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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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「前に帰ったときに……リーゼが他の男と家の前で揉み合ってて……それで、僕が日本にいない間に他の男と付き合ったりしてんのかな、って……気になって」
勝はどうにも気になって、諦めて自分の動機を語った。
「ヤキモチ妬いて居ても立ってもいられずにリーゼに会いに帰国した、と」
「まあ、そんなとこだよ」
そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃん、と頬が膨らむ。
「ふうん」
「ふうん、って。ほら、僕は言ったよ、どうして短期間で戻ってきたのか。はい、今度は兄ちゃんの番だよ?リーゼさんはどんなことを兄ちゃんに言っているの?」
鳴海はコキコキと首を鳴らす。それから椅子の背に寄りかかってその背骨を折りそうにしながら
「『勝さんと会えないのが辛いです』、『勝さんは旅先で何をしているの?本当にサーカスの修行だけなんですか?』、『何か危ないことをしているんじゃないですか?』、『勝さんはどこかに好きな女の人がいるんじゃないですか?それで帰ってこないんじゃないですか?』、『私は本当に勝さんに必要とされているんでしょうか?』、『私はこのまま待っていてもいいのでしょうか』、『時間の経つのが早くて遅くて独りでいるのが怖いです』」
と、リーゼの主な訴えを一気に並べた。勝はリーゼの想いがあまりにも悲痛で、鳴海の瞳が真摯で苦しくなった。



「……それで……兄ちゃんはそれになんて答えてるの?」
鳴海と目を合わせるのが難しくて俯いたまま訊ねる。
「おまえが自動人形の残党狩りしていることはリーゼに心配させたくないから教えてねぇ、内緒にしてる、ってのは知ってたからな。オレは何も言わねぇ」
「うん」
「けどオレは嘘はつけねぇからよ、おまえが何にもしてねぇとも言ってねぇ。その代わり、あいつのことが好きなら信じて黙っててやれ、って言っといた。リーゼは感づいてるよ、何にも言わなくってもおまえがサーカスの修行以外のことをしてるだろう、ってこたぁ。おまえもそこんとこ、肝に銘じておくんだな」
「うん。それから…?」
「おまえの女関係はなぁ…」
自動人形よりもある種問題な、勝の私生活。



鳴海は勝の旅の空の生活を知っている。一度、任務と任務の狭間中、連絡が取れないでいたときに鳴海が勝を探し出してそれを伝えに来たことがある。そしてその時、行きずりの女と『自堕落にしていた』現場を見られたのだ。鳴海はその一見で勝の旅先での様子が手に取るように分かったという。
連絡事項を伝えに来たのがしろがねでなくてよかったなぁ、鳴海がパンツ一枚で連絡を受ける勝に突っ込んだ言葉はそれだけだった。実際、それがしろがねだったらきっと卒倒されていただろうし、勝自身も再起不能だったろう。



「プライベートなことは知らねぇって言っといた」
勝はホッと胸を撫で下ろす。尤も、鳴海が告げ口をするなんて思ってもいなかったけれど。
鳴海は勝の煙草も女遊びも、窘めはするけれど決して叱らない。「ほどほどにしとけよ」と言うことはあっても「止めろ」とは言わない。自分の道は自分で決めろ、と言っている。鳴海の真意は正論すぎて、勝には耳に痛いのだ。だからワザと真逆の道を通る。
「勝も血気盛んな年頃なんだから女日照りが辛いときもある。そこのところはおまえの方が大人になっとけ。勝が帰ってこられるのはリーゼのとこだけだ、必要とされてないなんて思うな、ってよ。何か間違ってるか、オレ」
「ううん…」
勝は弱弱しく頭を振った。



「おまえさあ、外で好き勝手やってんだからよ、リーゼに小せぇことでヤキモチ妬くなや。例え同じことされてもおまえは文句は言えんぞ?」
勝には決して言えないが、相談を受けている鳴海はリーゼが寂しさから時に他の男と関係を持っていることを知っている。リーゼももう大人で自己責任でしていることに鳴海は口を挟む気はまるでないけれど、彼女が自棄を起こしている姿は見ていて痛々しい。相談中にリーゼに泣かれると鳴海は非常に困ってしまう。
とはいえ、勝が世界を飛び歩かずにはいられないでいるのも理解ができる。勝の背負うものが巨大で、彼が必死にそれと折り合いをつけようとしているのを鳴海は知っている。できればそれを肩代わりしてやりたいのだが、それは勝が自分の手で決着を着けるしかなく鳴海はただ見守ることしかできない。だから、「旅なんかとっとと止めてリーゼのところに帰ってやれ」と頭ごなしに言うこともできない。
結局は、ふたりが解決するしかないのだ。鳴海にできるのは話を親身になって聞いて見守ることだけだ。
「分かってるよ!」
でもそんな事情を知らない勝は鳴海の苦言が耳に堪えて仕方が無い。



「大体、何でナルミにいちゃんがリーゼの相談受けてんだよ?」
ヤキモチが再燃する。
「何で、言われてもオレが知るかよ。本人に訊かねぇと」
「い、いつから相談受けてるの?」
「もう大分になるぞ?おまえが旅に出て割りとすぐだったかな」
「どれくらいの頻度…?」
「オレが帰ってくる度」
「そんなに頻繁に…!」
リーゼは兄ちゃんに相談を持ちかけているの?勝は知らず煙草の吸い口をガリガリと噛締める。
「一番最近ではいつ?」
「5日前…かな?」



それは勝がリーゼのところに着いた日だった。その日にリーゼは鳴海と会っていた。勝を出迎える前に鳴海と会っていた。
勝はそして思い出す。
リーゼの首筋についていたキスマーク、みたいな赤い印を。
勝の胸がズキズキと痛んだ。急に呼吸が出来なくなって手の平がじっとりと汗ばんだ。
嫌なことを想像してしまった。相談を受けているうちに情が移り、リーゼの寂しい乾いた身体を鳴海が慰め潤している光景を。想像の中のリーゼは鳴海の愛撫に歓喜の声を上げていた。彼女はあの時、風呂場で一体何の汗を流していたのだろう?



リーゼの項にあったのはやっぱりキスマークで、それをつけたのは鳴海なのではないか、それが事実であっても信じられないし、そんなことを考える自分も信じられない。
大体、鳴海がそんなことをするはずがない。僕を大事に思ってくれているのに。それに何よりも、鳴海がしろがねを裏切るわけがない。彼女を悲しませるようなことをするわけがない。
でも。けれど。
生まれてしまった疑心が、その想像を頭から消去してくれない。
何があるのか分からないのが男と女。
男と女がその気になれば、たった5分でも浮気は出来る。
勝の胸は嫉妬心で膨れ上がる。



「しろがねは兄ちゃんがリーゼからそうやって相談を受けているって知ってるの?」
「しろがね?」
鳴海が初めてちょっと考えるような顔をした。
「しろがねには……言ってねぇよ。だって、しろがねはおまえとリーゼとの間に問題があるなんて欠片も思ってねぇんだぞ?しろがねがリーゼの悩みで知っているのは精々、おまえがなかなか日本に戻ってこなくて寂しく思っている、何か危ないことをしているんじゃないかって心配している、それくれぇだなぁ」
勝もリーゼも想い人以外と身体を重ね、それがふたりの悩みの種になっている、なんてしろがねに言える筈も無い。しろがねに要らぬ気苦労をかけさせてしまう。唯でさえ鳴海は嘘がつけない性質で黙っているのが苦痛だというのに。
鳴海は苦渋の味のするコーヒーを口に運ぶ。
何で兄ちゃんはそんなに渋い顔をしているの?勝の目にはもはや、鳴海の動作の全てが疑わしく見えてしまう。



「じゃあ、しろがねは知らないんだ。兄ちゃんが日本に帰ってくるたんびにリーゼさんとふたりっきりで会っているってこと」
がはっ、と鳴海が噎せた。
「おま…っ、人聞きの悪ィこと言うなよなぁ」
兄ちゃんは動揺をしている、と勝は踏んだ。
「しろがねに後ろめたいところがあるから黙ってるんじゃないの?」
勝の言葉は棘棘だ。鳴海はちょっと間を置いて、それからニヤリ、と不敵に笑う。
「ははぁ…おまえ、さては妬いてんな?」
「そ、そんなんじゃ」
おかしいな、どうして動揺しているのは僕の方なんだろう?勝は頑張って鳴海の視線を持ち応える。
「好きなように考えろ。別にオレは構わんぞ?勝手にオレとリーゼの中を邪推してろ」
鳴海はカップをグッと呷り、中身を空にした。
「まぁ、おまえがこのままリーゼを放ったらかしのままにするってんなら、オレがリーゼを慰めてやってもいいんだぜ?」
「兄ちゃ…!」
「もう慰めてんのかもしれんぞ?すでに」
勝の想像を見透かすようなことを鳴海が言う。揺れる気持ちをリーゼに向けようと煽る言葉も、勝には事実をつかれた男の発する挑発に聞こえる。



「兄ちゃんにはしろがねがいるじゃないか!」
「しろがねはオレとリーゼが密に話してるの知んねぇからな」
「リーゼに手は出さないでよね」
「オレからリーゼに声をかけたことなんて一度もねぇよ。いっつも話しかけてくんのはリーゼの方だ。手を出すのだってオレの方じゃねぇ。欲求不満なリーゼの方だろ?」
「…っ!」



リーゼが淫乱であるかのような鳴海の発言にカッとなった勝の渾身の鉄拳が飛ぶ。が、それは難なく鳴海の大きな手の平に受け止められた。
「大振りだ。いっくらおまえが強くなったって言っても素手でおまえに負ける気はしねぇなぁ」
ま、威力はなかなかのもんだけどよ。鳴海は掌を開き、フルフルと震える勝の拳を開放した。
「兄ちゃんでもリーゼに手を出したらただじゃおかないからね」
勝はギラギラとした威嚇の瞳を鳴海に向ける。鳴海は勝の懸命な眼光を、同じく真剣な眼光で受ける。
「そんな目をするんならリーゼに中途半端してんのをどうにかしろ。リーゼは見た目以上に苦しんでんだぞ?その苦しみを止められんのはおまえだけなんだぜ?言っただろう?おまえはリーゼに他の男に目を向けられたって文句は何一つ言えやしねぇんだよ。オレに嫉妬心を向けるのはお門違いもいいところだ」
鳴海は席を立つ。



「頭を冷やせ。そんじゃ、オレは先に行くからよ」
「しろがねに言うよ?リーゼとのこと」
「構わねぇよ。オレはおまえと違ってしろがねのことを満足させてるからな。しろがねに言うんならちゃんと説明しろよ?どうしてリーゼがオレに走らなきゃなんねぇくれぇに追い詰められてんのかをよ」
悠々と立ち去る大きな背中。
勝はギリギリと拳を握り締めた。
何でそんなに余裕綽々なんだよ?!
ナルミ兄ちゃんの背中が大き過ぎて全く持って癪に障る!!!



「あれ?鳴海さん、もう行くの?」
鳴海がラウンジを出たところで用事から戻ってきた平馬が声をかけた。
「で、どうだった、勝」
「今頃んなってリーゼがモテる女だって気付いたんだとよ。ヤキモチ妬いてカリカリに焦げてる」
平馬もリーゼの秘密は知らない。鳴海は言葉を選びながら、どうしようもねぇよな、と苦笑する。
「ようやく離れてるのが心配になったってことかよ?」
「どうやらそんなことだ。オレもリーゼとの仲を疑われたぜ。おまえもリーゼと接点を持つときゃ気をつけろ?今の勝は疑心の鬼だ」
「うええ、おっかねっ!あいつってそんなに嫉妬深い男だっけ?」
「そんだけリーゼが好きってコトなんだろ?それに気が付いただけでも儲けモノだ。ま、お蔭さんでオレは今、アイツが帰って来た日にリーゼと話をしたってことで間男扱いされちまったからな、それで尻尾巻いて退散、ってワケだ」
そういう鳴海には尻尾を巻いている気配は微塵も無い。楽しそうに顔に笑顔を貼り付けている。
「何だか楽しそうだね、鳴海さん」
「ん?まあな。ケンカ腰でも勝とこんなに話したのは久しぶりだしな」
反抗期でも可愛い弟。喜色満面な鳴海に平馬も笑顔を見せる。
「そうか。よかったね」
「おう。そんじゃ、オレ、行くわ。今、しろがねに勝が来てるって伝えてそっちに行かせるからさ。それまでに勝にフォロー入れてやってくれよ。オレのことは悪者にしてくれていーから。おまえは邪推を持たれねぇように、あくまでダチのスタンスでな」
「分かった」
鳴海と平馬は拳をぶつけて「またな」と挨拶を交わした。



「次に会うときにはもしかしたらリーゼから相談はないかもなぁ」
いいことだ。
鳴海は頭の後ろで手を組むと鼻唄を歌いながらしろがねのところに向った。



End





◇◇◇◇◇

postscript
この話の根底にはちささんの『からくりサーカス覚書。』に置かせていただいている、『煙草を巡る彼らの事情』があります。そちらの後書きに鳴海と平馬と勝の関係がどんななのか、が書いてあるので説明は割愛します。私は勝や平馬と兄目線で語る鳴海がどうやら好きなようで、またこの系列の話を書いてしまいました(汗)。自分がそれぞれに仲がいいと思っていた鳴海と平馬が親友になっていたら勝はヤキモチを妬くんじゃないかな、なんてことが元です。リーゼにも鳴海にも平馬にもヤキモチを妬いて勝はいっぱいいっぱいです。可哀想に(笑)。青い勝なのでした。
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