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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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「兄ちゃんのせいで嫌な汗をかいちゃったよ、もう」
勝はフテフテクサクサと歩く。さっぱりしたくなった勝は帰る前に仲町サーカス内のシャワーブースを借りることにした。
気分一転しないことには立ち直れそうにもない。ヤキモチで茹で上がった脳ミソもクールダウンしなければ。少しでも冷静にならなければ。
鳴海がリーゼと寝たかもしれない、なんてそんな馬鹿げた想像をする頭をどうにかしなければいけない。突飛な考えごと洗い流してしまおう。



鳴海が立ち去った後、しろがねが「お坊ちゃまっ!お元気でおられましたかっ!」と銀色の瞳をウルルとさせて飛んできた。
「ナルミ兄ちゃんがしろがねに黙ってリーゼとふたりっきりで会ってるって知ってる?もしかしたらリーゼとHしたかもしれないんだ!」
……なんて言えるわけがない。確認したわけでもない、ただの自分の妄想。ワザと爆弾を投下して余裕ぶちかましの鳴海の鼻っ柱を折ってやりたい気はするものの、リーゼを追い詰めた自分の罪状をしろがねに伝えなければならないだけ薮から蛇が大群で押し寄せてくる。分が悪いのは勝の方だ。
それにしろがねってちっとも変わらない。何時まで経っても勝は彼女の「お坊ちゃま」で、恋愛対象に見る気もないらしい。根本的に自分は成人男性として見られていない気がする。



「そりゃ……四六時中見ている男がナルミ兄ちゃんじゃさぁ……しろがねの目には誰も『男』にゃ見えないよ……」
そんなことは分かっているけれど、それでも立ち向かいたい男心。障害は大きければ大きいほど闘争心が湧くというものだ。
「そりゃあ、僕としろがねは79歳差があるけどさ。ナルミ兄ちゃんとだって72歳差もあるじゃないか。五十歩百歩だよね。変わんないよ」
シャワー室に着いた勝は脱衣所で裸になる。鏡に映る傷だらけの上半身はかなり筋肉がついてけっこうイケてる部類に入ると思うのだけれど。ちょっと背は低いけれど誰かみたいに無駄な筋肉はついてないしバランスはいいと自負している。
何でしろがねはあんな筋肉ダルマがいいんだろう?



「とりあえず、熱~いシャワーと冷たーいシャワーを交互に浴びて…」
鳴海のことは忘れて気分転換しようと考えを前向きに修正しジーンズのベルトに手をかけたとき、シャワーブースから先客が出てきた。思わず見上げてしまう上背。
「よ、また会ったな」
加藤鳴海がタオルを肩にかけ、前を隠すこともせずに大股で堂々とやってくる。
「入ってたの…ナルミ兄ちゃんも…?」
忘れたかったのになぁ…どうしてこう会っちゃうんだろう…。
自分の罰の悪そうな顔に鳴海がニヤニヤするものだから、勝はぐいーとそっぽを向いた。



「平馬と茶ぁする前に道具方の手伝いをしてたもんでな。汗と埃を落としたかったんだよ」
鳴海は自分の籠の前に行き、中からバスタオルを取り出すと大雑把に濡れた身体を拭き出した。
日に焼けた濃い色の肌に右腕の義手と両の義足を固定するバンド。ある意味、自分の傷だらけの姿よりも痛々しい鳴海の体躯。背中と胸に盛り上がる筋肉には決して無駄などない(さっきは負け惜しんで言ったけど)。腰の位置も意外と高く、厚い胸囲に比べてくっきりと割れた腹筋の辺りは細く見える。たった一本残った左腕は勝のものとは比べ物にならないくらいに太くて、掌はとても大きくって、しろがねが安心の拠り所にするのも頷ける。
見るからに頼り甲斐のある体格はやっぱり男として憧れる。勝は思わず溜息が漏れてしまった。



「ん?何だ?」
勝の熱い視線に気が付いた鳴海がバスタオルで髪を拭く手を休めて声をかけた。
「な、何でもないよ」
勝は慌てて目を逸らしてジーンズとパンツを一緒に下ろした。
そして、屈んだ勝がまた鳴海を盗み見て、自然と目に入ったナルミのアレ。お決まりの流れで勝は自分のも見てみた。何度も視線が往復する。



間近で見ると迫力が違う。やっぱり、休戦状態で長さも太さも倍以上ある。



いや、僕のモノは人並みだよ。人並み以上ある、なんて見栄は張らないけれど平馬と比べたって遜色ないもん。こうして考えてみるとさ、オヤっさんのは大きかったよ、うん。でも今じゃノリさんとヒロさんにも負けてないし、ハッキリ言ってナオタさんには勝ってる。女の人に見せて恥ずかしい思いをしなくて済む程度のモノはついている。
だからどう考えても、兄ちゃんのが規格外なんだよ!
だから、アレの大きさについて劣等感を覚える必要はどこにもないんだ、と自分に言い聞かせた。
でもでも。逆に考えるのならば、アレで満足させられているしろがねはどう考えてもそんじょそこらの男のアレでは満足できない身体にされていることだろう。大方の予測はできていたことだけれど。



もしも……さっきの話、鳴海とリーゼが関係を持ったことが事実なのであれば……そのうちにリーゼも勝のアレでは不満足になるのでは……?
今回は不満そうな気配は微塵も感じなかったけど……回数を重ねたら……そのうちに……。



せっかく幾らか治まった嫉妬の鬼が勝の中で金棒を振り回し始める。勝は鳴海がこれ見よがしにぶら下げている一物にヤキモチでカリカリに尖った眼光を向ける。そんなトゲトゲの視線が実際にデリケートなところに刺さったら鳴海と言えど悲鳴を上げること間違いなしだろう。





刺 さ れ ば い い の に !





「お、おまえ……目つきが尋常じゃねぇぞ……?」
流石の鳴海も身の危険を感じるほどの勝の眼力。肌に痛い嫉妬のオーラが目に見えるようだ。
やー…さっき、ちょっと、焚き付けすぎちまったかなー…。
それにしても勝の視線が下を向いているのが奇妙ではあるのだが。
「あのな、勝」
「知らないよ、兄ちゃんなんてっ!」
勝はタオルを引っつかむとふくれっ面でシャワーブースへとドスドスと入っていった。バチーンと大きな音を立ててドアが閉まる。
鳴海はしばらく勝の消えたシャワーブースを呆然と眺めていたが、「ま、何とかなんだろ」と身体を拭く作業に戻った。



「兄ちゃんめえええええっ!」
きっとナルミ兄ちゃんはしろがねだけじゃなくって、リーゼまで僕から取り上げる気なんだ!
「しろがねひとりで充分じゃないか!兄ちゃんのは大き過ぎてマジで癪に障るんだよ!」
どうやってあのサイズまで成長させればいいんだよ!アレって鍛えて筋肉つけりゃいいってもんでもないじゃん!どう考えても乗り越えられない壁じゃんか!
「硬さだって!硬気功使いに敵うわけないだろ!」
熱々のシャワーの中でガリガリと頭を掻きながら、見当違いのヤキモチ妬きのループにはまっている勝なのであった。



End





◇◇◇◇◇

postscript
『大き過ぎて癪に障る』のタイトルを変な風に解釈した方がいらっしって。多分、こんな内容だと思ったのではないかと推測。
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