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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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空港へ向うタクシーの中、鳴海は少し考えた。
もしも、自分の知らないところでしろがねが勝と会っていたとして、それを後から知った自分がどう思うか、ということを。



(勝が抱く深い悩み、それをしろがねに相談して、ちょくちょくふたりで会っているのだとしたら。
他人に言うのは憚られるような内容でオレに心配をかけたくねぇって理由だとしても、勝とふたりで会っていることをしろがねが黙っていたら。
オレたちの間に隠し事なんて何もねぇと信じているオレがそれを知ったとき、果たしてふたりの関係を邪推せずにいられるか?


さっきの勝のように。
疑心の鬼にならない、そんな自信はハッキリ言ってねぇ。まるでねぇ。


疑心をしろがねにぶつけることも出来ずに悶々としちまうんじゃ?
勝だって今や立派な大人だし、正直、アイツの方が生活力はあるだろうし(天性の博才で株やら先物やらで小金を稼いでいるらしい)、頭もいいし。
何よりもアイツはしろがねへの恋慕が完全に捨てきれていねぇ。オレには分かる。
だって、オレもアイツと同じ、しろがねに惚れてる男だからな。
惚れてる女を誰が熱く見つめているのか、そんなことは容易く分かる。


勝のリーゼへの想いが本物なのは確かだろうが、それとしろがねの存在は別物なんだろう。
勝の中には金の記憶もある。金が棲んでいる以上、勝がリーゼを想い自分だけの愛を育んでも、しろがねに惹き返してしまうことも自分ではどうしようもないんだろう。
アイツのオレへの反発はそこに一端がある。


オレはしろがねの気持ちを信じている。
でも、それが永遠に続く保証はどこにもねぇ。
オレが未来永劫しろがねを愛するってこたぁ、疑う余地もねぇ。
でも、しろがねの気持ちは分からない。
オレにはしろがねの気持ちを惹きつけて置くだけの力はどこにもない。)





鳴海は自分の手足を見下ろした。
冷たく固い、作り物の手足。





(こんな身体でオレはどこまでしろがねを満足させられているんだろうか?
さっきは勝に偉そうなことを言ったけれど、本当のところはどうなんだろう?


オレは、今でも憎悪にトチ狂ってしろがねを殺そうとしていたあの頃を思い出すにつけ鳥肌が立つ。
あの時のしろがねがどんだけ傷ついていたのかを考えるだけで身も心も凍る。
よくしろがねに見放されなかったものだと不思議で堪らねぇ。
その後しろがねを愛することが許されてもしろがねに見放されたままだったら、オレは今頃どんな風に暮らしているんだろう?
しろがねのいねぇ毎日を、しろがねへの想いだけ抱えて、独りで。


オレはしろがねを殺そうとしていた、憎んでいた。
勝はしろがねを守ろうとしていた、愛していた。


あの時は、小学生でしろがねも恋愛対象に見ることができなかっただけかもしれねぇ。
本当はしろがねも勝を想っていたのかもしれん。
ただ、初恋の熱病に浮かされて、相手に想いが通じたっていう勢いでオレと一緒にいるのかもしれない。
でも今は勝も立派に大人だ。しろがねとも釣り合う。
しろがねの中に勝への愛情があったらどうしよう。
勝を男として見ることができることに、気が付いてしまったらどうしよう。
そんな勝としろがねがオレに黙ってふたりっきりで会っていたら、気分はよくねぇ。)





鳴海はしろがねを愛している。
そして、真に相手を必要としているのは自分であると信じて疑わない。
最愛の女に嫌われることだけが、地上で最強の男の恐れること。





(だとしたら、しろがねもきっと、オレがリーゼと会っているのを知ったら気分悪ィよなぁ。


いやさ、ハッキリ言って、オレとリーゼの間にはなーんも因縁なんてねぇんだよ。
後ろめたいことはどっこにもねぇしさ、実際にリーゼの相談内容がしろがねには言えねぇもんで、リーゼにだって誰にも言わないように約束させられてる。
約束は破れねぇ。


でもやっぱ、それはそれとして気分は、悪ィよなぁ。)





鳴海は隣に座るしろがねにチラリと視線を向けた。
「どうしたの?」
しろがねが淡い笑顔をくれる。
「いやー……なに、もしもさあ、例えばさ、勝とふたりで会うときなんかはさ、内緒にしないでオレに一言、言って欲しいなぁ、なんてさ、思ったり、したもんだから」
いや何、例えばの話だから、ともう一回念を押す。
「あ、勿論、勝に限らず、オレ以外の男と会うときは……内緒、は止めてくれねぇか、な、なんて」
「なぁに、本当にどうしたの、いきなり」
「ホント、いきなりどうしたんだろな、オレ」
ハハハ、と鳴海は力なく笑う。しろがねはやさしい輪郭でクスリ、と笑った。



「大丈夫。全部言うから心配しないで。私だってイヤだもの、どんな理由でもあなたが他の女の人と会っていたら」
「そ、そうだよなぁ」
やっぱり。
鳴海は嘘のつけない自分の顔に罪悪感が浮かんだことに気が付いて、それをしろがねに見られないように銀色の卵のような頭をぎゅうっと抱き寄せた。しろがねの頭の上に顎を乗せる。
「や、やだっ…タクシーの中、なのに…」
「そんな恥ずかしそうな声出すなよ。こっちが恥ずかしくなんだろ」
「もう…」
胸にしろがねの重みを受ける。鳴海は滑らかな髪に唇を押し付けた。





(ごめんな、しろがね。
リーゼの相談事が笑い話になるときが来たら、全部教えてやるからよ。
オレだって、三角関係に悩むなんて真っ平だからな。)





オレが必要な女はおまえだけだから。
オレが愛するのは世界中でおまえだけだから。
おまえがオレの傍で、ずっと笑ってくれれば、それでいいから。





鳴海は改めて、しろがねへの愛を誓う。
けれど、勝の嫉妬病が鳴海にも伝染したのか、しろがねと勝の繋がりを疑う気持ちの種が知らぬ間に蒔かれた。
いつか芽吹く日が来るのかもしれない。



今は、潜伏期間なだけで……。



End
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