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義務教育を終えてない方はご遠慮ください。
ご注意!
こちらのお話は、ほーんの少しだけ鳴海×阿紫花みたいな描写があります。
描写があるだけで、鳴海×阿紫花ではございません。
CPは鳴海×しろがね、それとどうしてか(多分)ジョージ×阿紫花(らしい)です。
シャトルを守った阿紫花が実は死んでいなかったら、という設定。
何のことはないのですが、何となく、色っぽい阿紫花と鳴海の絡みを書いてみたくなっただけです。
冗談でも鳴海がしろがね以外と絡むなんて、ましてや男が相手だなんて、若しくはアニキの相手に鳴海じゃ力不足だ、と仰る方は回れ右をしてくださいね。
蛍火
月も星もない夜。
船底の形の深い山里の常闇は、濃いのに清冽な程に透明で、知らず、ピンと背筋が伸びる。
「九月でまだ夜も八時を回ったところ。それでこんなに真っ暗か。田舎なんだなぁ」
鳴海は大きな屋敷の中を巡る。
食後の歓談の最中、用足しに立った後、何となく夜風にあたりたくなったから。
戸は全て開け放たれていて、屋敷は呼吸をするかの如く空気を出入りさせている。
鳴海が今いるところは黒賀村、阿紫花邸。
季節は九月お彼岸。
墓参りには戻って来いと言われた平馬に付き合って、鳴海は勝としろがねと一緒にやってきて阿紫花邸に厄介になっていた。
何間も続く日本間の畳の上を音もなく過ぎ、鳴海は人気のない濡れ縁に出た。
夜の海に沈んで鮮明に見ることは叶わないが、昼間ならば陽光に清清しい竹林が鳴海の前に広がっている。
月も星もない夜。風もない夜。
暗闇の沈黙に支配されたそれは、さわ、とも言わない。
我が物顔に秋の虫の恋の歌が辺り一面を席捲する。
『自分はここに居る。だから見つけて』
恋の相手を捜し求める。
鳴海は 今はもう添い遂げる相手が居るから、虫の声もさほど切なくは聞こえない。
風情があっていいよなぁ、と思うくらい。
心地よい夜風に長い髪を遊ばせてみたかったけれど殆ど無風。
仕方ねぇ戻るか、と視線を転じた際、視界の片隅にチラリと赤い光が見えた。
鳴海がくん、と鼻を動かすと、土と濡れた笹の匂いに混じって煙草の匂いが嗅ぎ取れる。
長い濡れ縁の一番奥に座る一人の男が煙草を燻らす。
「居ねぇな、と思ったらこんなところで独りで和んでいたのかよ。阿紫花?」
鳴海は阿紫花の近くに寄ると、自分もまた腰を下ろした。
「皆で一緒に仲良くお喋り、あたしはそんな柄じゃねぇですからねぇ」
着流し姿の阿紫花は艶っぽく、クククと笑う。
裾も襟ぐりもしどけなく乱れている。
「ま、そうだろうな」
鳴海も鼻先で小さく笑った。
虫の狂おしい歌がかえって静けさを際立たせる。
灯りもなく、風もなく、音もない。
普段はどちらかというと多弁な鳴海も、黙りこくる阿紫花に付き合って沈黙に耳を傾ける。
「兄さんと会うのも久し振りですけど、幸せそうですねぇ」
阿紫花がぽつりと言った。
いきなり自分の話をふられて鳴海は目をちょっと丸くした。
「あの別嬪さんもまるで別人のようで……ククっ、さぞかし夜の方もお盛んなんでしょうねぇ」
「おまえなぁ…」
暗闇の中でも鳴海が赤面したことが言葉の色で伝わってきて、阿紫花は可笑しそうに瞳を柳の葉のように細くした。
「愛しい人が傍に居るってのぁ、ありがたいこってすよ、兄さん?」
そう言う阿紫花の言葉の中に何だか羨望の含みがあるようで、鳴海はただ
「そりゃあ……そうだな……その通りだ…」
と素直に同意をした。
阿紫花は再び黙った。
だから鳴海も黙った。
阿紫花は今、その脳裏に誰の面影を想い描いているのだろう。
おそらく、故人に想いを馳せているのだけは間違いない。
オレも一歩間違っていたら、一番大切なことに気付くのに後少し遅れていたら、今の阿紫花のような顔をして月も星もない空を見上げていたのかもしれねぇ。
今はもう、それなくしては息も出来ない程に愛している存在を、この手の平から零してしまっていたら、オレは今頃…。
そんなことを真剣に考える鳴海の唇に、何か冷たいものが触れた。
それは細くて華奢な阿紫花の指。
「殺し屋の指にしては随分と繊細なんだな、おまえのって」
「『元』殺し屋、と言ってくだせぇよ」
阿紫花は訂正し、ニヤリと笑う。
襟ぐりが更に大きく開き、鎖骨の深い窪みが鳴海の静かな黒い瞳に入る。
痩せてはいるけれど無駄のない筋肉が、案外白い肌の下にある。
「兄さんのは厚くて男らしい唇ですねぇ。これであの別嬪さんを夜な夜な可愛がってやってるんですかい?」
「まぁたそんなことを…」
鳴海の唇が阿紫花の指を載せたままに動く。
「でも兄さん、あんまり女遊びってしたことなかったんじゃねぇんですかい?もしかしてあの別嬪さんが初めての相手とか?」
「なっ!」
鳴海は思わず絶句する。
「あらま、図星?」
「べ、別に……初めてってわけじゃ……他にも一応…」
「ふうん」
阿紫花は面白そうにニヤニヤと笑う。
遊んで楽しい玩具を見つけた子供のように。
「でも、あの別嬪さんは処女でやしたでしょう?」
「おまっ!いい加減に…!」
「まあまあ」
阿紫花は両手で鳴海を押さえるような仕草をして、飄々と鳴海の言葉を受け流す。
鳴海は一度大きく息を吐き出すと、こいつのペースに乗せられないように、と気持ちを落ち着けて阿紫花と向かい合った。
阿紫花は目の前の大きなオモチャが面白くて仕方がない。
彼の一言一言に、想像以上のオーバーアクションが返ってくるのだから。
それがあんまりにもオーバーアクション過ぎて、むしろ、阿紫花の言動に面白いくらいに反応を見せなかった人物を思い起こさせる。
在り過ぎると無さ過ぎるものが際立って見える。
「兄さんと話すのは楽しいですねぇ。何とも面白い」
「で?暇潰しにオレと遊びてぇってか?」
「いえちょっとね。まあ、遊びたいってぇのはあながち外れでもねぇんですがねぇ」
阿紫花が煙草の火を消すふりをして、ふいっと視線を逸らした。
さりげなく、庭の方を見遣る。
「おやあ?」
阿紫花の声につられて鳴海も庭に目を向けた。
するとそこに、一匹の蛍。
「へぇ……九月でも蛍がいるもんなんだな」
淡い淡い、灯り。
「ヘイケボタルは他の蛍より活動期間が長いんですよ。運が良けりゃ、9月でも見られる…」
「存外、詳しいな?」
「へへへ…こう見えてもあたしゃあ田舎育ちなものでねぇ。すぐそこにキレイな水辺があるんでさ」
蛍は儚げに点滅を繰り返し、竹林を飛ぶ。
優雅に、けれど脆弱に。
一点の灯りがふたりの瞳の中に残像を映す。緩やかに弧を描いて。
軽やかに、けれど淋しげに。
「でもねぇ……もう、蛍の季節も終わりさねぇ。可哀想に連れ合いはもう見つかりませんぜ…」
独りだけ、どうして生き残ってしまったのか。
何故に独りだけ、命冥加に生き永らえてしまったのか。
愛しいアナタは何処に居る?
「蛍は『愛し、恋し』と呟きながらその身を焦がしているんでしょうかねぇ……鳴けねぇですからねぇ…」
その言葉に鳴海は阿紫花を見下ろした。
蛍を見つめるその面は、妙に白く見えた。
いつも通りに振舞うその顔の、ほんの少しだけ寄った眉根に、自分をあの蛍に擬えている様が見て取れた。
「おまえも泣きてぇのかよ?」
「え?」
「そんな面してるぜ?」
一瞬、狐につままれたような顔をした阿紫花は、すぐに皮肉屋の仮面を被った。
感情をまるで読ませない狐の瞳。
「恋愛経験のまるで少ない兄さんに、アタシが慰められるなんてねぇ」
「うるせぇなぁ。痩せ我慢ってのは傍で見てて痛々しいんだよ」
阿紫花の口だけが笑う。
「それじゃあ、慰めついでにあたしの『遊び』に付き合ってもらいやしょうか、兄さんに」
阿紫花の細い瞳が妖しげに揺れて、その細い指が鳴海のこめかみの髪を梳いた。
条件反射で鳴海の瞳が阿紫花の指を追いかける。
その隙に、そして鳴海の返事を初めから聞く気もなく、「厚くて男らしい」と表現した唇に吸い付いた。
カリリ、と鳴海の口唇を噛む。甘く噛み、吸う。
舌先で歯茎から前歯を舐め上げて、その合わせ目から鳴海の口の中へと舌を長く挿し入れる。
鳴海は阿紫花の行動を読んでいたようで、唇を重ねられても特に驚いた様子も無く、微動だにしなかった。
むしろ、縋りつき自分の服の胸元をきつく強く握り締める阿紫花に同情を覚えたか、決して積極的にではなかったが、鳴海はできる限り求めてくる彼の舌の動きに応えてやった。
阿紫花の舌は蛇のようにくねり、鳴海の舌を絡め取り、その口腔を舐る。
長いこと唇を重ね、それを離した時に引いた糸が鳴海の唇の上に雫を作ったので、阿紫花は最後にそれを舌で拭った。
「流石に上手いな」
「いやぁなに。兄さんも巧かったですぜ?恋愛経験が浅くっても生来の才能ってのがありやす」
「け。言っとくがな、おまえの『遊び』にオレが付き合えるのはここまでだぜ?この先は無理だ」
阿紫花の瞳が更に細くなる。
「残念ですねぇ。アタシならあの別嬪さんより兄さんを気持ちよくしてあげられる自信があるんですけどねぇ」
「確かにな。『技』だけだったらおまえの方が上だろうよ。でもおまえが相手じゃなぁ、こっちの求める気持ちが湧いてこねぇから、幾ら巧くても気持ちよくねぇ。それに硬ぇよ、おまえの唇。男だからな。オレはやっぱ、しろがねのがいい」
きっぱりと、はっきりとした鳴海の言葉。
聞いていて気持ちがいいくらいに歯切れのいい言葉。
言い繕う嘘の言葉に何の効力もないことを鳴海は知っている。
「兄さんは野暮ですねぇ…」
阿紫花は力なく笑って、鳴海の肩に額をつけた。
嘘が何の薬にもならないことなど、とうに知ってはいるけれど、それでもやさしい嘘が聞きたいこともあるのに。
嘘は言わない。
けれど鳴海はその肩に腕を回し、倒れそうな痩せた身体を支えてやった。
「仕方ねぇよ……それに、誰もおまえが追いかけている奴の代わりにはなれねぇんだから」
「……知ってますよ、それくれえ……」
人の命など、何の重みもなかった。自分の命にだって重みを感じたことはない。
だから、人の命を奪うことを生業にしても別段どうってこともなかった。
でも。
初めて、命の重さを痛感したのはあの時。
愛しい命がこの世から消えた時。
もう自分の元には二度と戻らないのだと、思い知らされた時。
「会いたい……ですねぇ……もう一度…」
でもきっと、あたしが逝くのは閻魔様の待つ地獄。
おまえさんはお釈迦様のお膝元にいるんでしょうからねぇ。
淡い光が阿紫花に付き纏う。
一匹だけの寂しい蛍が阿紫花の着物の袂にそっと止まった。
「あたしに何か用ですかい?」
蛍はじっと動かずに点滅を繰り返す。
「蛍は人の魂が変化したもの、って言ったりするな」
蛍は求愛の合図を繰り返す。
「ちょうど彼岸だしな。おまえに会いに来たんじゃねぇのか?」
力尽きて命も尽きるまで。
阿紫花は鳴海に身を摺り寄せた。
「おいおい……言ったろ?これ以上は『遊び』に付き合えねぇって」
「人肌恋しい、って時もあるでしょう?ちぃっと付き合ってくだせぇよ」
「ホント、世話のかかるオッサンだなぁ…」
そう言いながらも鳴海は阿紫花を長い腕で包んでやった。
阿紫花はそっと蛍を捕まえると、それを袂の中に入れた。
ランプのように袂が光る。
「潰さねぇように気をつけやすからね」
どんな姿でも、会いに来てくれたのなら、こんなに嬉しいことはない。
人肌が恋しい。
こんな夜は誰でもいいから傍に居て欲しい。
でも、誰も、あの人にはなれないから。
分かっているから。
阿紫花は鳴海の腕に持たれかかったまま、新しい煙草に火をつけた。
「これで蛍が、二匹になったな」
鳴海が小さく呟いた。
ひと時の青い幻灯を、どうか蛍の儚い灯りにのせて。
また来年も、会いに来て。
End
postscript 阿紫花にからかわれる鳴海がツボにはまって書いた話。
一応、阿紫花の想う相手はジョージのイメージで書きましたけれど、私は別にジョ阿紫好きってわけじゃありません。
だけど、阿紫花がバイなのはアリだな、とは思うのでアニキに関しては誰が相手でもかまいません。
誰でも食べてそうだし、食べられてそうだ。ウチのサイトでは枝葉末節です。
それはそれとして、私が書きたかったのは男に迫られようがキスされようが動じない、それどころか受けて立ってやるだけの度量のある鳴海なのでした。勿論、しろがね命を忍ばせてネ。私が書いたにしては非常に邪道な一品であることは承知の上。
阿紫花ファンの方、すみませんでした!多分、私が阿紫花メインで書くことはもうないでしょうから安心してください。
鳴しろファンの方も申し訳ありませんでした!お口直ししたい方はコチラをどうぞ。