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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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分類に悩む読み物です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 蛍火・オマケ

 

飛んで火に入る夏の虫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竹林がさら、とも鳴らない。

静けさは健在。

痩せっぽちの阿紫花を胸に抱いて、鳴海は黙って目の前の暗闇を見るとは無しに眺めていた。

二匹の蛍の語らいを邪魔してはいけないと思ったから。

今の鳴海はただ、寂しい阿紫花を温める湯たんぽのような存在だった。

それでもよかった。

阿紫花がいくらかでも温まれば。

だから、根気強く、阿紫花がもういいと言うまで付き合ってやるつもりだった。

ふたりを包む、静寂。

 

 

 

「見っとも無ぇところを見せちまいましたねぇ、兄さんにゃあ」

煙草の火を消すのが合図になったかのように、阿紫花は口を開いた。

「どうってこたぁねぇよ、これくれぇ」

阿紫花は袂を開くと、中にいた蛍をやさしく手で包んで取り出した。

「さぁ、お行きなせぇ」

「いいのか、逃がして」

「いいんでさぁ。満足しやしたから」

薄い手の平で瞬く小さな灯りはすっと飛び上がると、沈黙の竹林の中に消えた。

潔く、清廉に。

阿紫花は蛍が闇に消えた瞬間、肩で息をついた。

だから鳴海は肩に置く手の平にほんの少し、熱を込めてやった。

「やさしいんですねぇ、兄さんは」

「やさしくなんかねぇよ。気持ち悪ぃこと言うな」

「やさしいですよ。惚れちまいそうだ」

「頼むから止めてくれ」

阿紫花がクククと笑う。

ああ、笑えるようになったのか。

鳴海は何となくホッとした。

 

 

 

さわ、と風が吹いて、小さく竹林が鳴る。

風が戻る。

ふたりは寄り添ったまま、心地いい風を受ける。

沈黙が、破られる。

 

 

 

「ナナナナナナナナナナナナナ、ナルミ!!!!」

沈黙を破ったのは風かと思ったら、しろがねの動揺しまくりの声だった。

「しっしろがね?!」

その声にぎょっとして、鳴海は阿紫花を放り出して振り返る。

でっかい瞳をこれでもかと見開いて、口元を覆う両手をワナワナと震わせている。

「いやや、あの、これは、しろがね」

「兄さん、とんでもないところを嬢ちゃんに押さえられちまいましたねぇ」

阿紫花はワザと着物の裾を乱してみせる。

しろがねはまんまと阿紫花の思惑にはまり、男の太腿と鳴海の顔とを交互に見遣った。

「ちょ、人聞きの悪っ、いや、しろがね、何でもねぇから」

鳴海は顔面蒼白で思いっきり狼狽し、バタバタと畳を掻くがなかなか前に進まない。

「何でもないって、現に今、阿紫花と抱き合っていたでしょう?」

しろがねの声は刺々だ。

美しいものには棘がある、が代名詞の薔薇の棘なんて可愛いものではなくヤマアラシのようなものすごい刺々。

「ほら、なんだ、それは」

「兄さんはあたしを慰めてくれてたんですよ、ちょっとくちづけをもらっただけでさぁ」

「くっ、くくくくくく、くちづけっ?」

しろがねはがくん、と開いた顎が元に戻らない。

「あの、それは人助け……阿紫花っ!」

「だって、本当のことでやしょう?」

そう、それは本当の話。

だから鳴海は否定ができない。

「あああああおおお、男同士ででっ?そ、そんなナルミ…そんな趣味があああったなんて」

「おお落ち着け!落ち着いてくれ、頼むから!」

しろがねは鳴海の懇願に聞く耳持たず、くるっと背を向けるとスタスタと足早に歩き出す。

「おいっ!しろがね、どこに行く?!」

「あるるかんを取ってくる!」

「や、やめろって!人んちで!謝るから、これこのとーり!」

「知らないっ!」

「待てってば!」

 

 

 

 

 

 

 

騒々しく去っていくふたりの背中を阿紫花は面白そうにニヤニヤと笑いながら見送った。

「いいですねぇ、ケンカするほど仲がいい。痴話喧嘩は犬も食わねぇ、ってね」

ようやく吹き出した夜の風が阿紫花の髪を揺らす。

「また、あんたとケンカをしてみたいと、思っちまったじゃねぇですかい…」

阿紫花は先程まで蛍の光が温めてくれていた袂を撫でて、瞳を閉じた。

 

 

 

 

End

 

 

 


postscript     ヤキモチを妬くしろがねも、ヤキモチを妬くしろがねに手を焼く鳴海もまた可愛い。

原作でも憎む憎むだけじゃなくて、しろがねへの誤解が薄れていく中に垣間見える鳴海の感情、のうちの嫉妬、みたいなものも

見たかったなァ…。それはそれとして、更に続きを読みたい人、いますか?

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