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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。








アオイトリ。

 

目の前にあるのに気づかない幸せのコト。そのろく。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、鳴海は覚悟を決めて会社のエントランスに仁王立ちになり、しろがねを待っていた。

 

 

 

うし。

しろがねに「おはよう」の挨拶をしたら、続けて言うんだ、「おまえが好きだ。オレと付き合ってくれ」って。そんでもって、今日は晩メシを一緒に食おうって言って、明日は休みだからもう夜は寝かせねぇ!

絶対、この流れは譲れねぇ!

会社の中に向かう人の流れに逆らって立つ鳴海をみんなが「また何かやるのかな」という目で見ているけれどそんなことはお構い無しだ。

ドキドキしながら、しろがねの到着を待つ。

き。来た!

しろがねは異様な雰囲気の鳴海にすぐに気づき、その歩調を緩めた。

鳴海は大きく深呼吸をするとしろがねと目を合わせ、にこっと、しろがねが大好きなあの笑顔を彼女に向けた。そう言えば最近、ムードが棘棘していたから、しろがねに微笑んだことなんてなかったことに思い当たる。しろがねは少し吃驚して、ちょっと泣きそうな顔になって、そして淡く微笑んだ。

よし!これならいける!

ゆっくりと近づくしろがねに、さっきまで口の中で繰り返し練習していた言葉をかける。

 

 

 

 

 

「お…」

「よう、鳴海!昨日ホテル街でミンシア女史と何してたんだよ!オレも彼女とあそこ歩いてたんだけどさあ、何だか声かけづらい雰囲気だったからスルーしちゃって……え?」

その場にいた誰もが凍りついた。鳴海としろがねの間にいた、そしてしろがねの前を歩いていて彼女の存在に気づいていなかった、鳴海並みに鈍い某社員は鳴海からものすごい憤怒の瞳を向けられてたじろいだ。その後ろにはひんやりとした冷気を発散するしろがねの姿。

「悪ぃ……オレ、ものすごく余計なこと、言ったな……」

酷暑と厳寒に挟まれたその名も無き社員はエントランスを飛び出すとその日一日戻ってくることはなかった。身の危険を感じたらしい。

先程までの柔らかい表情はどこへやら、しろがねの顔は硬く強張っている。心なしか顔面は蒼白だ。

「しろがね、あの…」

「ミンシアさんと……あの後ホテルに行ったのだな……そうか……」

何が「そうか」なんだよ?

でも鳴海の口からは言い繕う言葉も見つからず、しろがねはその場に立ち竦む鳴海の傍らを黙って通り過ぎるとそのままエレベーターの中へと消えた。鳴海は頭を抱えずにはいられない。

「もお、何でだよ…」

そもそもホテルの前でグラついた、自分の撒いた種だ。でも、ミンシアには指一本触れなかったし、それにヴィルマにだって口止め料を払うのに。

「こんなんでもヴィルマにサイフ買ってやんなくちゃなんねぇのかよっ」

散々だ。

鳴海は我が身を呪った。

 

 

 

 

 

 

昨日、ふたりが破壊した秘書室は早速工事が入ったので、今日からしばらくは近くの会議室を臨時で使うことになった。

少し離れた席で仕事に取り掛かっているしろがねの顔は紙みたいに真っ白で何だか生気がない。鳴海を怒っている、というよりもとても落ち込んでいる、心悩ませている、といった様子で、鳴海は内心、自分とミンシアの関係にしろがねがショックを受けているのだとしたら結構脈があるってことじゃないのか、と期待を膨らましていた。

ならば、昼休みに勝負をかけよう。

事情を説明して、誤解を解いて、それでもダメなら謝って謝って謝り倒そう。それでもダメなら抱き締めよう。何が何でも誠意だけでも分かってもらわないと話にならない。

鳴海は仕事もそこそこに何度も何度も時計を見て、昼休みになるのを鼻息も荒く心待ちにした。

 

 

 

 

 

 

だのに、こういうときに限って仕事がおす。ようやく所用から戻ってこれたのは昼休みを半分以上も過ぎた頃だった。しかも、それ以上に鳴海を困惑させたのは「鳴海とミンシアがホテルでやった」という一部事実と違う噂があたかも真実として社内中に広まっていたということだ。

行く先々で呼び止められ、「本当のところどうよ?」と訊かれ、鳴海はうんざりしながらもきっぱりと否定することを繰り返した。

こんなんじゃ、時間が経つにつれてしろがねの機嫌は悪くなる一方だ。

 

 

 

 

 

 

「急がねぇと休み時間が終わっちまう」

鳴海は両手いっぱいの勝が次の会議で使う資料を抱え、廊下を大股で歩く。これを大会議室に置いたらおしまいだ。

「…っと?」

角を曲がれば大会議室、というところで鳴海は急停止した。

大会議室の前、鳴海からさほど離れていないところにしろがねがいる。

しかも誰あろう、仏営一課のリシャールが一緒だ。

鳴海は壁に張り付いて片目だけ出し、ふたりの話に聞き耳を立てる。

 

 

 

 

 

「……今日、出張から戻ってきたんだ。そしたら吃驚したよ。オレと君の関係が社内中の噂になっていたから。困ったね」

け。鳴海は毒づいた。そのわりにはちっとも困った顔してねぇじゃねぇか。

「すまない。昨日のケンカで噂が変な風に広まったものだから」

「いいんだ。オレは気にしてないから」

そりゃそうだろう。『しろがねと寝た』なんて噂、男だったら箔がつく以外の何物でもねぇや。

リシャールに箔をつけた噂の元は自分なのだ。言わなきゃ良かったと、鳴海は心底悔しがった。

「しろがねは気にしている?」

「それはもちろん…そういう噂は本当はあなたも困るだろう?」

「まあ…ね」

「だろう?本当に、申し訳ない」

「皆が口にするのが根も葉もない噂だから困るわけだ」

「ああ」

「噂が噂でなくなればいいわけだ」

 

 

 

 

 

リシャールは、

しろがねの頬に手を添え、その顔を自分の方に向けると

キスをした。

 

 

 

 

 

鳴海の、見ている前で。

 

 

 

 

 

しろがねは抵抗しない。鳴海には途轍もなく長いキスに感じられた。

「噂を現実にするってのはどうかな?」

「リ、リシャール…」

バサバサバサバサっ。

鳴海の手から会議資料が滑り落ちた。

しろがねはその音にハッと振り返り、そこにいる鳴海に気がついた。

「カ、カトウ…!」

リシャールはニヤリと笑う。

鳴海は落ちた資料を乱暴に掻き集めると、それを大会議室の円卓に無造作に置き、しろがねとは目も合わさずその場を立ち去った。覗き見して聞き耳を立てていたことがリシャールとしろがねにバレて、非常に情けない姿を晒してしまった自分が許せなかった。

それにしてもだ。

何でしろがねは抵抗しないんだよ?何で大人しくリシャールにキスされたりすんだよ?

もう何が何だか。何でこーゆーふーになっちまうんだか。

 

 

 

 

 

 

 

午後はもう最悪だった。

鳴海もしろがねも、誰とも口をきかず、ただ黙々と無表情で仕事をこなした。

同僚たちがまたケンカするのでは?と警戒していたがその心配を他所にふたりが衝突することはなかった。

険悪なムード、というよりは消沈したムードが室内を息苦しくさせていた。

 

 

 

 

 

 

鳴海が朝考えていたプランは水泡に帰してしまった。

せっかく溶けた蟠りがまた新しく鳴海の中に生まれてしまった。

しろがねは自分とミンシアの関係に呆れて、リシャールの方が良くなってしまったのだろうか、と。

しろがねは、鳴海にミンシアとのことを弁解して欲しかったし、リシャールとのことを問い質して欲しかったのに、鳴海は何も言ってこないし取り付く島も無いので、もう自分のことをなんとも想っていないのだな、と思って心の中で泣いていた。

 

 

 

 

 

 

もう不器用なふたりは、自力ではどうしようもないくらいバラバラだった。

 

 

 

 

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