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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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「しろがねさん」
ホテルのエントランスを出てまもなく、しろがねは呼びとめられた。平日とはいえ、人通りの多い石畳の上に見知った顔が立っている。しろがねはここでリーゼに会うことに全く意外とは思ってないようで、明るい笑顔を見せた。
「リーゼさん、こんにちは」
「こんにちは…」
自然体を心がけようとするものの、どうしたってリーゼの口調が固い。表情も硬い。リーゼの様子がいつもと違うことに気づいたのか、しろがねが
「リーゼさん、どうかしたのですか?」
と心配そうな声をかけた。
どうかしたのかも何も、あなたはその心当たりがあるのではないのですか?
そう言ってやりたい気持ちを深呼吸で押さえ込み、リーゼも
「何でもありません」
と微笑んでみせた。



しろがねはすっきりとした淡いラベンダー色のワンピースを着込んで趣味のいい小さなハンドバッグを提げている。昔、寝食をともにしていたときのしろがねはもっとスポーツライクな服装が多かった。今日の格好はとてもフェミニンで、誰かと逢引きするのにおしゃれをしてきた、と考えることも容易な気がしないでもない。相変わらず、日光に銀色をキラキラさせて眩しいったらない。同性の目から見ても、しろがねはとてもきれいで。
リーゼはできるだけにっこりを返しながら眩そうに苦しそうに目を細めた。そして普段の口調を思い出しながら
「お一人なんですか?ナルミさんは、ご一緒じゃないんですか?」
と訊ねてみた。
「ええ」
「何かご用でも?」
今日のしろがねが鳴海と別行動をとっていることなんて嫌というくらいに知っているのに。リーゼは当のしろがねがどんな反応を見せるのかをしっかりと見極めようと思った。もしも勝と会っていたのであれば自分を相手に動揺の欠片を絶対に見せるだろうから。



しろがねさんは嘘をつくかもしれない。
でも、嘘つき勝負なら私は負けない。
私には嘘の匂いが分かる。
だって、私の恋人は嘘つきだもの。
慣れているの。



しろがねはリーゼが自分のことを疑ってかかっていることも、実は鳴海がすぐそこにいることも知らず、リーゼから見たらひどくお気楽に
「ここの」
と目の前のホテルを指差して
「ホテルに野暮用です」
と言った。笑顔の裏でリーゼは訝しむ。何て堂々と、勝の泊まっているホテルに用があったと言い放つのだろう。
「ナルミはお留守番です。今日は私ひとりです」
「…珍しいですね。いつも一緒だから、しろがねさんがひとりでいると何だか変な感じ」
そうですか?そうですよね、としろがねはクスクスと笑っている。
「日本や、少し大きな町に滞在する時には必ず、ひとりで出かける用事があるのですよ、私には。今日もその用事です」
「どんな用事ですか?差支えがなければ、教えてくれませんか?」



どういう言い訳をするつもりなのか、リーゼはしろがねの瞬きひとつに潜む嘘や誤魔化しも見落とさないように注意を配る。しろがねは、さっき勝にもして見せたように、ほっそりとした人差し指を唇に当て、
「ナルミには内緒にしてくださいね」
とイタズラっ子のように笑った。
「言いませんよ、何ですか?」
「エステ、に行くのです」
「エ?エステ?」
「たまの贅沢なんですよ。2時間のスペシャルコース。顔も髪も、全身。今ちょうど終わって帰るところなんですよ」
天国でした…と、しろがねは過ぎ去ってしまった至福の時間を思い出して、ほう、と溜め息をついた。
リーゼにしてみたらはっきり言って拍子抜けだ。エステに通うことを内緒にするなんて訳が分からない。エステならリーゼも定期的に通っている。人に見られることを生業にしている女性なら特に珍しい用事でも何でもない。確かにここのホテルには有名な高級スパが入っている。しろがねが行ったというエステはそこのことだろう。後で確認してこよう、リーゼは心に刻んだ。



「たまにたった一回行くくらいでは焼け石に水なのは分かってはいるのですが、全く何にもしないよりはいいかと…」
しろがねは頬を両手で包み、険しいくらいの真剣な表情を見せている。嘘をついているようには見えない。リーゼはしろがねの頭の天辺から爪先まで眺めて
「どこにそんな必要があるんですか?」
と素朴な質問をしてみた。
「必要は大アリですよ!見てお分かりになるでしょう?」
でっかい目を見開いたしろがねに分かるだろうと言われても、分からないものは分からない。
「わ、分からないですよ」
「山奥やらジャングルやら洗顔も満足にできないところを移動して、いつもほとんどスッピンで、野ざらしで……紫外線に痛めつけられているのも自覚できますし……。なのにケアもメンテナンスもしないで日々、肌を酷使しているのです。顔も身体も、目一杯痛めつけられて酸欠を起こしそうなんです。汚れも毛穴に詰まってますし」
「そう、でしょうか?」



ジャングルをスッピンで歩き回ってる肌とは到底思えない、しろがねの真っ白で滑らかな肌。シミもソバカスも吹き出物もない、剥き卵のようにつるんとした肌。見るからにしっとりと肌理細やかそうな肌。
「嫌ですよ、リーゼさん。そんなにじっと見ないでください」
しろがねは両手で更に顔を覆った。
「しろがねさんは綺麗ですよ?」
「あ、ありがとうございます」
しろがねは困ったように笑って頭を下げた。そして顔を上げたしろがねがリーゼの顔、というよりもその顔を滑らかに覆う肌を見つめた。そこには羨望、というものが混じっているようにリーゼは感じる。
「リーゼさんの方が、ずっと綺麗ですよ?」
「しろがねさん、そんなことないですよ」
いきなり褒められて、リーゼはブンブンと両手を振った。
「私は『しろがね』ですからダメージを受けてもすぐに元に戻るだけです。言うなればドーピングです。でもそれだけじゃダメなのです。できるだけ、頑張らないと」
「何でそんなに頑張らないといけないのですか?」
リーゼは不思議でならない。しろがねの苦笑が続く。



「不安、なんです」
「不安?」
何が不安?あんなに鳴海さんに愛されて、愛する人の顔をいつも見ていられるのに何が不安だというの?
私なんか愛する人とずっと離れているのよ?離れている間、勝さんが何をしているのかを考えると苦しみと寂しさで死んでしまいそうになる。自分を慰める、愚かな行為に何度走ったことか。
私から見たら、あなたのどこにも不安の材料はないわ?
リーゼは憤りを覚えずにはいられない。



「リーゼさん、笑ってくれていいのですよ。私……仲町サーカスに戻るたび、新しい、若くて綺麗な女の子のメンバーが増えていて……もしもナルミの目がそちらに移ったら嫌だな、って。山奥やジャングルにいる間は私しかいませんから目移りのしようもないのですが」
「は?」
何て見当違いな不安だろう。鳴海のどこにそんな気配を感じるのか。リーゼは心の中で唸った。
「リーゼさんだって涼子さんだって、会うたびに大人になって綺麗になって…。絶対、男の人は若くて可愛い女の子の方がいいでしょう?私には輝くような初々しさや弾ける若さなんて最初からありませんし。毎日毎日、顔を合わせているから代わり映えもしないでしょうし…。それなのに汚れたままの私じゃ、ナルミに嫌われてしまう」
「ナルミさんが目移りしたことなんてあるんですか?」
「ない、です…。ない、と思います、けれど。でもこれからは分かりませんもの。今までだって……あったかもしれない……自信なんてありません」
しろがねは今にも泣きそうな瞳で俯いた。
こんなに美人で見るからに完璧なのに、その人は、ただひとりの愛する男のことで悩んでいる。そのお相手はどうしようもないくらいに彼女にベタ惚れしているというのに。リーゼから見たら無駄な悩みとしか言いようが無い。



相手にならないわ。
分かり易過ぎる。



リーゼの胸の中に広がっていた黒い感情は霧消した。しろがねが鳴海しか見ていないこと、そしてそれは決して演技ではなく彼女の本心であることが分かったからだ。しろがねは全く鳴海以外の男を見ていない、リーゼの勝もまた相手にされていないのだ。
きっとしろがねは彼女の言った通り、エステが目的でここに来たのだろう。そしてたまたま、勝に会ってお茶か何かをしていたのだろう。尤も、リーゼは念のため確認するつもりでいる。エステにも、そしてこのホテルにいる勝にも。



少し、リーゼにも余裕が生まれる。声のトーンが落ち着いた。
「私は大人なって改めて、同じ女の目でしろがねさんを見るようにもなりました。年齢が近づいても私はしろがねさんに敵わない、そう思います」
出会った頃、リーゼから見たらしろがねはずっと大人に見えた。それが今では自分も大人になった。勝にしてもそうだ。子どもから大人になり、少年の目から男性の目でしろがねを見ているはず。しろがねの姿はリーゼが見るよりもずっと、勝の目には眩しく映っているに違いない。
しろがねはともかく、勝には、きっと秘められた感情が逆巻いている……リーゼはきゅっと苦しくなる胸に眉を顰めた。
しろがねはやんわりと首を振る。



「『しろがね』年齢では皆さんと変わりませんけれど……。100年モノには違いないですから。リーゼさんの、生まれて20年の肌には敵いません」
「100年モノ?」
「そうですよ。私の実態は100歳のお婆さん、そうナルミに言われたこともあるんです。若作りしているだけですよ」
「すごい……若作りですね」
ふたりは目を見交わしてクスリ、と笑い合った。
「あの。本当にナルミには内緒にしてくださいね?絶対ですよ?約束ですよ?」
「どうして鳴海さんに言わないんですか?エステに通ってること」
隠すほどのことじゃないのでは?と訊ねるリーゼに、しろがねは両手で押しとどめるようなジャスチャーをする。
「恥ずかしいじゃないですか。そんな必死になっているの、知られるなんて。そんな、根も葉もないヤキモチ妬いているなんて。ナルミを困らせるだけです」
「自分のために綺麗になる努力をしてるって知ったら喜ぶと思いますよ?」
「そうかもしれませんが…。でも、ダメなのです」
しろがねは時に思うのだ。鳴海はもしかしたらかつて自分を傷つけたことへの贖罪で傍にいてくれるだけなのかもしれない、と。私が鳴海を愛しているから、それに応えることが償いになるのならと傍にいてくれるだけなのかもしれない、と。



根底にあるのは愛情ではなく、贖罪。
そう思うと怖くてたまらない。不安でどうしようもなくなる。



鳴海はやさしい。とても大事にしてくれ、温かく包んでくれる。しろがねには鳴海なしの人生なんてもう考えられない。鳴海からの大きな愛情に身を浸すとカラダが端から溶けていくように思える。凍えた彼女の90年を温かい笑顔で癒してくれた鳴海は彼女にとっての神だ。
鳴海も自分を愛してくれている。けれど、その愛情よりもきっと贖罪の意識の方が強く、大きいのではないか、と考えてしまう。どうしてそういう風に考えてしまうのだろう?自分に全く自信がない。愛されるように努力をしなくてはならない。でも、そんな必死になっている自分は鳴海に重荷に思われてしまうかもしれない。努力は、鳴海に気づかれないようにしないといけない。



不安な気持ちは、心の奥底に隠しておかなくてはいけない。
不要に鳴海に心配をかけてはいけない。嫌われたくはない。



思い出すだけで身震いの出るあの90年はもう、繰り返したくない。90年の孤独。心を閉ざしていた頃のしろがねならば、無知故に耐えられただろうが、今のしろがねには耐えることなどできない。鳴海が自分以外の女を愛する、その身体を抱く、そうなったら自分は石に還るしかない。心を悲痛に引き裂かれながらこの生を終えなければならないのだとしたら、私は何のために生まれてきたのか、本当に分からない。
愛され続けてもらえるよう、心を砕き続けないといけない。
「ナルミのためにも努力しないと。私は努力して人並みなのですから」
しろがねは甚く真面目な顔で言い切った。
「それは絶対に他の女の人の前で言わない方がいいですよ」
「?どうしてですか?」
昔からそうだったけれど、しろがね、という女性は自分の価値というものがまるで分かっていない。リーゼは苦笑した。
「ナルミに見放されたら……私にはどこにも行くところがありません」
しろがねもまた自分と同じ、唯一人の男に恋焦がれる女性であり、そうしてくれる限り彼女がリーゼの障壁になることはないことが分かり、リーゼは密かに安堵の息を漏らした。



「ずいぶんと長い立ち話をしてしまいましたね、ごめんなさい、引き止めてしまって」
「はい?」
「これからお約束だったのでしょう?お坊ちゃまと」
しろがねはホテルの上階を指差した。しろがねはどうやらリーゼが勝の滞在を知っていると思い込んでいるようだ。
「え、ええ」
リーゼはしろがねと話を合わせる。
「お坊ちゃまが帰国してらしたなんて私は知らなくて。それにお坊ちゃまがああやってフウの部屋を使っていただなんて…」
「フウ?」
「あら?それはご存知ありませんでした?お坊ちゃまがお泊りになっているのはフウが世界中にキープしている部屋のひとつなんですって」



しろがねはどうやって勝と合流したかも明らかにしてくれた。このホテルに向かっている途中で近くの本屋に出かけて戻ってきた勝とばったり会ったのだそうだ。これからエステに行くのだと言うと「帰りに自分の部屋に寄ってお茶でも飲まないか」、と誘われたのだとか。
リーゼの疑心の根がすっかりと抜ける。
蓋を開けてみれば何の罪もないしろがねに疑いの目を向けていたことが申し訳なく感じる。
悪いのは、言うなれば自室にしろがねを引き込んだ勝なのだ。もっとも、勝がもはや一人前の大人の男であり、男女ふたりがホテルの一室にこもったらどんな勘繰りを受けても仕方ないことに気づいてないしろがねの天然ぶりにも問題はある。



「しろがねさん……あの、私……」
「何ですか?」
「い、いえ……あの、鳴海さんはしろがねさんしか眼中にありませんから、愛してませんから…。心配なんかしないで、今日は、帰ったらやさしくしてあげてください」
謝るのも何だか変だと気づいたものの慌ててつい妙なことを口走ってしまったかもしれない、余計事を口にしてしろがねに変に思われたかもとリーゼは内心ドキドキしたが、しろがねは事の外嬉しそうに微笑んで
「はい」
と返事をした。リーゼも安心した笑みをこぼす。
ふたりは「それじゃ」と手を振って別れた。











予定の帰宅時間よりも遅くなってしまったかもしれない。太陽の角度からそれを感じる。元々急ぎ足だったしろがねは、大好きな鳴海の待つ家が見えた途端、駆け足になった。早くナルミに会いたい。最後はほとんど息せき切って玄関の扉を開けた。
「ただい…きゃっ」
玄関に入った途端、しろがねは鳴海の太い腕に抱きすくめられ、ビックリした。首元に鳴海の頬の温かさを感じ、その背後で玄関の扉が自然に閉まる音がする。
「ナ、ナルミ?どうしたの?」
普段の帰宅時に、こんな熱烈な出迎えを受けることはないので少し戸惑う。
「ナルミ、あの…」
「いつもよりも遅かったな…少し、心配してた…」



ああ、それで?玄関で飛びつくくらいに心配してくれてたの?
ナルミは私に過保護ねぇと苦笑しながらも、ナルミの心が自分に向いていてくれたことがとても嬉しい。しろがねも両手を大きな背中に回す。その熱に、酔う。甘えてくる大男に愛おしさがこみ上げ、その髪をやさしく撫でる。
「ごめんなさい。出先でちょっと知り合いにバッタリ会っちゃったものだから、いつもより帰りが遅くなったみたい」
「知り合い?」
しろがねの見えないところでナルミの瞳が苦しそうに歪む。
「誰だと思う?ふふ、お坊ちゃまとリーゼさん。会ったのは別々だったのだけれど」



しろがねは隠し立てをすることなく誰と会ったかをライトに口にする。
「そう、か…?どこで?」
「今日行った…」
しろがねはホテルがある街の名をあげる。
「そうか…」
「お坊ちゃまもコマメに帰国しているのね」
しろがねは嘘はついてない。でも『何しに行ったのか』は言わなかった。



そこへは何をしに行ったんだ?
そう訊きたいと思った。けれど、それを訊くことは妻を束縛したがる嫌な夫に成り下がってしまう気がして言うことができなかった。しろがねに問い質すことはできない、リーゼの言うとおりだ。鳴海はぎゅっと目を瞑った。
しろがねが外で何をしてもいい。必ず、オレの元に帰ってきてくれたら、そして傍にいてくれたら、それだけでいい。永遠に、傍にいてくれればそれでいい。おまえがどうしてオレなんかを選んでくれたのかが分からない。おまえなら、この世のどんな男でも選ぶことができるのに、どうして腕っ節しか取り得のねぇオレを選んでくれたのか、分からない。だけど絶対に言えることは、愛するのは、オレの役目だということ。しろがねはオレの傍で笑っててくれたらそれでいい。


オレが一番でなくても我慢する。
オレを嫌わないでいてくれたら、それでいいんだ。



鳴海はしろがねを抱き締める腕に力をこめた。
「どうしたの?何だか様子が変よ?何かあったの?」
「何でも……ねぇ」
帰宅して間もなく、まんじりとしない鳴海の元にリーゼから連絡がきた。
勝さんとしろがねさんは何にもなかったようです。しろがねさんはあのホテルに別の用事があって、それが終わった後に勝さんとお茶をしていただけみたいです。お騒がせしました、ごめんなさい。
リーゼの連絡はそれだけだった。その用事とは何だ、とリーゼに訊ねてみたものの、女同士の秘密です、としか答えはもらえなかった。その代わり、
しろがねさんは鳴海さんのこと愛してらっしゃいますから心配しないでください。
と言われた。



しろがねが愛してくれている。
それならいいんだ。



でも、オレより愛するヤツがいるのかもしれない。そいつとの関係を守りたいからリーゼにも見抜けないような巧妙な嘘を突き通したのかもしれない。
疑心が消えてくれない。どうしてこんなに不安になるんだろう?



それはきっと、抱き締める愛する女の身体から嗅ぎ慣れない匂いがするから。
自宅のものではないソープの匂いがするから。
しろがねは、あのホテルで服を脱ぎ、身体を洗ったのだ。
何らかの理由で。



しろがねは鳴海に強く抱き締められながら、鳴海が今、何かを我慢していることを感じていた。鳴海が苦しんでいることが分かる、それもおそらく原因が自分にある。きっと私の何かを赦している。
怖い。
しろがねは涙がこぼれそうになる。
鳴海の中から愛情以外の感情が自分に向けられている。
それが何が恐ろしくて訊くことができない。



しろがねの中には鳴海を鬼にした対象が棲んでいることは否定しようのない事実だから、本当のところで鳴海が蟠りを持っていないかどうかは彼女には分からない。自分は鳴海の妻であり、かつての仇。
自分への愛情。
過去の罪への贖罪。
憎悪した敵への赦免。
あなたの心には今、何が膨らんでいるの?



「ナルミ…」
「しろがね」
「はい?」
「オレにはおまえしかいないから」
「…私も。あなたしかいないの」










この悲痛なくらいの気持ちは



おまえに



あなたに



本当に届いているのだろうか?



End





◇◇◇◇◇

postscript
鳴海には鳴海の、しろがねにはしろがねの、お互いを思うが故の悩みがあって欲しいな、って思うんですよね。教会でキスしたふたりって、「どうして自分たちが結ばれることができたのか」っていう深い部分に全然目が行ってなさそうなんだもの。もちろん、ふたりが幸せならいいんですよ?いいんですけれど。雨が降らないと地面って固まらないものなのかもしれません。

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