴海はミンシアの意など解さずお気楽なものだ。



「うん。てゆうかさ、考えてみたらしろがねとは使わねぇんだよなぁ、ゴム。そんな話自体が無意味かもな」
鳴海は身体を揺すってクククと笑った。
「じゃあ、しろがねさんとは避妊してないの?」
「うん。まあ。つけない方が気持ちいいってしろがねが言うし。つけなくていいって言うからさ」
「どうして?私とは必ずつけるじゃない?つけなくていい、安全日だからっていくら言っても」
「だって万が一、ってこともあんだろ?妊娠は困るしさ」
「しろがねさんだって同じでしょ?妊娠したら困るじゃない?」
「ん?うー…ん」
鳴海はしばらく考えを巡らしていたが
「やっぱさ、しろがねは特別だから」
とキッパリした口調で答えた。
「何なのよ、特別って」
「自分でも、よく分かんねぇ」
鳴海はドサッと身体をベッドに倒す。そして今はここにいないしろがねを瞼の裏いっぱいに描き出した。
しろがねはいつも鳴海に素っ気無い。鳴海を突き放すような言動をする。けれど、そんなしろがねが腕の中にいると鳴海はものすごく幸せなのだ。ただ傍にいてくれるだけで鳴海は嬉しくて堪らないのだ。そんな幸福を与えてくれる女はしろがねをおいて他にいない。



「もしも……避妊しねぇでしろがねが妊娠したって言ってもよ、オレ、しろがねのことなら責任を取りたいと思うんだ。しろがねがオレの子どもを妊娠した、って言ってきたらきっと嬉しい。すぐに結婚を申し込むよ」
「結婚?」
ミンシアの瞳の中に暗い影が差す。
「うん」
鳴海はミンシアの感情の変化に気づくことなく、脳裏に描き出されたしろがねに想いを馳せた。



しろがねは自由な鳥だ。真っ白な翼を広げて青い空に好きな時に飛んでいってしまう。鈍重な自分を残して。世界を股にかける花形シルカシェンは凡庸な男の傍らになど留まってはくれない。愛を告げても迷惑なだけだ。自分はしろがねに華やかな舞台を用意してやることなどできない。だから時々、彼女が思いついたように疲れた翼を休めに来てくれればありがたいと思わなければいけない。自分にはそれを待つことしかできない。
でももし子どもができたら、しろがねは自分のものになってくれる。もしかしたら空を飛ぶことを止め、自分のいる巣で卵を孵し、ヒナを育てることに専念してくれるかもしれない。



そうしたら。
もう放さない。腕の檻に閉じ込めて、二度と空へは放さない。



「だけどさ、姐さんや……他のコにさ、子どもできた、って言われたら引いちまうと思うんだ。結婚して責任を取ってくれ、って言われたらマジ悩む。だから最初から避妊する」
「ずいぶん待遇が違うじゃない?」
「だから言ってるだろ?しろがねは特別、なんだよ。別格の女なんだよな、オレの」
瞼を閉じたまま、鳴海は幸せそうに笑っている。その穏やかな顔を見つめるミンシアの顔からは笑みが消えていた。



ミンシアは鳴海のことを愛している。鳴海があくまで「姐さん」としか見てくれないから、勝気な彼女は弱い女の顔を見せることができないだけで。愛を告げたら鳴海はきっと逃げてしまうに違いない。それならばただの【スポーツの相手】を続けていた方がいい。
仮初めでも繋がっていられる。
「その割にはしろがねさんにいいようにあしらわれてるんじゃないの?あんたの携帯、しろがねさんからの着信履歴、数えるくらいしかないじゃない?」
少しでも鳴海のしろがねへの気持ちを冷やすことができれば、ミンシアは自分を嫌な女に貶める捨て身の言葉を吐く。
「あ?またオレの携帯隠れて見やがったな?やめろよな、そういうの」



鳴海はミンシアに痛い所を突かれて傷ついた。その通りなのだ。しろがねが電話をかけてきてくれることなど滅多にない。ミンシアの指摘の通り、しろがねからの着信は片手もない。
どれだけ鳴海が、しろがねからの着信を待ち望んでいるのか、彼女は知っているだろうか?かかってこない、かかって来るはずがないと分かっていながらも、携帯を必ず手の届くところに置いているのは儚い望みのためなのだ。
前にミンシアが出たのが拙かったのかもしれない。そしてミンシアのフェラチオ攻撃に抗えなかった自分の弱さがいけなかったのかもしれない。滅多にない、しろがねからの着信だったのに、と悔やんでも悔やみきれない。何しろあれ以来、しろがねの電話は途絶えているのだから。



「そんな相手に特別、って」
「うるせえな」
「あんただってしろがねさん以外の女をこうやって抱くじゃない?」
ミンシアは鳴海のペニスに手を伸ばし、それをキュッと握った。鳴海の身体がびくりと揺れた。
「しろがねさんだってあんた以外に関係を持っている男がいるわけでしょ?」
「……ほうっとけよ」



今頃。
しろがねは何をしているだろう?
フランス公演のために日本を離れて日も経つ。しろがねは綺麗だし、あっちの野郎どもは女に手が早いから相手には困らないだろう。適当に金持ちの色男を捕まえてよろしくやっているに違いねぇ。
オレのことなんか思い出しもしねぇで。
他の男にも中出し、させてんのかな…。
オレはしろがねが『特別』だから生でする、しろがねもオレを『特別』だと思ってくれているから生でさせてくれるんだと、勝手に思ってるけど……本当は、しろがねにとっちゃ生ですんのが当たり前なのかな……。



不覚にも、他の男に抱かれて悶えるしろがねを想像していたらペニスがミンシアの手の中でいきり立ってしまった。
「うわ、最低、オレ」
「すご……ね、私にも生のちょうだい?いいのよ、中で出しても」
ミンシアが耳元で囁いた。
一瞬、鳴海の頭に「しろがねが他の男にも中出しさせているなら、オレもしろがね以外の女と生でヤってやろうかな」という考えが過ぎった。でももう一度、「しろがねもオレのことだけを『特別』って許してくれているのかもしれない」と思い直した。



決めた。
例え、しろがねがオレのことをどう見てても、オレだけはしろがねを特別扱いしていこう。
鳴海はミンシアを押し倒し、その身体に乗り上げる。
「ダメだから。ゴムはつけるぞ、必ずな」
鳴海は枕元の小箱に手を伸ばすと、コンドームのパッケージを開ける。そしてそれをきっちりと根元まで装着してからミンシアの中に埋めたのだった。



End
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